参院広島再選挙に「買収された議員が関わるかどうか」は、最後までお茶を濁された

参院広島再選挙に「買収された議員が関わるかどうか」は、最後までお茶を濁された

西田英範候補(右)と岸田文雄県連会長(左)。4月3日の広島市内での街頭演説

◆買収事件の逆風は想定以上、“保守王国”の広島で自民が苦戦

 買収事件で逮捕された河井案里・前参院議員の失職に伴う「参院広島選挙区再選挙」(4月25日投開票)は、自民公認の元経産官僚の西田英範候補(公明推薦)と野党統一候補のフリーアナウンサーの宮口治子候補がほぼ横一線のまま、最終盤に突入した。

 トリプル選で一勝一敗一不戦敗を狙う菅政権は、この広島再選挙を最重要視。他の2補選は、吉川貴盛・元農水大臣の辞職による北海道2区補選では自民党が候補擁立を断念、参院長野選挙区補選は故・羽田雄一郎前参院議員の弔い合戦で、野党が有利であるためだ。

 永田町ウォッチャーはこう話す。

「広島の再選挙で敗れてトリプル選全敗なら、『菅首相では選挙が戦えない』と菅降ろしが始まる可能性は十分にある。地元で陣頭指揮を取る岸田文雄・県連会長の総裁選再チャレンジの芽もなくなるだろう」

 ただし広島は“保守王国”で、基礎票では与党が野党を大きく上回る。再選挙のきっかけとなった2019年の参院広島選挙区(定数2)でも、自民二候補の得票率の合計が57.5%に対して、野党系二候補の得票率は39.2%と1.5倍弱の差があった。

 しかし、当初は宮口氏の出馬表明が1か月近く遅れたことから西田氏が有利と見られたが、買収事件の逆風は想定以上だった。すぐに宮口氏が追いついてほぼ横一線状態となり、告示後は両陣営ともに「相手候補の背中が見えてきた」と劣勢を訴え、自陣の引き締めをはかる展開になっているのだ。

◆西田氏・岸田氏は被買収議員の関わりについて曖昧な回答

 もちろん最大の争点は「政治とカネ」の問題。しかし西田氏も岸田氏も買収事件でお金をもらった議員や首長が再選挙に関わるのか否かを曖昧にしている。これを理由に出馬を断念したのが郷原信郎弁護士だった。

 広島市内での会見で「現金を受け取った(被買収)自民党議員が選挙運動に関わろうとしている状況では、公正な選挙はできない」と訴える一方、被買収議員に関わらせないようにする具体的措置を明らかにすることを求める質問状(回答期限は3月8日)を自民党広島県連と西田氏に送ったが、無回答だった。そのため期限翌日の3月9日、「公正が期待できない選挙に自らプレーヤーとして加わることはできない」と述べ、不出馬を表明したのだ。

 郷原氏の問題提起を西田陣営はどう受け止めたのか。3日後の3月12日、西田氏の事務所開きが行われ、岸田氏が「自民党の信頼回復へ向けた重要な出直し選挙だ」と挨拶したので、終了後の囲み取材で岸田氏に「お金をもらった議員は選挙に関わらないのか」と聞いた。

 すると「県民の皆様の信頼回復に対する厳しい目に耐えられる選挙戦をやらないといけないと思っている」と曖昧な回答。西田氏にも同じ問い掛けをしたが、「皆さん(支援者)と相談して」と答えるだけだった。

◆郷原信郎氏「お金をもらった人が平気な顔をして選挙に参加している」

 一方、野党統一候補となった宮口氏は3月20日の出馬表明会見で、「(被買収議員の関与について)しっかりと説明責任を果たしていただいたいと思っている」と回答。相手候補との違いを鮮明にした。

 4月3日に宮口候補の応援で広島入りした郷原氏は、こう訴えた。

「(西田候補の)選対本部の立上げの集会に、河井夫妻からお金をもらって被買収の罪に問われるはずの人たちが平気な顔をして参加している。こんな状態で自民党が選挙をやろうとしている。公正な選挙をどう考えているのか。私は、自民党の県連会長(質問状提出時は宮沢洋一衆院議員、現在は岸田文雄衆院議員)と西田氏に質問状を送りました。いまだにまったく返事なしです」

 こうした無回答状態は、西田候補の事務所開きの後も続いた。4月3日の街宣を終えた岸田氏に再び「お金をもらった人が、選挙に関わるのかどうか」と聞いたが、「けじめをつけて頑張ります」と回答。意味不明瞭だったので「(被買収者は)関わらないということか」と確認をしたが、岸田氏は「けじめをちゃんとつけて頑張ります」と、同じ答えを繰り返すだけだった。

◆岸田氏にとっては、総裁選再チャレンジのための重要な選挙

 応援弁士にも同じ質問を投げかけた。尾道駅前での街頭演説会(4月4日)でマイクを握った平井卓也デジタル担当大臣(香川一区)は、国会審議中のデジタル関連法案について説明。「デジタル化で一番重要なことは政治の信頼を取り戻すこと」と強調したので、街演後に直撃した。

「お金をもらった人が(再選挙に)関わることについてどう思うか。岸田さんは『(被買収者に)関わるな』と指示を出していないが、信頼回復にならないのではないか」と聞くと、平井氏は「それはそうだろうね」と答えた。菅政権の現役閣僚が、「現在の岸田会長の対応では信頼回復にならないだろう」と認めたのだ。

 岸田会長にとって今回の再選挙での勝利は、「総裁選への再チャレンジに不可欠」と見られている。岸田派の国会議員から「岸田首相誕生の第一歩」(小野寺五典・元防衛大臣)、「岸田政権誕生の試金石」(小島敏文・前厚労政務官)といった訴えが西田候補への応援演説の中で出るのはこのためだ。

 そのためにも岸田会長にとっては、被買収議員に対して「再選挙に関わるな」と指示を出したほうがプラスのように思える。しかし、いまだに郷原弁護士の質問状(問題提起)には答えていないのだ。

◆西田氏を推薦する公明党議員は「自民党に聞いてください」

 西田候補を推薦する公明党議員にも聞いてみた。出陣式に駆け付けた石井啓一幹事長に「お金をもらった人(議員)が選挙に関わる可能性があることについてはどう思うか」と声をかけたが、「自民党に聞いてください」と回答。広島3区から出馬予定の斉藤鉄夫・公明党副代表にも同じ質問をぶつけると、こう答えた。

「我が党は、我が党が一生懸命頑張るということです。頑張っていきたいと思います」

「我が党はクリーンな、最もクリーンな政党ですから。しっかりと我が党が支えます」

 ラストサンデーの4月18日、西田氏に再度同じ質問をぶつけて「支持者と相談した結論」について聞こうとした。しかし、事務所開きから1か月以上も経っているというのに「整理しています」と答えるだけだった。「まだ結論が出ていないのですか。ご自身の考えはないのですか」と声を掛け続けたが、無言のまま車に乗り込んだ。

◆結局は、被買収議員が個々の判断ということに!?

 西田候補の応援弁士の中で最も詳しく答えてくれたのは、前厚労政務官の小島敏文衆院議員だった。4月4日の尾道街宣後、囲み取材で次のように語ったのだ。

「(被買収議員が選挙に関わるのか否かは)個人の判断だろう。そんなこと、わしらがいちいち『カネをもらっているから来るな』とか言えるか。言われんよ。政治家がバッジをつけている以上、『有権者から負託を受けた』と言われたら反論できない。表には出られないけれども、裏で後援会には『(西田候補を)やってくれよ』というかも分からないし、『俺は被告人だからダメ』という人もいるかも知れないし」

 今回の再選挙への関与については、「被買収議員個人の判断に任せる」という方針のようだ。ラストサンデーに二度目の広島入りをした立憲民主党の枝野幸男代表は、宮口氏への応援演説を終えた後の囲み取材で、お金をもらった被買収議員が選挙に関わる可能性があることについて聞くと、こう答えた。

「それは広島県の有権者が判断することです」

「政治とカネの問題」が最大の争点の参院広島選挙区再選挙で、県民はどんな判断を下すのか。菅政権の命運を左右する可能性さえ囁かれる再選挙の結果が注目される。

<文・写真/横田一>

【横田一】

ジャーナリスト。8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数

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