キャッシュレス推進の影で着々と近づく[信用格差社会]

キャッシュレス推進の影で着々と近づく[信用格差社会]

今年3月、経産省は決済・小売り事業者と連携して「キャッシュレス キャンペーン」の実施を発表。GWには各社のポイント還元イベントなどが開催される

 キャッシュレス化でカネ、モノの動きはすべて可視化され、そのデータは消費者を「スコア化」。やがて、国民が格付けされる時代がすぐそこに迫っている……。

◆現金至上主義は一掃されキャッシュレス社会へ邁進も

 4月9日、財務省は各紙幣の肖像を刷新すると発表。’84年以来、ながらく最高額紙幣の顔だった福沢諭吉が“降板”することになり、彼を塾祖と仰ぐ慶應義塾関係者の間では、「もう万券を使う気が起きない」の声があふれたという。

 だが、実はこれこそ彼らの狙いの本丸なのかもしれない。いまや政府は国民にはびこる現金至上主義を一掃し、キャッシュレス社会の実現に向かって躍起だ。なにしろ経産省によれば、欧米のキャッシュレス決済比率が40〜60%なのに対し、日本はわずか20%程度。ATM設置費用やレジ締めの人件費などで、年間1兆6000億円を超える膨大なコストが発生している。このムダを省けば、国民生活にも大きなプラスだとお上は宣うのである。

 だが、光の陰には必ず闇が潜む。キャッシュレス社会の進展の先には問題点もある、と消費生活ジャーナリストの岩田昭男氏は語る。

「キャッシュレス化が進んでいるアメリカと中国は、“信用スコア”によって社会が成立しつつあります。中国ではネット通販最大手のアリババが提供する決済サービス『アリペイ』による決済・検索履歴、アメリカではクレジットカードの返済履歴などから個人の“信用度”がランク付けされています」

◆中国・芝麻信用におけるスコア化の実例

 アメリカではこの信用スコアが可視化されており、クレジットカードの返済履歴や与信総額に対する利用総額の比率を第三者が利用することを法で認めているという。

「就職活動の際には企業側の雇用担当者はそのスコアを見て採用の可否を判断するし、賃貸物件の契約の際には貸し手側がチェックしています。アメリカでは信用による“格差”が生まれているのです」

 カネに対するマジメさが信用の基準になっているアメリカ社会に対し、さらにその上をいくのはお隣の大国・中国だ。中国には「芝麻(ジーマ)信用」という信用スコアがある。

<日本もこうなる!? 中国・芝麻信用における「信用スコア」>

点数の要素

「身分特質」学歴、会社、運転免許証等のデータ

「履約能力」過去の支払い履行能力 不動産、車、住宅など資産のデータ

「信用歴史」クレジットカードの履歴

「行為偏好」消費行動の偏り、ショッピング、振り込みの特徴

「人脈関係」SNSなどから交友関係をスコア化

 芝麻信用では950点満点の700点以上で「信用はとても良好」

「中国では、『アリペイ』をベースにして、素行、思想、信条、交友関係などもすべて格付けされてしまいます。これは共産党政府に筒抜けですから、政権にとって都合の悪い人物を排除するツールにもなっているようです」

 政府の監視下で、善き人民であるように無言のうちに矯正しているのが中国の信用スコアなのだ。

◆顧客を囲う経済圏 すでに信用スコアが登場

 もっとも、事態は対岸の火事ではない。いまや日本でもキャッシュレス決済サービスのプラットフォームは群雄割拠の状態だ。

「各社はポイント還元などで消費者をひきつけ、自社のプラットフォームによる決済比率を高めようとしています。そこで集めたビッグデータを次の商品購入につなげようというモノのマーケティングが当面の動機ですが、その次の段階として金融的なマーケティングに移行するつもりでしょう」

 この動きはすでに実体化しており、日本でも信用スコアが誕生している。そのトップランナーこそ、ソフトバンクとみずほ銀行が設立したJ・Score社の「AIスコア」だ。これは、前者が持つAI技術、後者の顧客データ分析やローン審査のノウハウなどを融合させた信用スコアである。

 この動きに対抗すべく、今年3月、若いユーザーを抱えるLINEとメルカリも提携を発表した。

「最近の中高生はスマホでアンケートに答えて小遣い稼ぎしています。でもそれは自分の情報を切り売りしていて、その自覚もなくスコアに取り込まれているのです」

 各プラットフォームの提携によって、各消費者の個人情報は、次のビジネスチャンスを窺う事業者たちの掌の中にあるのだ。

◆スコアが社会的弱者を救済 評価システムは透明化へ

 ただ、IT評論家の尾原和啓氏によれば、信用スコアは社会的弱者にも希望をもたらすという。

「海外ではUber(ウーバー)という成功事例があります。Uberとは、専用アプリを通じて行う配車サービス。Uberは、ユーザーのレビューを重視しているため、アメリカの移民などのような、一般的に社会的信用のないとされるドライバーも、マジメに頑張っていけば、プラスの評価を積み上げることができます。彼らはコツコツ頑張ったぶんだけ正当な報酬を受け取れるのです」

 中国版Uberともいえる配車アプリ「滴滴出行(ディディチューシン)」でも同様だ。

「滴滴出行でもドライバーの評価システムを導入したことで、運転が荒いドライバーや観光客へのぼったくりが激減しました。こうした仕組みは他の業種でも転用可能で、たとえば日本でも作業が単純で可視化しやすい工場などの仕事の評価システムとして導入することもできるはずです」

 こうしたシステムで信用スコアが上がっていけば、非正規雇用者が住宅ローンを組むこともできる社会になる可能性もある。

「今まではチート(ズル)して稼ぐことがある種当たり前の時代でしたが、これからはコツコツ地道に働き、信用スコアを上げていくことが合理的な社会になっていくでしょう。Uberや滴滴出行のように、労働者を適正に評価する仕組みが、日本の信用スコアにも導入されることを願うばかりです」

 新時代の評価システムは我々の生活に何をもたらすのだろうか。

【岩田昭男氏】

消費生活ジャーナリスト、カード評論家、NPO法人「ICカードとカード教育を考える会」理事長。著書に『キャッシュレス覇権戦争』(NHK出版)など

【尾原和啓氏】

IT評論家・執筆家・批評家。著書に『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム:IT企業はなぜ世界を変えるのか?』(共にNHK出版)など

取材・文/岡田光雄・沼澤典史・野中ツトム(清談社) 写真/時事通信社 PIXTA

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