安倍政権に阿るマスコミ幹部よ、矜持を取り戻せ!<小林節氏>

安倍政権に阿るマスコミ幹部よ、矜持を取り戻せ!<小林節氏>

maxx-studio / PIXTA(ピクスタ)

◆安倍政権にひれ伏した大手メディアの惨状

 国際NGO「国境なき記者団」が発表した2019年の「報道の自由度ランキング」で、日本は67位、主要7カ国(G7)中の最下位という結果になっている。そして、「日本のメディアの自由は、安倍晋三が2012年に首相に再就任して以降、衰えてきている」とまで指摘されている。

 言論・報道機関は、本来、権力に不都合な真実をえぐり出し、広く国民に伝えることが求められている。近代国家にあって、新聞・テレビなどのメディアは権力を監視し、チェックすべき重大な役割を担っている。メディアは、民主主義を根底で支える極めて重要な存在なのだ。

 しかし、ここ数年の我が国の新聞・テレビなどの大手メディアは、権力との対決を忌避し、権力に阿っている。

 7月22日発売の『月刊日本』8月号では、「安倍政権にひれ伏したメディア」と題した特集を打ち出し、あまりにも不甲斐ない大手メディアの惨状について苦言を呈している。今回は同特集の中から、憲法学者の小林節氏へのインタビューを紹介したい。

◆阿る記者は要職に、批判的な記者は排除

── 6月下旬に、言論と表現の自由に関する国連のデービッド・ケイ特別報告者が、国連人権理事会に提出した報告書で、「日本では政府が批判的なジャーナリストに圧力をかけるなど、報道の自由に懸念が残る」と警告しました。

小林節氏(以下、小林):ケイ報告者が指摘した通り、安倍政権に対する批判的な報道が封じ込まれています。大手メディアのトップが政権に飼いならされているからです。

 アメリカのメディアの経営者たちは、一切権力者とは食事をしません。それが、最低限のルールだと認識されています。ところが、日本の場合には、巨大メディアの社長や幹部が首相に誘われて、いそいそと出かけていく。それを恥とも思っていない。そして、社内では政権に阿る記者を要職に就け、政権を批判する記者を排除しています。

── 実際、NHKの岩田明子記者のように、政権に阿る記者が優遇されています。

小林:彼女は、民主党政権時代にも、権力の中枢に食い込もうとしていたようですが、民主党がダメだとわかると、安倍さんに食い込んでいきました。変わり身の早い人のようです。安倍さんの主張を代弁する彼女の解説を聞いていると、気持ちが悪くなるほどです。4月1日に新元号「令和」が発表された直後に、彼女は「この令和の『令』というのは、良いとか立派なという意味があります。たとえば嘉辰令月ですとか、そういう言葉にも使われるように、良い意味がある」などと得意気に解説していました。どう考えても、事前に新元号を知らされ、選定した理由まで伝えられていたとしか考えられません。権力を批判すべきメディアが、権力と一体化してしまっているのです。

── 一方で、政権に批判的な記者の排除が強まっています。

小林:例えば、2015年に「報道ステーション」(テレビ朝日)で「I am not ABE」と書いたプラカードを出して政権を批判した元通産官僚の古賀茂明が、降板に追い込まれました。その際、女性チーフプロデューサーも番組から外され、経済部長に異動となりました。私も彼女から取材を受けたことがありますが、権力に阿ることなく毅然とした態度で戦っていました。

 彼女は経済部長に就いてからも、森友問題などをきちんと追及する取材体制をとってきたと言われています。「彼女のクビを取る」という話は、自民党筋から何度も伝わってきていました。そして今回、彼女は「総合ビジネス局・イベント事業戦略担当部長」へ異動となりました。報道とは関係ない事業部への異動です。これほど露骨な左遷人事はありません。安倍総理と食事をして喜んでいるテレ朝の会長や社長が悪いのです。

◆「多様性を尊重する自民党」を拡散させた講談社

── メディア全体が権力にすり寄るようになっています。

小林:自民党と講談社の女性ファッション誌「ViVi」のタイアップ広告も、重大な問題です。参議院選挙が近づきつつあるタイミングで、特定政党の広告を載せたこと自体も問題ですが、広告の中身も問題です。

「ViVi」は、読者に向けて、「どんな世の中にしたいか?」と問いかけて、意見を投稿してもらい、その返礼として、自民党のロゴと女性モデルが考えたというメッセージが刷り込まれたTシャツをプレゼントしたのです。ただし、そのメッセージは実際には自民党が事前に用意したものです。

 驚いたことに、返礼として送られてくるTシャツには、「Diversity(いろんな文化が共生できる社会に)」などと印刷されていたのです。若い女性に対して、自民党があたかもダイバーシティを尊重しているような印象を与えることになりました。若い世代の女性票も取り込みたい自民党としては、願ってもない広告でした。

 ところが、実際に自民党がやっていることは、ダイバーシティの否定です。自民党は、「LGBTは生産性が低い」と発言した、同党所属の杉田水脈衆議院議員を処分しなかったどころか、公的に謝罪させることも、発言を撤回させることもさせていません。

 また、自民党の改憲草案も、個人主義を批判し、家族や国家の価値を重視しており、全体主義的な戦前への回帰を志向しています。

 講談社は、ダイバーシティやLGBTについての自民党の姿勢を承知しているはずです。であれば、「このような広告は載せられない」と断るべきでした。広告欲しさのあまり、自民党の言う通りに広告を出したことは重大な問題です。「ViViは自民党の機関誌なのか」といった厳しい批判が出たのも当然です。

◆表現の自由より、収入増を選んだ民放連

── 自民党が巨額の資金と電通の力を使えば、圧倒的に有利な広告を展開できます。

小林:そこで、今問題となっているのが、憲法改正国民投票の際の広告です。資金の豊富な与党・改憲派は、大手広告代理店を使い、ゴールデンタイムの枠に圧倒的な量の広告を流すことができます。これに対して、資金の乏しい野党・護憲派は、細々と広告を出すことしかできないでしょう。

 例えば、与党・改憲派が、有名タレントを起用して、「美しい日本!」「誇りの持てる日本!」など、情緒に訴えるCMを大量に流せば、国民投票の帰趨を決してしまいます。サブミリナル効果(潜在意識に刷り込む手法)は、与えられた広告量によって決まるからです。ところが民放連は、5月9日の衆議院憲法審査会で、「表現の自由」(憲法21条)に抵触する恐れがあるので、CMの量的規制はできないと述べたのです。

 民放連は「表現の自由」と言っていますが、彼らの議論は決定的に間違っています。賛成説と反対説があって、賛成説の人数が多く、声が大きければ、反対説の声はかき消されてしまいます。両方の説を公平にぶつけさせて、国民が判断するのが民主主義のあるべき姿です。つまり、表現の自由を尊重するためには、賛否両方の側に同じチャンスを与えることが必要だということです。そのためには、同じチャンスとなるように、CMの量的規制をしなければならないのです。

 表現の自由を担うべき民放連が、表現の自由より、収入増を選んだということです。しかも、彼らはCMの内容の精査で対応すると述べています。これは、内容を民放連が検閲することにほかなりません。これこそ表現の自由に抵触する行為です。

◆権力に不都合な主張が排除される

小林:私はメディアの不公平な扱いを、身をもって経験しました。まもなく、参議院選挙がスタートしますが、メディアの公平性が改めて問われていると思います。

 2016年に、我々は新党「国民怒りの声」を旗揚げし、同年7月の参議院選挙に出馬しました。公職選挙法によれば、参議院の場合、10人以上候補者を立てれば政党扱いされることになっています。ところが、メディアからは徹底して無視されたのです。マニフェストさえ報道してくれませんでした。マスコミ主催の党首討論会にも呼んでもらえなかった。

「なぜ政党として扱ってくれないのか」と関係者に問うと、「現役議員が一人もいない政治団体は政党として扱わない」と言われました。しかし、そんなことは公職選挙法のどこにも書いてありません。

 メディアから完全に無視された我々は、選挙戦終盤に、関東のローカルテレビ局にスポットCMを出すことにしました。ところが、局側は事前審査と称して、100項目にも及ぶ難癖をつけてきたのです。例えば、我々が主張していた「1割にも満たない人達が9割の富を握るような新自由主義経済はやめなければいけない」という主張について、「科学的根拠を示せ」と言ってきたのです。我々が、野村総合研究所の報告書を根拠として示すと、今度は「一民間企業の報告書には権威性がない。政府や大学など、しかるべき機関の報告書でなければならない」などと言って、審査を続けたのです。結局、CMを流すことはできましたが、無駄な労力を費やすことになりました。

 実は、選挙が終わった後、局の担当者が謝りに来て、「私もあの事前審査はひどいと思いましたが、上からの命令で仕方がなかったのです」と言いました。

 権力に不都合な主張がマスコミに出ないように、あらゆる妨害が行われているのかもしれません。当時は、テレビ局を管轄する総務省の圧力がかつてないほど高まっていました。参議院選挙の5カ月前の2016年2月、高市早苗総務大臣が、衆院予算委員会で、「放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に電波法に基づき、電波停止を命じる可能性がある」と語っていました。

 その局の上層部も政権に配慮したのかもしれません。安倍政権は、アメとムチによって、メディア統制を強めています。メディアが政権からの圧力を跳ね返すためには、メディアの経営者が矜持を持たなければなりません。そうでなければ、下で働く記者たちが記者としての矜持を保てるはずがありません。

(7月1日インタビュー、聞き手・構成 坪内隆彦)

記事提供元/月刊日本

【月刊日本】

げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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