去りゆく新幹線とリニアの隆盛。各地で与党・自治体・鉄道会社が対立

去りゆく新幹線とリニアの隆盛。各地で与党・自治体・鉄道会社が対立

2010年、開業に向けて工事が進められていた九州新幹線新鳥栖駅で、試験走行するN700系「さくら」(時事通信社)

 またぞろ新幹線の建設で揉めている。舞台となっているのは九州新幹線の西九州ルート。現在、すでに武雄温泉〜長崎間の建設工事が進んでおり、順調にいけば‘22年度には同区間が開業する予定で、こちらには特に大きな問題はない。むしろ問題なのは開通済みの九州新幹線新鳥栖駅から武雄温泉駅までの区間だ。

◆与党と地元が激しく対立

 その整備方式を巡って、与党の整備新幹線検討委員会がフル規格での整備方針を決定すると、地元の佐賀県が反発。山口祥義知事が「押しつけだ」とフル規格による整備に反対する姿勢を鮮明にしている。つまり、与党と地元の間で意見が真っ向から対立しているのだ。鉄道ライターの境正雄氏はその事情をこう説明する。

「もともと新鳥栖〜武雄温泉間はフリーゲージトレインを導入し、既存の在来線をそのまま活用する方向で進んできました。新幹線と在来線はレールの幅(軌間)が異なるため、直通運転を実現するためには山形・秋田新幹線のように在来線側を新幹線の軌間に合わせる工事を行うか、いずれの軌間でも走れるフリーゲージトレインを用いるしかありません。

 九州新幹線西九州ルートでは、フリーゲージトレインの技術開発を進めてこれを導入し、新鳥栖〜武雄温泉間は新たな路線を建設せずに長崎まで新幹線を通すことにしていたんです。このフリーゲージトレイン導入が佐賀県にとっては“新幹線建設”の条件でした」

 佐賀県は九州一の大都市である福岡市と近く、これまでも在来線の特急「かもめ」や「みどり」が福岡と佐賀を結んでいた。所要時間は約40分。フル規格の新幹線が開通しても時短効果は限定的だ。つまり、多くの地方自治体が新幹線を“熱望”するのに対して佐賀県はさほど必要性を感じるようなものではなかったのである。

 「整備新幹線の建設費は、開業後にJRが支払う貸付料に加えて国と沿線自治体の支出によって賄われることになっています。自治体が負担するのは、建設費のうちJR負担分(貸付料)を除いた金額の3分の1。これはいわば新幹線建設にあたってのルールなので、九州新幹線西九州ルートを整備するに際して当然佐賀県にも負担を求めることになります。

 ですが、時短効果の少ない佐賀県にとって、負担に見合う恩恵は受けられない。そこで、フリーゲージトレインの導入によって負担を軽減させる前提で建設が決まったというのが大まかな経緯です」

◆フリーゲージトレインの導入を断念

 ところが、そのフリーゲージトレインの技術開発が頓挫してしまう。車両の製造コストが大幅に増加することや安全性が確立されていないことを理由に、‘17年にJR九州がフリーゲージトレイン導入の断念を表明したのだ。そして新鳥栖〜武雄温泉間をフル規格で整備することを求めた。そうなれば、佐賀県にとって新幹線建設の大前提が崩れたということになる。

 「佐賀県は兼ねてからフル規格での整備に反対の意思を明らかにしており、与党検討委にも再三それを伝えていた。ところが、今年8月に与党検討委はフル規格整備を決定してしまった。

 それで佐賀県が『約束が違うから新幹線建設には同意できないし、とうぜん金は出せない』と反発しているわけです。ならば国がその分も負担すれば、と思うかもしれませんが、ほかの沿線自治体はルール通りに負担しているのに佐賀県だけ負担しないで済むとなると、明らかに不公平。“ごね得”の印象も与えていしまいます」

◆自治体によって異なるメリット

 こうして佐賀県と与党検討委の間での対立が深まってしまったのだ。そして巻き込まれたのが長崎県。長崎の立場からすると、武雄温泉で在来線から新幹線に乗り継がなければならないのではメリットは小さい。

 そこでフリーゲージトレインが実現しないならばフル規格での整備を求めるのが当然だ。さらに、フル規格での整備が実現すれば山陽新幹線から、つまりは大阪方面から長崎まで乗り換えなしで行くこともできる。

 そうしたメリットが失われ、さらに今まで在来線特急で乗り換えなしだったのに新幹線ができたおかげで乗り換えアリとなったら、利便性すら損なわれる。

「つまり、九州新幹線西九州ルートをめぐる問題を簡単にまとめれば沿線地域によって新幹線整備による恩恵の度合いが異なるのに費用負担は一律で決まっていることが要因で対立が生まれてしまっているということです。各自治体の長が自らの利益を求めて声を上げるのは当然のことで、一概に責めるわけにはいきません。

 むしろ重要なのは、一昔前ならば地元土建業者への工事発注などに伴うプラス効果も踏まえて新幹線建設は歓迎される傾向にあったところ、今ではシビアに考える自治体が増えているということではないでしょうか」(境氏)

◆リニア新幹線でも自治体が反発

 同様の構図は、JR東海が進めている中央リニア新幹線でも見られる。わずかながら山間部をリニアがかすめる予定の静岡県が、大井川の水量維持を巡ってJR東海と対立。工事が事実上ストップしているのだ。

 静岡県にとっては県内に駅ができるわけでもなく、リニアは単に通過するだけ。こちらは整備新幹線ではないので建設費の問題はないものの、トンネル工事に際して大井川の水量が減るのは問題になる。その全面的な解決がない限りは“メリットはなくデメリットだけ”。簡単に工事を許可することはできないというわけだ。

 「九州の場合、もちろんJRは十分な収益が見こめるフル規格での整備が望ましいでしょうし、こうした問題は各自治体や事業者がそれぞれの状況をもとに主張を繰り返しているだけではなかなか解決しない。むしろ地域ごとに新幹線建設の効果や影響が異なることを前提とした、新たな建設スキームを見出していく必要があるのでは」

 新幹線ができればそれだけで万々歳という右肩上がりの時代はとうにすぎた。自治体ごとに異なる新幹線のメリット・デメリットを考慮せずに一律の割合での負担を求めることは、もう難しくなっているのかもしれない。これからは沿線地域にもたらす影響をシビアに検討し、国が中心となって現実的な対応をしていく必要がありそうだ。

<取材・文/HBO編集部>

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