ここが変だよ、日本の消費税<新連載・佐藤治彦の[エコノスコープ]令和経済透視鏡>

ここが変だよ、日本の消費税<新連載・佐藤治彦の[エコノスコープ]令和経済透視鏡>

イラスト/いらすとや

◆明確な勝者のいなかった参議院選挙

 第25回参議院選挙が終わった。

 与党は過半数を得た勝利であったが、自民党単独では参議院で過半数を割ってしまった。また、安倍首相が悲願とする憲法改正に関しても、自民、公明、維新を合わせたいわゆる改憲勢力は、発議に必要な参議院での2/3に僅かに足りない状況になった。与党の中での公明党の役割が大きくなったことは明らかだ。自民党案の憲法9条改正には消極的な公明党だけでなく、安倍一強の政治状況の中では目立たないが自民党の中にもハト派はいるので選挙前よりも改正に関して状況が厳しくなったことは間違いないだろう。

 対する野党は1人区で統一候補を立て、6年前は2勝しかできなかった与党の現職だらけの厚い壁を10勝まで伸ばしたものの、一方で複数区では相変わらず、野党同士の潰し合いが続いた。特に静岡と東京、関西の選挙区ではそれが目立ったように思う。 こうした野党への国民の失望感は続いている。それを一番象徴したのが比例区だ。2017年の総選挙と比べて一番得票を減らしたのは立憲民主党だ。希望の党からの分裂騒ぎで巻き起こった枝野フィーバーは完全に終わった。それもあってか選挙中には多くのメディアが立憲民主党の20議席台の獲得を予想していたが、結果はそれを下回る17議席に留まった。

 投票率が49%弱と史上最低レベルで、これを政治評論家は深刻な政治離れと切り捨ててしまうが、私は多くの人が与党にも野党にも選択肢を見出せない新・無党派層というか絶望層が相応の数になってきたのではないかと思う。

◆「絶望」層にアピールした新たな動き

 今回の選挙ではそういう絶望層にアピールした新たな動きも見られた。特筆されるのが山本太郎を代表とするれいわ新選組だ。4月に旗揚げしたばかりで選挙期間中は各メディアはほとんど取り上げなかったため、選挙運動は非常に不利のはずなのだが、SNSなどで山本太郎氏の演説などが拡散されたためだろう。比例区で220万を超える得票を得て2議席を確保、政党要件を獲得した。私もネットで見たのだが、山本太郎氏の演説には強烈なカリスマ性があり、選挙区では野党候補の応援演説も引き受けた。山本が応援演説に入ると伝えられると集まる聴衆の数が増える。まるで、自民党の小泉進次郎効果のようなのだ。

 また、主に個人ばかりの献金で4億円もの寄付があったことにも驚いた。演説会場では山本太郎氏の話を聞いた聴衆が500円、1000円という寄付をするために長蛇の列を作った。

 その主張の最大のものは「消費税ゼロ」である。平成と共に日本でも導入された消費税は、法人税や高額所得者の所得税の減税分の穴埋めにしかなっていないではないか。これでは社会保障の財源のための消費税とは言えないというのがその主張だ。

 その論についての評価は別の機会にするとして、消費税について思ってることを少し話したい。

◆究極の軽減税率はすでにある。

 ご存知のように令和元年10月から消費税は10パーセントに引き上げられる。また、新たに軽減税率が導入されることが話題だ。食料品などは税率8パーセントのままに据え置かれるのだ。外食などもテイクアウトは軽減税率となるため各社対応に追われている。

 しかし、究極の軽減税率は消費税が始まった時から実はある。

 家賃だ。もう少し詳しくいうと居住用の賃貸住宅には消費税はかからない。ゼロなのである。究極の軽減税率だ。

 賃貸住宅の消費税がゼロということは都会の高級賃貸住宅のように、毎月の家賃が50万どころか100万円を越すものも、無税なのである。

 高級マンションの中には居住者用のジムが併設されているマンションがある。家賃にジム使用料が含まれているならば税金はかからない。

 一方で事業向けの賃貸物件には税金がかかる。例えば、月の家賃が10万円程度の小規模事業者向けの賃貸物件にも消費税はかかるのだ。

 個人向けの居住でも、ウィークリーマンションやリゾートマンションには消費税がかかる。もちろん、ホテルや旅館に定住している場合でも税金がかかる。1泊2000円の安宿には税金がかかり、月額100万円を超えるジム付き賃貸マンションは無税なのである。

 駐車場の扱いも不思議だ。個人が自家用の車のために駐車場を借りると消費税がかかる。ところが、タウンハウスや高級マンションのように駐車場料金が家賃に含まれている場合はそれも無税となる。

 つまり、毎月の家賃が100万円を超える高級ジムと駐車場付きマンションは消費税ゼロなのである。

 これに比べてマイホーム族には冷たい。個人がマイホームを持とうとすると、建物には消費税がしっかりかかる。10月からは10%かかる。30年以上の住宅ローンを払い、不動産取引税と毎月の固定資産税なども払う上に、建築費用には消費税がかかるのだ。

 持ち家派が不当に扱われるというか、高級マンションが無税なのはどうしても納得がいかない。

◆消費税の「理不尽」は医薬品でも

 医療費をめぐる消費税の扱いでも変テコなことがある。微熱や咳が出て気分が悪い。それでも、サラリーマンなどは余程のことがないと会社を休んで医療機関には行きずらいものだ。さらに非正規など時給ベースで働く人は仕事を休めば収入に直結するから深刻だ。そのため多少のことなら、自分でドラッグストアに行き、薬剤師などに症状を話し薬を買うことも多い。

 今は風邪薬だけでなくいろんな薬が街のドラッグストアで買えるようになって便利になった。しかし、こうした薬にはしっかり消費税がかかる。

 しかし、同じ薬であっても、医療機関で出してもらった処方箋に基づく薬には税金はかからない。それどころか、個人の判断でドラッグストアで購入する薬と違って医療費の一部となるので、多くの場合は保険点数に基づくいわゆる薬の価格は3割負担にしかならない。つまり、処方箋による薬は保険と消費税の両方で負担を軽くしてもらってるわけだ。

 国は増え続ける医療費の削減に必死なはずだ。それなのに、個人が医療機関を受けないで病気を治そうとする行為には税金や社会保険の恩恵はない。また、病気にならないように、もしくは早期発見しようと出向く人間ドックにはもちろん消費税がかかるのだ。

◆外国人への「消費税還付」も日本は特異

 最後にもはや爆買いしてくれない外国人観光客に対しての消費税還付も日本は特異だ。海外を旅行して付加価値税などの還付の経験したことがある人は多いと思うが、諸外国でも外国人旅行者に消費税やそれに準ずるものが戻ってくることはある。しかし、これは高額な商品を買ってもらうのが主な目的だ。そして、空港などで未開封の商品をみせ手続きをして初めて税金が戻ってくる。それもヨーロッパなどでは手数料がかかるので、15〜20%ほどの日本の消費税にあたるものに対する還付も半分程度の10%くらいということが多い。

 ところが、日本の場合は何でもかんでも全額還付する。例えば海外ではあり得ない食品や消耗品の多くも免税の対象となっているのだ。

 つまり、10月からは日本の多くの店舗で国の制度で観光客だけ10%の割引セールをするようなものなのだ。

 徴税は公平性と納得性がとても重要とされる。消費税を税の基幹据えるのであれば、とても重要だ。特に消費税が10パーセントになるということは、12ヶ月ある1年のうち、1か月分は自分のためには使えない。消費税として納税するために働くことになる。

 年末には5万円、6万円といったおせち料理が発売されるだろう。それも軽減税率の対象になるはずだ。中には使い捨てにするには勿体無い高級なお重に入ったものもある。お重だけ別に買えば10%、おせち料理の器として手に入れれば8%なのである。軽減税率はそうした変テコな状況を生む。私は食料品に対する軽減税率よりも、むしろ、水道料金、ガス代、電気代、通信費、電車やバスなどの公共料金こそ、軽減税率の対象にしても良かったのではないかと思う。特に地方の人にとっては生活に欠かせないガソリンには今までも二重課税が問題視されてきたが、10月からはがっちり消費税が増税されるのだ。

 毎日、少しでも安く買い物をしようとやり繰りする主婦たちのため息が聞こえるようだ。

新連載:佐藤治彦の[エコノスコープ]令和経済透視鏡

【佐藤治彦】

さとうはるひこ●経済評論家、ジャーナリスト。1961年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。著書に『年収300万~700万円 普通の人がケチらず貯まるお金の話』(扶桑社新書)、『年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』 (扶桑社文庫・扶桑社新書)、『しあわせとお金の距離について』(晶文社)、『お金が増える不思議なお金の話ーケチらないで暮らすと、なぜか豊かになる20のこと』(方丈社)、『日経新聞を「早読み」する技術』 (PHPビジネス新書)、『使い捨て店長』(洋泉社新書)

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