安倍政権が「経済重視」なら、即刻条件なしの現金給付をすべきこれだけの理由

安倍政権が「経済重視」なら、即刻条件なしの現金給付をすべきこれだけの理由

黒田東彦日銀総裁(右)は「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」と強調するが「期間は不確実」と煮え切らない

◆世界が迅速に国民生活を支援する経済対策を打っているのに……

 迅速な経済対策が各国で行われるなか、わが国の施策は遅々として進まない。長年のデフレを直撃した形になったため、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の猛威はすでに日本人の生活を脅かし始めている。感染の恐怖もさることながら、外出自粛要請による経済の落ち込みが深刻だ。

 このコロナ不況は、すでに世界中を襲っており、諸外国の政府は国民生活を下支えすべく、緊急経済対策を打ち出している。アメリカは総額でGDP比1割の220兆円、ドイツにいたっては同2割に達する90兆円の巨額のパッケージを3月中に発表したほどだ。

◆スピードと経済対策を打つポイントこそが重要なのに……

 一方、日本では4月1日に安倍晋三総理が「かつてない規模の緊急経済対策をとりまとめる」と表明。3日には所得減を条件に一世帯当たり30万円の支給を決めた。

 当初、この対策の柱として検討されていたのは、企業への資金繰り支援として40兆円超を充当し、現金給付やクーポン券の発行を組み合わせた約10兆円に達する給付措置。実現すれば、これらを含めた総額は60兆円に及ぶ。リーマンショック後の経済の大混乱を受けて、麻生太郎政権が’09年4月に発動した緊急経済対策56.8兆円を超える規模となる。

 だが、マクロ経済学の研究者である井上智洋氏によれば、今回の危機では、スピードと対策を打つポイントこそが重要であり、この点で与党の方針は落第点。井上氏が最優先とするのは、「国民全員への早急な現金給付」だ。

「政府は、コロナの影響で収入が減った世帯を対象に30万円の給付を検討していますが、その際に所得の減少を示す資料を提出させるようです。こんなやり方をすれば、当然給付までに時間がかかります。その間に、人々の暮らしはどんどん苦しくなっていくし、消費が減ることによって景気もさらに落ち込んでいきます。国民生活の安定と景気刺激の両面において、時間との勝負なんです」

 各国政府における国民への給付方針は、記事最後で表にまとめているが、韓国やアメリカのように、前年度に申告した所得で対象者を絞るのも問題が残る。例えば年収500万円でラインを引けば、501万円の人はもらえないことになってしまう。たった1万円の差で天国と地獄なのである。

「金持ちに配ることに難色を示す人がいますが、給付金を課税所得に含めることにすれば、所得税の最高税率は45%なので、富裕層からはその分返金してもらうことができます。給付金はいらないから、減税だけでいいという人もいますが、そういう人たちは失業して収入がない人のことが頭にない。いまやるべきは、より迅速に、国民全員に現金を配ることです」

◆コロナ禍に抗え!

 ここで問題になるのが、カネの出どころだろう。仮に国民全員に10万円を配るとしても、約12兆6000億円が必要になる。国債や借入金を合計した“国の借金”が1000兆円を超えている状況で、果たしてそんなカネを用意できるのだろうか。

「また国債を発行すればいいだけです。どうせその国債を日銀が買い入れるので、日銀がお金を刷って国民に配っているのと同じことになります。こういう政策は、空からヘリコプターでお金を降らせることを想起するため『ヘリコプターマネー』ともいわれますが、日本では前例があります。’09年にリーマンショックの緊急経済対策として『定額給付金』が国民1人あたり1万2000円配られていますから」

 この定額給付金は、当時首相だった麻生太郎財務相みずからが「二度と同じ失敗はしたくない」と泣き言を漏らすほど効果を上げられなかったいわくつきの政策だ。

「あれが景気刺激策にならなかったというのは、金額の少なさこそが問題。30万円だったらそのうちの何割かは消費に回るでしょう。つまり、給付をして消費が十分増えなかったら、もっと給付すればいいだけのことです」

◆20万円をバラ撒いてもインフレの心配はなし

 ただ、世の中に出回るお金の量が増えれば、モノやサービスの値段が暴騰するインフレが懸念される。ヘリコプターマネーとインフレの関係について長らく研究を進めている、経済評論家の小野盛司氏に話を聞いた。

 今回のコロナ危機に及んで20万円の給付を主張している小野氏は、日本経済新聞社が提供している経済分析ツールである「NEEDS日本経済モデル」を使い、国民1人当たり20万円、総額25.2兆円を配ることによる経済効果をこう試算している。

「1年後には名目GDPが12兆円、実質GDPが14兆円増えますが、消費者物価指数の伸びはわずか0.1ポイント、長期金利もたった0.03ポイントしか増加しません。よく批判されるハイパーインフレや国債の暴落のリスクはほぼないことが実証できました」

 まとまったお金を配ることで、GDP増加という直接的な影響に加えて、国民の精神的な部分へのプラスも期待できると小野氏は言う。

「将来を不安に思い、節約や貯蓄に励むデフレマインドからの脱却こそが、いまの日本人には必要なんです。日本経済はここ20年以上にわたってデフレが続く“病気”の状態でしたが、医者である日本政府は、そんな患者さんをほったらかしにしていたんです。医者なら薬を出して様子を見ますよね。その最初の“薬”にあたるのが、この20万円なんですよ」

 また、この実験が成果を収めれば、ゆくゆくは毎月国民全員に所得保証として一定額の現金を支給する制度「ベーシックインカム」に繋がる可能性もあるという。

「仕事は嫌だけれども、生活のためにやむなく働くのではなく、国民それぞれが本当にやりたい仕事をやってもらう。そのために、生活費を国家が配る社会が理想でしょう。もちろん少子化問題にもプラスに働く。若者が結婚しない理由は、経済的な将来不安。非正規職の人は結婚したくてもできませんからね。ある程度、生活が保証されるようになれば、婚姻が増え、子供も生まれると思いますよ」

 小野氏によると、野党議員時代の菅義偉氏と安倍晋三氏は、「政府紙幣及び無利子国債の発行を検討する議員連盟」を発足させていた。菅氏にいたっては、’09年2月1日のフジテレビの政治討論番組『報道2001』で「政府紙幣を発行し、国民一人当たり20万円を配る」と発言していたという。総理と官房長官の要職に就いているいま、有言実行を果たしていただきたい。

◆線引きが曖昧な日本の限定的給付

▼主な国の新型コロナ経済対策(’20年4月3日現在)

・韓国 生活支援 8.5万円を給付

月収712万ウォン(63.2万円)以下の1400万世帯が対象。1人世帯は40万ウォン(3.5万円)、4人以上世帯に100万ウォン(8.5万円)給付

・アメリカ 生活支援 13万円を給付

年収7.5万ドル(818万円)以下の大人1人に最大1200ドル(13万円)、子供1人につき500ドル(5.4万円)を給付

・香港 生活支援 14万円を給付

18歳以上の永住権を持つ住民全員に1万香港ドル(14万円)を給付

・シンガポール 生活支援 6.8万円を給付

21歳以上の国民に、所得に応じて最大900シンガポールドル(6.8万円)、子供1人につき300シンガポールドル(2.3万円)給付

・イタリア 休業補償 7万円を給付

自営業者、観光関連の季節労働者、観劇関連の労働者、農業従事者などに対し、600ユーロ(7万円)の給付金を最長で3か月付与

・イギリス 休業補償 所得の80%を給付

休業を余儀なくされる個人事業主380万人を対象に、月額2500ポンド(33.4万円)を上限にして所得の8割まで給付

・カナダ 休業補償 15万円給付

コロナの影響を受けて仕事や収入を失った人すべてに対して、月額2000カナダドル(15.2万円)を最大4か月にわたって給付

・ドイツ 休業補償 最大105万円を給付

個人事業主約300万人および、個人のアーティストを対象として、最大9000ユーロ(105万円)を給付

・日本 生活支援? 30万円?

所得が大きく減少し日常生活に支障を来している世帯への限定的現金給付30万円、個人事業主に対する数兆円規模の助成金を検討中

※各国の経済対策は多岐にわたっているが、その中から特に個人に対する現金給付策等の状況をピックアップした(SPA!調べ)

【井上智洋氏】

駒澤大学経済学部准教授。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論。著書に『ヘリコプターマネー』(日本経済新聞出版社)など多数

【小野盛司氏】

「日本経済復活の会」会長。理学博士。著書に『「資本主義社会」から「解放主義社会」へ』(創英社/三省堂書店)など

<取材・文/福田晃広・野中ツトム(清談社) 写真/時事通信社 PIXTA>

※週刊SPA!4月7日発売号より

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