「関西電力被害者論」の論理破綻と、それらを喧伝する人々による人権侵害の悪辣さ

「関西電力被害者論」の論理破綻と、それらを喧伝する人々による人権侵害の悪辣さ

記者会見で質問を受ける関西電力の八木誠会長(左から2人目)と岩根茂樹社長(同3人目)ら=2日、大阪市福島区 (時事通信社)

◆またぞろ飛び交い始めた「関西電力被害者論」

 前回、関西電力資金還流事件について高浜発電所における異常な過剰投資、投資回収が不可能と言うほかない無謀な投資について論じました。

 2回目は、美浜発電所における同様な異常性を論ずる予定でしたが、第一回を校了した後に、元助役の関連会社が稲田朋美代議士(自民党・福井一区)や高木毅代議士(自民党・福井二区)と資金的、人的に密接な関係があることが報じられる*とほぼ同時に、「関西電力被害者論」がSNSやブログ等で大量に流布されるようになりました。

<* 関電に金品の元助役株主の会社、稲田氏側に36万円寄付2019/10/04 朝日新聞、関電3億2千万円“裏金” 元助役の関連会社が稲田朋美元防衛相ら自民党議員に献金 後援会長も2019/10/03週刊朝日>

 これらの「発信源」の中には、大規模にポータルサイトやニュースアプリに配信しているものもあり、ほぼ一年前に私に対して誹謗中傷を行い、徹底的に「かみくだく」逆襲を受けて逃げ去ったものを掲載したサイトもあります。この手の人たちや組織は、嘘や誹謗中傷を流布し、放置して逃げること、即ちマーキングが目的ですので、事実がどうであるかはどうでも良いという連中です。

 これは「森友問題」が安倍晋三氏、大阪維新に及ぶと流布された「安倍被害者論」と酷似しており、しかも「森友問題」では全くの事実無根のでたらめで「陰謀論」の類いでした。

 政治業者や財界人が苦しくなると現れる「◎◎被害者論」、今回はいかなるものでしょうか。

◆悪辣な人権侵害とともに語られる「関西電力被害者論」

 今回現れた「高浜発電所資金還流事件関西電力被害者論」をここでは「関西電力被害者論」と呼称します。今回の事件で、関電幹部への資金還流を行った故森山榮治氏は、高浜町の助役を長年勤めており、高浜発電所の建設・増設、プルサーマルなどの実現に絶大な貢献があり、関西電力では、「それ*から頭が上がらない恩人だ」など、関西電力原子力事業の大恩人という扱いをしてきました。また森山氏が高浜町取締役を退職した1987年から2018年の間、関電100%出資グループ企業である関電プラント(関電興業)の非常勤顧問でした。関電プラントは、関電グループ中堅の子会社で送配電設備の土木・建築事業を担当していましたが、2004年からは各発電所のメンテナンスを担当しています。

<*1985年高浜3,4号炉運開を指す。/参照記事”影響40年 恩人の呪縛 原発旗振り役から「リスク」に 関電金品受領2019/10/03東京新聞”>

 NHK福井放送局が報じるところ*によると、福井県内では森山氏と関西電力の蜜月関係は常識であり、自民党福井県議である田中宏典氏(高浜町) によれば「原発を誘致するころから色々な関わりがあった人で、行政職員として原子力政策に貢献してきた。今ほど原発に対する風当たりが厳しい時代ではなかったが、立地をめぐって住民からの要望も多く苦労したと思う」と言うことです。

 同じくNHK福井の報じるところでは、福井県議会議長、副議長を歴任した自民党福井県議である石川与三吉氏(敦賀市) によれば、「『関西電力は森山元助役のおかげで大きくなった』というぐらいのことは言っても良いと思う。根性が通った人で、関西電力は森山氏の前を通らずにいられなかったと思う」とのことです。

<* 高浜町元助役 森山栄治氏とは2019/09/27 NHK福井県 (リンク切れ/WEBアーカイブ)>

 これらは、原子力発電所の立地、運転に関心を持つ人間にとっては、全くの常識である、立地自治体の有力者と原子力電力事業体の典型的な属人的関係と言えます。

 さて既述のように関電資金還流疑惑が自民党国会議員にまで及んだ頃からSNSやブログに毛が生えたような類のサイト等で実名、匿名を問わず大量に流布されている「関電被害者論」ですが、著名ブログからアングラブログ、安倍自公政権支持者(ネトサポ)の匿名ブログなど原典価値の無いものが大部分です。

 巷にあふれる「関西電力被害者論」の基本論旨は、次のようなものです。

1)森山氏は「地域の最有力者」であり利権者であった

2)故に関西電力は森山氏の利権を拒絶できなかった

3)関西電力経営陣、社員は森山氏に頭が上がらなかった

4)森山氏が関電経営陣、社員に数億円を贈与した行為は、森山氏の利権である

5)関電無罪(関電は被害者)

 またこれらの理屈を裏付けるものと称して次のような根拠が例示されました。

a)高浜発電所立地においてある部落(集落のこと)が立ち退きになりそれが、森山氏の利権の源であった

b)森山氏の居住する集落(または関係する集落)が、高浜発電所への主要道路にあり、森山氏にたてつけば交通遮断された

 膨大に流布される関電被害者論怪情報の論旨は、これらに集約されると思われます。

 まず基本論旨1)から5)ですが、このなかの3)から4)の間に典型的な論理飛躍があります。私にはどう考えても仮に森山氏が関電に対して圧倒的な優位に立てる「利権」があったとしても、それによって一地方の名士(地域ボス)が億単位の金品を長年関電幹部に贈与する理由になりません。

 そして、それらの根拠としてしめされたa)とb)については、高浜発電所の立地の経緯と建設から運開、増設と今までに至る経緯を調べればすべて誤りだと分かりますが、これらについては日を改めて解説します。

 利権とは、裏付けのないお金や便宜が利権者に大規模に流れるものであって、利権者が億単位のお金を配って回るものではありません。この論理「関電被害者論」では、まるでパシリ中学生が焼きそばパンを自分のお金で買って配って回るのを「パシリの利権」と称する行為となり、論理が完全に逆転し破綻しています。

 この完全に倒立してしまっている理屈になっていない理屈を正当化するとして決まって持ち出されてきたのが「森山氏が部落解放同盟(解放同盟)の地域幹部であり、森山氏から関西電力経営者、社員への億単位に上る資金贈与は同和利権である」というものです。

 あろうことかこのような粗雑な論に、エエ歳こいた大学教員、ジャーナリスト、メディア人士、政治業者が飛びつきました。曰く、「関電は同和の被害者」、「関電問題は同和がらみ」というものです。

 これは論理が転倒している以前に、きわめて典型的且つ悪質な人権侵害であり、差別です。しかも彼らは、自らの完全に矛盾し、破綻している「関電被害者論」を裏付けるためにこのような人権侵害を衆人環視のもとで行っています。絶対に許されないことです。

 繰り返しますが「関電被害者論」は、きわめて重大な差別言論の上に成り立っています。きわめて悪辣であり、絶対に許されないことです。私は彼らを渾身の怒りを込めて「差別主義者」と糾弾します。

 そしてここで、部落解放同盟中央本部が2019/10/07付けで発表した声明とえせ同和行為への声明をご紹介します。(サイトへの掲載はおそらく2019/10/08と思われる)

◆福井県高浜町元助役から関西電力幹部への金品受領問題に関する部落解放同盟中央本部のコメント 部落解放同盟中央本部

◆「えせ同和」行為の排除に向けて 部落解放同盟中央本部1998/08/24

 この「関電被害者論」への反論は、慎重に行わなければ二次加害になる可能性があり、きわめて慎重に行わねばなりません。著者は、この一週間、蔓延る嘘と差別言論への反論を幾度も幾度も書いては書き直しの連続でしたが、部落解放同盟からの声明がなければきわめて難しいものでたいへんに苦悩してきました。

 今回の部落解放同盟中央本部の声明発表については、その勇気と使命感を賞賛します。

◆関電被害者論の根拠文献とされた「前衛」掲載の論文

 さてここで、彼ら関電被害者論者達が根拠文献として提示、紹介、照会してきた短冊のような切り抜き(羊羹コピペ)と、7割近くモザイクがかけられている切り抜き(モザイクコピペ)をご紹介します。

 このコピペの原典は「原発のある風景」という記事で、「『赤旗』記者告発ルポ」として日本共産党の機関誌「前衛」に長期連載された傑作ルポルタージュです。『原発のある風景(上)(下) 』(柴野徹夫著)として83年に未来社から出版されています。この本はたいへんに有名なもので、古いながらもきわめて資料価値が高いものです。今日でも大学図書館、公立図書館に多く収蔵されています。

 実は筆者は、この『前衛』に掲載された当該記事を確認するためにHBOL編集部を介して文献複写で取り寄せ、航空写真、原子力学会や土木系学会、建築系学会の論文と徹底的に照合していたのですが、その過程で1983年に高校の図書館で単行本を読んでいたことを思い出しました。

 筆者は知りませんでしたが、この「原発のある風景」は、原子力問題界隈では「神本」という評価もあり、この下巻でスッパ抜かれている「関西広域原発極秘計画」は、すべての新規原子力発電所立地計画が露見する切っ掛けとなり、その後すべての立地計画が失敗するなど、伝説の域にあるそうです。

 当時の原子力推進超強行派少年(筆者のこと)の目には映らなかったことです。そして今回、美浜発電所と高浜発電所に関する工事についての箇所を様々な学術論文や航空・衛星写真、資料と共に精査すると、こと発電所の歴史としてはきわめて良く取材されていると評価できます。

 このモザイクコピペと羊羹コピペで森山氏の出自を暴き、「関西電力被害者論」の論拠とされていますが、とんでもないことです。

 このルポルタージュは、前半が美浜町と美浜発電所、後半が高浜町と高浜発電所について書かれています。高浜町については、pp.223-235と半分以上が割り振られています。

 モザイクコピペは、高浜町についての記述が始まって、4ページ目に該当します。ここで、モザイクコピペも直前の記述を提示します。

 モザイクコピペは、この引用箇所に直接つながります。要するに、モザイクコピペの中見出しは「関電直結の暴力行政」であり、小見出しは「初の共産党町議」なのです。

 更に、高浜町の部分pp.223-235についてすべての見出しを列挙します。小見出しを(括弧)にいれます。

高浜町―関電協力金九億円の怪(掌の文字)(潮騒)

関電直結の暴力町政(初の共産党町議)(生けにえ)(土下座)

仕組まれたワナ−瀬追い落とし劇(押し問答)(糾弾のワナ)

乱脈・腐敗行政を告発する共産党町議(「新たかはま」)(選挙の怪)

明るみに出た悪事―三事件の概要(支配の黙示録)(錬金術)(焼身自殺)(国有地奪取)(農協の不正融資)

 このルポは、関西電力が町長はじめ地域ボスを資金と便宜を用いて完全に取り込み、町長などの町の幹部が町政を私物化する、そのうえでの暴力装置として地域ボスが動いているという文脈であって、「関西電力は被害者」であるという論拠には使えません。

◆まったく根拠がない「関電被害者論」

「関電被害者論」の論拠となるのは、地域ボスであった故人の出自以外何もありません。従って、「関電被害者論者」は、故人の出自のみをもとに、「関西電力は、故人の出自による利権、「同和利権」の被害者である。」と無根拠で広言していることになります。証拠が提示できない以上、これは明確かつ典型的な差別言論です。

「関電被害者論」には根拠がないのです。

 当時の町長や故人である元助役やの権力の源泉は、お金と便宜です。そしてそれらは、関西電力からの莫大な資金と便宜供与によるものであり、それによって高浜町は関西電力により支配されていたというのが『前衛』1982年8月号掲載の「原発のある風景(3) 病める町政 柴野徹夫」の論旨です。

 この、電力会社だけでなく大企業、国などによる首長や地域ボスの取り込みと便宜供与、地域ボスを代行者(歯止め無き暴力装置)とした暴力的な地域支配は、原子力・核施設立地点、計画地点、米軍基地、四大公害を代表とする公害問題などでは、失敗を含めかならずと言って良いほど見られるものです。

 これらは常識的には寄付や、随意契約や官製談合による水増し発注などによりおこなわれ裏金が創られます。さらには顧問や相談役としての地位提供も使われます。これは開発独裁国における腐敗の典型事例と共通です。

 地域ボスは、得た裏金や便宜からキックバックを提供します。裏金が数十億円規模になればキックバックは億単位になります。そして、キックバックはさらなる裏金になります。地域ボスにとってキックバックは、将来切り捨てられ、裏切られる事への抑止と言う意味も持ちます。

 資金還流にあたっては、領収書のないお金だけでなく、美術品、貴金属、商品券、外貨など足の付きにくいものが用いられますが、その代表的なものが小判や金貨、スーツ仕立券*、ドル紙幣であることは常識と言って良いです。今回話題となった小判は、金地金と違い刻印、地金番号が無いために足が付きにくく、金の含有率が高い(亨保小判では約87%、万延小判ですら57%)ために換金性、流通性に優れます。

<*贈収賄の「定番」スーツ券なぜ今回も使われた? 関電金品受領2019/10/04 毎日新聞>

 従って、このような資金還流構造は、関係を白日の下にさらして完全に絶ちきるまで半永久的に継続するものです。

 直截な表現をすれば、この資金還流は民間の場合、「特別背任」に該当する可能性が高いです。こういった関係が数十年続けば、企業の腐敗は上から下へと拡大します。今回、関電社員への金銭授受も報じられていますが、これは「背任」の可能性があり、きわめて深刻です*。

<*関電・原発マネー:/上(その2止) 金品まみれ、倫理まひ 元助役と相互依存深め2019/10/07 毎日新聞>

 今回露見した高浜原子力発電所を中心とした関電役員・社員を対象とした資金還流事件は、典型的且つきわめて大規模な特別背任、背任を疑うのが順当なものの見方です。

 これを「故人である地域ボスが、関電役員・社員へ金品供与するという”利権”であり、関電は被害者」という理屈は、全く成り立ちません。この屁理屈を正当化する道具として、故人の出自暴きを利用しているわけで、きわめて悪質で幼稚な差別言論と断ずることが出来ます。しかも「死人に口なし」を良いことにやりたい放題です。

 そもそも故人の出自を暴いたところで、屁理屈は屁理屈でしかありません。

◆きわめて悪質な引用者

 ここまでで述べてきた様に、自民党所属議員に疑惑が及びはじめた頃から「関電被害者論」は蔓延しはじめています。

 さきに提示したモザイクコピペは、2ページのうち65%にモザイクをかけるという不自然なものです。そのうえ「関電直結の暴力町政(初の共産党町議)(生けにえ)(土下座)仕組まれたワナー一瀬追い落とし劇(押し問答)」という見出しの箇所を趣旨と全く正反対の「関電被害者論」の論拠と主張しています。これはきわめて悪質な改竄にあたります。

 その一方で、羊羹コピペにせよモザイクコピペにせよ、前衛82年8月号と不完全ながら原典指定がなされています。

 この「関電被害者論」を無批判に流布した大学教員、ジャーナリスト、メディア人士は、大学図書館、公共図書館、大宅壮一文庫などの私設図書館から取り寄せれば簡単に原文を読むことができます。原文を読むことは、このような人権が深く関わる事柄では必須というのが私が学究生活で得てきたことです。

 なぜこのような簡単かつ必須の手順を取ることなく無批判に多くの人間の人権を踏みにじる行為をするのか、私には全く分かりません。しかもこれらの人々の中には、日常的に「◎◎差別」という言論を対抗言論を抑圧するための武器として無根拠で流布する人が多く見られる事も今回の特徴です。

 また、少なくとも高等教育の経験があるか、差別問題に若干でも造詣のある人ならば、「前衛」の60年代から80年代にかけての記事は、被差別部落問題に関しては要注意であることは常識です。共産党と部落解放同盟は激烈な対立関係にあったため、この件に関しての論調には、きわめて強いバイアスがかかることは絶対に忘れてはいけないことです。

 「原発のある風景」は、優れたルポルタージュであり、「神本」と評されることすらありますが、80年代初頭の共産党機関誌「前衛」掲載記事であることも忘れてはいけないのです。前衛や赤旗は、きわめて優れた調査能力がある一方で、党派性も論調に強く影響しています。その党派性はきっちり見極めねばいけません。

 関西電力大規模資金還流事件は、関西電力だけでなく地方政界、そしてついには中央政界、世耕弘成前経産相(現自民党参院幹事長)という原子力行政のど真ん中にまで波及していることを米系外電までが報じています*。腐敗した事業体と行政には原子力安全を担保する能力は全くありません。この事件を全く論外な屁理屈ではぐらかそうとする人たち、勢力が跳梁跋扈していますが、私はそれを絶対に許しません。

<*元助役雇用の会社社長が世耕氏側に600万円献金、関電の取引先−2019/10/09 共同 ? Bloomberg>

◆『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』〜緊急特集・関西電力資金還流問題編2

<取材・文/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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