【I-PACE試乗】悪路からサーキットまで!名門ジャガーがEVの勢力図を変える:岡崎五朗の眼

【I-PACE試乗】悪路からサーキットまで!名門ジャガーがEVの勢力図を変える:岡崎五朗の眼

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2018年3月、オーストリア・グラーツで世界初公開されたジャガー初の市販EV(電気自動車)「I-PACE(アイ・ペイス)」。

今後、デビューが相次ぐと予想される欧州プレミアムブランドのEVですが、イギリスの名門ブランドが自社初の市販EVに選んだのは、SUVでした。

日本での正式発表も間近のI-PACEですが、導入に先駆け、ポルトガルで試乗会が開催されました。彼の地でオンロードからサーキット、さらにオフロードも含む400kmの行程をドライブしたモータージャーナリスト・岡崎五朗さんに、I-PACEの実力、そして気になるライバルとの違いについてうかがいました。

■ジャガー=最先端技術を投入しているブランドへ

−−近年、積極的にニューモデルを導入しているジャガーですが、I-PACEはどんな狙いから登場したクルマなのでしょうか?

岡崎:これまで、自動車メーカーが手掛けた市販EVというと、日産「リーフ」やBMW「i3」のような、どちらかといえばコンパクトなモデルばかりで、大きなサイズ、しかもプレミアムクラスとなると、シリコンバレー発のEV専門メーカー・テスラの独壇場という構図だったよね。

テスラはEVの先駆者だし、世界的に見てもサルーンの「モデルS」やSUVの「モデルX」はかなり売れていて、エントリーモデルの「モデル3」では量産を目指すとアピールしている。一方、従来からある自動車メーカーのプレミアムブランドはというと、メルセデス・ベンツはEQというEVの新ブランドを立ち上げたし、ポルシェも「タイカン」というピュアEVの開発、投入をアナウンスしている。だから、ドイツ勢が一気にプレミアムEVのリリースに乗り出してくるもの、と思っていたら、先陣を切ったのはジャガー。これは意外だったね。

だから今回、ジャガーの開発陣に「なぜ、これほど早く開発、市場投入できたのか?」と尋ねてみたら、まずは「EVの世界で先頭を走っていきたいから」という回答だった。そして「EVをいち早く市場投入することで、ジャガー=最先端テクノロジーを投入しているブランドというイメージを持ってもらいたい」というのが、彼らを突き動かした理由みたいだね。

−−意外といえば、ジャガー初のEVがSUVということにも驚きました。なぜサルーンではなく、SUVだったのでしょうか?

岡崎:「世界的に見て、SUVのセールスが好調だから」というのが、公式な見解。ただ個人的には、テスラのモデルSとモデルXの中間を狙ったクルマなのかな、という気がするんだ。けれど、I-PACEは旧来的なサルーンでもなければ、ミニバンタイプのデカいSUVでもない。サルーンにもSUVにも見えるクロスオーバー的なキャラクターのクルマだよね。

ちなみに、最近のジャガーのモデル名を見てみると「XJ」や「XF」などのサルーンには“X”が、「F-TYPE」のようなスポーツカーには“TYPE”が、そして「F-PACE」や「E-PACE」のようなSUVには“PACE”の名が与えられている。そのルールからすると、I-PACEはSUVなんだよね。
■これまでのジャガーにはないプロポーション

−−デザインも先進的というか、これまでのジャガーとは異なる印象ですよね。

岡崎:ジャガーというと、スポーツモデルはもちろん、セダンでもSUVでも、FR(フロントエンジン/リアドライブ)車であることを連想させるロングノーズプロポーションがデザインの個性だった。けれどI-PACEは、人が乗るスペースを前方へ拡大した“キャビンフォワード”デザインを採用している。フロントにエンジンがないから、キャビンをグッと前に寄せ、ボンネットを短くしてきたんだ。

デザインについては、2通りの手法があったと思う。EVだけどフロントノーズを長くし、これまでどおりのFR車的なプロポーションにするか、それとも、EVらしい斬新さを表現するか。結局、デザインを担当したイアン・カラムは後者を選んだ。つまり、これまでにないプロポーションのジャガーを作ったわけだね。

だけど、それだけではひと目見てジャガーと認識できないから、フロントグリルや周辺の処理には、ジャガーの他のモデルに通じる意匠を採り入れている。フロントグリルの奥にはもちろんエンジンはないんだけど、ただの飾りではなくて、入った空気をボンネットのエアスクープから抜くことで空気抵抗を低減させるなど、クルマとしての機能性を持たせている。意味のあるカタチにしているんだ。

−−ボディサイズは、欧州モデルの参考値で全長4682mm、全幅2011mm、全高1558〜1565mmと大きめですよね。パッケージングやインテリアには、その大きさが活かされていましたか?

岡崎:ボディサイズはF-PACEとE-PACEの中間で、全高は低めというディメンションだけど、キャビンフォワードのレイアウトだから車内は広い。ただリアシートの足下に、大きくはないけれどセンタートンネルがあって、テスラのようにフラットなフロアではないし、フロントフード下のラゲッジスペースも大きくない。その点に関しては、改めてテスラのパッケージングはよくできていると思った。とはいえ、リアのラゲッジスペースは、後席を畳めば1453Lと十分な容量があるから、実用性で不満を感じることはないんじゃないかな。

インテリアは、すごくキレイな仕立てになっている。テスラのようにダッシュボード中央にドカンとモニターを配置するといった斬新さはないけれど、エアコンやインフォテインメント系の操作部は使いやすいし、何よりデザインが洗練されている。

ランドローバーの「レンジローバー ヴェラール」ような、先進感を感じさせる仕上げだね。

−−なるほど、確かにインテリアはモダンな雰囲気ですが、使い勝手も良さそうですね。
■所期の性能をあらゆるシーンで安定して発揮する

−−EVというと気になるのは、充電の手間などを含めた実用性ですが、その辺りはいかがでしょうか?

岡崎:I-PACEはパウチセル型のリチウムイオンバッテリーをフロア下に敷き詰めているんだけど、その容量は90kWh。フル充電での航続距離は、WTLPモードで480kmとアナウンスされていて、エコ運転を心掛ければ500km超は走ってくれそうな印象だったね。日常的に使う場合、継ぎ足し充電は必要なくて、1日のドライブを終えて、自宅やホテルに充電器があれば問題ないというレベルかな。

EVの場合「電欠したらどうしよう…」とか「急速充電器が混んでいたら…」と不安を感じる要素が少なくないけれど、I-PACEくらいのバッテリー容量があれば、そういう心配はほぼ感じなくて済むと思う。気になる充電方式も、日本仕様は“CHAdeMO(チャデモ)”規格に対応するといわれているので、急速充電器も使えるはずだよ。

−−なるほど、十分な実用性を実現しているんですね。長い航続距離を誇る高性能EVというと、やはりライバルはテスラなのかな、と思うのですが、クルマとしてのメカニズムや基本性能はどうですか?

岡崎:I-PACEの場合、動力性能を左右するモーターは前後に2つ搭載されていて、トータルの最高出力は400馬力。例えば、加速性能だけを見ると、テスラのモデルSに設定される高性能モデル「P100D」は、静止状態から100km/hまでの加速で3秒を切る、いわゆるジェットコースター的な加速が自慢なんだけど、I-PACEの加速はそういったタイプではないね。それでも、メーカー公表値は4.8秒だから、十分速いと感じるレベルだけどね。

I-PACEの場合は、一瞬の性能、尖った性能だけに特化するのではなく、所期の性能をあらゆるシーンで、安定して持続できる点を重視している。中でも、自動車メーカーが手掛けたEVらしいな、と感じたのは、モーターやバッテリーの冷却をしっかりと行っていること。

例えばテスラのP100Dは、3秒を切る0-100km/h加速を味わえるのは、せいぜい2回目くらいまで。同じことを10回も繰り返すと、一気に数値が落ち込んでしまうし、ブレーキもサーキットを走るようなハードな使い方には対応できない。もちろん、フル加速なんて何度もアタックするものではないし、そもそも、サーキットのような極端な使用条件で走る機会なんてほとんどないから、一般ユーザーが普通に使う範囲では、あれだけの性能と価格を実現しているテスラというのは、とても現実的なEVだといえるし、そのやり方も否定はしない。

一方で、ジャガーはI-PACEのカタログに記載する性能を、どんな状況でも出せるよう努力していて、サーキットだって不安なく走れるし、水深50cmまでの川なら渡れるくらいの性能も確保している。実際、ポルトガルでの試乗会では、サーキット走行もオフロードでの山登りも体験させてくれたし、川を渡るプログラムにもチャレンジさせてくれた。

それによって、ジャガーが耐久性や信頼性に対し、十分な取り組みをしてきたことを実感できたし、ジャガーが目指しているところはテスラとは違うということがうかがえた。プレミアムEVとひとくくりにしてしまいそうだけど、両社の考え方やクルマの作り方には、結構な違いがあると感じたね。
■荒れた道路を走ってもボディはミシリともいわない

−−ジャガーといえば、スポーティなイメージが強いブランドですから、やはり走りが気になります。I-PACEのボディは、専用開発のアルミニウムアーキテクチャーとのことですが、剛性感などはどうなのでしょうか?

岡崎:今回、ポルトガルでは2日間で400km以上ドライブした。現地の一般道は路面がボコボコしていて、その補修も荒れているという状況なのに、制限速度が100km/hというところも珍しくない。ところどころ穴も開いているから、路面からクルマへのショックの入力が激しいんだよね。

試乗車のタイヤ&ホイールは22インチだったけれど、そんな道路を走ってもボディはミシリともいわない。車体がねじれてきしむようなこともないし、路面からの振動があってもスッと収まる。また、重量配分も前後50:50と理想的だし、バッテリーを前後のタイヤ間の低い位置に搭載しているから重心も低い。ハンドリングフィールも良好だし、ワインディングロードも安心して楽しめた。ボディ剛性は「ジャガー史上最高だ」と開発陣は語っていたけれど、その言葉にウソはないと感じさせる十分なポテンシャルを備えていた。SUVでありながら、GTカーのような走りも楽しめるし、しかも乗り心地はジャガーらしい上質なもの。クルマとしての実力は、本当に高いと思ったね。

−−ジャガーというと、熱心なファンが多いブランドですが、従来モデルのオーナーからは受け入れられそうですか?

岡崎:独特なプロポーションには、違和感を覚えるという人が少なからずいると思う。特に、昔の「XJ」シリーズや古典的な英国を好む人は、興味を持たないかもしれないね。けれど、ジャガーはかつてのイメージから脱却したいと考えているし、かつてフォード傘下の時代に販売していた「Xタイプ」や「Sタイプ」のような“レトロ調”のモデルは、二度と出さないといっている。

その点、新しいI-PACEは“先端”や“革新”、“モダン”といった、新たな方向へ突き進もうとしているジャガーの先頭に立つモデルであり、イメージの牽引役となる存在。これまでジャガーを選ばなかった人も興味を持つと思うし、XFやF-PACEに乗っている新世代のオーナーには、きっと受け入れられると思うよ。
■シリコンバレーには作れない“クルマ屋さん”ならではのEV

−−I-PACEを皮切りに、欧州プレミアムブランドからEVが続々発表されていますが、そうなると、航続距離や充電時間といった性能以外の要素も、今後は問われていくようになると思います。ジャガーやテスラに限らず、ブランドの個性も、今後のEVには求められそうですね。

岡崎:すでに市販されているEVだって、どれも同じではないよね。例えば、日産のリーフとフォルクスワーゲンの「ゴルフE」を乗り比べても、乗り心地やロードノイズなどのシャーシ性能には差があるし、プラットフォームの違いもはっきり感じられる。そういう部分も含め、今後EVではどんなところが焦点になるのか? 最近そう考えさせられるようになった。

プレミアムEVのI-PACEはスムーズで静かだし、走りに関していえば文句ない仕上がりなんだけど、一方で個性という点においては、エンジン車ほど他メーカーとの違いを盛り込めていない。メルセデス・ベンツやアウディも、ここへきて新しいEVを発表したけれど、動力源の個性がない分、どこで差別化を図るのか。EV時代になったら割り切らなきゃいけないことなのかもしれないけれど、クルマ好きとしては、ちょっと寂しく感じるかもね。

自分自身がエンジン車で育った世代というのもあるけれど、例えばI-PACEに、スーパーチャージャーを搭載したV8エンジンが載っていたら、本当に楽しいだろうな、なんて思ってしまう。そう感じるのは、ジャガーが素晴らしいエンジンを作っているから。つまり、電動化時代を迎えると、フェラーリやポルシェ、ジャガーなど、これまで素晴らしいエンジンを手掛けてきたメーカーほど、差別化や個性という点で苦労すると思う。そして、彼らはそれをどう乗り越えてくるのか。今回、そんなことを考えながらI-PACEを走らせていたんだ。

−−クルマにとってエンジンは個性ですし、クルマ選びの基準にしているという人もいるくらいですから、スーパーカーメーカーやプレミアムブランドがどんなEVを世に出してくるのか、気になりますね。ところで、これまでプレミアムEVといえばテスラの独壇場でしたが、I-PACEの登場によって、クルマ作りやメーカーの勢力図に変化が出てきそうですね。

岡崎:これまでプレミアムEVといえば、テスラがその象徴だった。テスラは“シリコンバレーが作ったクルマ”とも評されているよね。だから、従来からの自動車メーカーが手掛けたクルマにはない斬新さが感じられるし、ワイヤレスで各種機能がアップデートするなど、アプローチの違いにも興味深いものがある。

その点I-PACEは、歴史ある欧州ブランドからデビューした、初めてのプレミアムEVで、テスラとの一番の違いは“I-PACEはクルマ屋さんが作ったプレミアムEV”だということ。

ジャガーに限らず自動車メーカーは、自前のテストコースを所有していて、耐久性や操縦性、安全性などを入念にチェックする実験部門があって、自前のテストドライバーだって抱えている。そして、長年にわたって蓄積してきた膨大なデータに基づいて、研究や開発を行っているんだ。

経済誌やIT専門誌などを見ていると「これからは、誰でも、どこでも一定の水準のクルマを作れるし、(テスラは)スペックを見ても高性能だから、旧来の自動車メーカーは淘汰される」といった論調が少なくない。けれど、クルマは決して、走って曲がって止まるだけのモノではないし、お手軽に水準のモノを作れてしまうなら、自動車メーカーの実験部門で働く人たちは皆、リストラ対象になってしまう。

だけど実際は、実験・開発部門は自動車メーカーにとっての生命線だし、クルマ作りというのはそんなに簡単なことじゃない。加速性能や航続距離に限らず、耐久性や安全性、乗り心地、そして走りの味わいなども含めて、これからEVがどのように進化していくのか、とても興味深いし、そういった点で新しいI-PACEが、今後のプレミアムEVにどのような影響を与えていくのか楽しみだね。

<SPECIFICATIONS>
☆I-PACE(欧州モデル参考値)
ボディサイズ:L4682×W2011(ミラー格納時)×H1558mm
車重:2133kg
駆動方式:4WD
エンジン:永久磁石同期式電動モーター
トランスミッション:AT
最高出力:400馬力
最大トルク:70.97kgf-m

(文責:村田尚之 写真/ジャガー・ランドローバー・ジャパン)

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