大使館も本人と認めるスリランカ人を「他人」だとして収容する日本。このままでは生涯収容の可能性も!?

大使館も本人と認めるスリランカ人を「他人」だとして収容する日本。このままでは生涯収容の可能性も!?

ダヌカさん名義のパスポート。スリランカ大使館は、これが間違いなく本人のものだと認定している

◆このままでは生涯、入管施設で暮らすことになる可能性も

 本人のパスポートで正式入国したのに、「他人である」との認定でもう1年9か月も法務省の入国管理施設に収容されているスリランカ人がいる。ダヌカ・ニマンタさん、37歳。スリランカ大使館も「間違いなく本人だ」と証明しているのに、日本政府はダヌカさんを「P氏」なる人物だとして譲らない。

 問題は、仮に日本政府がダヌカさんを強制送還しようと思っても、スリランカ大使館は本人ではないP氏名義のパスポートを発行するはずがなく、ダヌカさんは強制送還すらされないことだ。

 現在、ダヌカさんは、茨城県牛久市にある法務省の「東日本入国管理センター」(以下、牛久入管)に収容されているが、このままでは生涯を「牛久入管」で過ごす可能性がある。

 ダヌカさんは、自身がダヌカであることを証明するため、3月1日に法務省を相手取り東京地裁に提訴。5月31日に第一回目の口頭弁論が開かれる。

◆ブローカーの説明を信じて「P氏」のパスポートで初来日

 1998年。ダヌカさんは16歳のとき、P氏なる偽名のパスポートで来日した。その理由は、「未成年の16歳では日本の短期ビザを取得できない」とのブローカーの説明を信じ、成人のP氏としての入国を決めたからだ。

 そのままオーバーステイして、10年間を土木工事や溶接の現場で働いた。つまり、不法入国と不法就労をしたわけだが、2008年、これが発覚して強制送還される。

 ところがこのとき、日本の入管は詳細な身元調査を行わず、ダヌカさんが所有していたP氏名義のパスポートから、そのままダヌカさんをP氏と認識。ダヌカさんも「とにかく面倒なことにならないように、できるだけ早く帰国したかった」から自身がダヌカだと説明をしなかった。こうして、ダヌカさんはP氏として強制送還された。

◆取引を持ちかけてきた日本人に監禁され、入管に連行

 ダヌカさんは帰国後に会社を設立し、貿易業務に携わった。2009年、ダヌカさんは日本で知り合った日本人K氏から「知人のヤマモト・ヒロシがスリランカとの貿易をやりたがっている。取引しないか」との誘いを受ける。そして、ヤマモトと電話やメールで半年間に及ぶ商談を行い、実際の輸出に向けてスリランカ国営の医薬品製造会社から健康食品を扱う契約を結んだ。

 ところがその直後、ヤマモトは「事業費が足りない。当社に500万円を投資してほしい」との不自然な要請を寄せてきた。怪しい。ダヌカさんは、ヤマモトの会社の実態を確認しようと、2010年11月4日に再来日。このときは、「もう違法行為はしない」との意思で、本人名義の正式なパスポートと90日間のビザを携え入国した。

 ヤマモトは、成田空港からダヌカさんを千葉県八千代市の某マンションへと案内したが、すぐに判ったのは、ヤマモトの会社が詐欺目的のペーパーカンパニーだったことだ。ヤマモトはダヌカさんを3週間そこに軟禁し「投資しろ」と強要し続けたのだ。

 そして11月25日、その場所に入管と千葉県警の職員が訪れ、ダヌカさんは、警察署と東京入国管理局(以下、東京入管。東京都港区)へと連行された。

 なぜ、こんなことが起こるのか。ダヌカさんはこう推測する。

「ヤマモトは何が何でも私のカネがほしかった。だから私の過去を知ったうえで私を入管に売った。ヤマモトは、私が収容されているときも面会に来て『釈放するには金が要る。あなたのお金を私に任せれば、ここから出してあげる』と言ったんです」

 ダヌカさんはその話には乗らなかった。しかしここで問題となるのは、指紋を照合すると、日本政府にしてみればそこにいるのはかつて強制送還されたP氏だ。警察にも入管も「P氏がダヌカ名義のパスポートで入国した」と認識したわけだ。

◆入管は「裁判終了後に帰国できる」と言っていたが、懲役2年の実刑判決に

 入管は取り調べのあとでこう告げたという。

「Pの名前でスリランカ大使館に一時帰国用パスポートを発行してもらえば、帰国できる」

 帰るしかないと思ったダヌカさんは、他人名義でのパスポート申込書を作成したが、入管はその後「帰国するには、裁判を受ける必要がある。裁判終了後に帰国できる」と説明した。

 そして、その指示通りに裁判を受けたダヌカさんに待っていたのは、出入国管理法違反での懲役2年の実刑だった。横浜刑務所で服役するが、2013年3月の出所時にはとっくに在留資格が失われていたために、ダヌカさんは即時に東京入管に収容される。そして8か月後の11月に仮放免される。

 仮放免とは、社会のなかで生活できるが、「在留資格」がないから母国送還が前提とされる状態をいう。「就労禁止」と「移動の制限」が条件で、有効期限が1〜2か月だけなので、仮放免者は1〜2か月おきに東京入管で更新手続きをとらねばならない。

◆スリランカ政府は、ダヌカさんが本人であることを証明

 実は、この状況は簡単に打破できるはずだった。

 ダヌカさんが服役中の2012年8月18日、スリランカ大使館が「ダヌカ氏は間違いなくダヌカだ」との証明書を出したからだ。その外国人が誰かを証明するのは日本政府ではない。その人の母国の政府だけだ。これにより、ダヌカさんは正式にダヌカと公認され、問題は解決されるはずだった。

 ところがその証明が出ても、日本政府はなおもダヌカさんをP氏として扱った。ダヌカさんはスリランカに帰るにも帰れなくなってしまったのだ。

 さて仮放免後、2度目の来日では何ら違法行為はしていないのに、刑務所と入管施設への収容で失われた自身の尊厳を取り戻すべく、ダヌカさんは人権回復の裁判を起こす。そして、その最中の2015年、ダヌカさんは、日本人と外国人との交流サークルで日本人女性のAさんと知り合った。

 Aさんは「その表裏のない性格に惹かれ」ダヌカさんと付き合うことになり、同じアパートに住み、婚約をし、Aさんの両親もダヌカさんをとても気にいった。

 ダヌカさんも、スリランカ大使館の証明書がある以上、絶対に裁判に勝てる自信があり、ようやくまともな幸せが手に入ると思っていた。ところが、ダヌカさん曰く「重要書類を提出しなかった弁護士のミスで」敗訴となり、「退去強制令書」(いつでも強制送還できること)が確定した。

◆仮放免の更新が認められず、再び入管施設に

 そして2017年7月6日、ダヌカさんはAさんに「品川に行く」と言い残してアパートを後にした。ところが、遅くなっても帰らない。そして、Aさんのスマホに「違う電話番号から電話する」とだけのLINEの連絡が入った。

 この日、裁判が敗訴になったことで、ダヌカさんは仮放免の更新が認められず、即在に東京入管に収容されたのだ。そして収容に際しては、スマホやパソコンなどの通信機器は没収されるので、外への連絡手段は東京入管の収容施設に設置されている公衆電話だけになる。

 筆者がダヌカさんと牛久入管で初めて面会したのは、昨年12月。このとき、面会許可申出書の被収容者名に「ダヌカ・ニマンタ」との本名を記入すると受付の男性職員は、「この人はいます。でもこの名前ではありません」と面会を許可しなかった。そこで私は「ダヌカ」の下にP氏の名前を列記。そして面会が実現した。

 面会室のアクリル板の向こうに座ったダヌカさんは憤りを隠さなかった。

「私はここでは、職員にPと呼ばれます。でも、私は反応しません。スリランカ大使館から私宛の郵便物もここに3回届いていますが、ダヌカ名義の宛名だったので送り返されています。スリランカ大使館への電話でそれを知りました」

 ダヌカさんをもっとも苦しめているのは「自分はいったいいつ出られるのか」との先の見通しがまったくたたないことだ。Aさんは毎週木曜日に面会に訪れるが、ダヌカさんの健康を心配する。

「ダヌカは1年半以上の収容生活で体重が8kgも減りました。不安定な精神状態で昼食もほとんど食べていないそうです。特に目の下の隈がひどい。真っ黒です。ああ、寝ていないんだなと可哀想になります」

◆日本がダヌカさんをP氏として扱うのは「メンツ」の問題!?

 問題は、スリランカ大使館がダヌカさんをダヌカだと認めている以上、日本政府が認めるP氏名義のパスポートを作るはずもなく、このままではダヌカさんは強制送還すらされないことだ。つまり、生涯を収容生活で終える可能性がある。

 その最悪の事態から逃れるために必要なのは、冒頭でも書いたが、ダヌカがダヌカであることを認定させることしかない。そのために裁判を起こすことを決意した。

 スリランカ大使館は、前述の文書だけではなく、幾度とダヌカさんがダヌカであるとの証明書を発行している。最新のものでは、2017年1月25日、東京入管の担当者に宛てて「ダヌカ・ニマンタ氏に発行されたパスポートはスリランカ出入国管理局によって真正なものとして認証されていることにご留意ください」とまで明言している。

 だが改まらない日本国の認識。Aさんはこう推測する。

「おそらく、今、ダヌカがダヌカだと認めてしまえば、日本はかつて彼をP氏の名前で強制送還させたことが間違いだったと認めることになる。つまりメンツの問題なのだと思います」

 メンツの問題だけで人間を生涯隔離していいはずがない。第一回口頭弁論は5月31日10時半。東京地裁803号室。この裁判の経緯も随時報告したい。

 ダヌカさんの近況については、下記ツイッターで随時発信されている。

「ぶるーの(ダヌカさんを支援する会)」Twitter ID:@gurifon5

<取材・文/樫田秀樹>

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