東欧の日系企業経営者が「コロナショック」で目にした光景。現地従業員に取り囲まれ、家族も心労のピークに

東欧の日系企業経営者が「コロナショック」で目にした光景。現地従業員に取り囲まれ、家族も心労のピークに

創美ポーランドは大手メーカーへの部品提供などを行なっている

 商店の入場制限や交通機関の利用人数制限、公園や緑地、大通りなどの屋外空間の利用禁止など、厳しい新型コロナ対策が取られているポーランド。過酷な戦いが続いているEU圏だが、製造業はかろうじて業務を続けている。

◆製造業にも押し寄せるコロナショック

 しかし、これら通常どおり営業を続けている業種も、新型コロナウイルスの影響は免れない。また、事態が収束しなければ、いずれ閉鎖や規制の対象となることも考えられるだろう。

 仮に日本でもロックダウンが行われた場合、すでに大打撃を受けている飲食店はもちろん、中小規模の製造業も人ごとではなくなるはずだ。

 本稿では自動車や家電の大手メーカーに金属パーツを提供している日系企業、創美ポーランド取締役の浅野慶一郎氏に、新型コロナウイルスによる現状や、今後考えられる影響を聞いた。

 果たして今後、日本の製造業にも押し寄せるであろう、コロナショックの波に備えるための秘策はあるのか。

??工場が通常どおり稼働している現在、製造業にとって足下大きな影響は、新規の顧客獲得が難しいことでしょうか?

浅野慶一郎氏(以下、浅野):「そうですね。今は行動制限がありますから。ただ、中小規模の製造業は月に5件ぐらい新規にいければ良いほうですので、大きな影響はないかと。これまで新規営業に力を入れてきたこともあって、2020年第一四半期の売上は昨年同期比120%と、今のところ売り上げに対しての影響はありません。もっともメインのお客様である自動車工場が軒並み工場閉鎖であることは大きな痛手となりますが」

◆見えざる脅威を可視化する

??大手自動車工場が工場閉鎖になると、中小の下請け企業は、その影響を直接受けることになります。どういった対策を行なっていますか?

浅野:「ウイルスもそうですが、やはり見えないものに対しては不安が大きいですよね。それはビジネスでも同じです。そのため、具体的にどういったことが起こりうるのか、ガンなどのようにステージでわけて、資料や数字を繋げて、どういった対応を取るのかを想定しています」

??未だ見ぬ経済的な影響を可視化しているんですね。

浅野:「そうした対策を想定している限りは、ウイルスの脅威が見えていることになります。つまり行動できる。見えていない状態で経済的な悪影響をただ悲観するだけ、というのはまっぴらゴメンです。」

??それは実際のウイルスの検査などにも共通しそうですね。コロナショックが拡大していくなか、従業員の反応はどうでしたか?

浅野:「子どもの頃って、台風が来ると喜びますよね(笑)。初めは世界中で非日常が楽しいという雰囲気もあったと思います。でも、それが1か月、2か月経つと不安になる。ポーランドでは3月11日に全国で学校や幼稚園が休校になりましたが、そのときは10人ぐらいの従業員に取り囲まれました。工場を止めて、休みを取らせることを検討してほしい、と」

??経営者としては苦しい立場ですね。

浅野:「『ただ、会社を止めたら会社がなくなる。それはもっと困るはず』と伝えました。最近は『会社をやっててありがとう』と言われます。何か社会や日常のなかで、行動しているだけでも救われるので。閉塞感が続くでしょうから、企業はそういう機能も果たしていると思います」

◆リモートワークが難しい製造業

??すでにスペインなどでは、経済活動全般が停止していますが、ポーランドでもそうなった場合はどうでしょう。

浅野:「ドイツが完全なロックダウンをするとなったら、他のヨーロッパの国々も2〜3日後に倣うはずです。ロックダウンになる前には、みんなができることがあったら全てやってほしいと伝えるつもりです。それ以外では、家で仕事してくれなんて言えません。コロナの影響による幅も、みんなが頑張ってくれる幅もたかが知れています。特にうちのような製造業では、リモートワークも慣れてないので、できる人もいないはずです」

??完全に経済活動がストップしたら、政府による補助金や財政出動も必要になるでしょうね。

浅野:「補助金頼みといっても、一部を除いて、多くの国ではまだ具体的にフィックスしていませんからね。他の企業とも話す機会がありますが、不確定要素が多すぎて、なかなかシミュレーションできていないのが現状ではないでしょうか」

??まずはいつもどおりに自分たちの仕事を……という企業も多いのかもしれないですね。

◆ミスに対する抵抗感が増す

??日常生活での制限も増えているヨーロッパと、未だ大規模なロックダウンに踏み切っていない日本とでは温度差もありそうです。本社との温度差を感じることはありますか?

浅野:「正直ないですね。本社にも同じ温度感でやっていただいている方がいらっしゃるので、今起きている状況に対しては、的確で同じようなことを考えてくれます。ただ、コロナに関係なく、本社にとってどうしても判断が難しいのが、これから想定されるオプションのうち、どれを選ぶかということです。これは海外にある日系企業全般に言えることだと思います」

??密にコミュニケーションを取っても、やはり物理的な距離感は埋めがたいと。

浅野:「いいとか悪いではなく、その場にいなければ状況や背景は顧みられないですからね。現地従業員の顔色も見なければいけないですし、これからのオプションについても、普段の業務でも、やってみてトライ&エラーをしながら決めてくほうがいい。それが中小企業の強みだと思います。海外での仕事は絶対にセオリーどおりにいかないので、数字や正論だけではうまくいかない。そりゃ本社も判断が難しいよね、ということです」

◆駐在員の家族への影響

??日本にいる家族との距離感や温度差についてはどうですか?

浅野:「たいしてないですね。それよりも、こちらにいる家族のほうが大変です。異国で外に出られず、人と会うことができないのは精神的にしんどいですよ。打つ手がないことに対する絶望感を感じます」

??もどかしさがありますし、制限が厳しくなって、個人でできることも限られているんですね。

浅野:「国境が閉鎖されて、日本にも帰れない。帰っても2週間隔離される。日本のコロナ対策を見ると、帰るとヤバいこともわかっている。外には出られない。妻はママ友とも話せない。うちは子どもも小さいので、他に捌け口もないし……。子どもも激的に減って、外に出ると白い目で見られるし」

◆当初、日本よりも薄かった危機感

??ポーランドでは、未成年者は親の同伴なしに外に出ることすらできなくなりましたね。会社内では、そこまで温度差は感じないとのことでしたが、日本経済全体に関してはどうですか?

浅野:「なんというか立場が逆で、こちらではロックダウンされながらも仕事に対する喜びを感じながらやっています。一方、日本では危ないと言いつつ、ふわふわしながら続けているように思います。政府の対応を見ても、なんとか経済活動を維持しているのかと思ったら、どうもなあなあでやっているようですし……。ただ、初めは日本のほうが危機感を持っていて、こちらのほうが呑気だったんです。それが、日本は今こそ騒ぐべき状況なはずなのに、呑気。SNSでも知り合いが花見をやっている様子とか見ますし」

??危ないと思っているはずなのに、行動が伴ってないと。

浅野:「『なんか危ないよねー』みたいな人ごと感に疑問を感じます。何を考えているのかよくわからない。対応しているのかしてないのか、危ないと思っているのか思っていないのか。本当に危ないとわかったうえで仕事をしているなら、いいと思うんですけど」

<取材・文/林 泰人>

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

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