フェイスブック発トークン「リブラ」は新たな経済圏を生み出すか?

フェイスブック発トークン「リブラ」は新たな経済圏を生み出すか?

写真/dpa=時事通信フォト

 フェイスブックが発表した話題のトークン「リブラ」は新たな“経済圏”を誕生させるのか? 賛否両論巻き起こるステーブルコインの真価を探った

◆[ステーブルコイン]の将来性

 6月18日、フェイスブックが独自トークン「Libra(リブラ)」の事業計画を発表し、大きな注目を集めている。リブラは、価格変動が激しく投機性の高いビットコインなどと違い、ドルやユーロなどの法定通貨や国債と、一定の比率で交換できるのが特徴だ。

“創立メンバー”にはクレジットカード最大手のビザやマスターカードをはじめ、ペイパル、イーベイ、ウーバー、スポティファイ……など、名だたる世界的企業が名を連ねており、フェイスブックが抱える27億ユーザーが、リブラを使って金融決済や送金できるようになれば、巨大な“フェイスブック経済圏”ができるのでは、と取り沙汰されているのだ。そもそもフェイスブックは、どのような目的でリブラをつくろうとしているのか? 個人投資家の児山将氏が説明する。

◆27億ユーザーを持つフェイスブック発トークン「Libra」がきっかけで盛り上がる仮想通貨市場!

「外国で出稼ぎをしているのに銀行口座を持っていない人は、世界人口の20%超に当たる17億人もいます。今回、フェイスブックはこうした金融サービスを受けられなかった人たちに目をつけた。買い物をするにも、割安な手数料で瞬時に支払いができ、銀行間で送金するときのように煩わしい伝票処理をする必要もなくなる。これまでは、ビットコインがその受け皿だったが、価格変動の大きいのがネックとなっていました。その点、“価値の裏付け”があるリブラは、価格が安定しているので広く浸透する可能性を秘めているのです」

「価格が安定している」というのは、決済通貨としては大きなメリットのようだ。児山氏が続ける。

「投資・投機の対象と見られているビットコインは、価格の高騰に伴い、送金や金融決済など実需が減少してしまいます。ボラティリティが高ければ、近い将来、価格が2倍になっても投資でのメリットがあり、決裁の直前に売買すればリスクはありません。送金に時間がかかってしまえば、銀行送金と変わらないし、逆に翌月に価格が半分になりそうな仮想通貨を預金したい人もいないでしょう。そこで、仮想通貨にはない“価値の裏付け”を持たせれば価格が安定すると考えて、フェイスブックはリブラを『ステーブルコイン』として設計したのです」

 リブラの誕生前から、ステーブルコインは存在している。

<ステーブルコイン4分類>

●法定通貨担保

 ドルを担保とするテザー(USTD)やトゥルーユーエスディー(TUSD)、ユーロが担保のEURS、ほか幅広い種類がある

●仮想通貨担保

 イーサリアムを担保にしたMakerDAO(DAI)は、発行体の信用が不要。Havven(HAV)は二重トークンが担保

●実物資産担保

 DigixDAO(DGX)は仮想通貨と金の取引の証明が担保。Petroはベネズエラ発行の仮想通貨で石油が担保。現在購入不可

●無担保(アルゴリズム)

 Carbonはシニョレッジ・シェアによる無担保型ステーブルコイン。Basisはアルゴリズムの活用によって安定

 一般的には、価格が一定である通貨とされ、法定通貨によって価値を担保させるものだけでなく、仮想通貨の価値を保全するためにステーブルコインで保有するもの、金や原油で裏付けするものなど、種類は豊富だが、リブラの場合、ドル・ユーロ・ポンド・円の4通貨と国債を裏付けとする「リザーブ」という仕組みで成立しているという。

「参加企業は出資金に応じたリブラを受け取り、ユーザーは取引所でドルなどの通貨でリブラを買うわけですが、こうして集まった法定通貨を『リザーブ』にプールし、銀行預金や債券などに投資運用する。リブラは主要4通貨の100%の裏付けがあるので、4通貨が大きく変動しない限り、価格は安定します。また、リザーブの運用益はユーザーには配当されないので、値上がりを狙ってリブラを持っても意味がなく、価格の安定に寄与するのではないか」(児山氏)

◆欧米金融当局の関係者が警戒感!?

 こうした将来性とフェイスブックや参加企業のポテンシャルから、リブラは今後1年以内にサービス開始されるにもかかわらず、大きな注目を集め、巨大な“フェイスブック経済圏”が創出されるとの憶測まで呼んでいるのだ。

 敏感に反応したのは、各国の金融当局者だ。「リスクもある」(FRB議長)、「高い基準の規制が必要」(イングランド銀行総裁)ら一様に否定的なトーン……。従来の仮想通貨が実体経済に及ぼす影響は微々たるものだったが、リブラのスケールはかつてないもので、各国の金融政策にも悪影響を及ぼす可能性があると警戒する声が挙がっているのだ。

 日銀を飛び出した異能の経済学者として知られる早稲田大学大学院の岩村充教授はこう読み解く。

「リブラは、これまでの仮想通貨が持つ、政府に頼らず自分たちで頑張ろうという理念はなく、かといって政府の言うこともあまり聞きたくないらしい(苦笑)。リブラは金融政策の邪魔にはならない。通貨の量が景気と無関係なことは、空前の金融緩和でも効果を得られなかった日銀が実証済み。だから、金融当局がこの観点から文句をつける余地はない。そんなことばかり言っていると『フィアットマネー(法定通貨)の横暴』と批判を受けるはずだ。一方で、わが日本は、業者を規制して誰でも安心して仮想通貨を買える環境を整えつつ、先月には資金決済法を改正して、ステーブルコインが入り込みにくい制度をつくってしまった。日本は投資家ならぬ投機家保護とフィンテックの育成ならぬ抑制の国になりたいらしい」

 まだ黎明期にある仮想通貨とステーブルコインは、日本では明確に分類されておらず、法整備が後手に回っている。今後、金融庁の締め付けが厳しくなることが予想され、リブラがサービス開始してもうまく軌道に乗るかまだ見えないのだ。仮想通貨の法律に詳しい斎藤創弁護士が話す。

「リブラは本来、仮想通貨に該当すると思いますし、資金決済法上の仮想通貨としたほうが、ほかの法律の規制と比べて扱いやすい。日本の仮想通貨に対する規制は世界一厳しいが、すでに広く流通しているステーブルコインはいくつもありますし、リブラも名だたる世界企業が参加している。彼らと組んだ日本の交換業者がきちんと準備をすれば、金融庁の審査もパスできるのではないか」

 リブラの登場でステーブルコインにも注目が集まるが、前出の児山氏が推奨してくれたコインも要チェックだ。

◆<児山氏が選ぶ注目のステーブルコイン>

●テザー(USDT)

 初の米ドルをペッグにしたステーブルコイン。価値の担保となるドル不足疑惑が長らくくすぶり、今年5月に発行量の74%しかドルを保有していないことが判明し、信用が急低下した……。直近でビットコインが3割超も暴落したのは、テザーが原因という声も

●トゥルーユーエスディー(TUSD)

 イーサリアムのERC20に準拠し、米ドルとほぼ連動する。1TUSD=1USDとなるようレートが固定され、仮想通貨独自の値動きはしないので、為替レートがそのまま当てはまる。送金が速く、手数料も安く、仮想通貨と法定通貨の双方のメリットを持ち合わせる

●ジェミニ・ダラー(GUSD)

 フェイスブックのザッカーバーグに勝訴したウィンクルボス兄弟が、賠償金6500万ドルを得た後、創業した仮想通貨取引所ジェミニが発行。’18年9月、ニューヨーク州金融サービス局が承認し、米国の規制当局から許可を得た初のトークンとなった

●パクソススタンダード(PAX)

 取引所パクソスが公開したのは’13年12月と、古参のステーブルコイン。’18年9月にニューヨーク州金融サービス局が承認。インターネットの通信速度と同じスピードでの取引が可能で、実用向き。米ドルと連動するが、複数の関連企業が価格を保証している

●ユーエスディー・コイン(USDC)

 ゴールドマン・サックス社が出資し、米政府の認可を受けたCircle社が発行。世界最大の取引所バイナンスも取り扱いをはじめ、ステーブルコインの大本命として取引量が増えている。裏付けとなる保有ドルは定期的な監査が入り、内容を公開している

●バイナンスGBP(7〜8月に発行)

 取引量世界一を誇る仮想通貨取引所バイナンスが、発行を予定するステーブルコイン。今年7月〜8月に発行の見込み。世界最大の取引所、裏付けが英ポンドと謎の仕様だったりと、話題には事欠かない。ちなみに、バイナンスはリブラにも関与しそうな兆し

【児山 将氏】

金融メディアを経て個人投資家。ライター。株式、FX、CFDから仮想通貨まで、幅広く投資。投資初心者向けの記事に定評がある

【岩村 充氏】

早稲田大学大学院教授。東京大学卒業後、日本銀行を経て現職。『金融政策に未来はあるか』(岩波新書)、『中央銀行が終わる日』(新潮選書)ほか、著書多数

【斎藤 創氏】

弁護士。創・佐藤法律事務所代表。米国・ニューヨーク州弁護士。仮想通貨、フィンテック、ベンチャーファイナンスに精通する

取材・文/斎藤武宏 写真/dpa=時事通信フォト

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