2万8000人を暗殺する「フィリピンのトランプ」に、日本が自衛隊装備を譲渡

2万8000人を暗殺する「フィリピンのトランプ」に、日本が自衛隊装備を譲渡

安倍首相と会談するドゥテルテ大統領(首相官邸ウェブサイトより)

◆「麻薬撲滅」を名目に、農民や人権活動家などを暗殺

 数々の暴言や強引な政治手法から「フィリピンのトランプ」とも言われるロドリゴ・ドゥテルテ大統領。5月末に来日し、「非公式」の名目ながら5月31日には安倍晋三首相とも会談した。

 ドゥテルテ政権のもとでは、労働環境や待遇の改善を求める農民や人権活動家などが軍や警察などによって次々に暗殺されている。この問題を憂慮する研究者や弁護士らが5月30日に都内で会見。フィリピン政府に抗議し、同国政府の最大の支援者である日本政府に防衛装備品の譲渡等をやめるよう訴えた。

 会見を行ったのは、明治学院大学国際平和研究所の勅使川原香世子研究員、日本国際法律家協会副会長の笹本潤弁護士、そして在日フィリピン人男性。2016年に「貧しい人々の味方」「治安の改善」をアピールして発足したドゥテルテ政権は、麻薬撲滅作戦の一環として、裁判や法的な手続きなしに容疑者を殺害する「超法規的殺害」を行い続けている。

 政権側が認めた人数として約5000人、さらに約2万3000人が殺人を視野に入れた捜査段階にあるという。しかも、殺されてきたのは麻薬売買関係者だけではない。「農民や漁民、彼らを支援する人権活動家、弁護士などが昨年末までに222人も殺されています」と、勅使川原研究員は語る。

「今年に入ってからも、3月30日にフィリピン中部ネグロス島のカンラオン市で、農民14人がフィリピン軍兵士らに殺害されました。家族など目撃者は、被害者は両手をあげ無抵抗だったのにもかかわらず撃ち殺された、遺体を米袋に入れ踏みつけたなど、詳細に証言しています」(勅使川原研究員)

◆公開される“標的リスト”

 今やフィリピンにおいて、地主や政治家などの有力者の不正を批判すること、低賃金や重労働、不当に高い地代などの搾取などに対し自らの権利を主張することは「極めて困難で危険なこと」だと勅使川原研究員は指摘する。

「軍や警察は農民や漁民のデモを監視し、堂々と顔写真入りで超法規的殺害の“標的リスト”まで町中に張り出しています」(同)

 勅使川原研究員が知る人権活動家たちも、そのリストの中に含まれていたのだという。“標的リスト”は単なる脅しではなく、その名がリスト入りしていたベンヤミン・タルグ・ラモス弁護士も、昨年11月に殺害されてしまった。

 ラモス弁護士は、無報酬で農民や漁民の法的相談にのっていた人権派弁護士だった。また、地主との土地紛争の中で殺害された農民9人の家族を支援していたのだという。勅使川原研究員は「ドゥテルテ政権で弁護士が殺されたのは、ラモス弁護士で34人目」だと嘆く。

◆日本はドゥテルテ政権にとって最大の支援国

 ドゥテルテ政権での超法規的殺害は、日本にとっても無関係ではない。2017年1月、フィリピンを訪問した安倍首相は「5年間で官民あわせて1兆円規模の支援を行う」と発表している。ドゥテルテ政権にとって日本は最大の支援国だ。

 国際法律家協会副会長の笹本潤弁護士は会見で「ドゥテルテ政権への開発援助は、日本政府の開発協力大綱に反する」と指摘する。

「開発協力大綱では、民主化の促進や基本的人権の保障にも十分注意を払うことが明記されています。しかしドゥテルテ政権下では超法規的殺害が頻発し、政権に批判的な政治家やジャーナリストが公に弾圧されるという、大綱の基準と著しく乖離した状況があります」(笹本弁護士)

 フィリピンでの超法規的殺害については、国際刑事裁判所(ICC)が予備調査に着手した。しかし、これに反発したドゥテルテ政権は今年3月、ICC条約から脱退するという暴挙に出ている。笹本弁護士は「ドゥテルテ大統領は、自身が人道に対する罪を行っているとの自覚があるのでしょう」と指摘した。

◆「防衛装備移転三原則」に反する自衛隊装備の譲渡

 日本が自衛隊装備をフィリピン軍へ譲渡していることも問題だ。

「日本とフィリピンは2016年に防衛装備品・技術移転協定に署名しました。自衛隊の小型飛行機TC-90を5機、多用途ヘリコプターUH-1Hを無償譲渡するなど、防衛協力を深化させています。

 フィリピンの人権状況は、防衛装備移転三原則で禁じられた『当該移転が我が国の締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合』に該当します。また、日本が締結した武器貿易条約でも、重大な国際人権法・国際人道法違反にあたる場合は武器の移転が禁じられています」(笹本弁護士)

 会見では、在日フィリピン人の男性も発言した。

「フィリピンがどうなるか、とても不安です。ドゥテルテは、彼を批判する者、立ち向かおうとする者を許さない。弁護士もジャーナリストも政治家も、かまわず殺そうとします。

 ドゥテルテは貧しい者の味方として台頭しましたが、結局は独裁者となりました。彼のやっていることを放置するなら、(20年間フィリピン大統領として汚職や人権侵害を行っていた)マルコスよりひどい独裁者になるでしょう」

 フィリピンにとって最大の支援国である日本は、大きな影響力を持っている。しかし、この会見には主要メディアの記者は皆無。参議院議員会館で行われたにもかかわらず、国会議員も来なかった(秘書は参加)。日本での無関心こそがフィリピンの人々を苦しめているという自覚が、もっと必要なのかもしれない。

<文/志葉 玲>

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