横畠裕介内閣法制局長官の辞任を求める<南丘喜八郎氏>

横畠裕介内閣法制局長官の辞任を求める<南丘喜八郎氏>

横畠裕介内閣法制局長官(参院インターネット中継より)

◆憲政史上、一大汚点と言える事態

 国会でいま、看過できない異常な事態が出来している。

 内閣法制局長官が、国会での議員の発言に掣肘を加えるが如き答弁をしたのだ。去る三月六日の参院予算委員会で、立憲民主党の小西洋之議員が「国会議員の質問は、国会の政府に対する監督責任の表れだとする(政府が閣議決定した)答弁(書)を確認して欲しい」と質問した。これに対して横畠裕介内閣法制局長官が「国会には一定の監督的な機能がある」と答弁し、加えて「このような場で声を荒げて発言するようなことまで含むとは考えていない」と述べた。

 内閣法制局長官の極めて異様な政治的発言は、憲法で国権の最高機関と規定した国会を愚弄するものだ。内閣法制局長官は政府提出法案に憲法違反の有無を厳重にチェックする、「法の番人」と言われる存在である。あくまでも憲法に忠実であり、中立でなければならない。

 本来なら、行政府のトップたる安倍首相が法制局長官を更迭するか、厳しく叱責すべき重大な事柄だ。安倍首相はこの横畠長官発言が議会制民主主義の根幹を揺るがしかねない問題である、ということに気付いていないのか。

 自民党の伊吹文明元衆院議長は横畠長官発言を、「国会議員に対して、姿勢や態度を批判するなどあり得ない」と厳しく批判したのは、至極当然のことだ。

 この事件は、戦後の憲政史上、一大汚点と言っていいだろう。

◆「憲法の番人」ではなく、「政権の番人」

 横畠長官は検事出身で、五年前に病気で辞任した小松一郎長官の後任として次長から昇格した。安倍首相の強い意向を受けて、小松氏と共に、憲法学者からは憲法違反の疑いがあると指摘されていた集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更に貢献した人物だ。政権に奉仕する鵺官僚である横畠長官を、官邸は擁護し、辞任は求めない意向だ。これでは「憲法の番人」ではなく、「政権の番人」ではないか。

 この横畠長官発言をめぐる事態について、某新聞は「内閣法制局長官に、深く同情申し上げる。国会議員に対して姿勢や態度を批判してはいけないほど、国会議員はそんなに偉いのか」との論説委員長の原稿を掲載した。開いた口が塞がらない。

◆昭和十三年に起きた「事件」

 この横畠発言から、昭和十三年に起きた佐藤賢了陸軍中佐の「黙れ!」事件を想起する。

 昭和十三年一月十六日、近衛文麿首相は「爾後国民政府を対手とせず」という声明を出して、蒋介石政権との和平交渉への道を閉ざした。以来、支那事変は長期戦・泥沼化の様相を見せ、政府は焦りの色を濃くする。

 近衛はここに至って、経済・国民一体となって戦争に動員させるべく国家総動員法を国会に提出した。この法案は「戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ」物資・生産・金融・物価・労働など経済のあらゆる分野に亘って、政府が命令一本で強制的に統制措置を実施し、加えて、言論の統制、労働争議の禁止すらできるものだった。

 この法律は具体性に欠けるばかりか、運用の如何によっては法治主義の原則を無視し、議会を骨抜きにして、政府に独裁権限を与えることにもなりかねない。

 実に危険極まりないものだった。

 国会では厳しい批判の声があがり、この法案は憲法違反の疑いがあるとして野党は鋭く政府を追及した。

 事件はこの審議の最中に起きたのだ。三月三日の衆院総動員法案委員会で政府の説明員である陸軍省軍務課員の佐藤賢了中佐が法案の精神、自身の信念などを長時間にわたって演説した。これに対し、議場から相次いで野次が飛ぶなど、不規則発言があった。佐藤の陸軍士官学校時代の教官であった立憲政友会の宮脇長吉議員が「止めさせろ」などと発言したのに対し、佐藤中佐は「黙れ!」と一喝したのだ。翌日、杉山陸相が陳謝したが、佐藤は何の処分も受けなかった。

◆民主主義や議会を軽視する国の行く末

 日頃、議会制民主主義を批判し、国会を軽視していた軍人が、国家総動員法に批判的な議員を議場で一喝するという事件はその後の我が国の行く末を象徴している。

 泥沼化した支那事変は遂に対米戦争を惹き起すに至り、我が国は三百万人を超える犠牲者を出し、敗戦を迎える。

 現今の国会を見て、立法府を蔑ろにする強権的な安倍政権に大いなる危惧を覚えるのは、私だけではないだろう。

 今日の事態を憂う、心ある与党議員、そして野党議員の奮起を促したい。

<文/南丘喜八郎>

みなみおかきはちろう●月刊日本主幹。1945年生まれ、早稲田大学卒。1969年、アール・エフ・ラジオ日本入社。報道部長・取締役論説室長を兼任し、1995年退社。慶應義塾大学新聞研究所兼任講師、同法学部講師などを務めた後、1997年『月刊日本』を創刊

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