「離島を守らない」はずの奄美大島の自衛隊配備を、島民が「要望」する“事情”

「離島を守らない」はずの奄美大島の自衛隊配備を、島民が「要望」する“事情”

佐藤正久外務副大臣の講演会には多数の土建会社職員が“動員”されていた

◆“ヒゲの隊長”が挙げた怪気炎

「国を愛せない人間が世界平和を成し遂げるなんてあり得ない。国家あっての地元、地元あっての家族なのだから」

「自衛隊が国を守れるようにするのが主権者の責務。今後、国際的な緊張は高まることはあっても、和らぐごとは絶対にない」

「奄美大島は防衛の大事な拠点となる。自衛隊のインフラ基盤をどんどん整えていきたい」

 4月27日。奄美市内の宴会場で、“ヒゲの隊長”こと佐藤正久外務副大臣からこのような発言が飛び出した。

 地元の自民党議員の協力のもと「激変する東アジアの安全保障情勢」と冠して行われた講演会でのことだった。佐藤氏は約370人の聴衆を前に「自衛隊の災害時の活躍風景」や「離島防衛」を熱く語り、持論を展開した。

 聴衆のおよそ8割は、地元土建会社の会社名が刺繍された作業服を身につけていた。

◆「離島防衛」とは、「離島を防衛する」ということではない!?

 昨年12月、向こう5年間の防衛大綱・中期防衛力整備計画が発表された。以降「離島防衛」「島嶼防衛」として、南西諸島における陸上自衛隊配備拡張の必要性が堂々と語られることとなる。

 ここで気をつけたいのは、この言葉が示すのは「“離島を拠点として”本土を防衛するための配備」という意味であり、「離島を防衛する」ということではないということだ。

 防衛省が開示請求を受けて開示した「離島の作戦」の項目によると、市街地戦も想定される離島では、有事の際の住民避難・安全確保は地方公共団体の管掌となり、自衛隊は作戦行動に余力がある場合に“支援”のみを行うこととなるという(小西誠/編著『自衛隊の島嶼戦争』<社会批評社>より)。

 つまり、自衛隊は島民を“率先して守ることはない”。彼らが作戦行動に勤しむ間、離島住民はほぼ捨て石となるのだ。災害の多い奄美大島ではこれまで、自衛隊が配備される安心感ばかりが、政治家や地元紙によって強調されてきた。

「台風や水害があっても自衛隊がいれば安心、助けてくれる」という島民の期待は高まるものの、上記の矛盾を指摘する声は皆無だ。

◆基地を呼び込む、公共事業頼みの経済事情

 冒頭の講演会で、佐藤外務副大臣は「奄美大島には、弾薬庫、備蓄庫、自衛隊専用の滑走路に、空母用の軍港も必要だ」と高らかに宣言。詰めかけた土建関係者の顔をほころばせた。

 そして「参議院選挙、がんばろう」の三唱で作業服の男性が壇上に向かって拳を突き上げる、異様な光景で幕を閉じた。

「保守地盤の強い奄美の選挙では、動員数がモノを言う。地元の土建会社にとって、選挙期間中に何人出せたかが、公共事業の受注に直結する。だから作業服を着て必死で企業名を売り込む」

 奄美で選挙があるたびに、島民らはまことしやかに語る。

 奄美大島をはじめとする奄美群島には「奄美群島振興交付金」という、主にハードインフラに予算消化される“紐付きの助成制度”があり、島の経済は公共事業を担う土建会社によって成り立っている。

 平均世帯年収が300万に満たない奄美大島の雇用や懐事情は、公共事業によって支えられているのである。そこに、国策としての防衛要塞化が絡む。

 こうして「世界自然遺産登録」を目指す南の楽園は、どんな公共事業でも受け入れ続けるコンクリート・アイランドとなっていく。

◆基地の誘致は、利権構造の中にいる人々の「強い要望」によって進められた

 佐藤外務副大臣による講演の翌日・翌々日には、同じ奄美群島の徳之島と沖永良部島で「防衛協会青年部」の設立パーティが開かれていた。事実上の「基地建設誘致団体」となるこの会には、地元の自衛隊出身者とともに、地元土建会社の経営者らが名を連ねる。

 あらゆる誘致は「それを求める一部住民からの強い要望により」議会に意見書が提出されるところから始まる。当然、利権構造の中にいる人々による「要望」であり、地元の与党系代議士からあらゆる手ほどきを受けて提出される。

 そして今年3月末、550人規模の陸上自衛隊が奄美大島に配備された。これは2014年に、防衛副大臣の視察とタイミングを合わせるようにして「陸上自衛隊配備を求める意見書」が奄美市議会に採択されたことに始まる。その後、防衛省への形ばかりの陳情が予定調和的に行われた。

 翌2015年には、国の防衛予算に用地取得のための費用が組み込まれ、2016年より駐屯地造成工事がスタート。市民への表立った説明会もなされないまま、3年後に基地が完成した。

 今後誘致団体となる可能性が高い防衛協会青年部会が結成された徳之島・沖永良部島の2島でも、地元土建会社の経営者など有力者が島民に根回しを進めている。基地建設が進むのも時間の問題だろう。

 削られる山肌、赤土で汚れていくサンゴの海を尻目に相好を崩している、さまざまな立場の人々がいる。アメリカと中国の2国間の軍事的緊張は、島民の意図とは関係ない「本土マターの公共事業」を増やし、山林伐採や砕石が相次ぐ環境破壊に拍車をかけていく。

<文・写真/武内佑希>

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