住民投票で都構想否決の民意を無視、一元化条例可決で大阪市の財源”カツアゲ”を進める維新

住民投票で都構想否決の民意を無視、一元化条例可決で大阪市の財源”カツアゲ”を進める維新

一元化条例可決の直後、囲み取材に応じる松井一郎・大阪市長(日本維新の会代表)

◆否決されたはずの「大阪都構想」がゾンビのように蘇ってきた

 昨年11月1日の住民投票で否決されたはずの大阪都構想が、今年に入ってからゾンビのように蘇ってきている。代案の広域行政を一元化する条例案が3月24日の府議会に続いて3月26日の大阪市議会でも可決され、潤沢な市の財源が府に吸い上げられることが可能となったのだ。

「日本維新の会」代表の松井一郎市長は可決後に「二重行政のリスクを抑えていくために良くできた条例案」と自画自賛したが、都構想反対派は「民意を踏みにじるような形での条例制定」(北野妙子・自民党市議団幹事長)などと批判。市役所前でも、市民有志が「怒『一元化条例』」「松井 維新 公明は市民の声を聞け」と銘打った垂れ幕を持って、怒りを露わにするデモ行進をしていたのはこのためだ。

 住民投票直後の昨年11月13日、筆者は「『都構想』が否決されたというのに、条例化で再び大阪市の財源を奪おうとする維新」という記事で「都構想否決の民意を骨抜き」「二重行政解消の掛け声とともにゾンビのような“カツアゲ条例案”が再登場」などと指摘していたが、維新のツートップ(吉村洋文・大阪府知事と松井一郎・大阪市長)はこうした批判に耳を傾けずに、一元化条例可決を強行したのだ。

◆住民投票で否決されても「選挙で民意を得た」と条例可決を正当化

 しかし松井氏には、住民投票の結果を否定(民意無視)する後ろめたさはまったくなかった。可決直後の囲み取材で「条例成立が総選挙で追い風になるのか」という質問が出たのを受けて筆者が「次期衆院選で今回の条例成立が逆風になる恐れはないのか。住民投票の結果や民主主義を否定する“二枚舌政党”という批判もあるのではないか」と聞くと、松井氏はこう答えた。

「それは政治家ですから、そういう批判もあるでしょう。横田さんはそういう批判をされると思う。でも、その批判を僕らは真正面から受け止めて、国民の皆様に支持を訴える。そういうところから逃げるということは僕にはありません」

 可決当日の市議会討論でも「住民投票結果(民意)の否定」「民主主義の蹂躙」と批判する反対意見が続出したが、このことについても松井氏は「民意の否定には当たらない」と反論。「三度の選挙(大阪府知事選や大阪市長選)で二重行政を解消して府市が連携することについては民意を得たと思っている」と、条例案可決を正当化したのだ。

◆公明党が都構想賛成に回ったのは、維新の“恫喝的圧力”の産物

 なぜ維新は都構想否決の記憶が鮮明なうちに、住民投票結果を覆すに等しい条例化を急いだのか。維新ウォッチャーは「公明党への“脅し”が効く総選挙前に一元化条例を可決しておかないと、大阪市の潤沢な財源を府が吸い上げる機会がなくなってしまうと考えたためでしょう」と見ていた。

 もともとは都構想に反対だった公明党が賛成に変わったのは、維新が「公明党衆院議員の小選挙区に対抗馬を立てる」という“恫喝的圧力”の産物といえる。だからこそ、東京五輪前の解散も取り沙汰される中、2月議会での可決が必須と考えたというわけだ。維新ウォッチャーはこう続ける。

「『常勝関西』と言われるほど公明党が強い関西エリアで、急速に勢力拡大した維新の意向を無視しにくくなったのです。公明党は議席死守のために維新の“脅し”に屈する形で妥協を繰り返し、反対から賛成へと方針変更したものの、支持者(創価学会員)の公明党離れを招いた。

 前回の住民投票でも山口那津男代表が現地入りして都構想賛成を呼び掛けたのに、公明票を賛成でまとめきれずに都構想否決の大きな要因にもなったのはこのためです。今回も同じような圧力を維新が公明党にかけたのは確実でしょう」

◆大阪市の潤沢な財源を“カツアゲ”する必要があった

 このことを可決直後の囲み取材で松井氏に聞いてみた。

−−住民投票否決後、公明党が今回の条例に賛成する過程において「対抗馬を立てるぞ」といった主旨のことを言ったのか。

松井市長(維新代表):ありません。皆さん(報道関係者)がそう言っているだけ。僕はやる時は正々堂々と、知事を辞めて自公民共を相手に戦っている。

−−公明党はよく今回の条例案に賛成に回ったと不思議に思ったが。

松井市長:公明党は都構想に賛成した。そこから比べたら一元化条例は、公明党が超えるハードルは全然低いではないか。

 公明党への“脅し”を否定した松井氏だが、維新が条例化を急いだ背景に大阪府の財源不足があると見られている。「カジノ・IRや万博など大型事業推進には潤沢な市の財源を府が“カツアゲ”することが不可欠」という見方が有力なのだ。 

 根拠の一つが、コロナ禍でのカジノ業者の苦境。オリックスと組んで大阪進出を表明している米国カジノ業者「MGM」は経営難に陥り、府市との面談もできない足踏み状態が続く。計画では予定地の「夢洲」(大阪湾の人工島)への地下鉄建設費200億円をカジノ業者が出す前提がコロナ禍で揺らぎ、府市が肩代り事態も十分にありうる。

 大阪万博も想定外の支出増を招いている。3分の1の費用負担をする民間企業がコロナ禍で寄付金激減が必至で、全体の費用も会場設計費アップなどで約600億円を増額した。これを政府と府市と民間で三等分する。民間の追加負担分を府市が一部補填する可能性は十分にあるが、府は財政余力が乏しいため、大半を市が背負う羽目になるのは確実だ。

「だから維新の目玉政策であるカジノ(IR)や万博を予定通り進めるためには、潤沢な大阪市の財源を“カツアゲ”することが不可欠と見られているのです」(維新ウォッチャー)

◆カジノ・IRは「選挙で民意が示された」として推進する維新の“二枚舌”

 カジノ(IR)についても、先の松井氏の囲み取材で聞いてみた。

−−「(地方行政は)身近なところで決めるべきだ」と自民党市議は言っていたが。それに全く逆行して、カジノ・IR・万博みたいな大型公共事業だけが進むことになりかねないのではないか。「身近な民意で決めるべきだ」という地方自治に逆行しているとは思わないのか。

松井市長:「二重行政を解消して府市が連携する」という民意は知事選挙、市長選挙で三度受けている。ただ住民投票というのは、区割りとか特別区設置のコストだとか、そういうところを含めて大阪市をつぶすことまではならないという民意だと考えている。

−−コロナ禍でカジノ・IRに反対する民意も(二重行政解消と)同じように大きいと思うが、これはどう反映させるのか。ポストコロナ(時代)には(カジノの)ビジネスモデルは崩壊したという指摘もある。

松井市長:それはその人たちの意見で、僕はMICEを含めたビジネスモデルは成り立つと思う。これは選挙で問えばいいのではないか。横田さんが「IR止めましょう」と言って選挙に出ればいい。カジノ・IRについてはこれまで何度も選挙で公約に掲げているので、僕が市長の間は公約通りに進めていく。

 都構想否決の民意は一元化条例可決で踏みにじる一方、カジノ・IRについては「選挙で民意が示された」として推進する維新の“二枚舌ぶり”が浮き彫りになる。と同時に「カジノ・IR・万博など大型事業推進が成長戦略」という、高度成長時代の自民党土建政治を踏襲する古き体質も露わになってきた。住民投票(民意)無視にしか見えない条例可決を強行した維新が、次期総選挙でどんな審判を受けるのかが注目される。

<文・写真/横田一>

【横田一】

ジャーナリスト。8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数

関連記事(外部サイト)

×