わずか2年で黒字転換・ボーナス支給。官僚出身の「よそ者」が老舗旅館を再生できたワケ

わずか2年で黒字転換・ボーナス支給。官僚出身の「よそ者」が老舗旅館を再生できたワケ

山形座瀧波CEO・南 浩史氏(右)とモチベーションファクター株式会社代表取締役社長・山口 博氏

 官僚から造船会社社長へ転身、そして、老舗旅館の再生を成功させた経営者がいます。再生のカギは何か? 今回は山形県南陽市の山形座 瀧波CEOの南浩史氏に、本連載「分解スキル反復演習が人生を変える」でお馴染みの山口博氏が迫ります。

◆造船業の前夜祭が旅館営業のヒントに

山口博氏(以下、山口):「老舗旅館のCEOである南さんは、官僚出身という異色の経歴をお持ちです。どのようにキャリアを作られてきたか、まずお伺いできますか」

南浩史氏(以下、南):「国家公務員は、公に役に立つことを常に意識しているものです。私もそのひとりで、公に貢献する志を持ち続けていました。その後、造船会社の娘さんとの縁に恵まれて養子に入り、造船会社で20年、そのうち社長を6年務めたわけです。生まれ育った瀧波の経営が難しくなったことがきっかけで、瀧波の再生に携わることになりました」

山口:「国家公務員から造船会社社長、老舗旅館の再生と、全く異なる分野で活躍されているように思えるのですが、南さんにとって、キャリア形成のプリンシパルは何なのでしょうか」

南:「確かに、業界も異なりますし、全く異なる領域のように見えると思います。しかし、私にとっては、実は、とても密接な関連があるのです。旅館で生まれ育った私は、食住近接の環境の中で、日々、父母がお客様に奉仕する様を見てきました。そのことと国家公務員として公に貢献することは根が同じなのです」

山口:「なるほど、顧客か国民かの違いはあっても、貢献するという基本的な共通な考え方があるのですね。しかし、造船業と旅館業はさすがに大きな隔たりがあるように思えますが」

南:「そう思えるでしょう。船は一隻数十億円単位のビジネスです。一方、旅館業はお一人さま数万円単位ですから、規模も違えば、企業を相手にするか、個人を相手にするかも異なります。船をお客さま企業へ納める際には、船の無事を祈って、多くの関係者に集まっていただき、それは盛大な前夜祭を行います。私は500隻余の船の前夜祭に携わってきました。

 そして、その前夜祭は、旅館でお客さまをもてなす思いと全く同じだと思うのです。いまは旅館の社長として、朝食や夕食のおもてなしをしています。そば打ちもします。造船における前夜祭は年に40回でしたが、今現在、旅館において、毎日が前夜祭なのです」

◆「藩は藩主のものでなく、民のもの」

山口:「そもそも国家公務員を目指して公に貢献することを志したのは、いつ頃からなのですか」

南:「上杉鷹山公候の伝国の辞に『藩は藩主のものでなく、民のものである』というものがあります。藩校である米沢興譲館高校で学び、応援団の活動に明け暮れていたのも、その教えを自分なりに体現したかったからです。国家公務員としての取り組みも、造船業における前夜祭も、旅館業も、その教えに導かれているように思います」

山口:「私の出身地である長野県上田市では、大正時代、民衆の自由な教育を求め、お互いに学び合う、上田自由大学運動が起きました。私が現在、全国の企業・団体で実施している分解スキル反復演習型能力開発プログラムは、お互いにスキルを高め合う構造になっており、その教えに影響を受けています。同じように、DNAは受け継がれるように思います」

◆現場へ足を運び極上のグルメを厳選

山口:「山形座瀧波は、どのような旅館を目指しているのですか」

南:「『山形県人による、山形のための、山形のショールームになりたい』と考えています」

山口:「具体的には、どのような取り組みをされているのですか」

南:「まずは、山形の美味しい食材を全国からお出でのお客さまにご紹介することです。たとえば、山形の米です。有機米の『夢ごこち』、『つや姫』、米粒が大きい『雪若丸』、『コシヒカリ』、2泊していただくと、すべてのお米を味わっていただくことができます。今の時期は、全てが新米です。

 ここ置賜盆地は、吾妻連峰、朝日連峰、飯豊山、蔵王山といった、百名山に囲まれています。新潟からくる西風が、朝日連峰、飯豊山を越えて来る。フェーン現象で乾いた空気になるわけです。温まりやすく、冷めやすい。夏の昼間は35度、40度になるが、夜は20度になる。この寒暖差が、米沢牛、野菜、フルーツ全てをおいしくするのです」

山口:「どこの地域にもある、素朴な産品が、山形座 瀧波で提供されたり、南さんに語っていただくと、ひときわ光り輝くように思います。そうさせるための仕掛けあるのではないでしょうか」

南:「心がけていることと言えば、現場100回ですね。米を選ぶ時も、野菜を仕入れる時も、そば粉を選択する時も、田んぼに入り、畑を見せていただき、製粉所で直談判して決めてくる。考えてみれば、造船会社の社長時代は、造船の専門技術という点で、必ずしも現場に入りきれないところがありましたが、旅館においては、やろうと思えば何でもできるのです。お客さまのお迎えの運転も、ベッドメーキングも、食事や飲み物のおもてなしも、自らしています」

山口:「しかし、顧客の志向は多様化し、競争は激化していると思います。人手不足に悩んでいる旅館も少なくありません」

南:「少子化の中、山形県の高卒求人倍率は2倍近いわけです。そんな中で、無駄なことはやめて、密に能率よく、質のよい仕事をしていただいて、地元で断トツの給与をお支払いしたい。そうすることで、『山形県人による、山形のための、山形のショールームになりたい』ということに本気で取り組んでもらえます。

 その結果、かつては1泊1万5000円の宿だったのですが、1年で、設備投資をせずに1泊1万8000円の宿になりました。そして、2年ほど前、全てをリノベーションして、現在は、1泊平均3万5000円の宿になることができました。ひとつだけの自慢は、ほぼ同じ社員と一緒に成し遂げたことです」

◆スタッフ間の連携がサービス向上のカギに

山口:「スタッフの能力を高めるために、どのようなことに取り組んでいるのですか」

南:「旅館業としてはめずらしいと思いますが、2交代制を導入しました。7時から16時までの勤務の早番と、12時から21時まで勤務の遅番です。そして、毎日、13時から、早番も遅番も集まって、昼礼を行います。そこで、全19室、前の晩に宿泊されたすべてのお客さまについて、振り返る、見つめるということをスタッフみんなで20〜30分で行っています。

 アレルギーの有無、飲み物のお好み、特別に要望消耗されたもの、お問い合わせいただいた内容、特別なリクエストなど、全員で共有しながら、私がデータベース化し、次にご来館いただいた時には、あらかじめご準備させていただいたり、スタッフが心積もりしておくということに徹しています」

◆<対談を終えて>

 老舗旅館瀧波をわずか2年目で黒字化し、全員にボーナスを支払うことができたと、南さんは目を輝かせます。高級官僚や会社社長は、一般にでんと座ってふんぞりかえっているというイメージをもたれるものですが、南さんの軽やかな身のこなしと、ベッドメーキングまで自分で行うこともあるというフットワークには目をみはります。

 南さんは、造船会社時代、トヨタ自動車生産調査部のカイゼンチームに出向していたこともあるそうです。トヨタグループ&関連企業の役員・管理職研修を実施していても感じますが、成長企業の幹部の自律性は高いということを、南さんが示してくれているように思います。(モチベーションファクター株式会社・山口 博)

【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第166回】

【山口博】

(やまぐち・ひろし)

モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社新書)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社+α新書)、『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)がある

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