相次ぐヤジの排除で危機に瀕する表現の自由<短期集中連載・政治家ヤジられTIMELINE・Part3>

相次ぐヤジの排除で危機に瀕する表現の自由<短期集中連載・政治家ヤジられTIMELINE・Part3>

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◆政治家への「ヤジ」排除はヤバすぎる!

こんにちは。学生ジャーナリストの日下部です。周りの人たちからは「ひもっち」と呼ばれています。

 今年の7月15日、札幌で行われた安倍首相の街頭演説において、「安倍やめろ」「増税反対」とヤジを飛ばした聴衆2人が、警察官によって排除される事件が起こりました。とても恐ろしい世の中になってしまったと思うと同時に、この事件に関する報道の多くが、法律論に終始し、事の重大さがあまり伝わっていないとも思いました。

 そこで今回は、表現の自由が危機に瀕しているという現実を、もっと多くの人に、もっと分かりやすく伝えるために、過去と今を比較し、現在の異常さを可視化していきます。今回はPart3、10年代から現在までです。

 日本で初めて選挙が行われた1890年から現在までの129年間に、政治家の演説中に国民が飛ばしたヤジを紹介していきます。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞のデータベースで、『ヤジ 排除』『演説 ヤジ』などと検索しヒットした1707件の記事から、立会演説会や街頭演説でのヤジを本記事では取り上げています。

◆2010年7月7日『民主党 蓮舫氏』

【時代解説】2009年7月の選挙で民主党が過半数を獲得し、政権交代が起き、民主党の鳩山由紀夫が総理大臣に。予算の無駄を明らかにするために、事業の可否を判断する事業仕分けを行った。仕分け人の蓮舫氏は「2位じゃだめなんでしょうか」で一躍話題に。

蓮舫「皆さん、私たちは『天下り』『渡り』は許しません。仕分けをもっとさせてくださーーい。いかがでしょうか?」

ヤジ「お前ら民主党が官僚に取り込まれているじゃん」

<出典:参院選・五番勝負、悲喜こもごも 2010年7月23日 週刊朝日>

 民主党は、自分たちも事業仕分けされちゃいましたね……。

◆2010年9月5日 『民主党 小沢一郎氏』

 【時代解説】菅直人と小沢一郎の間で、民主党代表選が行われた。菅氏が勝利し総理大臣に就任。

小沢「思い切って2兆円を予備費として投入し、景気を底上げしていく」

ヤジ「闇将軍かえれ」

 闇将軍とは、影の権力者、実質的な支配者と言われる存在。過去に「闇将軍」と呼ばれた政治家は、田中角栄氏、野中広務氏。

<出典:地方票、ナニワ勧誘道 民主代表選、梅田で演説 2010年9月6日 朝日新聞 朝刊>

 せ、政界のダースベーダー?

◆2012年9月19日 『民主党 野田佳彦首相』

【時代解説】誰も頼んでいないのに、野田首相がG20の場で、「2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げる」と明言。また、原発再稼働に踏み切ったため民主党支持者からも批判を浴びた。

野田「財政がひどい状態になったのは誰の政権下だったでしょうか」「原子力行政を推進した政権は誰だったんですか」

ヤジ1「帰れ」

ヤジ2「原発反対」

プラカード「うそつき民主党拒否」

横断幕「原発ゼロを閣議決定せよ」

 ヤジ・プラカード・横断幕のフルコンボ。ヤジで声がかき消されるなか、野田首相の言葉もヒートアップ

?く要人警護を経験した警察官「首相、総裁クラスの街頭演説で?汚いヤジ聞いたのは初めて」

<出典:ヤジに興奮、野田首相初の街頭演説 2012年9月20日 朝日新聞 朝刊、現場から:衆院選、振り返って 相次ぐ新党、直前の国替え…候補者や支援者、混乱 2012年12月22日 毎日新聞 朝刊>

 野田首相の腐った置き土産「消費税10%」にみんな苦しんでるぞ。

◆2012年11月17日 『民主党 蓮舫氏』

蓮舫「前に進める政治を続けていきたい」

ヤジ「2番でいいだろ」

<出典:(迫る総選挙)攻める維新、まず2人擁立 民主も反撃、幹部・閣僚来援 2012年11月18日 朝日新聞 朝刊>

 うわー、そのヤジ俺が先に言いたかった。悔しい。

◆2012年12月1日『民主党 安住淳幹事長代行』

安住「今ある第三極で、来年の今ごろまで残っている政党はたぶんない。今の選挙だけで消えていく可能性がある」

ヤジ「お前ら(民主党)もだ!」

<出典:12衆院選ながさき:民主・安住幹事長代行が来県 諫早・佐世保で街頭演説 2012年12月2日 毎日新聞 朝刊>

 この4年後に、民主党も消滅してしまうのであった……。

◆2017年7月1日 『自民党 安倍晋三首相』

【時代解説】集団自衛権の改憲解釈などの強引な政権運営や、森友・加計問題などの不祥事などによって、安倍政権へ対し不満を持つ人が出てきた。

プラカード「安倍政治を許さない」

コール1「帰れ」

コール2「辞めろ」

森友学園の籠池泰典前理事長「うそを言うな。民主主義を守れ」

安倍「人の演説を邪魔するような行為を自民党は絶対にしない。憎悪からは何も生まれない。こんな人たちに負けるわけにはいかない」

石原伸晃経済再生相「反対しかできない人たちが選挙妨害を繰り広げた。情けない」

<出典:首相、初の街頭応援演説 都議選最終日、秋葉原で 2017年7月2日 朝日新聞>

 オバマ前アメリカ大統領は、かつてヒラリー・クリントンの応援演説をしているとき、一人のトランプ支持者が野次を飛ばしたことで騒然となった会場で、こう言ったた。

「いま、我々は、自分が応援する候補の支持者の男性に会った。彼は何もしていない。心配しないでいい。第一に、我々は言論の自由を尊重する国にいる。第二に、彼は退役軍人なようで、我々はそんな彼に敬意を払わなければいけない。第三に、彼は我々より年上だ。大切にしないといけない。第四に、ブーイングはやめよう。そして選挙に行こう」

「こんな人たち」と斬って捨てた安倍首相と雲泥の差である。

◆2017年10月7日『自民党 安倍晋三首相』

安倍「この選挙は、どの政党に、誰に、日本の安全、未来を託すのかを決める選挙だ」

支持者プラカード「安倍総理を支持します」

反対派プラカード「大嘘つきにだまされるな!」

ヤジ「辞めろ」

ヤジに対してのヤジ「うるさい」

<出典:党首2人が街頭演説、透ける弱み 安倍首相と小池氏 2017年10月8日 朝日新聞>

 首相の街頭演説という名の大乱闘スマッシュブラザーズ……。

◆2017年10月21日『自民党 安倍晋三首相』

安倍「将来に夢をもつことができる日本をつくる。日本を守り抜き、日本の未来を切り開くことができるのは私たち自民党だ」

ヤジ「うそつきな総理はいらない」

<出典:締めの街頭、にじむ思い 党首ら、最後の訴え 2017年10月22日 朝日新聞>

 今考えると、この時はまだ平和だったなー。

◆2018年6月28日『国民民主党 玉木雄一郎共同代表』

【時代解説】民進党と希望の党が合流しできた政党。正直どんな政党なのかよくわからない。立憲、共産、社民が自民党が提案した高度プロフェッショナル制度の採決に強く反対する中、国民民主党が採決に応じたことへ対するヤジ。

ヤジ「裏切り者」

ヤジ2「なぜ採決に応じるのか」

<出典:働き方、問題残したまま 法案、きょう成立見通し 2018年6月29日 朝日新聞>

 玉木代表、最近ではN国代表と対談などしていてさらに迷走している模様。

◆2018年10月9日『自由党 山本太郎共同代表』

【時代解説】俳優から、2011年の衆院選に立候補するも落選。2013年の参院選で初当選。山本氏所属する政党は、名前が斬新である。「新党 今はひとり」→「新党ひとりひとり」→「生活の党と山本太郎となかまたち」→「自由党」→「れいわ新撰組」

山本「苦言、提言、質問、何でも結構です。山本に直接ぶつけてください」

ヤジ「バカ!」

<出典:「永田町の非常識」に感じた気迫 山本太郎議員に密着 ココハツ 2018年11月24日 朝日新聞>

 ど真ん中直球なヤジではあるが……。

◆2019年7月15日 『自民党 安倍晋三首相』

〜札幌での街頭演説で〜

ヤジ1「安倍やめろ、帰れ」

 ヤジ1の男性、警察官数人に腕や服を掴まれ数十メートル後方へ排除

ヤジ2「増税反対」

 ヤジ2の女子大生、警察官数名によって排除

??-警察と女子大生のやりとり??-

警察「さっき約束してって言ったじゃん」

女子大生「何を?」

警察「声あげないでくれよ〜って」

警察「ウィンウィンの関係になりたい」

警察「何か飲む?買うよ?お金あるから。なんか飲まない?ジュース買ってあげる」

女子大生「何も信用できない。あなたたちのこと」

警察「うちらも信用できないからさ〜」

警察「一緒についていくしかないの。大声出さないでほしいだけなんだよ?」

警察「お願い。お願い。お願い。きょうはもう諦めて」

警察「ジンジャーエールですか?ウーロン茶ですか?」

警察「きょうはもう諦めて。何飲みますか?」

北海道警察「トラブル防止と、公職選挙法の『選挙の自由妨害』違反になるおそれがある(のちに事実確認中に見解を変える)事案について、警察官が声かけした」

ヤジ1の男性「ヤジの後に声かけも警告もされず、あっという間に連れ去られた」

道公安委員会の小林ヒサヨ委員長「警察の職務執行の中立性に疑念が抱かれたことは残念」

(ヤジ排除から約2ヶ月たっても)道警の山岸直人本部長「(事実関係について)確認中」

<出典:「首相帰れ」ヤジ、警察いきなり排除 参院選の街頭演説 2019年7月17日 朝日新聞>

 ついに、過去2回の本連載、及び今回の前ページまでとは明らかにことなる局面になった。戦前にタイムスリップしちゃったのかな? と思えるような事態だ。

◆2019年7月18日『自民党 安倍晋三首相』

〜滋賀県大津市での安倍首相の街頭演説に対し〜

ヤジ「安倍やめろ」

 ヤジった男性は、5人ほどのスーツ姿の警察官によって、会場端の駅高架下のフェンスに押しやられた。男性がその場から動こうとしたところ、囲んだ警察官に止められた。

<出典:首相にヤジ、警官囲む 大津 2019年7月19日 朝日新聞>

 またしても、「安倍やめろ」からの警察官登場。

◆2019年8月24日『自民党 柴山昌彦文科相』

〜埼玉知事選の応援演説をしていた柴山文部科学大臣へ対し、大学入試改革に反対する大学生によるヤジ〜

ヤジ1「柴山やめろ」

ヤジ2「(英語の)民間試験撤廃」

 ヤジをした男性は、警察官に取り囲まれ遠ざけられた。

 その後の埼玉県警の調査結果によると、「応援演説会場で、大声をあげたり、プラカードを掲げたりしていた男性が歩道と道路を隔てる生け垣を飛び越えようとしていたため、警察官3人が服を引っ張るなどして制止して数メートル離れた歩道側に誘導し、『危ないので飛び出さないように』と数分間、口頭で注意した」とのこと。

 また、柴山文科相は8月27日の会見で「私が街宣車に上って演説を始めるや否や、多くの聴衆や街頭演説の準備をしていた方々がいた街宣車の後ろの部分から、『柴山辞めろ』『民間試験撤廃』と大声で怒鳴る声が響いてきた」と発言していたが、制止したのは柴山氏の到着前で別の人物の演説中だったという。

<出典:応援演説会場での学生制止、埼玉県警「適正な職務執行」 2019年9月2日 朝日新聞>

 なんかもういろいろ含めてなんやねん!

◆Part1からPart3を振り返って

 7月15日に札幌で行われたヤジ排除事案をきっかけに、1890年から現在まで、129年分の「政治家の街頭演説とヤジ」について調べてきた。

 どの時代にも、政治家の演説とそれを聞く国民からのヤジは存在し、それらが切っても切れない関係であることがわかった。この記事において、過去から現在まで歴史を追っていくと、一言ヤジっただけで警察官に排除される現在の異常さがよく分かるはずだ。この記事を書いている時、過去のヤジなどに笑っていた私も、現在に近づくにつれ、顔から笑みが消えていった。

 街頭演説は、テレビ演説とは違い、政治家と国民が直接向き合う。ヤジを飛ばせば、政治家のもとに届く。政治家は、逃げも隠れもできない。ヤジは、国民から政治家への意思表示であり、政治家にとっては国民の生の声を聞く重要な機会だと言える。だからこそヤジは極力規制すべきではない(60、70年代のような集団で罵詈雑言を浴びせる行為は看過されるべきではないが)。

 一度でも今、私たちが持っている自由や権利を明け渡してしまうと、次はまた違う自由や権利が規制されていく。気がついたら、基本的人権の全てが、権力の手の中にあるかもしれない。そういった状況を避けるためには、今起こっている表現の自由への規制に断固とした態度で、NOを突きつける必要がある。

<文/日下部智海 a.k.a.ひもっち イラスト/kame>

【日下部智海】

明治大学法学部4年。フリージャーナリスト。特技:ヒモ。シリア難民やパレスチナ難民、トルコ人など世界中でヒモとして生活。社会問題から政治までヒモ目線でお届け。

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