コロナ緊急事態が続く日本と、収束に近づくマレーシア。どこで差がついたのか?

コロナ緊急事態が続く日本と、収束に近づくマレーシア。どこで差がついたのか?

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◆国や地域によって、感染者数・死者数はまったく違う

 世界中に蔓延している新型コロナウイルス。3月頃からわかってきたのは、国や地域によりその感染者数や死者数にばらつきがあるということだ。

 たとえば外務省のウェブサイトによれば、アメリカは5月5日時点で117万1770人(累計)が感染した一方で、モンゴルの感染者数はわずかに41人。さらに死者はゼロ。モンゴルは人口3億3000万人のアメリカの100分の1(約320万人)しかいないが、人口比でみても非常に少ない。

 これは、おそらくモンゴルが出入国禁止を徹底させているからだ。モンゴルだけではなく、その国がコロナの収束に向けてどれくらい本気かによって、これら数字は横ばいに、そして下降線をたどる。

 本稿では、筆者の多くの知人がいるマレーシアの事例を紹介したい。マレーシアでは3月18日から全土がロックダウンされたが、5月4日に経済分野に関してのみ再開することになった。これはひとえに、徹底したロックダウンと補償の両輪で対策に当たってきたからだ。

◆コロナ収束に近づいているマレーシアの対応とは!?

 まず、具体的な数字から紹介する。5月4日の日本での新規感染者数は218人。対してマレーシアでは55人。死者は日本18人、マレーシア0人だ。

 これは、人口約1億2700万人の日本と約3200万人のマレーシアの人口比約4倍で比べても、日本がマレーシアよりも感染が進んでいることを示す。2月からの感染者数と死者数とをグラフにしてわかったことは、マレーシアでは4月上旬に入ってから収束を予測させる動きに入ったことだ。

 現地では今どんな対策が採られているのか。マレーシアの知人たちとSNSでやりとりすると、いろいろなことがわかってきた。

 まず、誰もが共通して口にする「Just stay at home(家にいるだけだよ)」。マレーシアでは、3月16日、ムヒディン首相が全土での「活動制限令」施行を発表した。つまりロックダウンを宣言したのだ。

 3月1日に首相に就任したばかりのムヒディン氏は、「我々は他国で短い間に数万人が感染する状況を目の当たりにした。国民が同様の事態を目にすることは望まない」との声明を出した。これはポーズではなく、本気だった。

◆外出した違反者は逮捕、罰金刑や禁固刑も

 翌々日からマレーシアは鎖国(出入国禁止)状態になり、国内でも地域外への移動が禁止された。この時点で、同国での累計発症者数は566人。同じ日の日本は794人だった。サラワク州ミリ市在住のパヤ・イマン(仮名・女性)はこう語る。

「3月18日以降、移動が許されたのはドライブスルー、テイクアウト、デリバリーなどでの食糧確保と、商店での買い物と通院だけ。買い物で外出できるのは一家族一人だけ。私はクリスチャンだけど、教会のミサも禁止。イスラム教徒の金曜礼拝もダメ。葬式だって大人数はダメ。

 外出違反者には1000リンギ(約2万5000円)未満か禁固6か月以内という罰則がかけられるの。実際、道路では警察と軍が検問しているから、外出するなんて気は起きないけど」

 実際、外出による逮捕者は毎日いるという。3月30日には742人が逮捕され、うち165人が起訴された。外国人にも容赦はない。3月27日には首都クアラルンプールで、警察の帰宅警告を無視してジョギングをしていた日本人4人を含む11人の外国人が逮捕されている。ただし、これらについては「コロナ対策を理由として、警察権力が市民の自由を強制的に奪うことが許されていいのか」という批判もある。

◆収入に応じた一時給付金と、低所得者への半年にわたる補償を開始

 パヤは公立小学校の教師だ。小学校、中学校、高校など大学入学前の教育機関もすべて5月12日まで閉鎖の予定となっている(これまでロックダウンの期限は、当初の3月31日から2週間ずつ延期され続けている)。教師たちは今、生徒たちのスマホに向けてオンライン授業を行い、宿題を出す毎日だ。

 教師だけではない。同国では、必要最低限のインフラ関連(水光熱、金融、郵便、消防、薬局、放送、清掃や食品供給など)を除いたすべての政府機関と民間企業も閉鎖された。そこで気になるのは、国民への補償だ。完全とまでは言えずとも、マレーシアは「一時給付金」と「低所得者への半年にわたる補償」を始めた。

 まず、一時給付金について。これは収入に応じて以下の支払いとなっている。

●月収4000リンギ(約10万円)以下の世帯には1600リンギ(4万円)の支給。

●月収4001〜8000リンギの世帯には1000リンギ(2万5000円)の支給。

●月収2000リンギ以下の独身者には800リンギ(2万円)の支給。

●月収2001〜4000リンギの独身者には500リンギ(1万2500円)の支給。

 

 マレーシアの物価は日本のおよそ4分の1なので、なかなかバカにできない金額だ。政府がこの現金給付を開始したのは4月6日。パヤの夫は銀行員をしているが、その日「すごい数の人が窓口に申請に来た」と振り返る。これが「活動制限令」の発令からわずか3週間後にできたのだ。

◆補助金支給のほか、必要最低限の食糧配布も

 パヤは今、街で暮らしているが、もともとは奥地の森にある小さな村の出身だ。そこでは自給自足的な農業に加え、森の産物(果物や野生動物など)を現金収入にすることで生活を維持している。コロナ感染者がゼロである森の住民に対しても、政府の対策は対等だ。

「出身地の森の村では、独身者はみんな低収入。だから、一律800リンギをもらうみたい」(パヤ)

 マレーシア政府は次のような措置も講じている。コロナの影響で50%以上の減収がある会社で働く月給4000リンギ(10万円)以下の社員には、不十分ではあるが毎月600リンギ(1万5000円)の賃金補助金(休業補償)を最長で半年間支給する。

 そして、会社がその分の減俸などをしないように、マレーシアの「人的資源省」は先手を打った。企業に向けて、「この賃金補助の受給期間は、会社は被雇用者を解雇しないこと。減俸しないこと」といった対応マニュアルを発表したのだ。

 さらに、サラワク州(人口約230万人)政府は各世帯に必要最低限の食糧の配布も始めた。パヤが筆者に送ってくれたその画像には、米、即席麺、クラッカー、砂糖、コーヒーなどが写っている。州政府はそれを、パヤの出身地もある奥地の村々にも、ヘリコプター、車、フェリーなどを総動員して運んでいる。

◆4月初めはほぼ変わらなかった日本とマレーシアの感染者数。1か月後には明白な差が

 ツイッターで、在マレーシアの日本人から以下の情報が入ってきた。そのほかにもこんな対応策がとられているという。

●家計や企業が支払う電気料金は9月まで一律で2%割引きになる。

●銀行ローンが半年間支払い猶予される。

●中小企業の法人税の3か月の支払い猶予など。

そのうちの一人はこう投稿している。

「政府が本気でコロナ終息に取り組むのを現地にいて感じます。本来的には『国民』を守るためのマレーシア政府の努力や現地企業の犠牲を『外国人』である自分が享受していることを忘れず、感謝してstay homeを遵守します」

 果たして、マレーシアでは、4月上旬に入ってからロックダウンと生活保証の成果が見えてきた。4月5日時点で、感染者は累計3483人に対し死者は累計53人を記録している。これは、日本の感染者3271人と死者70人という数字とあまり変わらない。

 だが、両国の数は5月4日になると違ってくる。マレーシアの累計感染者6353人に対して、日本は1万4895人と倍以上の数となる。死者も、マレーシアの累計105人に対して日本は510人。約5倍になっている。

 これを日毎のデータで見ても、マレーシアでは4月17日以降、新規感染者は2ケタに落ち、死者に至っては4月2日以降で5人以下。ゼロを記録する日もある。対して日本では、新規感染者は4月に入ってからずっと3ケタの数字が並ぶ(最高は4月11日の656人)。死者については、4月13日まではずっと1ケタだったのが、14日からは2ケタが続いている。

 日本が何もしていないわけではないが、マレーシアの取り組みからは、日本の「後手後手」の対策とは真逆の「先手先手」の対策が見えてくる。

◆外出禁止と低所得者への補償がセットでなければ効果は出ない

 とはいえ、マレーシア国民にも不満がないわけではない。会社に所属しない日雇い労働者は失業状態にいるし、中小企業へのコロナ対策の融資は手厚いとはいえ、新たな借金を背負うことで倒産を意識する経営者もいる。

 また前述の月600リンギの賃金補助は対象者が限られるので、企業は減給や解雇に踏み切ると予測される。マレーシア国立銀行は「失業率は昨年の3.3%から今年は4%に増加する」と見込んでいる。

 それでも、筆者が現地住民とのSNSでのやりとりで感じるのは、「落ち着いている」ということだ。どの知人に尋ねても「ずっと家にいるのはきついけど、モノがなくなったわけじゃない。今は落ち着いて行動し、最低限の生活を維持することだけ考えたい。もう少しの我慢です」と、淡々と答えてくれた。

 休業補償については完全な対策とは言えないが(日本よりはマシ)、それでもマレーシアではコロナ収束への可能性が見えてきた。やはり、強制力のある外出禁止と低所得者への補償は、セットでなければと改めて考えさせられたのだ。

<文/樫田秀樹 写真/パヤ・イマン>

【樫田秀樹】

かしだひでき●Twitter ID:@kashidahideki。フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。

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