現金を受け取った関係者はなぜ相次いで暴露してるのか? 河井前法相夫妻逮捕から見る「囚人のジレンマ」

現金を受け取った関係者はなぜ相次いで暴露してるのか? 河井前法相夫妻逮捕から見る「囚人のジレンマ」

河井案里の選挙演説を渾身の応援をしていた安倍総理 写真は河井克行前法相のFacebookより

 自民党の河井前法相夫妻が地元の議員ら約100名に約2500万円を提供したとして公職選挙法違反の容疑がかけられ逮捕された。事の発端は、週刊文春で掲載された公職選挙法違反の疑惑だ。本人は否定したものの、その後、複数の議員が現金を受け取ったことを打ち明け始めた。なかには、「2人だけの秘密だよ」と伝えて渡された議員や、ポケット・鞄に現金をねじ込まれた議員もいたそうだ。

 

◆悪行で相手を支配下に

 もしかしたら表に出てこないだけで、実はこのような行為はいたるところで横行しているのかもしれない。主体的だろうと強制的だろうと一度悪い行為に加担させられてしまうと相手に弱みを握られることになり、相手からのお願いを断れなくなって、どんどん泥沼へハマっていく。いつの間にか、両足についた泥が重くて逃げられなくなってしまう。

 相手から「YES」を引き出す心理テクニックの「フット・イン・ザ・ドア」(小さいお願いを相手に承諾させて、そこから、だんだん要求を高くしていく。最後に本来自分が相手に望んでいたことを承諾させる)の応用のような手法だ。小さくても相手を悪行へ加担させることで、相手を自分の支配下に置くことができる。

◆「囚人のジレンマ」の仕組み

 しかし、このような信頼ではなく恐怖によって支えられる人間関係は必ず裏切られる。それを解説したのが、ゲーム理論で有名な「囚人のジレンマ」である。囚人のジレンマとは、以下の例で有名である。

 2人の泥棒AとBが逮捕されたが、証拠が少ないため起訴できないでいた。検察官は泥棒に自白をさせるため、泥棒を2部屋にわけて別々に事情聴取をする。そして、検察官はAとBに順番に以下のように伝える。

 「もし、お前が先に白状すれば、お前の罪を許してやる。しかし、お前の相棒が先に白状すればお前だけが重罪になる。2人とも黙秘を通せば軽い罰で済むかもしれないが、2人とも白状すれば2人とも重罪となる。」

 まとめると以下のようになる。

 A(自白) = 無罪 / B(黙秘) = 重罪

 B(自白) = 無罪 / A(黙秘) = 重罪

 A(自白) = 重罪 / B(自白) = 重罪

 B(黙秘) = 軽罪 / A(黙秘) = 軽罪

◆自白するか黙秘するか、どちらが得?

 2人の泥棒は、もう一方の出方を予想しながら、自分の行動を選択する必要がある。相手を裏切って自白してしまえば、自分は無罪になることができる。自分が黙秘をしても、相手に裏切られたら自分だけが重罪になってしまう。

 しかし、自分が自白したとしても、相手も自白していたら、2人ともが重罪になってしまう。2人にとっての賢い選択は両者が黙秘をして罪を軽くすることだが、相手が自分だけの利益を考えた場合には自白することが自分だけの利益を最大にできる手なので、相手が黙秘してくれるか不安は残る。

 合理的に考えると、自ら自白したほうが自分にとっての利益を最大化することができる。しかし、両者が自白し続けることができるのならば、協力して自白したほうが2人とっての利益を最大化することができるのだ。

◆河井議員は氷山の一角か

 このような、囚人のジレンマのモデルは、家電量販店の価格競争や出店戦略など、現実世界のいたるところで適用することができる。

 今回の事件も同じような状況だ。事が発覚する前は両者が黙秘を続けていた。それは、どちらが自白してもメリットがないため、両者が黙秘を続けることが将来的に見込まれているので、最適な手だった。

 しかし本来、このような駆け引きにおいては、相手より先に自白してしまうことが合理的な戦略だ。相手が将来的に自白してしまうかもしれない状況においては、先に自白してしまうのが合理的であり、実際に多くの議員が自白をしている。今後も、次々と自白する議員が増えていくだろう。

 今回の事件は、もしかしたら氷山の一角なのかもしれない。今回明るみになったのは、河井議員の関係者に限った問題だけだ。もしかしたら、ほかの議員の間でもお互いが黙秘を続けることで絶妙なバランスを保っている関係があるのかもしれない。

【参考資料】

『仕事に使えるゲーム理論』ジェームズ・ミラー

<文/山本マサヤ>

【山本マサヤ】

心理戦略コンサルタント。著書に『トップ2%の天才が使っている「人を操る」最強の心理術』がある。MENSA会員。心理学を使って「人・企業の可能性を広げる」ためのコンサルティングやセミナーを各所で開催中。

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