注目のスタートアップだった WeWork の評価はどこで反転したのか?

注目のスタートアップだった WeWork の評価はどこで反転したのか?

SnoockyCookie via Pixabay

◆コワーキングスペースを提供するベンチャー企業 WeWork の騒動

 9月の下旬から10月の初旬に掛けて、ベンチャー企業 WeWork の名前を多く見るようになった。WeWork はアメリカに本社を置く、コワーキングスペース(共有の仕事環境)を提供する企業だ。お洒落なオフィスに、起業家が集うコミュニティ。最先端のイノベーションを産み出す場として、WeWork は注目されていた。

 WeWork の設立は2010年。前身となるコワーキングスペースを提供する企業 GreenDesk は、アダム・ニューマンとミゲル・マッケルビーによって2008年に誕生した。彼らは、その事業を売却して、WeWork を開始した(参照:New York Daily News)。

 WeWork は資金調達を続けて規模を拡大し続け、2017年には評価額が200億ドルになった(参照:Forbes)。

 企業価値は高騰をし続け、2019年1月には470億ドルになった。しかし、それは実態を伴う数字ではなかった。2019年9月には、100〜120億ドルにディスカウントされた。それは、WeWork が調達した128億ドルを下回る金額だった(参照:Reuters)。

 同業の IWG は、会員数が5倍で、企業価値は37億ドルである。こちらは売上高が34億ドルで、5億ドルの純利益がある(参照:Vox)。WeWork の2018年の売上高は18億2000万ドル、純利益は-19億ドルである(参照:Crunchbase)。

 本来の企業価値はどのぐらいなのだろうか。そして、この赤字が劇的に改善されるのは難しいのではないか。WeWork は2019年の9月末に、上場申請を撤回した(参照:Business Wire)。

 日本で、このベンチャー企業の動きが注目されているのは、ソフトバンクが多額の資金を出資しているからだ。100億ドル以上を出資しており、この投資が無駄になると大きなダメージとなる(参照:ロイター/ロイター)。

 ソフトバンクと WeWork は資本以外にも提携をしており、2017年には合弁会社 WeWork Japan を設立している(参照:ソフトバンクグループ株式会社)。ソフトバンクと WeWork は、蜜月といえる関係を続けていた。

◆カリスマCEOによる強引な経営

 WeWork は、どうして実態と評価がかけ離れてしまったのだろうか。同社の社内の様子は、好調な時には、あまり外部に伝わって来なかった。今回、WeWork の評価が大きく下がったことで、醜聞的な記事が書かれて、私たちの目に触れるようになった。

 BUSINESS INSIDER JAPAN の記事のタイトルはスキャンダラスだ。

◆『全社員参加のキャンプでセックス、麻薬三昧…WeWork社内の実態明かす「衝撃の新証言」【前編】』

◆『性差別、人種差別、サウジ王族との密会…まだまだ出てくるWeWork従業員「衝撃の新証言」【後編】』

 これらの記事には、新興宗教の教祖のようにカリスマ的で、暴君でもあるニューマンCEOの様子や、アルコールが絶えないパーティー文化の様子、WeWork Years と呼ばれる長時間労働や高い離職率などが指摘されている。また、上場を目指す企業として、コンプライアンス的に問題があると思われる様子も描かれている。

 こうした内情は、急成長するベンチャー企業らしいと言えそうだが、いささか過剰なように思える。

 また、ギズモード・ジャパンの「WeWork暴露記事で孫さんピンチ。アダムCEOを更迭か」という記事には、ニューマンCEOの不誠実な経営が紹介されている。

 ニューマンCEOは、会社が傾きつつある中、自社株を売り抜けようとしたり、自分でオフィススペース借りて、WeWork に貸し付けたり、商標「We」を創業者2人で買って WeWork に売りつけたりしている。それらは、上場を目指す企業のCEOとしては問題の多い行動に見える。

 落ち目になると、こうした記事がどんどん出てくるようになる。そして、9月24日には、ニューマンCEOの辞任が発表された(参照:日本経済新聞)。同社への否定的な記事は、この1ヶ月ぐらいで急速に増えたように感じた。ちょうど、WeWork が上場を目指した頃から逆風が吹いてきたように思える。

 こうした評価の急落を見て、それ以前の報道はどうだったかと気になった。以前見た記事は、WeWork を褒めているものが多かったからだ。そこで、これまでの日本での WeWork に対する記事の遷移を見ていこうと考えた。

◆注目のスタートアップとして時代の寵児だった2014〜2017

 WeWork の設立は2010年2月だ。そこで、この時期から、日本のメディアでの掲載をたどっていく。全てを取り上げると煩雑なので、注目すべき動きを中心に取り上げていく。

【2014〜15年】

 2014年12月18日、WIRED.jp に『コワーキングスペースを貸すNYのスタートアップが急成長、企業価値は50億ドルにも』という記事が掲載される。WeWork が巨額の資金調達に成功したことを伝えるものだ。5年後に、ここから9倍以上まで上がったことを考えれば、どれだけ急な高騰だったのかが分かる。

 翌年も注目のスタートアップというポジションは変わらず、2015年12月18日にはForbes JAPANの 『2015年「最もホットなスタートアップ企業」50社ランキング』内に掲載される。オフィスシェア分野で、評価額102億ドルとして、31位に WeWork がランクイン。他のランクイン企業の評価額が数億ドルなのに対して、102億ドルという評価額は突出している。

【2016年】

 2016年からは注目度に伴い、記事も大幅に増加した。そのどれもが絶賛する論調である。

 2016年1月06日、Forbes JAPAN の『米国で最注目の「オンデマンド系」企業14社』内に掲載される。オフィスシェア分野で、評価額102億ドルとして、WeWork が4位に入っている。他に100億ドルを超える企業は、3位のウーバー(評価額:646億ドル)、14位のAirbnb(評価額:255億ドル)の2社。

 Forbes JAPAN はかなりプッシュしており、3月には『新たに198人が億万長者に、若き起業家も多数』という記事に、WeWork の共同創業者アダム・ニューマンが掲載されている。

 同じく3月には、日本のドメスティックメディアも取り上げ始める。日経クロストレンドの『ノマドワーカー感激! “世界最強”のコワーキングスペース「WeWork」がスゴい』(3月14日)、THE BRIDGE で『オフィスシェアの「WeWork」が4.3億ドルを調達、評価額は160億ドル』という記事が立て続けに掲載される。前者はWeWork のここが凄いと褒めるもの。「将来は日本にも上陸?」と、日本上陸に期待している。また、後者のように資金調達の記事がともかくよく目に付くのがこの時期の特徴だ。急激な勢いで拡大していく様子がよく分かる。

 2016年前半は「注目のスタートアップ」「巨額の資金調達」「注目企業(あるいは起業家)ランキング」記事などの常連といった感じだ。

 それが、2016年半ば半ばぐらいになると、WeWork をメインで取り上げる記事以外にも、WeWork を比較対象とする記事が増える。WeWork は、成功して大きな評価を得ている企業として扱われて始める。

◆ソフトバンクの出資で日本に一般層にも知名度拡大

【2017年】

 2017年1月31日、日本経済新聞に『ソフトバンク、米オフィス運営VBに投資検討 米紙報道』という記事が掲載される。ソフトバンクグループが、10億ドル(約1130億円)超の投資を検討しているという報道。WeWork に強く関わることになるソフトバンクの名前が、ここで初めて登場する。

 このあと、ソフトバンク関連の話題が目につくようになる。

 2月27日には、ロイターに『ソフトバンク、米シェアオフィス会社に30億ドル超投資へ』が掲載される。ソフトバンクが、WeWork への投資を確定しつつあるという報道。1月の報道から金額が3倍に増えている。

 翌28日、同じくロイターは『コラム:ソフトバンク社長の投資目線、巨大ファンドが影響も』という記事を掲載。ソフトバンク・グループが、かつて投資を見送った WeWork に最大40億ドル規模を投じる可能性を米CNBCが報じたと。数年前に、アダム・ニューマンからの資金援助を断ったことなど、周辺事情がまとめられている。

 そして7月。この月以降、WeWork が日本進出をしたため、日本での報道が一気に増える。日本の働き方改革の文脈でも同社の名前が出るようになる。また、中国に現地法人を設立する計画も発表した。

 2017年07月18日、日経 xTECH に『共用オフィス運営のWeWorkが上陸、ソフトバンクと共同出資会社』の記事が載る。WeWork がソフトバンクと組んで日本進出することを伝える内容。

 その2日後、20日には日本経済新聞に『日本上陸、米共用オフィス最大手ウィーワーク共同創業者に聞く』、さらに21日には東洋経済オンラインに『孫正義がほれた「シェアオフィス」の超絶価値』が掲載される。

 WeWork は、こうした経済系の新聞やメディアでも取り上げられるようになる。日本でも注目度が高くなっていったのが2017年後半だ。

 概ね絶賛の嵐の中、企業価値に疑問を呈する記事が出たのは、2017年10月24日のこと。

 Wall Street Journal に『ウィーワーク、2兆円超の企業価値は幻か』が掲載された。Wall Street Journal は、このあとも引き続き警鐘を鳴らす論調の記事を多く出すことになる。

◆雲行きが変わり始めた2018年

【2018年】

 テック系メディアでも論調に方向転換が見られ始めたのが2018年だ。

 2018年01月04日に、WIRED.jp が『WeWorkの野望──「2兆円企業」が見通す働き方の未来』を掲載する。WeWork の先進性を伝えるとともに『役職名が追い付かないほど急拡大する組織』『試されるWeWorkの「持続性」』と、危うさについても言及。特に、賃貸料の上昇により、破綻する可能性を危惧している。WIRED.jp は初期の頃から WeWork を絶賛していたが、ネガティブな要素も記事中に混ざるようになる。

 2018年02月02日、Forbes JAPAN に『孫正義、WeWorkへの即決40億ドル出資の舞台裏』が掲載される。大型出資がどのようにおこなわれたのか、ドラマ仕立てで紹介。評価額は高過ぎるが、企業としての実行力があると。データに基づいたオフィス設計、不動産以外の付加価値など、WeWork の価値について詳細に解説。

 この記事は、のちの孫正義とニューマンCEOの人間関係を推し量る上で、重要な内容になっている。

 2018年はその後も WeWork とソフトバンクについての記事が見られるが、それらを見る限り、この時期の WeWork とソフトバンクは、非常に良好な関係なのが分かる。

 年初にネガティブな要素も入れた記事を出した WIRED.jp が再び気になる記事を出したのは、09月17日。『サーヴィス企業を目指すWeWork、相次ぐ買収で問われる「Powered by We」の真価』が掲載された。

 WeWork の価値を説く一方で、「WeWorkの企業価値はレンタルオフィス世界最大手の IWG(旧リージャス)と同程度だという議論が根強くある」と、疑問視する声も掲載。WIRED.jp の記事を追うと、徐々に化けの皮が剥がれていくような気持ちになる。

 そうした気配が次第に強まってきたのか、10月には2つの不穏なニュースが出てくる。

 2018年10月10日、日本経済新聞に『ソフトバンク、米シェアオフィスに過半出資か』、同日ロイターに、『ソフトバンクG株が3日続落、シェアオフィス企業への大規模出資で協議』が掲載される。

 前者の記事では、過半数の株式を取得する方向で協議しており、投資総額は150億〜200億ドルと。明らかに過剰な投資額が登場する。

 この2つのニュースからは、WeWorkへの大規模出資がリスク要因と見られていることが分かる。また、ソフトバンクの強いラブコールと、市場からの強い不信感が伝わってくる。

 ただ、この時期の記事は、WeWork への投資額はともかくとして、事業自体はどこでも好意的に書かれている。問題は、投資額が異常で、収支が伴っていないことだ。

◆事業の採算、拡大路線の陰りが噴出。2019年

【2019年】

 明らかに「潮目」が変わったのは2019年だ。この時期から、WeWork への評価が下がる記事が目立ち始める。

 2019年01月08日、日本経済新聞に『ソフトバンクG、ウィーワークへの追加出資大幅縮小』が掲載される。ソフトバンクグループは、赤字経営の米シェアオフィス大手 WeWork に対する出資計画を大幅に縮小したと言う内容だ。WeWork への風向きが大きく変わった瞬間だ。

 そしてそのおよそ一週間後、1月17日に、ついにBUSINESS INSIDER JAPAN に、『ウィーワークCEO、所有ビルを自社に貸して数百万ドルを手に』が掲載される。ニューマンCEOが、自身が一部保有するビルを WeWork に提供して、数百万ドルを得ていたと。賃貸契約の全期間を通すと、賃料は1億1000万ドル(約120億円)になるとも。CEOの不誠実な行動が、表に出始めたわけである。

 そして3月から、事業にブレーキが掛かり始める。

 2019年03月02日、TechCrunch Japan に『コワーキングスペースのWeWorkが300人解雇』の記事が掲載。グローバル従業員の3%、数にしておよそ300人を解雇したと。拡大路線に陰りが出る。

 さらに、WeWork が上場に向けて動きだしたことによって(参照:『米ウィーワーク運営会社、上場手続き開始』|2019年4月30日日経新聞)、その経営に厳しい目が向けられると同時に、内情が外から可視化され始める。

 2019年04月30日、TechCrunch Japan に『WeWorkが非公開で上場申請書を提出、推計収入2030億円、赤字は2120億円』が掲載。

 また、奇しくもこの直前に、貸会議室大手のティーケーピー(TKP)が、世界展開するIWG(旧リージャス)から日本事業を買収すると発表したことを受けて、2社を比較して、その収益性を疑問視する2つの記事が発表されている。

●『シェアオフィス、陣取り合戦 収益確保に課題』(2019年04月15日、日本経済新聞)

●『儲からないのに「シェアオフィス増殖」のなぜ』2019年04月17日、東洋経済オンライン)

 5月以降、何とか資金を得ようと足掻いている様子が見てとれる記事が増え、8月になると上場が近いということで、会社の財務的実態を指摘する記事が大量に出てくる。ほとんどは否定的で、投資を避けるように促している。

 2019年08月15日には、日本経済新聞も『上場控えるウィーカンパニー、巨額赤字の実力は』を掲載し、収益の不透明さが一番の課題と指摘している。

 2019年08月21日のBloomberg 『ウィーワークのIPO目論見書は「難読化の傑作」−アナリストが警告』は皮肉に溢れている。ポジティブな状態ではないから、非常に分かり難くしたのだろうと。

 2019年08月22日にはかつて注目企業のランキングに常に上位で取り上げていたForbes JAPAN も辛辣な記事が載る。

『上場申請したWeWork、投資を控えたい6つの理由』が掲載される。財務、事業の問題とともに、創業者夫妻のリスクも指摘。

 いずれの記事も、上場が歓迎されていない様子が伝わってくる。

◆スキャンダル系記事がついに噴出

 そして9月には上場延期が発表、CEOが辞任する。10月にはいると上場が白紙になり、醜聞的記事も出るようになる。

 醜聞的記事の皮切りは2019年10月01日のBUSINESS INSIDER JAPAN だろう。『全社員参加のキャンプでセックス、麻薬三昧…WeWork社内の実態明かす「衝撃の新証言」【前編】』が掲載されたのだ。落ち目の企業の実態を暴く記事が登場し始める。

 続く7日には同記事の後編『性差別、人種差別、サウジ王族との密会…まだまだ出てくるWeWork従業員「衝撃の新証言」【後編】』が掲載。

 BUSINESS INSIDER JAPAN はその後も手を緩めずに、『「とりあえずサイン」で入居、実態は大企業の休憩所?“WeWorkの魔法”を日本ユーザーたちに聞く』を掲載。日本での展開にも疑問が呈される。

◆「ハリウッド映画になりそう」なストーリー

 今回、WeWork 創業から、上場失敗、CEO辞任までの記事を時系列で読み、その中から重要そうなものをピックアップしていった。その感想は「いずれハリウッド映画になりそうだ」であった。

 ニューマン元CEOと孫正義という魅力的な登場人物。世界中に次々と増えていくお洒落なワーキングスペース。プライベートジェットで飛び回るニューマン元CEOの激しい動き。度外れたパーティー文化。次々と評価額が増加していくエスカレーション。CEO辞任と上場失敗という破滅のカタストロフ。

 いずれも、ハリウッド映画のピースとしては申し分ないように思えた。

 映画では、この時点でラストシーンが来る。しかし現実は、まだこれから苦難の道が待っている。WeWork とソフトバンクがどういった展開を見せるのか、しばらく目が離せないだろう。

<文/柳井政和>

【柳井政和】

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。

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