コロナで帰国できずに生体験したポーランド大統領選。一票の重みと日本での報道の異常さ

コロナで帰国できずに生体験したポーランド大統領選。一票の重みと日本での報道の異常さ

コロナで帰国できずに生体験したポーランド大統領選。一票の重みと日本での報道の異常さの画像

 6月28日、ポーランドで大統領選挙が行われた。結果は与党「法と正義」の現職、アンジェイ・ドゥダ氏が最多得票を獲得したものの、過半数は得られず。最大野党「市民プラットフォーム」のラファウ・チャスコフスキ氏と7月12日に行われる決選投票にもつれ込むこととなった。

◆戦いの行方は7月の決選投票に

「最多得票なのに、なぜ2回目の投票?」と思うかもしれないが、ポーランドの大統領選では、単独で過半数を得られなかった場合、2番目に得票数が多かった候補と「決選投票」が行われる仕組みになっている。

 つまり、野党間で分散した票が集まって2位が逆転勝利をしたり、反対に1位がしっかりと国民の支持を固め、晴れて大統領に……ということが起こりうるわけだ。

 筆者はコロナウイルスの影響で2月より同国に滞在しているが、極めて低い得票率で、さらにその一部の支持を得るだけで国政を動かせる仕組みよりは、有権者がはるかに「納得感」が得られるのではないかと感じた。

 たとえ自分が大統領に「なってほしい」候補者が落選しても、もう一度「なってほしくない」候補者を選べる仕組みとも言えるかもしれない。なんにせよ、自分が持つ「一票の重み」を感じやすいのではないだろうか。

 現職のドゥダ氏が所属する「法と正義」は、司法やメディアへの介入、妊娠中絶禁止法案やLGBTへの強硬姿勢を国内外から批判されてきた。しかし、キリスト教信仰の根強いポーランドにあって、与党として長年支持を集めてきたのも事実。他の候補者に投票しようという層の間でも「1位になることは承知のうえ」、という雰囲気が漂っていた。

 一方、結果的に2位になった「市民プラットフォーム」のチャスコフスキ氏はリベラルなワルシャワ市長として知られる候補者。ポーランド国内がコロナウイルスの猛威に晒されるなかで、大統領候補に急浮上してきた人物だ。

◆若者が選挙動向を逐一チェック

 そんななか、選挙当日はその仕組みだけでなく、有権者たちの意識の違いにもカルチャーショックを受けた。日本では投票率の低い20〜30代が公園ではスポーツに興じながら合間にスマホで、カフェではテレビを観ながら、選挙の動向を逐一追っている。

 筆者の友人(34歳)も選挙のあった週末にかけて他都市から泊まりに来ていたのだが、「投票に間に合うように」と車で1時間半かけて自宅へと帰っていった。

 また、投票期間中の報道も有権者の意欲を削ぐような「〇〇優位」というものではなく、あくまで投票率にフォーカスしていたのも新鮮だった。

「投票率は◯%だって」

「それ何時の時点?」

 こうした会話が街のかしこで同年代から聞こえてきたのは、初めての体験だった。

 こう言うと「意識高い系の若者が騒いでるだけ」と揶揄する声が出てきそうだが、18〜29歳の間でもっとも得票率が高かったのは、死刑制度復活や女性の地位低下などを訴えている極右のクシシュトフ・ボサク氏。単純に「リベラル対保守」「若年層対高齢者」と割り切れるものでもないのだ。

◆特定の政党を「愛国的」と報道する愚

 さて、そんなカルチャーショックを感じた筆者だが、同じように驚かされたのが、今回の選挙における日本での報道だ。そこでは単に選挙結果を報じるだけでなく、与党「法と正義」を紹介する際に、「愛国」なる文言が踊っていたのだ。(参照:日本経済新聞、毎日新聞、共同通信)

 そのほかにも「強権的」「国民主義的」などの形容詞が並ぶ報道が見られたが、単に選挙結果を報道する内容の記事で、いったい何をもって「愛国」という言葉を使っているのか、大きな疑問が浮かんだ。

 前述のとおり、2番目に票を集めたのは野党「市民プラットフォーム」の候補者だが、こちらは「愛国的」ではないのだろうか? そもそも、いったい何をもって与党は「愛国」的だと表現しているのか。謎は深まるばかり。

 例えばドイツのAfD(ドイツのための選択肢)が躍進したとき、極右と書いたメディアはあったが「愛国保守」と表現したメディアは見当たらなかった。フランスの国民連合(国民戦線)はどうだろうか? オーストリア自由党で検索しても「愛国保守政党」なる表現を用いた記事は見当たらなかった。

 

 無論、「法と正義」はEUからも前述したように度々注意されている極右ポピュリズム的な政党であるから、「極右政党」ならば理解できる。

 選挙結果、それも他国の選挙を報道するにあたって、日本のメディアが特定の政党を「愛国」という極めて曖昧かつ、読者を誘導するような表現を使っていることは、海外にいながらも、いやいるからこそ非常にショッキングで、強い違和感を覚えた。

◆対ロシアの政情にも影響必至

 今回の大統領選においては、得票率が格段に上がり決選投票までもつれたこと、前述のとおり若年層が極右候補を支持していたことが注目を集めた。決選投票までは約1か月あるが、リベラル票がチャスコフスキ氏に集まり、逆転勝利となるのか? それとも若年層が保守的な現職にそのままスライドするのか?

 コロナウイルスの影響も大きい。そもそも今回の大統領選は5月に行われるはずだったが、延期された経緯がある。ネット投票や郵便投票などの案も浮上したが、投票システムの変更によっても有利不利がわかれるため、こうして6月に行われることになったのだ。

 選挙直前には現職のドゥダ大統領がコロナウイルスによるパンデミック後、他国の首脳として初めてトランプ大統領を訪米した。その際には、在独米軍基地をポーランドに誘致することなどを表明している。こうした動向は対ロシアへの政情にも影響することは間違いない。

 筆者個人の感想としては、コロナウイルスの影響で他国の選挙戦を目の当たりにしたことで、都知事選や総選挙への見方も変わるのではないかと感じた。少なくとも、「この政党は愛国的」といった報道の仕方には、これまで以上に注意を払っていきたい。

<取材・文/林 泰人>

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

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