国民の間に広がる諦観や無力感。揺らぐ民主主義の根幹<石破茂氏>

国民の間に広がる諦観や無力感。揺らぐ民主主義の根幹<石破茂氏>

Tony / PIXTA(ピクスタ)

◆現実味を帯びてきた「衆参ダブル選挙」

 改元によって支持率を上げたものの、安倍政権下での度重なる不祥事で自民党支持層にも不満が広がっている。そんな中、囁かれ始めたのが7月の参院選に合わせた衆参ダブル選挙である。

 安倍政権が解散の大義として掲げる可能性が高いのは「消費増税の凍結」である。このまま消費税を上げれば、さらに景気が落ち込むのは間違いない。そのため、消費税凍結は安倍政権に批判的な層からも歓迎されるからだ。

 しかし、この選挙で勝利してしまえば、いままで様々な公約を破り、権力を私物化してきた安倍政権である。消費税凍結もどうなるものかわかってものではない。

 4月22日発売の『月刊日本 5月号』では、こうした政治状況を打開するためにどうすればいいか、第一特集として「消費増税凍結・衆参ダブル選挙へ」と題した特集を組んでいる。今回はその中から、自民党元幹事長の石破茂氏へのインタビューを紹介したい。

◆日本に広がる無力感

―― 地方統一選挙の前半戦では、自民党は前回選挙の獲得議席を上回りました。しかし、道府県議選の投票率は過去最低の44・02%となり、無投票当選者も続出しました。この投票率の低さについてどのように考えていますか。

石破茂氏(以下、石破): 「私が一票を入れてもどうせ変わらない」、「私が選挙に行かなくてもどうってことない」といった諦観や無力感が広がっている気がします。自分の一票で政治が変わるという実感が持てなくなっているのではないでしょうか。

 たとえば、沖縄県では今年2月に辺野古の埋め立てをめぐって県民投票が行われ、反対と答えた人が7割を超えました。しかし、それによって何か政治が変わったようには見えません。

 あるいは、大阪では住民投票によって大阪都構想が否決されたにもかかわらず、再び民意を問うためにクロス選挙が行われました。これでは住民たちが「私たちがやったことは何だったのか」と思ったとしても無理はありません。それが一番の底流にあると思います。

 しかし、民主主義は参加する資格を持った人たちがなるべく多く参加しないと機能しません。わが党のように一定の組織を持ち、強固な公明党のご支持がいただける場合、投票率が低いほうがむしろ選挙には勝てることになります。しかし、これは日本の民主主義にとって決して良いことではありません。民主主義は常に、政治をごく一部の勢力の思うままに牛耳らせてしまう危険をはらんでいるからです。

 もう一つ民主主義が機能する上で重要なことは、参加する人たちに正しい情報が伝達されることです。私は今回も選挙応援のために全国を回りましたが、この点にも疑問を持たざるをえませんでした。

 私が各地で演説した内容の冒頭は、このようなものです。

「いま日本の人口は毎年45万人ずつ減っています。地域によっては20年後に人口が3割減、20代・30代女性が5割減というところもあります。そして、西暦2100年には日本人は5200万人まで減ります。人口が減れば経済も伸びません。このままだと日本はなくなってしまいます」

 これに対して、「初めて聞きました」といった反応がたくさんありました。みな判を押したように人口急減時代だと言っているにもかかわらず、20年後の日本はどうなるか、50年後の日本はどうなるかといった情報がきちんと伝わっていないことに驚きました。

 世界や日本が大きく変化する中、地方もまた自分たちに何ができるかということを考えなければなりません。それは政府や県庁、市役所にお任せすることではありません。みなで考え、侃々諤々の議論をし、答えを出していく必要があります。その様な取り組みがあってはじめて、地方の疲弊を食い止めることができるのだと思います。

◆地方から新しい国を作る

―― 安倍政権は戦後最長の景気回復を実現したと述べていますが、国民の多くは景気回復を実感しておらず、とりわけ地方の疲弊は深刻です。今回の選挙では地方からどのような声が聞かれましたか。

石破:今回ものべ数十回以上、街頭で演説を行いました。「石破茂、来たる」という看板を立てると多くの人たちが集まってくれ、多いところでは400〜500人の人たちが街頭演説を聞いてくれました。比率から言うと、中高年の女性がたくさんきてくれたという印象でした。

 意外だったのは、赤ちゃんを連れたお母さんや、お孫さんを連れたおじいちゃん・おばあちゃんなど、子供連れの人が目立ったことです。これは初めての経験でした。

 みなさん、おそらく「この子たちにはいったいどのような未来が待っているのか」と不安に感じておられるのだと思います。現在の日本はあまり子育てが楽な国ではないので、なんとかしてほしいという思いがあったのでしょう。

 地方を回れば、そこで暮らす人たちが何を考え、どのような暮らしを送っているかがよくわかります。もしも北海道から九州・沖縄まで「有効求人倍率が1を超えました、景気はこんなに良くなっています」といった話をすれば、「それは違うのではないか」という声が出たことでしょう。

―― 国民の間には無力感が広がっている一方、このままではいけないという思いもあります。特に石破さんの演説を聞きにきた人たちはそうなのだと思います。彼らも家族のために行動しなければならないと思うようになれば、声を上げるはずです。

石破:私はどこの演説会場でも、最後に明治維新の話をしました。明治維新の準備をしてきたのは地方です。いつの時代も、新しい国を作り、新しい歴史を刻むのは中央の権力者ではありません。なぜなら権力者たちは今のままが一番良いと思っていることが多いからです。新しい時代を作るのはいつだって地方です。地方の名もない民衆たちが歴史を変えてきたのです。

 これは別に選挙用の演説ではありません。歴史を振り返れば、実際に地方が新しい世の中を作ってきたことがわかります。だからこそ多くの人たちに選挙に行ってもらい、この「戦い」に参加してもらいたいと思います。

◆ダブル選挙に大義はあるか

―― 安倍総理は消費税増税を凍結し、参院選にあわせて衆議院を解散するダブル選挙に打って出るのではないかと言われています。これで選挙に勝てば、また地方の声が無視される恐れがあります。

石破:ダブル選挙の可能性は以前から囁かれていますが、衆議院選挙をやるとすれば、その必要性、理由について、相当丁寧に説明しなければならないでしょう。

 また、仮に消費税増税を凍結するのであれば、社会保障の財源はどうするのか。特に、今回手厚くすると言ってきた子育て支援をどう手当てするのかについて明確にする必要があると思います。

 少子化の原因には様々なものがありますが、主な要因は、夫婦共稼ぎでお子さんがいる家庭のほうが、お子さんがいない家庭よりも経済的に苦しくなる、ということです。あえて非常に簡単な言い方をすれば、子どもがいる家庭といない家庭で、経済的な負担がそれほど変わらない、という状況を作らなければ、少子化は止まりません。そのための財源を消費税以外に見つけるとすれば、いったいどう設計するのか。

 介護離職問題も深刻です。日本では「嫁が親の介護をするもんだ」といった風潮がいまだにありますが、介護はすでに専門職種であり、素人だけでできるものではありません。つきっきりで介護することになれば、仕事も辞めなければなりませんし、そうなると一家崩壊ということさえ起こります。

 これに対して、ヨーロッパでは、全ての国ではありませんが、24時間365日のホームヘルパー体制が整っています。日本のような「寝たきり老人」という概念もないそうです。そのための財源として消費税などが使われているのです。

 日本にも子育てや介護離職ゼロのために消費税を使ってほしいという声はたくさんあります。単に経済が大変だから消費税を上げないというだけでは、それこそ国民に正しい情報を伝えていることになりません。次の世代に負担を残さず、人々の幸せを高めるためにはどうすべきか、ということをもっと真剣かつ広範に議論しなければなりません。

―― 世論調査を見る限り、国民は野党への政権交代を望んでいません。しかし、自民党を無条件で支持しているわけでもありません。多くの人たちが自民党はもっと国民の声に耳を傾けるべきだと考えています。その中で石破さんへの期待感が高まっていると思います。 

石破:私が自民党幹事長だった政権奪還を成し遂げた衆院選においてすら、絶対得票率(有権者総数に占める得票数の割合)はおよそ25%でした。当時、私はすぐに幹事長通達を出し、25%以外の人たちがどのように思うかを考えながら行動するように、と伝えました。

 4分の1の支持層と、どうにもならない野党がいる限り、政権基盤が揺らぐことはないかもしれません。しかし、それによって自民党が国民の気持ちから離れていくとすれば、恐ろしいことです。私はそのことを忘れずに政治に取り組んでいきたいと思います。

(4月9日インタビュー、聞き手・構成 中村友哉)

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