自社株買い枠激増の理由。そして、狙い目銘柄は?

自社株買い枠激増の理由。そして、狙い目銘柄は?

2000億円自社株買いを行い5月には今年最高値を付けたソニー

 4〜5月に上場企業が設定した自社株買い枠が昨年同時期に比べ、すでに約2倍と過去最高になっている。なぜ今、自社株買いが激増しているのか。どんな銘柄がさらなる株価続伸が期待できるのか。狙い目銘柄を探った

◆「株主還元」に走る企業が激増し、前年度の2倍に!

 ソニーと三菱地所が11%高、三菱商事が8%高。5月、時価総額が3兆〜7兆円もある超大型銘柄が次々と急騰していった。いずれも少々大口の買いが入った程度で簡単には値上がりしない。株式ジャーナリストの大神田貴文氏は、「共通のキーワードは自社株買いです」と話す。

「自社株買いによって市場に出回る株式が減ると、その分だけ1株当たりの利益や資産が増えて株式の価値が高まります。4月以降だけでも、上場企業が設定した自社株買い枠は3兆4000億円と、すでに昨年同時期に比べほぼ2倍。過去最高に達しています。三菱商事やNTTドコモは3000億円、KDDIは1500億円、三菱地所は1000億円の自社株買いを発表するなど大型案件が目立っています。ほかにも、ディー・エヌ・エーは500億円の自社株買い計画を発表したのですが、これは同社の全株式の26%に相当する量の多さです」

◆なぜ今、自社株買いが急増しているのか

 自社株買いを実施する企業が増えている背景には、「機関投資家から企業への株価上昇に対する強烈なプレッシャーがある」と大神田氏は指摘する。

「金融庁と東証が制定した『スチュワードシップ・コード』(誠実な機関投資家の原則)では年金基金や投信会社に、資金を預けた顧客の利益を最優先するよう要求し、機関投資家もこれに従わざるを得ない状況です。設備投資も増配も自社株買いもしない“貯め込みすぎ企業”の株主総会では、利益処分案など会社提出の議案に反対票を投じる機関投資家が珍しくないのです。このため、上場企業は6月の定時株主総会の前に自社株買いを発表し、使う当てのない資金は株主に還元する姿勢を示しておく必要があるという背景があります。仮に利益が横ばいでも、自社株を買って株数を減らせば1株当たりの価値は高まり、株主の不満を抑えられる利点がありますから」

 企業が独自に行うクローズドなアナリスト説明会などにも出席する大神田氏によると、「最近のアナリスト説明会では、自社株買いについての質問がブームのようになっている」とか。

「世界的に景気の先行きは不透明。企業業績について質問してもすぐに行き詰まってしまうため、自社株買いの質問が増えたのでしょう。企業が増配ではなく自社株買いを選ぶ裏側には、経営者の保身があるようです。配当は単年度の業績好調を受けて増額しても、その後に減配すると、株主総会で経営責任を問われ、減俸や役員解任の口実にもなりかねない。しかし、自社株買いなら毎年実施する義務はなく、株主思いの経営者として利益を還元した実績だけを残せる。投資家に歓迎されやすい『株主への利益還元策』の手段であり、企業側も実施しやすいのです」

◆株価急騰に安易に飛びつくのは危険

 しかし、自社株買いが発表されたからといって、株価急騰に安易に飛びつくのは危険だ。

 大神田氏が続ける。

「例えば『2億円を上限に自社株買いを行う』と発表したものの、約1年の買付期間終了後に発表された買付株式数はゼロだった企業もありました。また去年全体でいうと、新株発行によって資金調達する額より、投資家に利益還元する額のほうが大きかった。これでは株式市場に上場する意味をなしていません」

 では、ベストの自社株買いはどのようなものだろうか。日本の投資信託会社で運用成績トップを争うコモンズ投信・代表取締役社長の伊井哲朗氏は、上手な自社株買いとして「株価の安いときに買い、経営陣として市場に明確なメッセージを送ること」を挙げる。典型例が2月に自社株買いを発表したソフトバンクグループだという。

「総額6000億円というインパクトの大きさに加え、孫正義会長兼社長が自社の株価が安すぎると不満を示し、株価の割安状態を修正する意向を市場にアピールしました。また、買った株の効力を失わせる『消却』を予告どおり実施し、資金の使い道のわかりやすさも支持されました」(伊井氏)

◆今後、自社株買いで株価が上がる企業は

 2月の発表翌日、ソフトバンク株はストップ高で18%高になった。

 では今後、自社株買いの実施で株価がさらに続伸していくのはどんな企業か。大神田氏は「内部留保が厚く、利益も増えている割に株価が低水準の企業に尽きる」と話す。

「三菱地所は3期連続の最高益を達成し、初の自社株買いを発表しました。3年ほど前からアナリスト説明会の席で、経営陣から遠回しながら自社株買いに言及があった。昨年はライバルの三井不動産が自社株買いを実施したが、それでも実施を見送ってきた経緯があります。横並び意識の強い財閥系不動産会社だけに、業績好調な住友不動産や旧富士銀行・安田財閥系の東京建物も自社株買いの有力候補とみられます。また、連続増益企業でいえば、花王も自社株買いが期待されます。花王は’19年12月期も増収増益が濃厚で、営業利益は6年連続で過去最高を更新する見込み。アジア事業拡大のための資金手当ては十分とみられ、余った資金は配当と自社株買いをバランスよく実施して株主に還元することになりそうです。小林製薬も連続最高益企業の代表格。米中貿易摩擦の影響を受けにくく、安全志向が強い年金マネーの受け皿としての需要も大きい」

 株価の下支えになるだけでなく、さらなる爆上げが期待できる自社株買い銘柄に狙いを定めたい。

◆<自社株買いが予想される6銘柄>

※株価は5月27日現在

★住友不動産[8830]

株価   4130円

売買単位 100株

PER    14.04倍

PBR    1.62倍

配当利回り0.77%

 資本効率を示すROE(株主資本利益率)は大手不動産会社で最も高く、少ない資本で利益を上げる経営体質。近年は増配に力を入れており、そろそろ自社株買いにも注力か

★花王[4452]

株価   8883円

売買単位 100株

PER    26.79倍

PBR    5.25倍

配当利回り1.46%

 増配を続けても内部留保がどんどん厚くなっており、いずれ大規模な株主還元を実施してキャッシュを吐き出すと予想される。ROEなど効率性指標の高さで機関投資家に人気

★小林製薬[4967]

株価   2087円

売買単位 100株

PER    36.26倍

PBR    3.99倍

配当利回り0.8%

 消臭・芳香剤などアイデアに富んだ生活・家庭用品の切れ目ない開発で、連続増益を継続中。実質無借金で配当や自社株買いの原資は十分。利益還元強化は創業家次第か

★東洋製罐GHD[5901]

株価   2087円

売買単位 100株

PER    16.93倍

PBR    0.64倍

配当利回り0.67%

 今年3月までに300億円の自社株を買う計画だったが、買ったのは200億円分。宙に浮いたかたちの100億円は次の利益還元に使われる可能性が高い。猛暑関連銘柄として思惑買いも

★伊藤ハム米久HD[2296]

株価   673円

売買単位 100株

PER    14.28倍

PBR    0.89倍

配当利回り2.52%

 5月9日に100万株の自社株買いを発表したが、株価水準が高かったためか40万株を買って終了。株主への利益還元の予算が余ったかたちで、再度の自社株買いが予想される

★マブチモーター[6592]

株価   3765円

売買単位 100株

PER    17.43倍

PBR    1.03倍

配当利回り3.58%

 小型精密モーターで世界シェア5割を超える。アジア生産体制を早くから整え、円高局面でも強い収益力を誇る。内部留保が厚く、株主への利益還元に充てる資金は豊富

【大神田貴文氏】

株式ジャーナリスト。国内大手証券会社などを経て現職。マーケット情報に精通し、個別企業の裏情報も知る事情通

【伊井哲朗氏】

コモンズ投信・代表取締役社長。山一證券、メリルリンチ日本証券などを経てコモンズ投信を創業。CIOも兼務する

関連記事(外部サイト)