安倍総理よ、「国民の耳に痛い話」を避けるなかれ<石破茂氏>

安倍総理よ、「国民の耳に痛い話」を避けるなかれ<石破茂氏>

<撮影/菊竹規>

◆『月刊日本』が「安倍政権総辞職を強く求める」巻頭記事掲載

 昨年末、安倍総理は「桜を見る会」の「私物化」批判から逃げるように臨時国会を閉じた。

 ところが、招待者名簿廃棄をめぐり、廃棄簿への記載がなかったことに加え、廃棄に必要な首相の事前同意も得ていなかったこと、さらに「行政文書ファイル管理簿」への記載もしていなかったことが明らかになった。明らかな公文書管理法違反であり、憲法が保障する国民の知る権利の侵害だ。

 「国家の私物化」と「嘘と誤魔化し」というこの政権の体質が、改めて露呈している。長期政権が生んだ奢りと緩みが極まっているのだ。

 大企業やグローバル企業の意向に沿った経済政策を続ける安倍政権は、昨年10月には消費増税を強行した。その結果、格差がさらに拡大し、庶民の生活は一層苦しくなりつつある。カジノを巡る汚職事件が拡大しているにもかかわらず、安倍政権は国民に対する説明責任を果たさないまま、成長戦略としてカジノを推進しようとしている。

 一方、わが国は「内向きのアメリカ」と「台頭する中国」の間で、難しい舵取りを迫られている。ところが、安倍政権はアメリカ一辺倒の外交から脱却できないでいる。日米貿易協定では大きな譲歩を余儀なくされ、トランプ大統領の顔色を伺って中東への自衛隊派遣を決めた。アメリカ追随から脱し新たな外交路線へ転換することが求められている。

 こうした状況の中、『月刊日本 2020年2月号』は、普段の大特集とは別に、巻頭に「安倍政権総辞職を強く求める」と題した記事を掲載。

 同記事から自民党元幹事長の石破茂氏へのインタビューを転載、紹介したい。

◆なぜアメリカの攻撃を国連との関係で指摘しないのか

── トランプ政権は、1月3日にイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害しました。

石破茂氏(以下、石破): トランプ大統領を支持するキリスト教福音派などは、反イラン、親イスラエルの立場を鮮明にしているようです。こうした中で、トランプ大統領は大統領選挙をにらみ、どのような行動をとれば国民の支持を得られるかということを優先しているようにも見えます。

 自民党の外交部会・国防部会合同会議でも発言したことですが、わが国が国連中心主義を掲げる以上、今回のトランプ政権の行動も国連との関係で精査する必要があります。

 アメリカは、ソレイマニ司令官殺害を、国連憲章第51条に基づく自衛措置だとして正当化しています。自衛権を行使した国は速やかに安保理に報告する義務があり、日本は、それをアメリカに要求すべきではないかと発言したところ、その後アメリカは国連に報告したようです。

 一方、イランはソレイマニ司令官殺害に対する報復として、1月8日にイラクの米軍基地をミサイル攻撃しました。イランもまた、51条に基づく自衛行為だと主張し、イランのラバンチ国連大使は同日中に安保理に書簡を送っています。

 日本はインド洋に補給艦を派遣した時にも、イラクに復興支援部隊を派遣した時にも、国連決議を非常に大事にしてきました。我々は、自衛隊の行動を正当化するためには、国連の関与が重要だという立場をとってきたのです。今回のアメリカの行動も、国連との関係で評価すべきです。

── そもそも、イランとの緊張が高まったのは、トランプ政権が一方的に核合意から離脱したからです。

石破:安倍総理がイランを訪問していた昨年6月13日、ホルムズ海峡近くのオマーン湾で、日本の海運会社が運航するタンカー「KOKUKA Courageous」が吸着式の爆弾を仕掛けられて被害を受けました。その結果、アメリカはホルムズ海峡などでのタンカー護衛に向けた有志連合の結成を呼び掛けることになりました。日本の参加が検討され、その時も自民党の外交部会・国防部会合同会議が開かれました。そこでは私は、そもそもこのような事態に至った発端は、アメリカが核合意から離脱したことではないかと指摘しました。日本とアメリカが信頼し合える同盟国だというならば、日本はそのことをまずアメリカに問い質す必要があります。アメリカから説明を受け、それに得心した上で、護衛艦を出すかどうかを判断すべきだと主張しました。

◆国民と誠実に正直に向き合う政府であるべきだ

── 日本はアメリカに物を言えず、トランプ大統領の言いなりの状態が続いています。日米貿易協定でも日本はアメリカに押し切られました。

石破:言いなりかどうかはともかく、内閣には、日米関係についてももう少し丁寧に国民に説明する姿勢が求められていると思います。日米貿易協定は総理が「ウィン・ウィン」と評価され、トランプ大統領も大勝利だとその成果を誇りました。日本政府は、アメリカの関税撤廃率は92%(貿易額ベース)になると説明していますが、そこには関税撤廃が先送りされた自動車と自動車部品も算入されています。

 農林水産省は、日米貿易協定発効に伴い、農産品の国内生産額は年間で600億〜1100億円減少すると試算しています。特に、牛肉、豚肉の生産農家にはかなりの打撃だとされる一方、生産額が減少するにもかかわらず、所得には影響はないと説明されています。この点についても、安倍総理はもっと国民に説明すべきだと思います。

 確かに、現在の日米関係において、アメリカの要求を退けることは難しいかもしれません。安倍総理が様々な選択肢を検討された上で、これしか選択肢がないと判断されたのであれば、交渉結果について国民にありのままに説明した方がいいと思います。

 そのような説明が行われて初めて、日本人は食料自給、エネルギー自給など、日本が直面している困難な課題に気づくのです。だからこそ、そこは曖昧にせず、国民の耳に痛い話でも、日本が置かれている状況をきちんと説明していただくべきだと思います。例えば、脱原発を望む国民にとっては耳の痛い話になるでしょうが、原発を廃炉にするためには、膨大な費用が必要です。安全が最大限に確認された原発は稼働させて、原発を廃炉にするための費用を稼ぐという方策も示さなければならないかもしれません。

 かつて、日露戦争に勝利したわが国では、国民が戦勝報道に沸き立ち、領土の割譲や賠償金を過剰に期待しました。吉村昭氏の『ポーツマスの旗』にも描かれていますが、小村寿太郎外務大臣は全権としてポーツマス講和会議に臨み、ぎりぎりの交渉をします。しかし、結局樺太北部と賠償金は放棄せざるを得ませんでした。この結果が国民の憤激を呼び、日比谷焼き討ち事件にまで発展しました。

 それでも当時の政府は、交渉結果を国民に誠実に、正直に伝えていたと思います。私は、常に国民と誠実に、正直に向き合う政府であるべきだと思います。

 国民に対して正面から一生懸命に語り、それでも国民の半分も説得できないようであれば、そもそも政治家としての資格が問われるのではないかと思うのです。国民が日本の多くの問題について得心した上で、その解決策につき、選挙で一票を投じていただける環境を作ることも、政治の役割なのではないでしょうか。

◆次期総裁選は自分との戦いだ

── 昨年12月、朝日新聞や共同通信の世論調査で、安倍政権に対する不支持率が支持率を上回りました。一方、次期自民党総裁あるいは次期首相として誰がふさわしいかを問う各社世論調査では、小泉進次郎さんや安倍総理を抜いて石破さんがトップに立ちました。安倍政権に対する国民の不満の高まりを示しているのではないですか。

石破:国民の世論調査では、当然知名度の高い人が上位にきます。私は34年の議員生活の中で、大臣を何度も経験し、党三役も務めてきました。総裁選挙にも3度出馬しました。知名度が高いのは当然のことでしょう。国民の中には、「現政権には不満があるが、野党には任せられない」という方も多い。自民党の中で「現政権とは違うスタンスの人」ということになると、まあとりあえず私、ということなのではないかと思います。

 今回の世論調査では、自民党支持層の変化も見受けられました。過去の調査では、私は無党派、野党支持層の中での支持が高く、自民党支持層の中では低かったのです。ところが、昨年12月に朝日新聞が行った世論調査では、自民党支持層でも22%の支持をいただきました。

 国会議員は評論家ではありませんから、今、もし自分が指導者だったらどう行動するかということを常に考えなければなりません。岸田文雄さんにしても、小泉さんにしても、それなりの立場にある政治家として、今、自分だったらどうするかということを常に考えることが、国家、国民に対する責任だと思います。真剣に考えると本当に怖くなりますが。

── 安倍総理に何も言えない自民党議員が多過ぎます。

石破:党内で異論を唱えられない雰囲気があるとすれば非常に残念です。自民党の会議でも、私がアメリカの行動と国連との関係について指摘すると、シーンとしてしまい、後に誰も続かない、という状況はありました。

── しかし、心の中では石破さんに続きたいと思っている人もいるはずです。

石破:そうなのかもしれません。しかし政治家たるもの、言うべきときにきちんと発言しなければ、有権者に対する責任が果たせないのではないかと思います。

 政治家として自分の主張を貫くためには、選挙に強くなければならない、ということもあるでしょう。政策について勉強しなければならない、ということもあります。例えば党の部会でも、自分が何を発言するかを2時間も3時間もかけて考えてから臨め、というのは先輩方から教わってきたことです。役所の説明を受けて、ただ意見を言うのであれば簡単でしょうが、政策の方向性を変えようとするなら、よほど勉強しておかなければできません。それが国会議員の矜持だと、少なくとも我々は先輩から教わってきました。

 一方で、正論を説いても、「もちろん建て前はそうですが、現実にはそうはいかないですよ」「理屈はそうですが、世の中そうはいきませんよ」といった反応をする議員も増えたような気がします。もちろん政治は綺麗事だけでは成り立たないと思いますが、政治から綺麗事がなくなれば、それは政治ではないと思います。

── 昨年末、民放番組で安倍総理は「ポスト安倍」候補として、岸田文雄さん、茂木敏充さん、菅義偉さん、加藤勝信さんの4人の名前を挙げましたが、石破さんの名前はありませんでした。

石破:政治家同士のつきあいは、好き嫌いを超えて、目指す国家像を共有できるかどうかだと思います。安倍総理は、番組司会者から尋ねられ、「石破氏も大変勉強熱心な方だし、チャレンジ精神にあふれた人だろうと思いますね」とおっしゃったそうです。

── やはり安倍総理は石破さんとは国家像が違うんだと認識しているのですよね。

石破:違うところはあるかもしれませんが、幹事長としてお仕えした限りにおいてはそれほど違わないのではないでしょうか。

── いまこそ、石破さんには旗幟鮮明にしていただきたい。

石破:中途半端な旗は上げられません。オリンピックは参加することに意義があるのでしょうが、総裁選は違います。

 だからこそ、外交・安全保障、財政、社会保障をはじめ、自分の得心がいくところまで、早く政策を練り上げなければいけないと思っています。それはある意味で自分との戦いだとも思っています。

(聞き手・構成 坪内隆彦)

【月刊日本】

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