韓国講演で語った東電と国の放射能汚染水を巡るでっち上げ。コロラド博士、韓国をゆく

韓国講演で語った東電と国の放射能汚染水を巡るでっち上げ。コロラド博士、韓国をゆく

多核種除去設備建屋の外観

 前回、民弁(民主社会のための弁護士会)と韓国脱核エネルギー学会創立準備委員会の共催、生命・脱核シルクロードの後援でソウルにて行われた「日本の原発汚染水に関する専門家招請講演会」について執筆しましたところ、大きな反響をいただいています。

 配信先ではコメント欄が大いに盛り上がり、なぜか全く読まずに長々とコメントする方など、超能力者が多数現れております。私は、ヨミ様の大ファンなので、ぜひ紹介してください。ヨミ様のもとの世界平和のために邁進します!

 予想を超えて記事が大好評なため、執筆者は「やる気満々!」です。

◆「放射能汚染水」海洋放出問題への韓国市民の懸念

 韓国市民の福島第一「放射能汚染水」海洋放出問題に対する懸念は日本側で考えられているより遙かに深刻なものといえます。日本ではこれを「科学的におかしな事」と言う人がかなり見られますが、日本がチェルノブイル核災害後に見せたエキセントリックな反応に比べれば、まだましではないかと私は考えています。

 さて、京郷新聞のインタビューとこの講演会での質疑を元に、韓国市民が何を憂慮しているのか、考えるのかを列挙します。

1)国際的に問題視されている「放射能汚染水」海洋放出をなぜ日本政府は行おうとするのか?

2)我々韓国人の食べ物に放射能が入ってくるのではないか?

3)トリチウムの人体への危険性は?

4)WTO裁定で韓国が勝ったがそれをどう考えるか?

5)福島核災害は本当に終息するのか?

 他にも技術的なものを含めて多くの質問が寄せられましたが、重要なものはこの5点でしょう。要するに、公害問題としてはごく当たり前の疑問と憂慮を持たれているのです。当然ですが、同様な疑念を環太平洋諸国から持たれていると考えるべきでしょう。要は、日本人はどうして公害物質を海に捨てようとしているのかと疑念を持たれているのです。

 福島核災害の各種問題を核公害問題であると認識するか否かでこの問題への対応が大きく変わりますが、これは核公害問題であると私は断言します。

◆講演で語った8つのテーマ

 15時ちょうどに牧田の講演が始まりました。この講演は、次の8つで構成されています。

1)導入編 福島核災害にて、なぜ放射能汚染水が発生するか?/そもそも「放射能汚染水」とはなにか

2)提案された「トリチウム水」処分方法と問題点

3)対案としての「長期保管処分」とその課題

4)トリチウムはなぜ発生するのか

5)トリチウムの身体への影響

6)「トリチウム水」処分におけるヒノマルゲンパツPA(Japan’s Voo-doo Nuclear Public Acceptance, JVNPA)

7)WTO裁定の日本政府

8)日本に福島核災害の収束能力はあるのか

 用語のぶれがありますが、福島第一のタンク群の中にある水について、現在次の3つの表現があります。

「トリチウム水」

 2018年8月30~31日公聴会まで使われていた呼称。実はそのほとんどが基準値を超える放射性多核種汚染水であった。

「放射能汚染水」

 今回、韓国側で使われている呼称。日本政府、東電、NRAとヒノマルゲンパツPA(JVNPA)によって強く拒絶されている呼称であるが、実態をよく表している。

「(ALPS)処理水」

 2018年8月に河北新報によって「トリチウム水」が、放射性多核種汚染水であることをスッパ抜かれて*以降、言い換えが進んでいる呼称。多核種除去装置(ALPS)で処理したあとの水と言うことで定義は最も正確だが、信用を失ってしまい、「だからどうした」と言われてもしかたない。<*参照:”<福島第1原発>処理水の放射性物質残留 ヨウ素129基準超え60回 17年度”−河北新報>

 本稿では、この3つの呼称を主体によって「」付きで使い分けながら並行して使います。混乱しやすいですが、すべて同じものです。

◆福島核災害にて、なぜ放射能汚染水が発生するのか

 そもそも「放射能汚染水」とはなにか

 福島核災害の特徴は、下記です。

1)3基の大型軽水炉が相次いで炉心溶融(メルトダウン)を起こし、溶融炉心は原子炉を貫通(メルトスルー)した後に、格納容器基礎部分でコリウム(溶融炉心)が止まったと考えられる

2)水素爆発によって2基の原子炉建屋は大破した

3)1基の原子炉格納容器は内圧によって破損した

4)地下水の流入によりコリウムから放射能汚染水が発生しており、これは今も止まっていない

5)事故後9年目になっても地下水流入は止められず、コリウムの状態も分からない

 地下水の流入が止まらない理由は、福島第一原子力発電所が、大芋沢(現在、台地上から原子炉建設面に降りる主要通路となっている)を代表として数多くの小河川、枯れ川を堰き止める形で建設された結果、原子炉建屋が地下水脈を堰き止める事となり、造成工事の時点から一貫して大量の湧水に悩まされてきた事にあります*。

<*参照:福島原発土木工事の概要(1)(2), 佐伯正治, 土木技術22巻9号&10号1967年9月,10月 >

 これがチェルノブイル核災害との決定的な違いで、福島核災害においては、常時地下水の流入が発生し、これがコリウムと接触、放射能汚染水となります。

 この汚染水を回収し、循環冷却水とすることがなされましたが、凍土壁を作っても事故直後800t/Dayの地下水流入が、200t/Dayに減少しただけで、コリウムに接触した水は増え続けています。

 コリウムと接触した水は冷却水として循環しますが、日量200tで増加するため、セシウム・ストロンチウム吸着装置、脱塩装置、多核種除去設備(ALPS)によって放射性核種ほか、不純物を除去されます。

 不純物除去後の水には除去が困難なトリチウムが残留します。このトリチウムは、主として臨界防止用に添加されたホウ素が中性子照射を受けることによって生じていますので、コリウムを水で冷却する限り、発生しつつけます。

 このALPSなどによる多核種除去処理でトリチウム以外の62核種を除去したという大前提において、立ち並ぶタンクの中身は、「トリチウム水」であると国と東電は主張してきました。

 実際、年間20~30万トン増加する「トリチウム水」を漫然と小型タンクで貯留することは非効率なだけで無く事故リスクや労働者の被曝リスクが深刻であり、この「トリチウム水」に含まれる放射性核種が本当にトリチウムだけであるのならば、厳しい制限下での海洋放出はやむを得ないと私は考えていました。

 その社会的合意を得るための手続きがPublic Acceptance(PA)としての2018年8月30、31日両日に行われた公聴会でした。

◆明らかになった国と東電が語っていた「嘘」

 しかし、河北新報のすっぱ抜きとフリーランスライターの木野龍逸氏が報じた事実は、タンクの中にある「トリチウム水」の過半は、環境基準を超える放射性多核種を含むということでした。(参照:処理水の放射性物質残留 ヨウ素129基準超え60回 17年度 | 河北新報 2018年08月23日木曜日、トリチウム水と政府は呼ぶけど実際には他の放射性物質が1年で65回も基準超過(木野龍逸) - Y!ニュース 2018年08月27日月曜日)

 この問題は、牧田によってHBOLに解説記事が執筆されていますのでご参照ください。

"東京電力「トリチウム水海洋放出問題」は何がまずいのか? その論点を整理する | 2018/09/04 牧田寛 ハーバービジネスオンライン"

 これにより国と東電が、市民と世界に向けて嘘をついていたことが露呈し、公聴会は鳴門の渦潮に巻き込まれた丸木舟のように大荒れに荒れ、「トリチウム水」海洋放出は、頓挫しました。鳴門海峡海底では、ゴーゴン大公*が大笑いしていることでしょう。<*ゴーゴン大公とは、『マジンガーZ』シリーズの悪役で、鳴門海峡海底に基地を擁している)

 最近、NRA(原子力規制委員会)が、会見において「汚染水」と言う質問に「(ALPS)処理水」だと声を荒げて言い換える場面を見るようになりましたが、トリチウムしか入っていないと称してきた「トリチウム水」に基準値を超える多核種の放射性物質が入っていた事実の前には、全く意味がありません。

 国、東電、NRAは、このことに関しては信用を完全に失っているのです。信用醸成には何年も何十年もかかるでしょう。ここにヒノマルゲンパツPA(JVNPA)が失敗した自滅の一典型事例を見ることができます。

◆提案された「トリチウム水」処分方法と問題点

 国と東京電力は、「トリチウム水タスクフォース」なる組織を作り、「トリチウム水」の処分法について検討し、5つの処分方法を提示しましたが、これは典型的なヒノマルゲンパツPA(JVNPA)の手口であって、箸にも棒にもかからない、全く無意味な当て馬提案をぶつけることによって、本命と目論む案、この場合は海洋放出案しかないと印象づけ、中央突破を図ろうとするものでした。

 本命の海洋放出案は、極端に費用が安く、期間も短く説明されていますが、公害防止、労働者被曝防止の当たり前の対策を行えば、費用は二桁程度あっと言う間に跳ね上がり、そもそもトリチウムの総量、濃度規制を行えば20年から50年はかかる可能性があります。

 他の案は、技術的に未完成のものが多く、技術開発や実用化、環境アセスメントなどの準備期間だけで10年20年はあっと言う間に過ぎてしまい、結果、「トリチウム水」は溢れかえってしまうと言う時間を無視した案、公害防止を全然考慮していない案、小型タンク保管を上回る被曝労働に依拠した案、住民の被曝ドンとコイの公害まき散らし案、群発地震が起きるぞと言う案、施設の放射能汚染で維持・廃止措置が困難な案など、もうめちゃくちゃです。マジンガーZのように、超技術がいきなり実用化するなどと言うことはあり得ないのです。

 これら案は、マンガを読みすぎの中学生の思いつき程度に過ぎず、実現可能性は皆無です。中二病が日本政府、東電とトリチウムタスクフォースなる御用集団の実態なのでしょう。市民と世界を愚弄する税金泥棒です。トリチウムタスクフォースの面々は、中学教育からやり直しましょう。

 なお、「トリチウム水」からのトリチウム分離実用技術では、CANDU-A(加圧重水原子炉, PHWR)を多数擁するカナダで最も進んでいますが、処理能力が福島第一で必要とされるものより二桁ほど小さいために焼け石に水です。

 当初の国、東京電力、NRAの説明通り、「トリチウム水」に含まれる放射性核種がトリチウムだけまたは、トリチウムと基準を十分に下回る他の核種であるならば、海洋の希釈能力を活用することを企図して、総量、濃度双方を厳しく制限した上で、20年程度の時間をかけて海洋放出処分することはそれなりに合理性を持ちました。実際、私も気は進まないが、市民、周辺国、環太平洋諸国の同意を取り付けた上で、第三者の査察団を常駐させて行うことはやむを得ないだろうと考えていました。

 しかし、「トリチウム水」という説明、呼称そのものが大嘘だったのです。ALPS処理済み水にトリチウム以外の多種多様な放射性核種が有意な量存在している理由は、東京電力がALPSの浄化フィルターをケチって交換回数を減らし、結果としてALPSの浄化能力が試運転通り発揮されず、処理済み水にトリチウム以外の放射性核種が残留したとされています。

◆「確信犯」としか思えないでっち上げ

 この問題が発生したとき、ALPSは試験運転できわめて優秀であったが故に何でこのようなことが起きるのか、私は理解できませんでした。単にずるしていただけだったようです。

 これは確信犯です。「ケチって火炎瓶」という言葉がSNSではやりましたが、こちらは「ケチって汚染水」です。もはやPublic Acceptance(PA社会的受容)どころではありません。国と東電は、市民と世界を欺してきたのです。そして、NRAはそれを阻止できませんでした。見方によればNRAも結託していたと見られかねません。

 このことはきわめて深刻で、公害排出企業としての東京電力、規制監督者としてのNRAと国は、ヒノマルゲンパツPA(JVNPA)という手垢まみれの常套手段で市民を欺してきたことを意味し、信用は完全になくなったといえます。

 現在NRAは、「トリチウム水」を「(ALPS)処理水」と言い換えを強調しています。

 しかし、公害排出者、規制監督者が5年を超えて市民と世界に向けて嘘をつき続けてきたことは事実であり、もはや当事者能力があるとは言いがたい状況となっています。

 おそらくNRC(合衆国原子力規制委員会)委員長であったヤツコ氏の言葉であったと記憶しますが、「原子力・核産業は規制の上に成り立つ産業」です。きわめて厳しい規制を厳格に守った上で初めて成立するという特異性を原子力産業は持ちます。

 ところが日本では、「規制の虜」と言われるように、規制当局である「原子力安全保安院」が電力・原子力産業界と結託し、多数の御用学者(とくに日本土木学会と関連学会、放射線関連学会が著しい)を抱えることで規制を破壊し、結果として福島核災害を引き起こしました。それと全く同じ事が起きていたといえます。今日では中西発言が示すように経団連が露骨に原子力安全保安院への回帰を求める有様です*。

<*参照:「まずは法律からっていうのはやめましょう」!? 報じられない4・8経団連中西会長会見の問題発言>

 ステイクホルダーたる東電、国そしてNRAがもはや信用するに値しないことをこの「トリチウム水」問題は示したのです。

 勿論、NRAが初心に立ち返り真面目に規制監督者としての役割を果たさねば福島核災害の収束は不可能となります。また、「(ALPS)処理水」の増加は放置できません。大規模漏洩事故のリスクが増える一方ですし、労働者の被曝リスクも無視できません。核公害、労働者の人権問題としてこれは危急の課題なのです。

 次回は、対案としての長期保管案からとなります。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』"東京電力「トリチウム水海洋放出問題」は何がまずいのか?”第二部・韓国講演編2

<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado >

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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