遅すぎセコすぎ煩雑すぎの「安倍コロナ経済対策」では、沈みゆく日本経済を救えない

遅すぎセコすぎ煩雑すぎの「安倍コロナ経済対策」では、沈みゆく日本経済を救えない

imageteam / PIXTA(ピクスタ)

◆緊急事態宣言解除も、経済の緊急事態は終わらない

 全都道府県に出されていた緊急事態宣言が解かれた。

 新規の感染者は確実に減った。これは全国民と中小零細企業に至るまでの自粛の成果である。国民と企業は、経済よりも命を優先させた。中国に続き、欧米での医療崩壊で毎日積み上がっていく新規感染者と死者の数に慄いた。日本の高齢化、安倍政権で確実に進んだ医療現場のリストラの現実を考えると、日本はガソリンが壊れた場所のようだった。火が点いたら終わりなのだ。だから、政治家に言われる前に、徹底的な自粛をしなければオーバーシュートすることは誰の目にも明らかだった。

 さらに、知見のある専門家の解説も十分に聞いた。そして、いろんな政府側の専門家委員会以外にも様々な考えがあることを知り、声をあげた。今の日本では欧米や韓国、台湾では当たり前の、検査と隔離も不十分だと知った。最新のテクノロジーが使えないのだ。だから、原始的な方法ではあるものの、徹底的な巣篭もりと手洗い、ソーシャルディスタンスの確保、そして、できうる限りの消毒とマスク着用を国民全員が2月下旬から3か月も徹底した。

 緊急事態宣言にそのものによる自粛は東京など首都圏で2か月弱だったが、実質は2月24日の首相の大規模イベント自粛要請から始まったと言える。つまり、自粛はすでに3か月以上に及んでいるのである。

 今は、長期の自粛効果と夏期の高温多湿化でウィルスの感染力も落ちているものの、この秋にも再び第二波に日本が襲われる可能性も十分にあるとされる新型コロナウィルス。やっと緊急事態宣言は解除されたが、経済の緊急事態は深刻さをさらに増している。

◆メッキが剥がれた「アベノミクス」

 それでなくても、日本経済は昨年秋に消費増税を安倍政権が強行してしまったために、2019年10−12月の日本経済は、GDPが年率マイナス7.3%で落ち込むという非常事態に既になっていた。さらに、2020年1−3月期は消費増税の落ち込みから立ち直っていないところに、3月からは新型コロナウイルスの影響も出始めてしまい、2期連続のマイナス成長、年率マイナス3.4%(速報値)という値を出してしまった。もちろん、この4−6月期はさらに大幅なマイナス成長が確実視されている。さらに7−9月期に経済のV字回復を見込む専門家は少ない。

 つまり、安倍政権はその7年目で、日本経済を4半期、つまり1年を通してマイナス成長にしてしまったのだ。そこに、さらに暗雲が立ち込めてきた。報道によると、この10月にはIOC(国際オリンピック委員会)が来年2021年に延期された夏の東京オリンピックの開催の可否を決める可能性が浮上している。首相をはじめ日本側から2021年夏以降の延期はないと申し入れがあったともされている。なぜ、新型コロナウィルスが欧米で猛威を振るう最中、まだ世界的な蔓延の行く末の不透明な3月の時点で拙速に延期の日程まで決めてしまったのかは理解できない。日本にとって、もはや東京オリンピック・パラリンピックの中止は受け入れられないはずなのだ。だから、まともな政治家なら、2020年夏の延期は受け入れて、延期の期日は新型コロナウィルス の状況を見ながらIOCと協議の上で決めるとしておけば良かったはずである。

 東京オリンピック2020は、当初のプレゼンテーションにあったような、費用を抑えたコンパクトな五輪ではなくなっている。7000億円の当初予算はすでに3兆円を超えている。この投資に見合った大会だったと国民に納得してもらう必要がある。大会そのものの評価だけでない、これだけ巨費を投じた国家プロジェクトとして経済的な効果もあったとされなければならないはずだ。

 10月に東京オリンピックの中止が決定するようなことがあると、開催を見込んで投資をしてきた企業などにも多大な損失を確定させてしまうことになる。新型コロナウィルス だけでも戦後最悪の経済状態と言われているのに、それに加えて東京五輪中止ショックが重なったりでもしたら、企業も消費者も今年だけでなく、2021年の日本経済に対しても悲観的になるだろう。

 日本は新型コロナウィルスによるマイナスと、早急に延期の日程を決めたために追い込まれる東京五輪中止によるマイナスの経済に対する大きな2つのマイナス効果が同時期に重なり合って、まるでドップラー効果のように、日本経済の足を大きく引っ張る可能性が出てきた。下手をすると大きく底割れしかねない。

◆個人消費活性化のために必要なこと

 IMF(国際通貨基金)は今年の世界全体の経済成長の予測をマイナス3%と予測している。12年前の2008年に世界経済を震撼させたリーマンショックの時でさえ、マイナス0.1%でしかなかったのだ。この75年の第二次世界大戦後の世界が経験したことのないマイナス成長となるわけで、世界経済は今後数年に渡って影響の残る深刻な景気後退に見舞われる可能性が強い。そして、その筆頭の国が日本経済になってしまう。

 過去20年以上、日本は景気低迷の時に常に輸出ドライブで回復を計ってきた。米国や中国など好調な経済に引っ張りあげてもらい景気浮揚を実現してきた。かつては、不景気から日本を回復させたものに個人消費もあった。しかし、1992年にバブル経済が破綻した後からは、日本は個人消費による回復力が弱くなってしまい自律的な景気回復が困難な国になってしまった。世界全体が落ち込む中、何としても日本自身で立ち上がることが必要だ。政府による財政出動だけに頼るのでは限界がある。今一度、落ち込んでしまった個人消費に日本経済復興の一翼を担ってもらう必要があるのだ。それは、モノを買う能力のある人には積極的に財布を開いてモノやサービスを買ってもらうことだ。

 高齢化社会の進んでしまった日本でもっとも購買力のあるのはシニアの富裕層である。平成29年の内閣府の発表によると、世帯主が60歳以上の家庭で4000万円以上の貯蓄を持ってる世帯は18.2%、2000万円以上持ってる世帯は22.9%となってる。つまり、41.1%の世帯が2000万円以上の貯蓄がある。

 2019年の6月に年金2000万円問題が沸き起こったのを覚えておられるだろうか? 2000万円も資産を作るのは無理だと多くの現役世代が将来の不安を抱えていた時に、60歳以上の4割以上の人は、2000万円ならある、と通帳を確認していたのである。さらに、この世代は持ち家率も84%と高い(65歳以上の世帯)。そのため、経済的な暮らし向きについて心配ないと64.6%の人が思ってる。ただし、最近はシニアの貧困も大きな社会問題になっているのも事実だ。格差の問題はすでに所得が限られているシニアの層はより深刻である。しかし、カネを持ってるのは、確実にここにいるのである。

 日本経済を救うために必要な個人消費での経済の下支えをこの人たちに担ってもらいたい。どうしたら、使ってもらえるか? この連載では、すでに何回か述べたが、私は現在税率10%の消費税の一時的な凍結を提案したい。さらに、前倒しで使えば使うほど得するように、日常生活で使うような、食品や日用品(高級品を除く)、医療費や光熱費、教育関連などはそのまま凍結しつつも、それ以外の不要不急の商品に対する消費税は毎年2%上げていくと言う形を取ればいい。贅沢品は10%でなく20%くらいまで消費税をあげてしまえばいい。こうして、お金を持ってる人に、遺産として残すよりも使って人生を楽しんでもらうのだ。

◆一事が万事遅すぎて、本気を感じない安倍政権の経済支援策

 もちろん、消費税を下げるだけでは国民を救うことができない。これから顕在化する失業者にどう対応するかが大切だ。アメリカの失業者は4月に14.7%となった。コロナウィルス の影響がすでに出ていた3月で4.4%だったから戦後最悪だと言われてもおかしくない。日本はどうだろう。3月の完全失業率は2.5%で人数は167万人だ。それが失業者数は300万人超えの可能性が出てきている。失業率は6%まで上がるとされている。働くことを諦めてしまった隠れ失業者も含めると失業率は12%前後にまで跳ね上がる可能性がある。この緊急事態に十分な経済支援が必要なのは言うまでもない。

 特に今回は、飲食業や観光業、エンタメなどへの打撃が強い。非正規で働く人の割合が多く、通常の収入も決して高くない人を直撃しているのだ。このまま放置すれば、街にはホームレスが溢れる。大学生は学費が払えなくなり退学者が続出するだろう。

 兎にも角にも、安倍政権のコロナ対策は、遅い、申請が複雑、対象者を絞り込みすぎ、金額が少なすぎるのだ。

 例えば、フリーランスや個人事業主を一時的でも救済するはずの「持続化給付金」について、安倍首相は5月21日に「最大200万円の持続化給付金も、何よりもスピードを重視し、入金開始から10日余りで、40万件を超える中小企業・小規模事業者の皆様に対して5000億円お届けをしております」と胸を張ったが、1月に国内感染者が出て経済に影響が出始めたのに申込開始は5月に入ってから。さらにすでに40万件支給したというが、申し込み者は90万件を超えている。 50万件払えていないことに配慮がない。

 政府からの振込が月末を越せば、決済に間に合わなく、倒産する会社も出てくるのは必須だ。遅すぎるのである。さらに持続化給付金は、ネットでの申請に限ってしまったので、ネット環境のない個人事業主や小規模事業者などは、どうやって申し込むこともできないのだ。実は、申請サポートセンターが開設されており(ただし、驚くほど待たされるのが現状)そこで申し込むこともできるのだが、そのPRをネットで行う。まるで、外国人向けの初級日本語講習の生徒募集を日本国内で漢字だらけのポスターで宣伝するようなものである。

◆学生への支援金も実際は一部だけ

 大学、大学院、短大、専門学校などで学ぶものの経済環境は厳しい。日本の大学生の今や半数以上が何らかの奨学金を利用しているのが現状だ。学費を払うためにアルバイトをしている学生も少なくない。しかし、コロナウイルスによる大学キャンパスはロックダウン状態で、アルバイトは解雇で収入は途絶えてしまった。多くの大学生などから、学費の半額免除を求める声が上がるのも当然だ。そんな学生の窮状を救うと期待されたのが「学生支援緊急給付金」で10万円、住民税非課税世帯の学生の場合は20万円の支給があるとされた。金額は少ないが、急場は凌げるだろうと思っていた。その内容が明らかになるにつれて諦め感が強まっている。

 最初に問題にされたのが外国人留学生に関して成績上位3割までを対象とするとして、給付を学業で絞るのかと批判を浴びた。ところが、さらに調べていくと、この給付金は、日本人学生も徹底的に対象者を絞り込むことが明らかになった。日本の大学生の学生数はおおよそ290万人、専門学校には60万人が学ぶ。これに加えて、日本語学校や高専などの学生などもいるわけだ。ところが、今回の給付金の対象者は43万人で予算も530億円となっている。つまり、10万円もらえる人が33万人、20万もらえる人は10万人ということである。350万人以上の学生のうち、もらえるのは1割程度ということだ。これでは退学者が続出するだろう。大学経営も疲弊する。人材で国の繁栄を築いてきた日本の将来に対して安倍政権はどう考えているのだろうか?

 もちろん、この3か月の間、ステイホームで感染拡大を阻止してきた国民の多くも困窮している。一律10万円の特別定額給付金も予想通りに5月中に手にした人はごく限られた人だ。このタイミングでマイナンバーカードの普及も推進したいと、小賢しいことも考えるから、支給手続きの事務作業をする各地方の自治体の現場が大混乱しているのはご存知の通りだ。

 もっとシンプルに、もっと早く、安心してコロナウィルスに立ち向かう経済的な裏付けを国民に支給することを、政府は徹底して行うべきなのである。

<文/佐藤治彦>

【佐藤治彦】

さとうはるひこ●経済評論家、ジャーナリスト。1961年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。著書に『年収300万~700万円 普通の人がケチらず貯まるお金の話』(扶桑社新書)、『年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』 (扶桑社文庫・扶桑社新書)、『しあわせとお金の距離について』(晶文社)、『お金が増える不思議なお金の話ーケチらないで暮らすと、なぜか豊かになる20のこと』(方丈社)、『日経新聞を「早読み」する技術』 (PHPビジネス新書)、『使い捨て店長』(洋泉社新書)

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