雇用、医療、保険……。報じられない法案改正の中身。法律を破る議員が税金の使途を決めている現実

雇用、医療、保険……。報じられない法案改正の中身。法律を破る議員が税金の使途を決めている現実

ookinate23 / PIXTA(ピクスタ)

◆法律を破る人が法律を作り税金の使途運用を決めている

 令和2年1月20日、通常国会が始まった。

 公職選挙法違反に問われたまま口を閉ざした多数の自民党議員たちは議員辞職どころか離党もせず、IR(カジノを含む統合施設)推進の流れの中ではした金に群がった自民党と維新の議員たちからは逮捕者も出たがやはり疑惑に答えようとしない。逮捕された議員以外は国会に出席し、臆面もなく毎月数百万の歳費など私たちの税金が出どころのカネを受け取る。

 いま私たちの国会は法律を破る人が与党として法律を作り、私たちが支払った税金の使い道や年金などの社会保険料の運用などを決めている。この事に疑問を持つ人は多い。

 それは世論調査を見ても明らかだ。私たち普通の国民なら許されないこの倫理の欠如はどこから来ているのだろうか? 

 それは彼らの長の成功体験があるからだ。それは、森友、加計問題にこりず、桜を見る会で再び税金の私的流用の疑惑があり、その政治姿勢を問われても多くの国民が納得する説明をできないだけでなく、公文書を隠蔽、破棄や改竄までもしてしまう何でもあり内閣がそうしてきたからだ。後輩議員がその成功体験を真似しているだけだ。

 さらに、長期政権に忖度ばかりの大メディアがそれを容認し、その政治を約半数の有権者も支持している。それが令和2年の日本の姿だ。

 中選挙区時代の自民党が決してひとつではなく派閥ごとに政策も覇権も争っていた時には党内からの自浄作用が必ず出たものだが、権力がひとつに集中してしまっている限りは仕方のないことかもしれない。私は決して反権力に固執する人間ではないのだが、政策以前に、嘘や欺瞞、ごまかしなどは、どう考えても政治家としてあるまじき姿であることは間違い無い。そして、年が明けてからは、緊迫する中東情勢に米中貿易戦争、加えて新型ウィルスによる肺炎やオーストラリアの森の3割以上を燃やし尽くす森林火災などがニュースを席巻しているので、ほとんど報道されていないが、今年の国会には私たちの生活に特に重要な法案が提出される。

◆見え隠れする「年金に頼らず70歳まで働け」という意図

 先ずは改正高年齢者雇用安定法である。今は正社員が定年退職した場合、会社は65歳まで1年更新で本人が希望する限り再雇用する事になっている。これを70歳まで延長しようというものだ。延長といっても、給与は減ることがほとんどだし、再雇用されないケースも少なくない。人手不足ということもあるだろうが、年金受給を頼らず、自ら働きシニア時代を送ってほしいという政治の思惑が見え隠れする。雇用に関していえば、若者を中心とした不安定で低賃金の雇用をどうするべきなのか、優秀な人材が海外に流出してしまっている現状を国としてどうサポートしていくべきか。そういった側面の強い政策が求められているはずだ。

 雇用のことで気になることを付け加えさせてもらうと、この1年、メディアで働き方改革のスローガンを聞かない日はない。しかし、雇用に関する政策は正社員を前提にしたものばかりなのだろう。そのいい例が、この1月に話題になった小泉環境大臣の育休取得だ。男性の取得率が6%台である育休を小泉環境大臣が取るという。子育ては夫婦が力を合わせてするべきものだし、男性の取得率が低すぎるのも問題だ。しかし、非正規やアルバイトといった仕事についているものは育休どころか、正社員なら当たり前の有給休暇も病欠も許されないのが一般的だ。休むことはできても賃金はもらえない。病気で医療機関に診察に行くのも大変なのだ。それでなくてもギリギリの給料だから、休んで業務時間が短くなると給料が減る。それが、生活に影響する。育休の前に、ある一定の時間を働いている非正規労働者が受診や病欠を経済的負担がなくても済むような方法は取れないものだろうか。

◆知っておくべき医療・年金・介護の変化

 さらに、医療・年金・介護に関すること。つまり、社会保険に関することが変わるという。今明らかになっている内容で話題になっているものには次のようなものがある。

・パートの厚生年金の適用拡大

・高齢者の年金受給を柔軟にする年金に関するもの

・75歳以上の高齢者の医療費の窓口負担を一部の水準以上の収入がある人には現行の1割から2割の負担を担ってもらう

 厚生年金の適用拡大は歓迎すべき一面があるのも事実だが、保険料の負担は企業側が50%出すことになり、中小企業を中心にその負担増に頭を悩ませる経営者は少なくない。高齢者の年金受給に関するものも含め、公的年金制度は、社会保険制度ではあるかもしれないが、その実態は多くの国税を投入していて社会福祉政策の側面が強いのが公的年金の実態だ。それならば、現行制度の大枠は維持し、負担を一律に投網をかけるのではなく、負担能力のある人を中心にメリハリのある負担を求めるのが筋だと思う。いづれにせよ、国民が求める抜本的な年金制度改革からはほど遠い。

 年金だけでなく、医療保険制度の負担も増えていくのでは、健康保険制度も当てにはできないなと思う人も多くなっていくだろう。それなら自分で医療費に関しても準備を手厚くしたいと思う人がいるのが当たり前だ。こうした背景のもと、将来のいざという時に備えるための生命保険は、この30年近く続く超低金利もあって、いわゆる貯蓄型の生命保険は主役の座を降りた。多くの生命保険会社では募集も消極的になった。その一方で入院した時にもらえる入院給付金や、特定の病気や手術に対して保険金が払われる医療に関する保険や、掛け捨て型の医療保険が中心となった。

◆重くのしかかる「保険料」

 毎月の給金から税金や高額の社会保険料を天引きで支払った後の手取りから、さらに民間の医療保険や掛け捨ての死亡保険に保険料を払っている。その保険料は毎年数万円にもなる。生命保険文化センターの調査委によると、平成30年度の1世帯あたりが1年間に払い込む生命保険の掛け金は、38万2千円。これには、個人年金保険や中小企業などの経営者で高額の保険料を払っている人もいるので、普通の世帯はこれほど払っているとは一概には言えないのだが、生命保険料が高額なのは間違いないだろう。例えば、45歳で1万円の入院給付金が120日間支払われるような終身型の医療保険に加入し65歳まで21年間払うとなると、毎月の支払いは夫婦で16000円を超える。年間で19万2000円。支払い総額は403万円にもなるからだ。どれほど我慢してこれだけの保険料を払い続けるのだろうか。これだけのカネがあれば、車が何台も買えるし、好きなプロ野球やJリーグチームの年間シートも手に入る。もちろん家族揃っての海外旅行も何回もいける金額だ。そうした楽しみを我慢して払っている金だ。もちろん病気やケガは誰の人生にも降りかかる。手術や入院などをすることも当たり前だ。その時に医療保険による保険金でほっとした人もいるだろう。しかし、その後にムラムラとすることが襲いかかる。

◆医療費控除の還付で起きるジレンマ

 毎年、この季節になると確定申告の申請時期となる。今や年間2100万人以上の人が確定申告をし、半数以上が還付、つまり税金を返してもらう申告をする。その中の多くが医療費控除による還付だ。ご存知のように一般的に、病院などの窓口で支払った医療費や、処方箋によって受け取った薬だけでなく自らの判断で買った病気を治すため薬代、入院費用、医療機関に通うための公共交通の交通費、それも生計を同じくする家族全員分で10万円以上の自己負担があった場合は税金の還付の対象になる。

 例えば、先の保険料の例のような45歳から毎月1万6000円を医療保険に払ってきたハーバー家があるとする。一家では昨年は妻が病気で入院し、家から離れて暮らしている大学生の息子がスキーのケガをするなどして、40万円の医療費の自己負担があった。40万円から10万円を引いた30万円分が医療費控除の対象となると考えて、確定申告をすれば、自らの所得税水準から考えて、そのうちの20%の6万円が戻ってくると試算していた。6万円あれば、妻の快復祝いに温泉にでもいけるなと計画をした。また昨年は、妻の入金給付金などで生命保険から20万円の保険金の支払いがあり、不幸中の幸いだなとも思った。もちろん、この20万円をもらうために、ハーバー家は毎年19万2000円の医療保険の掛け金を払っているわけだから、払い込んだ保険料の一部を戻してもらったという感覚だ。

 しかし、確定申告をする段階でびっくりすることが起きたのだ。それは、30万円が確定申告における医療費控除の対象だと考えていたのだが、保険会社から保険金として得た20万円を差し引かなくてはならないことに気がついたからだ。こうなると、医療費控除の対象は30万円でなく10万円のみとなる。これでは2万円しか戻ってこない。つまり、生命保険会社の医療保険に入っていない場合は6万円戻っても、自ら努力して支払った保険料のおかげでもらえた保険金があると、控除の対象が減ってしまう。このような事例を体験することによって多くの人がこう思うはずなのだ。そういう制度なら高額な医療保険に頼らず、将来は医療費もかかるだろうと、自ら貯蓄しておけば戻ってくる税金も減らずに済んだのにと、だ。このような税制はおかしくないだろうか?

◆ここが変だと思ったら声をあげるべきだ

 医療に関わる税制、医療費負担はおかしなことばかりだ。例えば、生命保険会社に払い込む掛け金は確定申告でその一部は控除の対象になるが、病気にならないよう、早期発見できるようにと受診する人間ドックや予防注射などは医療費控除の対象にならない。また、例によって所得控除のために、同じ医療費の自己負担があったとしても、負担感の少ない高所得者のほうが確定申告で戻ってくる金額が多くなる。同じ医療費負担であれば、所得にかかわらず同じ金額の税金が戻ってくるべきだと思うのは私だけだろうか。ちなみにハーバー氏は、その後、国税の所得税だけでなく、医療費の確定申告をしたおかげで、住民税も若干戻ってきたことも付け加えておきたい。

 政治は医療費や年金財政の深刻さをことさらに強調し国民全員に新たな負担を求めているが、それはそれぞれの制度の抜本的な改革に手をつけないからだ。放置されてる不合理、ヘンテコな部分の改革がまずは必要である。しかし、多くの国民はその実態に気がつかず、メディアも報道しないからか、改革しようという動きにつながっていかない。私たちは素直に負担を受け入れる前に、ここが変だ、ここを変えるべきだともっと声をあげるべきではないだろうか。

<文/佐藤治彦>

【佐藤治彦】

さとうはるひこ●経済評論家、ジャーナリスト。1961年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。著書に『年収300万~700万円 普通の人がケチらず貯まるお金の話』(扶桑社新書)、『年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』 (扶桑社文庫・扶桑社新書)、『しあわせとお金の距離について』(晶文社)、『お金が増える不思議なお金の話ーケチらないで暮らすと、なぜか豊かになる20のこと』(方丈社)、『日経新聞を「早読み」する技術』 (PHPビジネス新書)、『使い捨て店長』(洋泉社新書)

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