「中規模書店」で相次ぐ経営危機――大都市近郊でも増える「書店ゼロエリア」

「中規模書店」で相次ぐ経営危機――大都市近郊でも増える「書店ゼロエリア」

天牛堺書店の創業の地にあった津久野店

◆相次ぐ老舗大手書店の経営危機

 地方のみならず都心地域でも「書店の閉店」が目立つようになってきた昨今であるが、そうしたなか東西の大都市を拠点とする「老舗大手書店」の経営問題が相次ぎ報じられた。

 その1つが1月に経営破綻して廃業した関西の老舗「天牛堺書店」(大阪府堺市南区)、そしてもう1つが7月から私的整理に入った、首都圏の老舗「文教堂」(神奈川県川崎市高津区)だ。

◆消えた大阪の地場大手「天牛堺書店」

 2019年1月に破産した「天牛堺書店」は1963年に大阪府堺市津久野駅前で創業。新書に加えて文具、CD、DVD、古書の販売も行っていたことが特徴であった。

 店舗網は関西地方だけであったものの、最盛期には地場大手として30店舗近くを展開。南海電鉄の沿線にある駅ビル・駅チカへの出店を主体とし、かつては関西国際空港にも出店していたほか、経営破綻時にも「高島屋」や「イオンモール」内に店舗があった。

 しかし、近年は売り上げの低下に歯止めがかからず閉店も目立っていた。2018年には創業の地・津久野から撤退。今年1月28日に大阪地方裁判所堺支部から破産手続開始の決定を受けるに至った。

 東京商工リサーチによると、負債総額は約18億円。ピーク時の1999年5月期には売上高約29億900万円を計上していたが、2018年5月期の売上高は約16億8000万円になっていたという。

 同社の店舗のうち、高島屋堺店内の店舗跡には丸善書店が、イオンモール堺鉄砲町店内の店舗には大垣書店が出店するなど、集客力のある立地にはすぐに後継として大手書店の出店が決まったものの、中小規模の店舗の多くは引き継ぎ先が決まらず、大都市近郊でありながら未だに空き店舗のままとなっているところも少なくない。

◆複合書店の先駆け的存在――全国大手の「文教堂」も経営再建に

 一方、6月より私的整理を開始した「文教堂グループHD」の中核企業「文教堂」は1949年12月に神奈川県川崎市の溝の口駅前で「島崎文教堂」として創業。1993年11月に現在の社名に変更、1994年7月に株式上場した。

 同社は1990年代まで首都圏地盤の書店チェーンであったが、1999年8月に国内最大級(当時)となるインターネット書店「J-BOOK」を開設、2000年10月に北海道地場大手書店「本の店 岩本」、2002年9月には化粧品大手「ポーラ」傘下の書店「ブックストア談」を買収するなど、全国展開を本格化。2003年からは新業態「文教堂ホビー」(B's Hobby)1号店を出店しプラモデル・模型専門店に参入、2005年4月には複合書店大手「ゲオ」との包括的業務提携を締結、また当時中堅コンビニであった「スリーエフ」と共同で24時間営業書店「文教堂スリーエフ」を出店(2019年現在は一部店が「文教堂ローソンスリーエフ」として現存)するなど、出版業界の市場縮小に対応した事業多角化を進めていた。

 業界に先駆けて事業多角化を進めた文教堂であるが、同時期より競合書店チェーンとの競争激化もあり、経営不振の常態化が顕著にみられるようになった。

◆2008年から経営再建を実施していたが……

 経営再建の一環として、2008年3月に純粋持株会社化を伴う機構改革を実施、2008年12月から2009年3月にかけて取次大手「トーハン」を中心に取引先を対象とした総額10億円超の第三者割当増資を相次ぎ実施、不採算店舗を閉鎖することで、経営安定化を図ったほか、2009年9月には大日本印刷(DNP)傘下の書店大手「ジュンク堂書店」(現・丸善ジュンク堂書店)が筆頭株主となり、同年12月に業務提携を締結、DNP主導のインターネット書店「honto」への参画や、丸善ジュンク堂および親密な関係にある喜久屋書店への「文教堂ホビー」出店を進めるなど、事業の合理化を目指した。

 なお、2016年10月の丸善ジュンク堂書店による取次大手「日本出版販売」(以下、日販)への間の全株式譲渡により、現在は日販が筆頭株主となっている。

 2011年9月には、次世代の主力業態としてアニメ・コミック専門店「アニメガ」1号店を武蔵境駅前に出店。

 さらに、ホビー業態との複合店舗「文教堂JOY」を立ち上げ、都心部の駅ビル・ファッションビルや大手雑貨店「ロフト」を中心にサブカル系店舗の多店舗展開を開始した。

 2014年11月には関西地盤の中堅書店「キャップ書店」8店舗を取得、既存店舗のリニューアルを進めるなど事業再構築を目指したが、2013年8月期以降は再び赤字が常態化(2017年8月期除く)しており、2018年8月期には約2億3000万円の債務超過、東京証券取引所による上場廃止に係る猶予期間入りの指定を受けていた。

 文教堂グループHDは債務超過解消に向けて、本部・店舗間の意思疎通改善や退店基準明確化による不採算店舗撤退といった経営改善策を実施。創業家出身の嶋崎富士雄社長も退任し、買収した「本の店 岩本」出身の佐藤協治常務が後任に就いたが、2019年8月末までに債務超過解消が困難であることから、6月に私的整理の一種である事業再生ADRの申請に至ったという。同社は既存店の営業を継続しながら、金融機関借入金(約135億円)の返済猶予交渉を行うなどして、上場廃止回避に向けた経営再建を目指すとしている。

◆苦境に陥る「近郊の沿線書店」――大都市近郊でも「書店ゼロ」エリアが

 さて「天牛堺書店」と「文教堂」には共通点がある。その1つが、いずれも多くの店舗が「大都市圏の鉄道沿線で展開する中規模書店」だということだ。

 大都市圏では大抵の場合、数駅電車に乗れば「紀伊國屋書店」や「ジュンク堂書店」などの超大型書店が立地。これらの超大型書店はネット書店に対抗しうる品揃えや書籍以外のワークショップ、著者サイン会などで大きな集客力を持つのに対し、中小規模の書店はその品揃えの中途半端さから客離れが深刻なものとなっている。

 今年経営破綻した「なにわ書房」(札幌市)、「BOOK JAM K&S」(札幌市、喜久屋書店と提携)、そして現在経営再建中の「福家書店」(大阪府箕面市、旗艦店は銀座(閉店)と新宿)、「廣文館」(広島市、東京都内にも出店)なども、文教堂や天牛堺書店と同じく、一部旗艦店は大型であるものの多くの店舗が「大都市近郊」の「中規模店」という特徴を持つ。

 とくに、文教堂は小田急や東急などの沿線、天牛堺書店は南海沿線の駅チカにドミナント展開しており、多くの店舗から「超大型書店があるようなターミナル駅にアクセスしやすい」という共通点があった。文教堂のうち2019年に入って以降半年間で閉店した「書店」は東陽町、鷺ノ宮駅、渋谷、武蔵小金井、経堂(いずれも東京都)、横浜北山田、江田駅、みなとみらい駅、大船モール店(いずれも神奈川県)、川口朝日町、本庄(いずれも埼玉県)、小山駅(栃木県)、千歳(北海道)。殆どが大都市近郊の立地かつ「大型書店がある街まで電車で1本」だということが分かる。天牛堺書店に至っては、末期にはほぼ全店がジュンク堂書店と旭屋書店の旗艦店がある「難波まで電車で1本」という立地であった。

 なお、2016年に開店した文教堂の都心旗艦店「カルチャーエージェント渋谷店」は駅から少し離れていたものの(徒歩7分ほど)、ブックカフェが人気を集めており混雑することも少なくなかったが、「書店」としての規模は小さく、僅か3年足らずでの閉店となってしまった。

 また、文教堂に関しては「アニメガ」も同様の問題を抱えていたように思う。アニメガは文教堂の「書店」と比較して、その性格から都心立地の店舗が多かった。それら都心店の多くは「アニメイト」など老舗の大手アニメショップと競合関係にあったものの、アニメガはそれらの競合店に比べて品揃えやイベント企画など様々な面で中途半端であった印象は否めなかった。実際、近隣にアニメイトなどの競合店があった大都市都心のアニメガ店舗は、その多くがここ約1〜2年のあいだに閉店するに至っている(札幌パルコ店、渋谷店、新宿アルタ店、新宿マルイアネックス店、横浜ビブレ店、名古屋店、京都ロフト店、心斎橋OPA店など)。

 とはいえ、文教堂は少ないながらもアニメガなどとの複合書店を地方中核都市など競合店が少ないエリアにも出店、貴重な業態として大きな集客力を持つ店舗もあり、その方向性は間違っていなかったともいえる。

 複合書店で販売される商品は、その多くが書籍よりも利益率が高い。大手取次傘下というスケールメリットを生かすかたちで、今後はこうしたサブカル分野における競合店が少ないエリアや、日本の文化やサブカルに興味を持つ外国人観光客も取り込めるような立地を狙って複合書店を展開していくこともひとつの再建策になろう。

◆厳しさ増す大都市圏沿線の中規模書店

 厳しさを増す大都市圏沿線の中規模書店。「天牛堺書店」の本社があった堺市周辺では多くの書店が同社の運営となっていたため、経営破綻が地域に与える影響は非常に大きなものとなった。とくに、堺市に隣接する高石市は大都市圏に位置しながらも個人経営以外の書店が消滅。取材中、同市に住むという10代の女子学生は「近所の本屋さんってここしかなかったから確かに困る。文房具も大抵ここで買ってたからなぁ…」と語った。

 書籍取次大手「トーハン」によると、2017年7月現在で全国の自治体・行政区の2割強が「書店ゼロ自治体」となっているという。それらの多くは過疎地域であるが、大型書店同士の激しい競争のなか、今後「大都市近郊地域」にも書店ゼロエリアが増えていく可能性も高い。

<取材・文・撮影/若杉優貴 重永瞬 おかみ(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

関連記事(外部サイト)