人身事故などで列車止めると賠償金 本当に?どのくらい請求される? 計算上は億単位も

人身事故などで列車止めると賠償金 本当に?どのくらい請求される? 計算上は億単位も

列車遅延証明書のイメージ(画像:写真AC)。

一般の利用者による線路立ち入りや自殺などの人身事故で列車に運休(運転見合わせ)や遅延などの輸送障害が生じた場合、損害賠償は請求されるのでしょうか。鉄道事業者の対応を考えます。

鉄道の「輸送障害」とは何か?

「鉄道の事故」と一口にいっても、その中身はさまざまです。鉄道事業法が定める分類のうち、列車の脱線や踏切事故といった「鉄道運転事故」以外の原因で、運休または30分以上の遅延(旅客鉄道以外の鉄道においては、運休または60分以上の遅延)が発生したものを「輸送障害」といいます。

 この輸送障害には「自殺」や「線路内立ち入り」あるいは「置石」による妨害なども含まれています。国土交通省の2018年度の統計によると、「自殺」による輸送障害は601件でした。毎日1件以上が発生しているという何とも痛ましい結果となっています。

 さて、ここで気になるのは「輸送障害を発生させると、事故後に多額の賠償金が請求されることがある」という噂です。その金額はいくらくらいで、果たして本当に賠償金が請求されるのでしょうか。

 損害賠償金は鉄道事業者が、時間ごとの人件費・他事業者への振替輸送費、車両が損傷した場合にはその修理費などを計算して決めます。朝など利用の多い時間帯や主要駅などで発生し複数の路線が運休になるなどすれば、その分金額は大きくなっていきます。例えば首都圏のターミナル駅や新幹線の事故などで長時間運休させてしまった場合は、億単位の金額が計上されてしまいます。

自殺による輸送障害の場合は?

 自殺による輸送障害でポイントになってくるのは、事故の当該者が生きているのかということです。もしその事故によって本人が亡くなった場合、賠償を本人に請求することはできません。ただ遺族(相続人)が損害賠償の責任を相続することになります。

 もちろん、損害賠償の扱いは事業者や事故によって異なりますし、すべての事故で賠償金が請求されるわけでもありません。遺族に損害賠償が請求される場合も、最初から本来の金額が請求されるわけではなく、協議を通じて落とし所を探すのが一般的です。賠償を請求したとしても、実際のところ百万円単位での手打ちでの請求が多くなっています。鉄道事業者にとってはなるべく回収したい金額単位であるため、担当者が定期的に加害者や遺族宅を訪問して支払ってもらうよう交渉を行っているようです。

 ただし、遺族の財政状況によっては相続の放棄が認められているため、手続きさえすればその責任を免れることとなります。つまり、仮に鉄道事業者が損害賠償を請求したとしてもすべてが支払われることは少なく、たとえ鉄道事業者に非がない輸送障害の場合にも、本人が亡くなっていれば、鉄道事業者が泣き寝入りするしかない場合も少なくありません。

賠償をめぐり裁判になった事例も

 2007(平成19)年に愛知県で、認知症の男性が電車にはねられ死亡したという事故がありました。その後、損害賠償をめぐりJR東海と遺族が協議を行いましたが合意に至らず、JR東海が遺族に720万円の支払いを求めて提訴したということが話題となりました。この場合、焦点は「家族に監督義務はあるか」ということだったため、遺族の相続放棄には該当しないケースです。ちなみに、最高裁の判決はJR東海側の訴えは棄却されており、結果的に遺族は支払いを免れています。

 とはいえ一方で、鉄道事業者というのは公共交通機関であり、沿線住民からの信頼によって成り立っているところがあります。大手の鉄道会社が個人に対して億単位の損害賠償請求を行うことは非現実的で、全額支払われる見込みは立たないでしょうし、たとえ裁判により損害賠償命令の判決が出たとしても、その後の悪印象が目立ってしまうことを毛嫌いする場合も少なくありません。

 自殺以外にも、線路上に布団などの障害物が入ってしまい列車運行を中断させてしまうことなどがありますが、このような事例でも損害賠償を請求することは少ない傾向です。とはいえ、故意や悪質なケースで、相手に支払い能力があると判断されれば、賠償請求も大いにあり得ますし、場合によっては往来妨害罪などに問われることもあります。

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