北朝鮮製新型ミサイルの画期的性能は日本の防衛に何をもたらすのか?

北朝鮮製新型ミサイルの画期的性能は日本の防衛に何をもたらすのか?

労働新聞より

 前回、北朝鮮(D.P.R.K.)による新型SRBM、NATOコードKN-23の実験によって見えてきた、KN-23の五つの特徴とそれが日本にもたらす影響について概説しました。

 今回具体的に、それらが何をもたらすかについて解説します。

◆1:西日本を射程に納める

 短距離弾道弾(SRBM)は、おおむね射程1000km以内のものを指してきましたが、中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約)によって中距離核戦力(INF)は、「射程500〜5,500km以上の核・通常弾頭を搭載する地上配備の弾道ミサイルおよび巡航ミサイル」とされたため、米ソ両国において以後、SRBMは500km以下の射程とされてきました。

 ロシアのSRBM、9K720(イスカンデル)は、本来700km程度の射程で設計され、INF全廃条約準拠のために射程500km以下にデチューン(性能を下げる処理)されていると考えられています*。また同様に、INF全廃条約による嫌疑をかけられないように、米露両陣営でSRBMの核兵器搭載能力をデチューンによって省いてきました。

<*ロシア、カリーニングラードに弾道ミサイル NATO諸国反発2016年10月09日 AFP:”リトアニアのリナス・リンケビチュス(Linas Linkevicius)外相は8日、 〜中略〜イスカンデルは改良されて最大射程が700キロに延び、カリーニングラードからドイツの首都ベルリン(Berlin)が射程内に入る。同外相は、ロシアは今回の配備によって西側諸国に譲歩を迫る意図があるとの見方を示した”(記事抜粋)。また、自民党および日本政府に強い影響を及ぼしてきているとされる合衆国のCSIS(戦略国際問題研究所)は、KN-23の射程を690kmとし、射程700kmまでの性能を持つ可能性に言及している。(参照:KN-23 | Missile Threat)

 このような兵器の意図的なデチューンは、日本や韓国で多く見られており、戦闘機から爆装を外したり、兵器の射程を大幅に切り詰めたりしています。

 7月25日のKN-23試射では、600kmの飛距離が確認されています。このことは、イスカンデル系SRBMが本来500kmを超える射程を持つことを明確に示したことになります。この現在確認された600kmと言う射程は、元山の南部から島根県と山口県の一部を、金剛山近くに射点をおくと長崎県、佐賀県、福岡県、山口県、広島県、島根県を圏内に含みます。

◆2:迎撃不可能である

 前回示したように、KN-23はミッドコース迎撃兵器であるSM-3とターミナルフェーズ高層迎撃兵器であるTHAADでは原理的に迎撃できません。これは原型となったロシアのSRBM、9K720(イスカンデル)が、合衆国式の弾道弾防衛システムの裏をかくように設計されているためと言えます。結果、現在自衛隊および在日米軍が配備する弾道弾迎撃兵器でKN-23を迎撃可能なのはペトリオットPAC-3のみで、これは古いScadなどのSRBM迎撃には有効とされますが、燃焼終了時の最大速度*が音速の6〜7倍とされるイスカンデル系SRBMの迎撃はきわめて難しくなります。また、イスカンデル系SRBMは、目標直上でPAC-3の射高外ないし射程外から垂直落下するとされており、終末速度の速さとあわせてPAC-3にとって迎撃はさらに難しくなるとされます。

<*このときの運動エネルギーと位置エネルギーが終末速度を定めるが、空気摩擦などによる損失もある>

 そもそもPAC-3は、拠点防空兵器であって射程距離は20km程度しかありません。

 現在、新型の汎用艦対空誘導弾であるSM-6に弾道弾迎撃能力を付加する開発が進められていますが、日本における弾道弾防衛での戦力化は未定です。また、イスカンデル系SRBMには迎撃を回避するMaRV(機動再突入体)能力だけでなく対迎撃妨害能力があるとされます。

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◆3:命中精度がきわめて高い

 イスカンデル系SRBMの性能を引き継ぐとされるKN-23は、命中精度をしめす半数必中界(CEP:半数が着弾する半径、例えば10発撃てば5発がCEP内に着弾する)が、5〜7mと精密誘導巡航ミサイル並みの極めて優れた値とされています。

 ここまでCEPが小さくなると、核弾頭によって広範囲を破壊するのではなく、500kgの通常弾頭や特殊弾頭で目標を狙い撃ちするという運用方法に変えられます。核を使いませんので、報復核攻撃の可能性が大幅に下がり、たいへんに使いやすい兵器と言えます。また、「こうかばつぐん」な精密攻撃により目標を確実に破壊できます。

◆4:ハードターゲットでも余裕で破壊できる

 我々の身の回りでハードターゲット(警備や警戒が厳重なために攻撃が困難な人や場所)となり得るきわめて頑丈な建物として代表的なものは、PWR(加圧水型)の大型原子炉です。幸いなことに合衆国原子力規制委員会(NRC)は、現存の商用大型原子炉へ航空機が突入した場合を想定した報告を公開しています*。

<* NUREG/CR-5042 UCID-21223 Evaluation of External Hazards to Nuclear Power Plants in the United StatesC. Y. Kimura, R. J. Budnitz 1987/11 U.S.NRC (要約版)執筆にはこちらを用いている。全文は、ローレンス・リバモア国立研究所からのフルテキストとして同じくNRCで公開されている>

 難しいことはすべて省略しますが、この報告のなかで最後の方に掲載されているTable 6.4.2の中の数字を使います。この表は、突入する航空機の質量と鉄筋コンクリート(RC)の厚さ、突入物のコンクリートへの侵入深さの割合(侵入深さを鉄筋コンクリートの厚さで割ったもので、1.0で貫通を意味する)を示しています。

 航空機の機体は生卵のようなもので、目標に衝突しても自身が押しつぶされて四散してしまい、運動エネルギーを目標の破壊に使えません。日本のKamikaze Attackがガソリン火災の派手さの割に大型艦艇には、たいした損害を与えられなかった理由がこれです*。

<*陸軍特別攻撃隊1 高木俊朗1986年08月25日 文春文庫などで厳しく批判されている。爆弾としても衝突速度が遅いために装甲で跳ね返されてしまった>

 従って、シミュレーションでは、エンジンの突入で近似計算されています。これは現在も使われている手法です。ここでは航空機エンジンの代わりに500kgの弾頭とその速度でおきかえることします。

 最も保守的な見積もり(最大限壊れにくい方に傾けた見積もり)では、約2tのエンジンが約1000km/hで突入した場合、厚さ1.8mの鉄筋コンクリートに約60cm侵入して制止されることになります。

 KN-23は、弾頭500kg、終末速度が最大で7,200〜8,400kmとされています。運動エネルギーは質量に比例、速度の自乗に比例しますので運動エネルギーは想定された大型航空機の12〜28倍となります。仮に弾頭質量を250kgに減じた場合は、運動エネルギーは、想定された大型航空機の6〜14倍となります。

 ここで粗い近似となりますが、侵入深さは運動エネルギーに比例すると仮定します。

 厚さ1.8mの鉄筋コンクリートは、弾頭質量500kgの場合も250kgの場合でも弾頭によってそれぞれ4〜9倍、2〜4.5倍の余裕度で貫通され、内部への侵入を許します。また、計算上音速の5倍でもすべての場合で貫通され、音速の4倍でも殆どの場合貫通されます*。

<*音速の四倍では、軽量弾頭の場合に限りコンクリートの厚み90%強の侵入深さで制止され、ここで弾頭が炸裂する>

 さて、現実の大型原子炉はどうでしょうか。ここで大飯原子力発電所3,4号炉についての論文*が使えます。

<*大飯原子力発電所3・4号機PCCVにおけるコンクリート工事|山本 貢, 瀬戸川 葆, 木村 稔|コンクリート工学, 1991 年 29 巻 2 号 p. 27-40>

 これによると大飯原子力発電所3,4号炉の格納容器は、外径45.6m、高さ65.6m、胴部が厚さ1.3m、ドーム部が厚さ1.1mのプレストレスト・コンクリートであり、更に内側を厚さ6.4mmのライナープレート(金属板)で内張りされています。

 鉄筋コンクリート(RC)とプレストレスト・コンクリート(PC)の違いはありますが、1.8mの厚さのRCを2〜9倍の余裕度で貫通するKN-23は、1.1mのPCを余裕で貫通すると考えて良いでしょう*。

<*改標2型PWRのPCCVには、密度のたいへんに高いコンクリートが使われている。従って、運動エネルギーが小さい軽量弾頭には持ちこたえる可能性はある>

 格納容器が貫通されると、内部で500kgまたは250kgの弾頭が炸裂し、格納容器内部を破壊されます。原子炉は、運転中に格納容器内部で数百キロの高性能爆薬が爆発することなど全く想定していませんので、100〜300kgの高性能爆薬の内部爆発には耐えられません。原子炉は、想定を遙かに超えたきわめて甚大な打撃を受けることとなります。

 大飯3,4と、同型の玄海3,4は、第二世代原子炉としてもたいへんによく出来た優れた原子炉ですが、双発大型航空機の突入には、燃料火災を除き耐えられると思われるものの、弾道弾の直撃では打ち抜かれ、破壊されます。

 私は常に指摘していますが、原子力の商用利用には、絶対的かつ恒久的平和が必須なのです。

 およそ考え得る限り最も丈夫な第二次改良標準化PWRの格納容器が貫通されるような弾道弾頭には、天蓋がRCで20mの厚さを持つ地下要塞でも作らない限り耐えられません。もちろんですが、イージス・アショアは、それ自身が弾道弾攻撃されることを想定しているとは言いがたく、レーダー建屋も指揮管制建屋もブリキ缶のように打ち抜かれることになります。そもそもレーダーは地上に露出するほかありません。

 欧州イージス・アショアは、仮想的とするイランの射点から2,500km以上離れていますので、KN-23のような迎撃不能でピンポイント攻撃して来るものはありません。しかし萩イージス・アショアは、西部劇でガンマンが射撃訓練に使う空き瓶のようなものです。

◆5:飛来時間が短い

 SRBMは、名の通り近距離から撃たれますので、飛来時間は8分未満であり、「探知」、「追跡」、「軌道分析」、「脅威判定」、「意志決定」、「命令」、「命令伝達」、「迎撃」というプロセスに使える時間がたいへんに短いのです。MRBMですと10分前後、IRBMですと15分程度、ICBMで20〜50分程度とされ、対応時間は長くなります。

 イスカンデル系であるKN-23の場合、SRBMとしてはたいへんに高速となるM6〜7の速度とされますが、仮に速度をM5〜6程度と保守的に見積もっても飛来時間は5〜6分前後となります。

 2016年11月23日に発効した日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)が機能していた一昨年の事例で、Jアラート(全国瞬時警報システム)によるミサイル警報は、発令までに4〜5分ほどを要していますので、仮にJアラートを発令してもそれは着弾とほぼ同時かその後となり、あまり役に立ちません。しかも安倍・河野外交の稚拙な大失敗により、GSOMIAは発効後わずか5年でまもなく失効する見込みです。このことについては後日筆を改めて論説する予定です。

 このことは、迎撃の難しさも示しています。

 現在からこの先当分の間、KN-23を迎撃できる可能性があるのは点の防御を担うPAC-3のみですが、迎撃命令が的確に届き、迎撃できるかは分かりません。また、PAC-3でのKN-23の迎撃はこれから配備が進む改良型を持ってしてもきわめて難しいとされています。そして例えばSM-6の弾道弾迎撃機能の開発と配備が進行したとしてもKN-23には迎撃妨害能力などの未確認の機能や発展余裕があります。

 弾道弾防衛においては常に日進月歩の競争となりますが、この競争は攻撃側が圧倒的に有利かつ安価であることがまさに目の前で展開されています。しかも、攻撃側が常に先んじているのが現状です。

◆この回の終わりに

 今回、実際に弾道弾の着弾が及ぼす効果を、比較的情報開示がなされている原子炉を一例として解説しました。これによって、軍民を問わずKN-23の直撃に耐えられる建造物はないことが明らかになったと思われます。そしてKN-23の驚異的な命中精度によって個別目標の狙い撃ちを現実のものとしており、90年代の時代遅れの情報を元に「北朝鮮のミサイルなんてあたらないぜギャハハハハ。」というレイシズム(人種・民族差別主義)をその根本に持った見当違いの幼稚な発言が否定されたと考えます。

 次回は、GSOMIA失効問題を含めて、安倍・河野外交の失敗が日本の弾道弾防衛に及ぼす影響について概説したいと思います。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』ミサイル防衛とイージス・アショア14

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<文/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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