官邸の東京新聞弾圧。官邸は記者の質問権を制限するな<南彰氏>

官邸の東京新聞弾圧。官邸は記者の質問権を制限するな<南彰氏>

菅義偉官房長官記者会見 (政府インターネットTVより)

 2月26日の記者会見で、菅官房長官は東京新聞の望月衣塑子記者から記者会見の意義を問われた際、「あなたに答える必要はない」と言い放った。

 ジャーナリズム軽視の発言を繰り返す安倍政権。こうした姿勢について、『月刊日本4月号』では第二特集として「官邸の東京新聞弾圧」という特集を掲載。同特集の中から、新聞労連の南彰氏の論考を紹介したい。

◆抗議声明を出した理由

―― 首相官邸が東京新聞の望月衣塑子記者を官邸記者クラブから排除するように求めるかのような申し入れを行ったことについて、日本新聞労働組合連合(新聞労連)は「首相官邸の質問制限に抗議する」とする抗議声明を発表しました。なぜ今回、抗議声明を出したのですか。

南彰氏(以下、南): 私はこれまで朝日新聞の政治部記者として500回以上官房長官記者会見に参加してきました。最初に参加したのは福田内閣のときで、当時は町村信孝さんが官房長官を務めていました。

 その頃の記者会見もいまと同じように、会場の最前列には官房長官番の記者が15〜6人並んでいました。しかし、官房長官番でない記者やクラブ外の記者も自由に質問していましたし、町村さんもそれらの質問にちゃんと答えていました。私も政治部に入りたてでしたが、政治部一年生が質問してもきちんと回答が得られました。また、私が質問することに対して他の記者から文句を言われることもありませんでした。

 これは次の麻生内閣や、民主党政権のときも同様です。私は野田内閣のときに官房長官番を1年4カ月やりましたが、その頃も会見場では活発なやり取りが行われていました。

 ところが、現在の菅官房長官の記者会見では、質問は官房長官番の記者が行うものだといった雰囲気が広がっており、活発なやり取りがなくなってしまっています。特に森友・加計問題が起きた頃から、ずいぶん制約が強くなったように感じます。

 私は野田内閣の後、2年半大阪社会部に行っていたので、第二次安倍内閣成立直後からこうした制約が強くなったのかどうかはわかりません。おそらく第二次安倍内閣の間にじわじわと強くなり、望月さんが会見に参加するようになってからさらに制約が強まったのだと思います。こうした状況に問題を感じたので、抗議声明を出すことにしたのです。

―― 官邸は東京新聞に文書で申し入れを行っています。その中で、東京新聞が「記者は国民の代表として質問に臨んでいる」と主張したところ、官邸が「国民の代表とは選挙で選ばれた国会議員であって、記者が国民の代表だという根拠を示せ」と応じたといいます。新聞労連の抗議声明にも「国民を代表する記者」という記述がありますが、この点についてどう受け止めていますか。

南:確かに官邸が言うように記者は選挙で選ばれたわけではありません。私たちが言いたかったのは、新聞記者が特権的な立場にいるということではなく、会見に出られない読者や視聴者などがいる中で、その人たちに成り代わって質問するのが記者の役割であり、そういう意味で国民を代表しているということです。それを「お前たちは選挙で選ばれていないのだから代表ではない」などと矮小化しようとしているところを見ると、官邸も相当苦しいのだろうなと思います。

◆ファクトチェックの重要性

―― 新聞労連の抗議声明には「政府との間に圧倒的な情報量の差があるなか、国民を代表する記者が事実関係を一つも間違えることなく質問することは不可能で、本来は官房長官が間違いを正し、理解を求めていくべきです」とあります。「圧倒的な情報量の差」という指摘はきわめて重要ですが、国民の間で広く共有されていないと思います。

南:権力側と記者が対等に検証されるようになったのは、記者会見が可視化されたからだと思います。会見の可視化自体にはメリットもありますが、権力と記者は決して対等ではありません。圧倒的な情報量の差、情報の非対称性があります。

 記者はベストを尽くして取材を行っていますが、政府は情報をすべて開示しているわけではないですし、情報を隠している場合もあります。そうした中で記者は会見に臨んでいるのだから、自ずと限界があります。

 それにもかかわらず、官邸は望月さんの質問を「事実誤認」と一方的に断定し、「正確な事実を踏まえた質問」を要求してきました。事実関係を一つでも間違っていたら質問してはいけないかのような対応です。これは大前提として間違っています。

 そもそも官邸側が「事実誤認」だと主張した一連の質問は、大筋としては事実に沿っています。むしろ間違っていたのは官邸側です。

 新聞労連としてはより幅広に質問権を保障するメッセージが必要だと考え、たとえ事実関係に誤りがある質問だったとしても、それを制約するのはおかしいという抗議声明を出したのです。

◆メディアは権力監視という原点に立ち返れ

―― 権力と記者の間に圧倒的な情報量の差があることを踏まえれば、「批判するなら対案を出せ」といった議論も間違いだとわかります。対案を出すには情報が必要です。メディアに対案を要求するなら、政府はすべての情報を開示すべきです。

南:メディアの役割は権力が公正に行使されているかどうかをチェックすることです。必ずしも対案を出す必要はありません。

 しかし現在のメディアは、政治的スタンスによって批判するかしないかを決定していると見られており、その結果、メディアは分断されてしまっています。今後どのような内閣が出てくるかわからないのだから、そのときにメディアの権利や足場となる取材環境を残すためにも、メディアは権力側の政治的スタンスにかかわらず、権力が公正に行使されているかどうか監視するという原点に立ち返るべきです。

―― 官邸と東京新聞とのやり取りで注目されるようになったのは、ファクトチェックの重要性です。南さんは望月さんと『安倍政治 100のファクトチェック』(集英社新書)という共著を出しています。

南:ファクトチェックとは、議論の前提となっている事実関係が正しいかどうかを評価・確認することです。最近では2017年に設立されたNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」が旗振り役となり、ファクトチェックの普及に努めています。

 もっとも、ファクトチェックを普及させるには、様々なオピニオンを持っている新聞社が一斉にファクトチェックを行う必要があります。たとえば、朝日新聞もファクトチェックに取り組んできましたが、朝日だけでファクトチェックを行うと、安倍政権を批判するために行っているのではないかという見方がありました。

 しかし、ファクトチェックは安倍政権に批判的であるかどうかに関係なく、あくまでも事実関係を確認するために行うことです。意見に対する評価が一緒である必要はありませんが、ベースの事実関係そのものを共有できる仕組みはあったほうがいいと思います。新聞労連としてはそのための後押しをやっていきたいと思っています。

(3月4日インタビュー、聞き手・構成 中村友哉)

南彰(みなみ・あきら)

1979年生まれ。2008年から朝日新聞東京政治部、大阪社会部で政治取材を担当。2018年9月より新聞労連に出向、中央執行委員長を務める。

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