誰に伝えたいの? 現役マーケターも感じる「マーケティング用語」への違和感

誰に伝えたいの? 現役マーケターも感じる「マーケティング用語」への違和感

誰に伝えたいの? 現役マーケターも感じる「マーケティング用語」への違和感

 「売れる仕組み作りをする」ともいわれるマーケティングというお仕事。企画・販促・宣伝・分析・広告・調査・開発・PRなどなど、「業務内容」は多岐にわたります。

 しかし、マーケティング担当を向こうにした他部署の方は、不意にこんなことを感じたりしませんでしょうか?

 「マーケの奴らって何を言っているのかさっぱり分からない……」

 と。

 なぜそんな風に思われるのでしょう。

 それは、マーケティング担当者が羅列する種々の「単語」が原因。「マーケティング用語」という名の「何の意味かよく分からない単語」を織り交ぜた結果、聞き手側は訳が分からずフリーズしてしまうのです。

 ちなみに筆者は以前、大手食品メーカーに在籍し、あるロングセラーブランドのマーケティング担当者でした。現在も、フリーランスという立場で企業のSNSマーケティングを担っており現役の「マーケター(マーケティング担当者)」として活動中している身。

 ですので、冒頭述べたような“エピソード”に対しては、「あるある(笑)」という共感に、「申し訳ございませんでしたッ!」という罪悪感両方の心境を抱いています。

 というわけで、ここからは“トラブル”の要因となっている「マーケティング用語」の一例を、「カタカナ」「イニシャル」「造語」の3つのカテゴリーに分けてご紹介いたします。

■ カタカナ編

 「ビジネス横文字」とも“揶揄”される「カタカナ語」。筆者も含め、マーケターの方々がついつい使いがちな“常用語”ですが、世間一般的には“呪文”のようでもあります。

 今回は、2022年時点で目にする機会が多くなってきた「新語」を厳選してみました。

▼1「ジョイン」

 「加入」という意味合いを持つこちらは、ここ最近の界隈にて、「私○○は、この度株式会社○○にジョインしました!」といった意味合いで使うことが増えてきています。

 これは、新しい会社組織に移った際に「転職」という意味で用いられ、特にスタートアップなどのベンチャー企業ででよくみられる会話です。「人材の流動化」と言いつつ、日本では未だ「転職」という言葉にネガティブな意味合いを持たれているからか、「言い換えごっこ」がトレンドとなっています。

 しかしながら、マーケティング業界というのは、「人材の流動化」がとりわけ活発な業界です。いまさら「転職」という言葉に抵抗感を持っていません。わざわざ言い換えるところに、後ろめたさがあるのでは?と感じてしまうほど。

 余談ですが、マーケティング界隈は「人より違う感」を出したい人が集まりがち。だとすれば、例えばプロスポーツチームのように「○○さん、完全移籍加入のお知らせ」とでも言えば、周囲からも「あーそういうことね」と察してもらえ、マーケ的に表現すると「ウィットにも富んだ表現ですのでWinWin」ではないでしょうかね。知らんけど。

▼2「ローンチ」

 ここ10年で不思議な市民権を得た「立ち上げ」という意味を持つ単語で、英語のLaunchが由来。でも「何となく聞いたことあるけど、ぶっちゃけよく分からん」って方、結構多いのでは?

 これはいわゆるサービスを開始する際に、「○○をローンチした」と表現される傾向が強いもの。Web関連商品では特に目にする機会が多く、EC(自社通販)・アプリゲーム・オウンドメディアなどといった「サービス」の運用開始時にはほぼ確実に用いられます。弊社に置き換えて言うならば、「おたくま経済新聞は2008年にローンチした」といった感じですね。

 しかしながら、これは要するに「はじめた」ということです。それだけで通じる日本語が折角存在しているのに、一体誰が言い換え始めたのでしょう?

▼3「インサイト」

 「あ、知ってる。カッコいいですよね!」

 と、脊髄反射的に言われそうな単語ですが、残念ながら筆者は、自動車のことを指していません。

 これは「動機」「本音」といった意味合いを有し、特に「消費者インサイト」といった「造語」で用いられます。マーケティングに限った話ではありませんが、近年は「5W1H」ともいわれる「WHAT(何)」「WHERE(どこ)」「WHO(誰)」「WHEN(いつ)」「WHY(なぜ)」「HOW(どのように)」の要素を考えて仕事をするようになっているという側面もありますね。

 とはいえ、これは「消費者心理」で片付く話です。一応「隠れた心理」というのが、消費者インサイトを使う理由付けですが、わざわざカナ文字を使って「今までと違う感」を出したところで、「昔と一緒」であることには変わりません。言葉遊びをする前にすることがあるのではないでしょうか。

▼4「パーパス」

 「もちろん存じております。うちの子が大変お世話になっております」

 と、お子様がいらっしゃる方には反射的に言われそうな単語ですが、残念ながら筆者はオムツ製品の話をしているわけではありません。

 これは主に、戦略の策定や方針決めをする際に使われます。近年は「パーパス経営」といった造語で、企業姿勢として用いられる機会も増えてきていますね。

 「……で、どういう意味なの?」と聞かれる方が多いと思いますが、端的に言うと「会社としての存在意義を明確にして、それを社会に示していく経営」といったニュアンスです。「え、今までそうじゃなかったの!?」とツッコミが入るものですね。以前は、お客様や従業員のことを一切顧みない自分本位な経営をしてきたのでしょうか?中々衝撃的な告白です。

 こんな分かりにくい単語を使わずとも、比較的多くの方に伝わる言葉があります。

 それは「自己PR」。

 毎年多かれ少なかれ採用活動をする際に、求職者にそれを求めているならば、企業側も同様のことをすればいいだけなのです。なぜ回りくどいことをするのでしょうね?

▼5「ナラティブ」

 念のために言っておきますが、これはガンダムの話ではありませんし、奈良の話でもありません。

 元々「物語」といった意味合いを有し、ナレーターやナレーションと語源をするのがナラティブ。ですが、結局のところは同じカタカナ語でも馴染みのある「ストーリー」とそこまで大差ありません。それにも関わらず、ここ最近「上位互換」的な扱いをしようとされています。

 違いとしては、起点が「企業がストーリー」で、「顧客がナラティブ」という位置づけになっていますが、これはかつて「県民が主人公」というような「それっぽいフレーズ」なだけ。

 確かに、昨今は商品を売ることに対して、ストーリー性という「物語」を重視する傾向にあり、マーケティングやブランディングも施策を打っています。筆者自身もマーケターとして仕事をする際は、特に意識している部分でもあります。

 しかしながら、そこでいちいち新語を作る必要なんて特にありません。敢えて言いますが、マーケティングというのは一種の使い回しをする仕事です。「温故知新」という言葉もある通り、どちらかといえば、今あるものの見方を変えてアプローチするのは鉄板の手法です。

 ひょっとしたら、この「見方を変えて=新しい言葉でイメージを塗り替える」という目的があるのかもしれませんが、言葉を変えたところで「伝えたいことが伝わらなければ」そもそも意味がありません。

■ イニシャル編

 ここからは、「ゲームのハードかな?」と勘違いしてしまうアルファベットの羅列。中でも特に意味が分からな……失礼、目にする機会が多いものを何点かご紹介しましょう。

▼1「UGC」

 缶コーヒー?素材の会社?と勘違いされそうなスペル。正解は「User Generated Content」という名の「ユーザー生成コンテンツ」。主にSNS運用で多く用いられる造語です。

 これは商品やブランドに対し、企業ではなく消費者から発信したもの(投稿)を総じて「UGC」などと表現されますが、要するに「口コミ」です。昔から使用頻度の高かったものを、一部企業が知らぬ間に言い換えただけです。そこに大した違いはありません。

 確かに昨今のSNSでは、いかに「一般ユーザーから商品(ブランド)の情報を発信させるが」ということが重視されてきています。これは筆者も、かつては大手食品メーカーの公式Twitter担当者(中の人)であり、現在はおたくま経済新聞公式Twitter担当者であり、そして様々な企業のSNS運用アドバイザーでもあるので、当事者としても理解はできることです。

 しかしながら、例えば「おたくま経済新聞」からの観点でいえば、弊社配信記事を、読者の皆様が各々のSNSから時にコメント付きで投稿されていますが、別にそれは「UGC」とはとらえていません。

 これは「口コミ」というのは、半ば自然発生的に生まれるものだから。記事にしても、事前に意識して作るとしても、どのような口コミが生まれるかは正確に読めません。

 また私は「動かす」「教える」両方の立場でSNSに携わっておりますが、「こうすれば多くの人が確実に反応する」ような“必勝法”は存在しません。そもそももしそんな「仕組み」があるなら、私の需要はないわけです。

 そんな中で、「こうすれば『口コミ(UGC)』が生まれやすい」などという、“上から目線”の言葉から仕組まれたものが、はたして本当に「消費者発信」になるのでしょうか?

 ちなみにUGCというのは、「ULSAS」という消費者の購買動機の行動にも連結します。

 これはU(UGC)の他に、「L(like:好き)」「S:(search:探す)」「A:(action:購買)」「S(spread:拡散)」が入る造語なのですが、以前は「AIDMA」などと言われておりました。いやはやマーケティング界隈が、「言うことがコロコロ変わる癖に中身は大して変わらない連中」と思われる最たる例ともいえますね。「お客様に支持される」に近道なんて存在しません。

▼2「DX」

 一応言っておきますが、DX日輪刀の話ではありません。読み方も違います。

 去年デジタル庁が出来たこともあり、とりわけ注目されるようになった「デジタル・トランスフォーメーション」を略したのがDX(ディーエックス)。様々な界隈で、念仏のように発せられている言葉でもありますね。しかし、この言葉を正確に把握している方は果たしてどれだけいるでしょうか?

 そもそもDXは端的にいえば「デジタル変換」という意味。つまり、アナログからの切り替えを言います。

 例えば、会社において各部署で捺印される「ハンコ」を、データベース上で電子決裁するのも立派な「DX」です。通信手段にFAXからメールに切り替えていくのも同様。実をいうと、そんな大それたことでもないのです。規模が大きいので、凄いことに思われているにすぎません。

 近頃ではデジタルに明るい人たちを「デジタル人材」と持て囃す傾向にありますが、つまるところ「DX」というのは構造そのものを移行することでもあります。声や字にして発することに意義はあるとは思いますが、その点は意識したいところです。

▼3「D2C」

 お次は昨今の取引形態で使われる機会が増えたものを。

 以前は、対象に合わせてそれぞれ「BtoB(Business to Busines/会社対会社)」「BtoC(Business to Customer/会社対顧客)」と使い分けられていましたが、「BtoC」からより消費者に密接に商売をする形態に対して「D2C(Direct to Customer)」なる言葉が誕生しました。

 「BtoC」は会社対顧客といいつつも、中間業者がいることが少なくありませんでした。それを取り除いたのが、「DtoC」。とはいっても、実はこれも日本古来からある商いのやり方です。

 端的にいえば「直接取引」。顧客と直に商品売買のやり取りをするだけです。

■ おまけ:造語編

 最後はマーケターの皆さんが大好きな「言葉遊び」のトレンドを紹介しましょう。

▼1「Z世代」

 1996年から2010年ごろにかけて生誕した方を総称した言葉。以前は「氷河期世代」「ゆとり世代」なんて言葉もありましたねえ。

 それにしても、近頃は「Z世代向け商品」を投入する企業がおおいことおおいこと。何とかの一つ覚えみたく生き方や嗜好に関して分析がなされたり、書籍や記事で配信されていますね。

 そんなZ世代の方々も、まだ若いとはいえ、それぞれの方に十人十色の生き方や考えを有しております。色々と価値観や嗜好が言われていますが、所詮それは「傾向」。「Z世代向け商品」などというものが出回ってきていますが、一部が勝手に決めた「標準」に当てはまる存在なんて極々少数です。

 これは「Z世代」だけでなく、例えば一つ前の「ミレニアル世代」などでも同様のことでしたが、いい加減マーケティング界隈も、それを学習する時期にきたのではないでしょうか。

▼2「平成レトロ」

 「昭和レトロ」に味を占めてか爆誕したこちら。マーケティング界隈は、こういった横展開が大好き。かくいう筆者もですが(笑)

 とはいえ、2つ前の元号の「昭和」はまだしも、つい3年前の2019年も含まれる「平成」をレトロというのは、さすがにまだ無理があります。「1990年代」「2000年代」「2010年代」とでもいえばいいだけなのですが、使い捨てのごとく“流行りもの”を作ろうとするマーケ界隈の悪癖ですね。自戒。

■「分かりやすい言葉で伝える」のがマーケターの仕事

 ということで、「カタカナ」「イニシャル」「造語」の3つのジャンルから「わけのわからないマーケティング用語2022年版」を紹介いたしました。

 実は2年前にも似たような記事を配信したことがあり、今回はその最新版という位置づけだったのですが、いやあいっぱいありましたねえ。記事にする際にピックアップしたのですが、かなり厳選させていただいております。

 念のために言っておきますが、筆者は別にマーケティング界隈に弓を引きたいわけではありません。寧ろこんなに面白い仕事を、もっと「正しく」アピールしたいと切に思っています。

 マーケティングという仕事は、周囲に理解されにくい仕事です。「遊んでいる」などという陰口をたたかれることもしばしば。

 マーケターの皆さんは、それを理解不足の他部署に矛先を向けがちですが、筆者のように一歩離れた位置でそれに携わっている人間からすると、マーケ側にも原因があるのも確か。その最たる例が、本稿で紹介した「用語集」だったりするのです。

 そもそもマーケティングやブランディングというのは、メッセージがお客様に正確に伝わり、そして買ってもらわないと意味を成しません。そのためには、訳の分からない「専門用語」より、誰でも理解できる「常用語」の方が伝わりやすいです。

 また、メッセージを送る先は「社内」にも存在します。先述の通り、私はかつて大手メーカーのマーケティング担当者だった時期もありますが、その際に提案していたのは、親の年齢ほど違う経営陣でした。

 社会経験も豊富な人たちに、横文字で小細工したところであっさり玉砕するだけです。いかに分かりやすく言語化するかがキーポイントなのに、それに反するように新語が、現在進行形で無限増殖する状況下に対して、マーケティング業界はもう少し問題視すべきではないでしょうか?

 筆者は先日、あるマーケターの方とお話をしました。その際、こんな話を耳にしたのです。最後に、「周囲からはこう思われてるよ」という参考までに紹介しておきたいと思います。

 それは、経営陣に対してプレゼンした際の出来事。その方は担当ブランドの更なる発展のために、とっておきの企画を持ち込み熱弁を振るったそうです。それに対し、経営陣は大絶賛。しかし直後にこんな感想を述べられました。

「○○さんの話、内容はめちゃくちゃいいんだけど、カタカナとか横文字ばかりでしゃべっているね。何を言っているのか全然分からなくて、少しイライラしてしまったよ。これからは気を付けてね(ニッコリ)」

(向山純平)

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