日米地位協定の闇。米軍基地の「日本人警備員」の知られざる実態

日米地位協定の闇。米軍基地の「日本人警備員」の知られざる実態

写真/Shutterstock

 警察官や自衛官など公務員以外で、日常的に銃に接する人がいる。在日米軍基地の警備にあたる日本人の基地従業員だ。彼らの証言から日米地位協定によって強いられる危険で不条理な労働の実態が浮かび上がった!

◆兵士でもないのに爆弾のテストにも立ち会わされる

 5月に驚くべきニュースが列島を騒がせた。長崎県佐世保市の米海軍佐世保基地に勤務する日本人警備員が拳銃を携行したまま基地外の市道に出ていたことが判明したのだ。この日本人警備員は日米地位協定や銃刀法に違反するとして反対したというが、米軍は指示に従うよう強制。事態を知った防衛省も事前に基地に対して中止要請を出したが米軍側は無視した。

 言うまでもなく、日本で銃の所持が認められるのは警察官や自衛官など取り締まり当局に所属するごくわずかな者に限られるはずだ。米軍基地の日本人警備員とはいったい、どんな職業なのか。かつて沖縄の米軍基地で勤務していた元警備員のA氏(80代)は言う。

「こちらでは『ガード』と言うのですが、正式名称は『Japanese Security Guards』で基地従業員です。基地従業員の雇用形態は大きく3つに分かれ、物資の基地間移動や建物のメンテナンスなどを担当する『MLC』、軍人・軍属向けサービス業に従事する『IHA』、船員として働く『MC』です。ガードはMLCに該当します。米軍基地の警備という任務自体、極度の緊張を強いられますが、拳銃の所持を強いられるのも精神的なプレッシャーになる。精神的に病んで職場を去る人も多いですね」

 日本にある米軍基地の約7割が集中し、基地で雇用される機会の多い沖縄では働き口のひとつとして広く知られているという。

「ベトナム戦争が激化した’60年代には、キャンプ内の射撃場で何百丁もの銃を試し撃ちし、銃の“癖”をチェックしたこともある。爆弾を落下傘に装着した兵器があり、ちょうど地上10mで爆発するよう、米兵がテストするのですが、そのときも立ち会いをさせられた。危険と隣り合わせの仕事でした」

 実弾を込めた銃を持たされたA氏に米軍人の上司は「逃げようとする者は、構わず撃っていい」と厳命していたという。

◆アメリカ人教官に裸にさせられて模擬銃で警備員同士が撃ち合い

 ’00年前後に沖縄の米軍基地に勤務していたB氏(50代)は「守秘義務があるので多くは語れないが」とした上でこう証言する。

「ちょうど9・11があった頃で、イスラム過激派によるテロの脅威が高まっていた時期でした。その頃は拳銃ではなく、陸軍施設のガードはショットガンを装備していました。不審者の侵入などの緊急事態に備えた射撃訓練もありました。訓練では『一発で仕留めろ』と言われ、相手の脚や手ではなく、頭を狙うように教えられましたね。訓練を指導する米国人教官のなかには頭のおかしな人もいて、ガード同士を裸にした状態で模擬銃で撃ち合いをさせたり、身体検査と称して裸にさせられたこともありました」

 日本人警備員の労働環境はきわめて“ブラック”なようだが、給与に関しては「沖縄では平均より少し高いくらい」(B氏)だとか。沖縄の基地の元日本人基地従業員は言う。

「ガードの初任給は16万〜17万円ほど。沖縄の大卒初任給の平均が約18万円なので、それほど好待遇とは思えない。しかし、準公務員扱いなので景気に左右される心配はなく、勤続15年ほどで月給30万円になり、管理職ともなると40万円を超える。さらに年間で約4.5か月分のボーナスも支給される。中小企業が多く、安定的な昇給が見込みにくい沖縄では、魅力的な就職先であることは間違いないですよ」

 ちなみにガードになるには主に2つのルートがあり、ひとつは基地従業員の別の職種から転職するケース。もうひとつは、基地従業員専門の「ハローワーク」のような組織である独立行政法人・駐留軍等労働者労務管理機構(エルモ)を通じて求人情報を得る方法だ。

◆完食したピザの返金を求める米兵

 日本国内にいながら取締官でもないのに拳銃を携行する――日米地位協定が生んだこの超法規的存在が佐世保基地の事件でようやく白日の下に晒されたかっこうだが、全駐労長崎地区本部書記長の渡邊秀与氏はこう明かす。

「事件はいわば米軍側の『確信犯』。実は4月にも日本人警備員が銃を携行して基地外に出るように指示を受けていたんですが、このときは警備員が指示を固辞した。指示は米軍人の警備隊長の日本政府に対する挑発行為にほかなりません。昨年9月に警備隊長に就任した人物は、私の印象ではかなり日本人に対して差別意識を持っている。米軍のスタンダードを、日本の習慣や法律を無視して押しつけています。警備隊長による日本人警備隊員へのさまざまなパワハラ行為も報告されています」

 米軍基地という空間では極めて特殊な光景が広がっている。基地従業員は常にその不条理と対峙している。サービス業に従事する基地従業員の女性はこう憤る。

「米兵のクレーマーは多く、横暴さには辟易しますね。完食したピザを『まずかった』と全額返金を要求してきたり、履きつぶして穴が開いた靴を『サイズが合わなかった』と返品する者もいた。『自分たちは一等国民だ』ぐらいに思ってるんじゃないですか」

◆植民地意識と不平等な地位協定が醸す差別

 米軍を監視する市民団体「リムピース」の頼和太郎氏は言う。

「駐留米国軍人は、個人レベルでも日本に対する植民地意識、不平等な地位協定から醸し出される優越感があるのでしょう。全国の駐留米兵が、基地の外で交通事故や罪を犯したにもかかわらず、日本の法律で裁かれずに帰国したという事例は枚挙にいとまがない」

 米国とのいびつな同盟関係が、在日米軍基地を事実上の“治外法権”にしているとの声も根強い。沖縄国際大学大学院の前泊博盛教授はこう解説する。

「日本では米軍基地に日本の国内法が適用されないとこが問題の根源です。ドイツやイタリア、英国などNATO地位協定では米軍基地にも原則、国内法が適用されます。しかも基地内に管理者が常駐する国もあり、管理権として基地内の立ち入り権も確保されているんです。NATOのような多国間安保なら組合方式で加盟国が協力してアメリカと交渉できる。しかし、2国間同盟の日米安保はアメリカに文句が言えない。日本が主権国家でなくアメリカの属国といわれるゆえんです」

 理不尽な労働を強いられるガードや基地従業員の姿は、米国に隷属する日本という国の悲しい現実を映し出している。

◆観光客急増で崩れる沖縄の「基地依存」

 日本には、東京の横田基地や山口の岩国基地など131の米軍施設・区域がある。うち33が沖縄県にあり、米軍専用施設に限ると、その割合は約70%に及ぶ。本土よりも米軍基地が身近な存在であるだけに「基地経済」への依存度の高さはたびたび指摘されてきた。しかし、最近では「基地経済ありき」という定説は崩れつつある。

「観光客数は昨年度に999万人を超え、6年連続で過去最多を更新。県内路線価も今年、2年連続で日本一の伸び率を記録して好況が続いている。経済規模は拡大し続けており、基地依存は薄らいでいる。むしろ成長を妨げる悪要因になりつつある」(地元紙記者)

 ’60〜’70年代にかけてベトナム戦争の特需に沸いた歓楽街も時代の流れを象徴する場所だ。

「中心地のコザゲート通りの商店街は昼間でもシャッターが閉じられ、人通りもまばら。基地内に土地を持つ一部商店主が借地料でなんとか食っている状態」(同)

「基地依存」はもうそこにない。

<取材・文・撮影/安藤海南男 奥窪優木 写真/時事通信社 Shutterstock>

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