海上自衛隊幹部学校の「特別講話」に改憲派“安倍応援団”が続々登壇の危うさ

海上自衛隊幹部学校の「特別講話」に改憲派“安倍応援団”が続々登壇の危うさ

改憲派論者が多数登壇していたことがわかった 海上自衛隊幹部学校の特別講話

◆海自幹部学校の「特別講話」、恐るべき実態

 海上自衛隊の「最高学府」であり、シンクタンクでもある海上自衛隊幹部学校(以下、海幹校*)の「特別講話」にて、驚くべき事実が判明しました。以下に報告します。

<*海上自衛隊幹部学校。略称「海幹校」。詳細は公式HP「概要」欄を参照。「海上自衛隊の最高学府」であり、「上級の部隊指揮官又は上級幕僚としての職務を遂行するに必要な知識及び技能を修得」、また「シンクタンクとして、安全保障政策の立案並びに海上防衛戦略及び防衛構想の策定に寄与し、「戦略」「作戦」「国際法、国内法」「戦史」等に関する調査研究を実施」とある>

 なにはともあれ、まずは海幹校の公式ページ「教育課程>特別講話」にある講師陣とその内容をご覧ください。

◆著名な右派論客が続々登場

 現在、2012年まで遡って閲覧することができますが、一見して目を引くのは、ずらりと並んだ櫻井よしこ氏、門田隆将氏、田中英道氏、平川祐弘氏、竹田恒泰氏、曽野綾子氏など、目がくらむような右派言論人の面々です。

 12年から毎年招聘されている櫻井氏が、小笠原雅弘氏(NEC航空宇宙システム)とともに最多の8回。辻哲夫氏(元厚生省、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授)もこの秋招聘されればこれに並びそうです。

 続いて門田氏と並んで歌舞伎役者の片岡孝太郎氏が6年連続となりますが、片岡氏が12〜17年までなのに対し、門田氏は13年から昨秋までの6回なので、今秋には7年連続となるのかもしれません。

 もっともこのサイトに12年から実施されたすべての「特別講話」が掲載されているのかどうかは不明ですので、「現在のサイトの状況から読み取れる範囲で」という限定つきです。

 講話によっては聴講した学生による簡単なレポートが付されているので、話者の日頃の言動と照らし合わせることで、どのようなことが語られたのかはおおよその見当がつきます。すべてというわけにはいきませんが、いくつか見てみたいと思います。

 内容以前に人物選定のそのものの不適切さを指摘することが本稿の趣旨なので、それぞれの人物像については一言ずつコメントしました。人によっては指摘すべき重要な事実が他にあるのでは?というケースもあるかもしれません。重大な“見落と”があれば対応を検討いたしますので、ご教示いただければ幸いです。

 櫻井よしこ氏については後述するとして、まずは門田隆将氏から見ていきましょう。

 門田氏といえば、5月のトランプ大統領来日時、NHKの相撲中継で全国に放映されたトランプ大統領との握手シーン*は、安倍首相との距離の近さを象徴する場面として記憶に新しいところ。同じく熱烈な安倍支持者として知られる金美齢氏、そしてやはり櫻井氏も含めた3人(実際には同行者は4人)が、来日中の第45代米国大統領・トランプ氏と握手を交わし歓喜する様子が、多くの視聴者を驚かせました。あの握手は、安倍総理の誘導によって実現したものであることを毎日新聞のカメラは見事に捉えていました。

 本人としては「そもそも私は安倍親衛隊ではない。常に是々非々で、安倍政権の大批判もしている」(毎日新聞)という設定のようです。

 しかし、門田氏が「日本の宝」とまで称揚する櫻井氏との関係**に着目すれば、安倍総理との関係もそれほど距離があるとは思えません。

<*トランプ氏握手の作家ら「ご招待」? 桜井よしこ氏ら 「打ち合わせなし」|(毎日新聞)>

<**「櫻井よしこ」は日本の宝 (月刊 WiLL) | オピニオンサイトiRONNA>

 門田氏の18年11月19日の「『新潮4545』休刊騒動が示したマスコミの岐路」は、学生レポートが掲載されています。

〈「言論・表現の自由」について、読者側の「自由な思想空間」が侵されているという、問題の本質をつかれたご指摘は、本校学生・職員にとって非常に啓蒙されるものであり、大変意義深く、得難い機会となりました。〉

 ここでの門田氏の主張はその2ヶ月前に書かれた門田氏のブログ「『新潮45』休刊で失われたのは何か」の内容と重なる内容だったと思われます。

 読者だけでなく作家や出版業界からも非難の声が上がり、雑誌『新潮45』が「休刊」するに至った一連の問題について詳述はしませんが、 ことの発端は、同性カップルを念頭に「『生産性』がない」などと主張した自民党国会議員・杉田水脈氏の寄稿、「LGBTを『ふざけた概念』」としたうえで、LGBTと痴漢を同列に論じ、「性的マイノリティ」に対する無知・無理解、誹謗を重ねた評論家・小川栄太郎氏の論文でした。そして、門田氏もブログで両名をアクロバチックに擁護(ブログに出てくる「杉田美脈」というのは別人なのかもしれませんが)しているわけです。杉田氏についての「安倍系列の政治家」という的確な表現はさすがですが、杉田氏、小川氏、門田氏、すべてひっくるめて「安倍系列」なのでは?思うのは筆者だけではないでしょう。

 また、遡って14年に行われた「朝日報道とジャーナリズムの行方」という「講話」から推測されるのは、年間を通じて、そして今も事あるごとに継続されている右派の猛烈な「朝日新聞バッシング」における言説でしょう。

 この年、「吉田調書」「吉田証言」を巡って繰り広げられた「朝日新聞バッシング」は、もう一つ、ドサクサ紛れに「慰安婦」問題そのものを消し去ろうとする右派の邪悪な動機から放たれたものです。すでに福島第一原発の吉田所長についてのドキュメント小説を書き、「日本を救った男」とまで吉田所長を称揚する門田氏が、「命令に違反」「撤退」などの言葉を用いた朝日新聞のスクープ(14年5月20日)に噛み付いたのも当然の流れでした。ところが、門田氏は原発事故報道の検証記事の中でさえも、「日本を貶めたい朝日」という妄想的な理路から、話題を「慰安婦」報道における「吉田証言」報道とその取り消しの件にまで飛躍させ、朝日新聞の「慰安婦虚報」などとという言葉を用いながら、歴史否認言説を繰り返しすという、実に乱暴な主張を各所で行っています。

 しかし、そもそも歴史研究者たちが証拠としては採用すらしていない「吉田証言」を新聞社が取り下げたところで、史実としての日本軍「慰安婦」制度が消滅するはずもありません。ましてや原発事故調査における「調書」の記事取り消しが歴史問題と全くリンクもしないことは明白なのですが、「朝日さえ貶めれば」という動機が消えない限りは何度でもやり続けるのでしょう。

 次に、田中英道氏は「新しい歴史教科書をつくる会」の元会長。竹田恒泰氏とともに「日本国史学会」(代表理事・田中)の4人の発起人として名前を連ねる人物です。ちなみに残り2名は小堀桂一郎氏、中西輝政氏という右派の“大御所”)。

 20世紀の終末から開始され2000年代に苛烈を極めた「ジェンダー・フリー・バッシング」の論客の一人で、頑迷な「フランクフルト学派陰謀論」*者。昨年刊行された「国際勝共連合」の雑誌『世界思想』のインタビュー「20世紀支配したマルクス主義が家族破壊へ変容」にていまだにその論を展開しているから驚き(!)。

<*フランクフルト大学および同大学社会研究所 (1923設立) に所属する T.アドルノ,M.ホルクハイマー,M.マルクーゼ,J.ハバーマスらを中心メンバーとした一学派「フランクフルト学派」。この学派が右派の嫌う反戦運動、差別撤廃、フェミニスム、ジェンダーなどの”諸悪の根源”とする陰謀論>

◆まるで右派論壇誌の見出しのようなラインナップ

 また、平川祐弘氏は、櫻井よしこ氏が理事長を務める「国家基本問題研究所」の理事及び研究顧問です。「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」で多数派を形成した「保守派」の一人であり、ヒアリングでは「万世一系の世襲の天皇は神道の文化的伝統の中心的継承者」などと発言。第二次安倍政権誕生前に存在した「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の発起人の一人でもあります。また、役員を務める「日本戦略研究フォーラム」(会長・屋山太郎)の内部に作られた「対外発信助成会」の代表として、『慰安婦と戦場の性』(秦郁彦)の英訳出版(2018年)に取り組むなど、「歴史戦」でも“活躍”中。

 さらに、竹田恒泰氏は一般にもよく知られた人物ですが、海幹校に関連して、次の事実を指摘しておきたいところです。

 2016年、竹田恒泰氏の”弟子”として紹介され、また自認もしている竹田塾門下生の吉木誉絵氏が海幹校客員研究員が就任し、その後「内規の特例を使って、吉木の任期を〈2年〉に延長」(参照:自衛隊の危機―なぜ、ネトウヨの浸透を許しているのかー|VICE)がなされ、2018年3月まで同役職に就いていました。特に研究実績もない吉木氏が、「研究員」就任、「特例」としての任期の延長などから考えても、今回の事案と無関係ではないことは明白だと思います。ちなみに、竹田氏の「講話」も吉木氏の任期中に行われたということも興味深い事実です。

 曽野綾子氏の演題は「私のアフリカ体験」とのこと。ここで思い出すべきは15年2月産経新聞掲載のコラムにおいて開陳された曽野氏の人権感覚です*。

 あろうことか、南アフリカでかつて行われていた「アパルトヘイト」を容認したうえ、「日本でも移民を受け入れた上で、居住区を分けた方がいい」などと主張したことは記憶に新しいと思います。当然ながらこの主張に対しては、アフリカ大使館を始め各方面から非難の声**があがりましたが、曽野氏は謝罪も撤回もしていません(ちなみに、曽野氏は、朝日新聞の取材に「「アパルトヘイト称揚してない」などと回答しています***)。いまだに紙面に登場させている朝日新聞(18年10月20日)の見識が疑われます。

<*曽野綾子氏コラムに「アパルトヘイトを賛美し、首相に恥をかかせる」海外メディア報じる|HUFFPOST>

<**曽野氏コラムで南ア駐日大使が本紙に抗議  - 産経ニュース >

<***曽野綾子氏「アパルトヘイト称揚してない」:朝日新聞デジタル >

 ざっと講師を紹介しましたが、右派論壇誌の見出しかどこかの右派団体が主催した講演のようです。問題は、これが自衛隊幹部学校の“教育”の一環として実施されていたということ。まさしく由々しき事態です。

◆改憲運動の象徴的人物が海自の幹部学校で語るという「意味」

 言うまでもなく、櫻井氏は現在の右派運動を語る上では欠かせない最重要人物の一人です。様々なメディアにも露出、その旺盛な言論活動により、改憲や歴史否認という右派のアジェンダ実現に大きく寄与してきました。共同代表を務める「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の幟旗には櫻井氏の顔写真がプリントされていることが示すように、正に改憲運動の象徴と言える人物だということは衆目の一致するところでしょう。

 その櫻井氏が海上自衛隊の幹部を目指す人材に向けて行った「講話」の演題が「令和における日本の安全保障と憲法のあり方」(!)と言うのですから呆れるほかありません。

 海幹校のページには「講話」内容の全ては掲載されていませんが、類似のタイトルが付された6月3日産経新聞配信のコラム*を読めば、中国脅威論を唱え、改憲の必要を訴えるものであったと考えるのが自然ではないでしょうか。

<*【櫻井よしこ 美しき勁き国へ】改憲で令和乗り越えよ|産経新聞>

 同日の学生による短いレポートにも〈継続を続ける中国の台頭を背景に、令和という新しい時代を生きていくにあたり、日本の歴史・文化のルーツに遡りながら、現在我が国が直面する安全保障上の諸問題について、周辺国の最新の地政学的動向を交えた非常に示唆に富む的確なご意見を頂けた〉とある通り、やはり櫻井氏は日頃の主張を繰り返したものと思われます。

 憲法遵守義務は当然のことながら、いや、実力組織の自衛隊員には特に厳しくそのことが求められているはずですが、こんなことが公然としかも長期にわたり続けれているとは、まったく言語道断と言わなくてはなりません。

◆櫻井氏の語る「正しい歴史観」!?

 また、17年5月の「講話」の演題「激動する世界と日本の進路」の学生によるレポートには〈日本だからこそできる国際貢献、正しい歴史観に基づき、日本人の寛容さとその価値観を発信していく重要性をご指摘いただきましたことは、日本人としての誇りを強く再認識させられ、本校学生・職員にとって大変意義深いお話となりました〉などとあります。

 歴史否認派の櫻井氏が言うところの「正しい歴史観」とはなんなのか。その歪んだ「歴史観」を植え付けられた自衛官が考える「国際貢献」がどういったものになるのか。従来の櫻井氏の主張を鑑みるに、たとえば特攻隊という無謀かつ非人道的な作戦を考案した日本海軍幹部の責任を問うことなく、ひたすらその死を美化する*ごとき発言がなされたのではないかとの疑念が拭えません。

<*たとえばこちらのコラム。「命を賭して先人が守った祖国 思いを受けるに足る私たちか」|櫻井よしこ公式サイト>

 もう一度言います。ただの講演会ではないのです。講師が語りかける相手は、命を落とす可能性がある隊員たちに命令を下す立場になるかもしれない未来の”上級の部隊指揮官又は上級幕僚”です。リストアップした講師のような対外強硬論者、日本軍が起こした戦争を美化する歴史否認論者が、自衛隊の幹部学校で累次にわたって「講話」をするということが何をもたらすか。そのことを想像力をもって考えれば問題の深刻さは明らかでしょう。

 後述するようにかつての「田母神問題」(特に「歴史・国家観」講座の問題)の経緯から考えても、人選の時点ですでに「アウト」だと言えますが、櫻井氏・門田氏に限らずすべての講師の講話内容を海幹校は明らかにすべきです。

◆問題化した「田母神問題」の総括も反省も皆無

 櫻井氏に限らず、リストアップした言論人の歴史認識、国家観は、あの「田母神問題」で露呈した航空幕僚長にして元統合幕僚学校校長でもあった田母神俊雄氏のそれと根っこの部分は同じだと言えるでしょう。田母神氏は「歴史・国家観」講座を統合幕僚学校学校に新設、講師は「新しい歴史教科書をつくる会」ゆかりの人物ばかりでした。国会で追及を受けた防衛省は、「歴史・国家観」講座の中止を表明、政府は「極めて遺憾なことと考えており、このようなことが再発することのないよう努めてまいりたい」*と約束したはずでした。しかし「再発」どころか少なくとも12年以降、今度は海上自衛隊幹部学校を舞台に、繰り返し右派的な歴史観・国家観・道徳観の注入が施されていたのです。

 イラク日報問題で露呈したシビリアンコントロールの機能不全、「自衛隊の根拠規定が憲法に明記されるのであれば非常にありがたい」となどと放言しながら何の処罰も受けなかった前統合幕僚長・河野克俊氏(現・防衛省顧問**)、 野党議員に暴言を浴びせた航空自衛官。そしてこの度の海幹校の「特別講話」で施されている右派言論人による幹部教育。「いったい自衛隊はどうなっているのか」「誰のための自衛隊なのか」と思わせる事案が絶えません。

 一方で、「ありがとう自衛隊」キャンペーンを実施しつつ、同時に自衛隊明記の「改憲」を主張する右派運動。そしてその運動の中心あるいは周辺に、ここでピックアップした言論人の存在があります。そうした全体の構図を考えれば、いかに現在の改憲論議が危ういものであるかは明白。やるべきことは先にあります。まず海幹校特別講話の全容解明、そして今度こそは自衛隊のあり方を根本から見直すことが必要なのではないでしょうか。

 メディアによる報道、来る臨時国会での徹底追及を望みます。

<*統合幕僚学校「歴史・国家観」講座の問題については下記を参照。

・自衛隊統幕学校講座で 「つくる会」正副会長が講師

・自衛隊幕僚学校「歴史観」講座を中止

・「政府見解と異なる歴史認識を発表し更迭された前航空幕僚長に対する防衛省の任命責任等に関する質問に対する答弁書」>

<**統幕長「憲法明記ありがたい」発言、菅長官「問題ない」:朝日新聞デジタル、防衛省発令>

※本記事執筆にあたりSNSなどで多くの方に情報提供などご協力いただきました。ありがとうございます。

<文/赤菱耕平>

【赤菱耕平】

右派言論ウォッチャー。「歴史戦」や教科書問題などに関心あり。Twitter IDは@akabishi2

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