伊方原発3号炉差し止め仮処分決定の決定要旨からわかる、原発規制委による極めて杜撰で作為的なリスク評価

伊方原発3号炉差し止め仮処分決定の決定要旨からわかる、原発規制委による極めて杜撰で作為的なリスク評価

伊方発電所3号炉2019/04/13撮影 牧田 伊方3号炉は、国内中型原子炉としては最優秀炉と評しても過言でないが、激変した環境に適応できないままでは真価を発揮できない

◆伊方原発3号炉差し止め仮処分申請訴訟で争われた6つの争点

 前回は、伊方3号炉運転差し止め仮処分山口ルート*広島高裁決定について、高裁決定要旨からその前半部分の主として地震評価についてご紹介しました。

〈*伊方発電所3号炉運転差し止めについては愛媛県、大分県、広島県、山口県の原告団からそれぞれ別個に訴訟が提起されている。筆者はこれをそれぞれ愛媛ルート、大分ルート、広島ルート、山口ルートと呼称している〉

 再度になりますが、ここで今回の仮処分決定となった広島高裁決定要旨と、取り消された原決定である山口地裁岩国支部による決定要旨をリンクしますので本稿を読む際にはできるだけこの二つの決定要旨を併読してください。

 本件での争点は、原審に引き続き争点は次の6つですが、今回は後半部分の4)及び5)について論じます。

1)司法審査の在り方

2)本件原子炉の必要性

3)地震に対する安全性

4)火山事象の影響に対する安全性

5)避難計画等

6)保全の必要性

◆大前提として……火山噴火予知ってできるの?できません!

 第3回の最初は、後半のハイライトである火山事象の影響に対する安全性についてです。新基準では、火山事象の影響に対する安全性が審査事項に加えられていますが、本邦の火山研究は、失敗した国策とはいえ資源投入がなされた地震研究に比べれば遙かに規模が小さく、研究資源の乏しさに苦しんでいます。九州電力など電力会社は火山予知ができるかのような発言を行い文書を公開する*などして、火山学者から顰蹙(ひんしゅく)を集めていますが、多くの火山学者が指摘するように現在の人類にとって噴火予知は事実上不可能です**。とりわけ人類視点での長期予測などできるわけが無いということは大前提となります。この10年間だけでも2014年の御嶽山噴火で58名が死亡するなど、平常段階からいきなり噴火する事例が世界的にあとを絶ちません。

〈*教えてエネルギー? 火山のメカニズムと 原子力発電所への影響 九州電力:内容は、事実のつまみ食いの集合体であり、論旨は科学的に誤りと言うほかない。本邦ヒノマルゲンパツPA(JVNPA: Japan’s Nuclear Public Acceptance)の典型事例として教材になる。名前を使われた方には、心から気の毒と言うほかないが、これがヒノマルゲンパツPAの典型的手口であり、教訓とするほかない〉

〈**桜島噴火で"再稼働"川内原発が危ない! 火山専門家が警告するも原子力規制委・田中委員長が無責任対応 (2016年2月6日) エキサイトニュース、「規制委の火山リスク認識には誤りがある」 原発再稼働の是非 東洋経済オンライン 2014/08/10〉

 原子力規制委員会(NRA)は、「火山影響評価ガイド」を定め、原子力発電所の適合性審査に用いていますが、この火山影響評価ガイドそのものが科学的な合意の範囲を逸脱しており、極めて甘く恣意的であると厳しい批判を数多く受けています*。

〈*原子力発電所の「新規制基準」とその適合性 審査における火山影響評価の問題点 小山真人 科学2015/2、原子力発電所の火山影響評価ガイド」に基づく原子力発電 所の適合性審査に関する意見書2018年(平成30年)7月12日 日本弁護士連合会〉

 この多くの火山学者からも悪評紛々たる「火山影響評価ガイド」*は、司法判断においても解釈と評価が大きく変動する代物であり、遂には福岡地裁において不合理であると指摘されるに至ったためか、NRAは二度目の改訂をするとしています**。

〈*原子力発電所の火山影響評価ガイド 平成25年6月原子力規制委員会〉

〈**原発の火山評価指針見直しへ 規制委、表現不明快で 日本経済新聞2019/7/3〉

◆今回決定の特徴(火山事象の影響に対する安全性など)

◆争点4)火山事象の影響に対する安全性

 山口ルート広島高裁判断でも立地評価において判断材料として使われた火山ガイドについては「検討対象火山の噴火の時期および程度が相当前の時点で予測できることを前提とする部分は不合理である」とバッサリ切り捨てられています。

 この部分は火山ガイドの致命的欠陥であって、電力会社による動きにもかかわらず、筆者の見る限り、火山学者での賛同者は全く増えていないように思われます。この部分はエセ科学と言っても良い部分であって放置すれば原子力許認可行政を崩壊させかねません。火山学者の関与があまりない状態で拙速に火山ガイドを作るからこのようなことになるのです。

 これが世界有数の火山国であり、かつ50基近い商用原子炉が存在する国の実態です。繰り返しますが、火山ガイドはエセ科学と言うほかない要素を含んでいます。結果として司法判断の場でも厳しい批判に晒されています。

i)立地評価について

 決定文では、火山ガイドの不合理部分を排除した上で検討対象火山(阿蘇山)の過去最大の噴火規模を想定することとなり、阿蘇4噴火(VEI7)*について火砕流が伊方発電所敷地に達した可能性が十分小さいとは言えないとしています。

〈*火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index, VEI):1982年に提唱された火山の爆発の規模を示す区分である。阿蘇4は、VEI7であり、九州近辺には他に姶良カルデラ(鹿児島湾)、鬼界カルデラ(大隅海峡)が知られる。約三万年前の姶良カルデラ噴火では、九州中四国で繁栄しつつあった人類を完全に消滅させ、関東平野も厚さ10cmの堆積物(雪と異なり溶けてなくならない)に見舞われたとされる〉

 決定文では、火山噴火予知の可能性を不合理であると否定していますので、四国電力側の主張である、「噴火の前兆現象が無い限り巨大噴火の可能性が十分に小さいと見做せる」が否定され、「各種の科学的調査の結果に基づく評価という火山ガイドの定めから逸脱しており採用できない」としています。

 決定文にもあるとおり、阿蘇4噴火が実際に起こった場合、死者数は1千万人を超え、生存者も海外への移住や避難を要する、「文明の消失」によって日本という国はなくなるわけですが、そのような場合において、申立人を含めた周辺住民は、伊方発電所が崩壊してもしなくても生命、身体、生活に甚大な打撃を受けます*。

〈*簡単に言えば、火砕流で焼け死ぬか、降下物で窒息死するか泥流で押し流されることによって九州中四国の住人はほぼ全滅する。勿論、原子力・核施設は完全に人類の制御を外れ、放射性物質を大量かつ半永久的に放出し続けることとなる。筆者はこれを「核火山」と呼称している〉

 一方、他の法規制においてこのような状況を想定した防災対策は存在しておらず、阿蘇4噴火のようなVEI7級の“破局的噴火のリスクに対する社会通念は、それ以外の自然現象に関するものとは異なり、これを相当程度容認しているといわざるを得ないから、破局的噴火による火砕流が原子力発電所施設に到達する可能性を否定できないからといって、それだけで立地不適とするのは社会通念に反する。”として、原審を踏襲しています。

 これを平たく言えば、歴史的尺度では世界で数例しかないVEI7級破局噴火については、法制度も社会もその存在を考慮せずに社会は存在しているということで、例えば姶良破局噴火のようなVEI7級噴火を考えれば鹿児島市は存在し得ないし、九州のほぼ全域は居住不可となるわけで、それを全く規制しない=VEI7級の噴火をリスクとして認識しない事を社会通念と評価したものと思われます。

 この決定要旨p6-p7では、上記の他にも両論を併記しつつ、最終的には”本件原子炉施設は立地不適とはいえない”と結論し原審踏襲となっています。

 この判断に賛成不賛成を問わず、司法判断の手法がよく分かる文書ですのでゆっくり時間をかけて一喜一憂せずに読むとたいへんに面白いです。

 高裁判断では、火山影響に関わる立地評価については、原審を踏襲して四国電力の主張を認めています。

◆立地不適格ではないとしつつも申立人の主張を認めた

ii)影響評価について

 高裁判断では、火山影響に関わる立地評価については、原審通り四国電力の主張を認め、立地不適格ではないとしています。一方で、この影響評価では原審決定を翻して申立人の主張を認めています。

“阿蘇については、破局的噴火に至らない程度の最大規模の噴火(噴出量数十立方キロメートル)の噴火規模を考慮すべきであるところ、その噴出量を20〜30立方キロメートルとしても、四国電力が想定した噴出量の約3〜5倍に上ることになるから、四国電力による降下火砕物の想定は過小であり、これを前提として算定された大気中濃度の想定も過小であって、このような過小な想定を前提としてなされた本件原子炉に係る原子炉設置変更許可等の申請及びこれを前提とした規制委員会の判断も不合理である*。”としています。

〈*広島高裁は、例え阿蘇山が破局的噴火を起こさなかった場合=VEI6以下であっても想定される降下物の想定が四国電力によって著しく過小評価されており、それを認めたNRAの判断も科学的に合理性を欠いているという判断をしている〉

 NRAの判断に合理性が欠いていることから、仮処分申立人の生命、身体に重大な被害を受けるという具体的な危険性が無いということを債務者(四国電力)は証明できていないということとなり、結果として債権者(仮処分申立人)の主張は、証明されたという結論を導いています。

 ここまでの理路は、前回説明した争点、1)司法審査の在り方そのものとなっています。

 まとめますと、火山影響について広島高裁は、立地評価については四国電力の主張を認め立地不適格ではないとし、火山噴火の影響評価については阿蘇噴火を例に、破局噴火に至らずVEI6以下の歴史的尺度で発生のあり得る大規模噴火であっても、四国電力による評価は過小評価であり、NRAの適合性審査の科学的合理性を損なっていると結論し、申立人(原告)の主張を認めています。

 また決定文のなかで火山ガイドの不備を「検討対象火山の噴火の時期および程度が相当前の時点で予測できることを前提とする部分は不合理である」と明確に厳しく指摘しており、裁判所による火山ガイドへの批判例がまた一つ積み重なりました。

◆争点5)保全の必要性

 結果として前回解説の地震震源となる活断層評価と今回解説の火山影響の評価の二点において、“本件原子炉は、現在稼働中であり、その運用によって抗告人らの生命、身体等に重大な被害を受ける具体的危険があるから、保全の必要性が認められる。”として四国電力の主張を退け、原審決定を取り消し、伊方3号炉の運転を差し止めました。

 決定文要旨では、四国電力が、本訴確定判決が出るまでの間に火山噴火によって伊方3号炉が甚大な影響を受けて放射能を大量に放出するような事態を(原告側が)証明せねばならないと主張しているとしつつも、“現在の科学技術水準によれば、火山の噴火の時期及び規模を予測できるとしても精々数日から数週間程度前にしか予測できないから、本案訴訟の確定判決が得られる前にそのような事態が生じることもあり得るのであって、本件において保全の必要がないとは言えない。”としています。

 結果として、運転停止期間を本訴第一審判決言い渡しまでとし、伊方三号炉の運転を差し止める仮処分決定を行い、担保を付しませんでした。

◆今回決定の本質

 この伊方3号炉運転差し止め仮処分、本訴は共に、四国電力にとっては、短期的経営に大きく影響するものであって、法廷において激しい対決が行われています。

 前回指摘したように、長年指摘されてきた佐田岬半島沿岸の活断層存在の有無(とくに近いものは伊方発電所のほぼ正面の1km以内という主張もある)については、科学的調査を行い、その結果によって改めて追加の審査を要するか否かであって伊方発電所の息の根を止める過酷なものではありません。

 一方で今回触れた火山影響評価には、そもそもの規制行政の根拠である「火山ガイド」*に致命的な欠陥があると言うことが根本原因であって、これも長年指摘されてきています。

〈*火山ガイドはあくまで参考資料ではあるが、他に火山噴火評価に用いる共通した文書がNRAに存在しない〉

 福島核災害前であれば、このような欠陥規制行政が露見することなく、福島核災害前と同じく、甚大な原子力・核災害を起こすまでは看過されたことでしょう。

 しかし、世界の原子力規制行政そのものが福島核災害前後で激変しています。原子力を取り巻く新たな環境は、極めて厳しく厳格で抑制的なものです。そのなかで世界の原子力産業は格段に強化された規制と新・化石資源革命、再生可能世ネルギー革命という二大エネルギー革命の同時進行による強力な競争相手との闘いをも強いられています。

 この環境は、日本も例外ではありませんが、その一方で原子力規制委員会の付け焼き刃的性格は火山ガイドに現れており、多重防護の第五層が存在しない原子力規制行政*とあわせて社会的受容(Public Acceptance)を失っています。

〈*NRAは、原子力防災に責任を持っていない。従って原子力多重防護の第五層が原子力規制行政に存在していない。結果として、アリバイ造りで実効性皆無と言うほかない原子力防災計画が核災害後であるにもかかわらず罷り通っている〉

 原子力は、まっとうな規制とその厳格な実行の上に初めて成り立つという特異な産業ですが、日本ではその土台である規制が極めて異常な欠陥規制であるという特徴を持ちます。このような状態では、伊方3号炉のような国内中型炉としては最優秀と言える原子炉であってもまともに機能できるとは言えず、実際に規制行政の欠陥による司法リスクと規制行政に対する甘えによる判断ミスによって設備利用率が著しく低下しています。

 高裁決定から数日もたたずに北陸電力(陸電)社長による暴言*が報じられましたが、原子力事業体の幹部がこのような軽率な暴言を広言するようでは本邦の原子力業界に未来はありません。

〈*北陸電力社長「変な判決あった」 伊方原発の運転禁止受け2020/01/23 佐賀新聞〉

 すでに原子力環境を取り巻く環境は、福島核災害前には戻りません。過度の環境適応によって、官僚的組織原理と属人的ネットワークで意思決定と行動する事に固定化している原子力・電力業界はこのままでは近い将来自滅するでしょうが、それによって市民も抱きつき心中されるという旧軍と同じ轍を踏みかねない現実があります*。

〈*『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』, 1984/05/01 戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎 ダイヤモンド社 文庫版は中公文庫〉

 原子力利用を継続するにしても脱却するにしても電力・原子力業界と規制行政の失敗の本質を真摯に見直すことは必須と考えます。

 本シリーズは一旦ここで筆を置きます。筆者は、4ルートの仮処分決定文要旨を比較していますが、たいへんに面白く、後日ご紹介する機会があるかもしれません。

◆筆者追記

 本シリーズ執筆中に、わずか二週間で3回目となる重大インシデントが第15回定検中の伊方発電所で発生しました*。本来、第二世代原子炉40年の生涯の中ですら滅多なことではあってはならない重大インシデントが多発することにより、伊方発電所の運用体制に深刻な疑念が生じています。

 四国電力は、山口ルート広島高裁決定に対する保全異議申し立てを当分行わないこと表明しました**。これによって伊方3号炉は少なくともこの先3年近く操業できないこととなりました。

 3年もあれば差し止め訴訟での争点(弱点)や今回のインシデント多発について根本的な対策をとる事は可能です。

 今こそ伊方発電所の存亡を決める決断の時と言えましょう。電力会社がこれまでに行ってきたヒノマルゲンパツPA(JVNPA)は、もはや百害あって一利無しであるということを自覚して物事を考えて欲しいものです。

〈* 四国電力社長、愛媛知事に謝罪 伊方原発トラブルで2019/01/27日本経済新聞〉

〈**四国電、不服申し立てを見送り トラブル続き社長が知事に謝罪2020/01/27 共同通信〉

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』伊方発電所3号炉運転差し止め仮処分決定について 3

<文/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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