得票率2%以上で政党要件獲得を目指す、れいわ新選組・山本太郎の“賭け”

得票率2%以上で政党要件獲得を目指す、れいわ新選組・山本太郎の“賭け”

れいわ新選組のウェブサイトより

 在職6年の間、絶えず話題を振りまいてきた山本太郎議員が立ち上げた「れいわ新選組」。今回の参院選でも、選挙直前の“ぽっと出”の団体とは思えないメディア露出で、存在感を発揮している。

◆以前から、比例区を意識した準備をしていた

 なかでも、みずから比例区に転出し、かつ1位と2位を他候補に指定したことは驚きをもって受け止められた。

 だが、筆者はこの光景に一種のデジャヴ(既視感)を覚えていた。というのは15年前(2004年)の参院選で、筆者自身が立候補した時の状況といくばくかの類似性を覚えたからだ。

 山本候補が議員を続けるには2つの道があった。前回(2013年)と同様に東京選挙区から立候補するか、10人集めて確認団体を作り、比例区から出るかのどちらかだ。

 選挙区から出れば、その圧倒的知名度を生かして当選できる可能性はかなり高かっただろう。だが、彼はその手を取らなかった。

 これまで山本候補は全国中を遊説して周り、各地にコアな支持層を獲得してきた。この時点で、比例区での選挙を意識していただろうと思われる。全国比例区の選挙で動いてくれる支持者を丹念に集めていたというわけだ。

◆政党と同じ扱いを受けられる「確認団体」の条件とは!?

 ただし、比例区で選挙をする場合、いくつかのハードルがある。第一の壁は「政党要件」だ。

 政党要件は、現職で5人以上の国会議員を有するか、もしくは直近の国政選挙で2%以上の得票がある政治団体に与えられる。この要件を満たさなければ政見放送には出られないし、ビラや選挙カーに至るまでより強い制限が課せられる。つまり、既存政党より不利な条件で選挙キャンペーンをしなければならなくなるのだ。

 そういった新規参入政党のために「確認団体」というステータスが用意されている。これは「比例区に1人以上、かつ選挙区とあわせて10人以上の立候補者を立てた政治団体は、政党要件を満たした政党と同じ扱いを受けられる」というものだ。れいわ新選組が合計10人の候補者を擁立したのは、確認団体としての要件を満たすためだということがわかる。

◆10人以上の候補者を立てるには、1億円以上の資金が必要だった

 第二の壁は資金である。

 全国比例区の立候補者は600万円、選挙区の候補者は300万円の供託金を払わねばならない。れいわ新選組の場合、全国比例区で9人、東京選挙区で1人立候補させているので、合計5700万円の供託金が必要になる。

 加えて、選挙運動のための資金がいる。選挙のスタイルによってかかる経費はまちまちだ。筆者の場合、事前の活動を含めて4か月ほどで650万円かかった。これは少ない方である。

 全国比例区の場合、対象は全国なので資金はいくらあっても足りないくらいだ。ただ目安として、供託金と同程度あれば最低限、形にはなることがわかる。

 発足当初から政党要件を満たしていれば、政党助成金が支給される。既存政党は、それを供託金や選挙資金に充当することができる。しかし、立ち上げたばかりで政党要件を満たしていないれいわ新選組は、ゼロから選挙資金を集めなければならない。

 山本候補は当初、「1億円集まったら選挙をやる」と言っていた。それは、供託金が約5000万円、選挙運動資金が同額程度と考えれば、1億円で選挙にエントリーするめどが立つという意味だ。目論見通り、その額をあっという間に達成した。

◆短期間で力のある候補者を集めることの難しさ

 第三の壁は、自分を含めて10人の候補者を揃えることだ。政治を変える力のある候補者をそれだけ揃えるのは、容易なことではない。選ぶ際には、最低次の3つの条件を考えたと推察される。

1.基本的価値観が合致するか

2.何らかの社会問題の当事者であるか

3.知名度やインパクトがあるか

 まず、1の段階でかなり絞り込まれる。個々の政策についてすり合わせをすれば、時間がかかるうえに必ずどこかで違いが出る。また、表面上の目指す政策は一致しても、議員の任期は6年間ある。その間に新しい課題は必ず浮上する。

 その際に重要なのは、違う分野での政策一致ではなく「新しい課題に対して、同じ出発点から物事を考えられるかどうか」ということだ。そこさえ見極めることができれば、専門分野や得意分野が違っても、事後に齟齬なく政策をすり合わせられる。

 また、似たようなことを主張する候補者がかぶるより、違う分野でも底に共通のものを感じる複数の候補者がそれぞれの立場から訴えた方が議論に広がりができ、その分多くの票を獲得できる。

◆「当事者性」によるインパクトで知名度の低さをカバー

 さらに、何らかの社会問題の当事者であることは、2つの意味で重要性を持つ。ひとつはインパクト、つまり候補者として強い印象を与えること。一定の知名度はこれでカバーできるし、そのことによって後から知名度を上げる可能性も膨らむ。

 もうひとつは、議員になった場合、特定の課題を国会に具体的に持ち込むことができるので、より変革を起こしやすいということだ。

 知名度・インパクトは、通常の政党が最も重要視するものだ。日本の投票様式は「記名式」で、候補者の「名前」を書かねばならない。候補者側からすれば、有権者にまず伝える必要があるのは「自分の名前」ということになる。

 投票者は、基本的に知らない人の名前は書かない。他の多くの国のように選挙期間が何か月もあれば、新人候補者もじっくりと運動できる。しかし、日本の場合は参院選で通常たった17日間しかない。

 これでは、選挙区すら全部回ることも不可能だ。いわんや全国比例区をや、である。筆者も、自身の選挙で「この制度自体、新規参入者には無理がある」ということを痛感させられた。

 選挙中、各候補者が名前ばかり連呼するのも、たった17日間の中で1票でも多く上積みをしようとすれば、まず名前を覚えてもらう作業に集中するほかないからだ。

 しかし、「れいわ新選組」という政党名と、「あそこは何らかの当事者を候補者にしているよね」というイメージを有権者の頭の中で組み合わせる構図さえできれば、3の部分をカバーできる。そう考えたのではないだろうか。

◆資金が2億円以上集まり、より多くの候補者を比例区に回すことが可能に

 以上が、れいわ新選組が選挙に打って出るのに必要な最低限の条件だった。ところが、資金が2億円以上集まり、そのさらに上の壁を目指すことができるようになった。

 もし資金が1億円程度しか集まらなければ、供託金や選挙資金を抑えるため、選挙区に多くの人数を割くことになったかもしれない。その場合、選挙区での立候補は、自身の当選を狙うことと、その地域での比例区の票固めという二重の役割を担う。

 これにはいい点と悪い点がそれぞれある。いい点は、選挙区内での比例区の得票数を上積みする効果が高まることだ。悪い点は、その候補は自分の選挙区以外での選挙運動ができなくなる、つまり比例の上積み効果は選挙区内にとどまってしまうということだ。

 そこで定数6の、選挙区の中では当選確率が最も高いと考えられる東京にだけ選挙区候補を擁立した。そして、それ以外の9人はすべて比例区で全国を駆け回るという、最も広く選挙キャンペーンを展開できる(しかし、最もお金がかかる)パターンが可能になった。

◆あえて自らを「比例区3位」にすることで支持者の尻を叩く

 比例区を重視しているのには、もうひとつ理由があると考えられる。それは、先に述べた「政党要件」だ。

 新党を立ち上げ、国会の中で継続的かつ拡大再生産的に活動を広げていこうとするならば、政党要件の獲得は必須である。なぜなら政党要件を満たせば、政党助成金の受給対象になるからだ。これだけでも政治活動の懐事情は大きく変わる。

 しかも、次回の選挙では確認団体になるために無理をして10人の候補者を立てる必要はない。もちろん、党所属の国会議員数は多ければ多いほど政治的影響力は強まる。

 2%の得票は、実際の票数に換算すると200万票以上。だが、それではよくて2人しか当選できない。しかも現在の実力で考えると、それは非常に厳しい目標だ。

 ここからが「奇策」ともいうべき戦術である。れいわ新選組は、全国比例区候補の特定枠第1位に難病ALS患者の舩後安彦氏、第2位に脳性まひの木村英子氏を指定した。

 これにより、山本候補個人を支援する人たちは、彼を当選させるためには200万をはるかに超える票を集めなければならないことになる。

 これによって、「山本候補を支持して投票はするが、周りに呼びかけるまではいかなかった」という層の尻を派手に叩いたというわけだ。「私が引き続き国会にいることが必要だと思うなら、比例区で3人当選させなければならないのですよ」と。

 このモチベーションの上げ方は、実に巧妙だ。だが、当選者3人分の票に届かなかった場合、みずからは失職するという極めて危険な“賭け”でもある。山本候補自身、支持者層にどれだけ国会議員として必要とされているか、日々ひしひしと感じていただろう。相当の腹のくくり具合だと見ていい。

◆同じような挑戦をして失敗した「みどりの会議」

 恥ずかしながら、ここで失敗した私(たち)の昔話を紹介したい。なぜこの状況に筆者が既視感を覚えるかというと、冒頭にも書いたように、いくばくかの類似性がある状況で自身が立候補した経験を持つからだ。

 筆者は2004年、「みどりの会議」(現在の「緑の党グリーンズジャパン」の前身)の全国比例区公認候補として立候補した。当時の現職議員は、山本候補と同様に芸能界出身で東京選挙区から当選した中村敦夫氏ただ1人。周囲は、当選可能性がより高い東京選挙区からの立候補を進めたが、中村氏は頑として首を縦に振らなかった。

 その理由は単純明快で「政治は1人でやっても力が弱すぎる。自身の議席を守ることよりも、同じ志を持った者を国会で増やす方に動くべきだ」というものだった。つまり、「政治家になる」から一歩進んだ「政党を作る」という強い覚悟があったのだ。

 山本候補の思いの中にも、それに近いものがあるのだろうと推察される。彼の場合もやはり自らは東京選挙区から立候補して、比例区でさらに議席を上積みする方が、より楽に複数議席を獲得できたのではないか。

 しかし山本候補は、全国比例区という日本全体を巻き込むムーブメントの中に自ら身を置いた。そして「今はひとり」の状態から「仲間を増やす」というフェーズに、明確に移行していたのだ。彼の任期中、特にその後半の全国行脚からも、それを念頭に行動していたように見える。

 同様の考えのもと、筆者を含めた10人全員を比例区で(しかも各々何らかの社会問題に関するエキスパートを揃えて)立候補させたみどりの会議は、結果的に1人の当選者も出せなかった。中村敦夫氏と筆者を含む、その同志たちの運動は潰えた。

◆既存政党より圧倒的不利な新規政党は、どこまでできるか

 筆者自身、これに関しては「忸怩」という言葉では言い表せないほどの感情を引きずっている。もしあの時、政党要件を満たせていたら……中村氏だけでも当選させられていたら……こう思わない日はない。

 だからこそ、れいわ新選組には注目している。「新規政党立ち上げの志を持つ人々が、筆者たちが越えられなかった、既存政党に圧倒的に有利な選挙制度の壁を越えることができるか」という一点においてだ。

 その船出は、異例の注目を集めている。だがメディアやネットでの感触はあまり当てにはならない。「ネットでは勇名を馳せていたものの、開票してみたら当選ラインからははるかに及ばなかった」などという例は枚挙に暇がないからだ。

 おそらく山本候補もそれをわかったうえで、あえてチャレンジしているのだろう。どこまで健闘し、硬直しきった日本の選挙システムに風穴を開けられるのかが見ものである。

<文・写真/足立力也>

【足立力也】

コスタリカ研究者、平和学・紛争解決学研究者。著書に『丸腰国家〜軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略〜』(扶桑社新書)など。コスタリカツアー(年1〜2回)では企画から通訳、ガイドも務める。

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