東大金融研究会随一の頭脳とゴールドマン・サックス出身コラムニストが考えるコロナ後の世界

東大金融研究会随一の頭脳とゴールドマン・サックス出身コラムニストが考えるコロナ後の世界

Gerd Altmann via Pixabay

◆新型コロナ感染のリスクを前提とした社会へと変化する

 新型コロナウイルスの猛威で世界中が経済活動の自粛を余儀なくされたが、先進諸国はようやく活動再開のフェーズへ。元ゴールドマン・サックスの金融コラムニスト・大空翔氏と、金融業界を志す現役東大生たちが鎬を削る東大金融研究会のなかでも随一の頭脳を持つ石川憧氏によるスペシャルオンライン対談を開催。パンデミック第2波のリスクもはらむ先行き不透明な未来を、金融エリートたちはどう見据えているのか――。

――新型コロナウイルスの感染拡大が収束に向かえば、世界経済は回復軌道に乗ると考えていいのでしょうか?

大空 ずっと巣ごもりを続けてきたので、その反動となる戻りの需要は見込めると思います。しかし、世の中の状況が完全に元通りになることはありえません。例えば、今までなら証券会社のアナリストは四半期ごと、あるいは半期ごとに欧米やアジアの投資家のもとを訪問していました。新型コロナ流行後はそれが取りやめになっていて、せいぜい電話でコンタクトを取る程度にとどまっている。感染が収束したとしても、すぐにアナリストが出張に赴くとは思えません。かつてと比べて、いろいろな意味で渡航のためのコストが高騰しているのです。

石川 僕も同感で、単純に元の状態に戻ることは期待できないと思います。常に第2波、第3波のリスクがあることが前提となっての経済活動になってしまいますから。具体的には、求人広告や飲食、小売り、旅行、空輸などは、依然として苦境が続くものと思われます。特に対面営業の業態は厳しいはず。旅行もインバウンドは当面の間、回復は難しそうです。

◆年の後半に見込まれる経済回復は一時的現象?

――日本経済の柱でもある製造業についてはどのような見通しですか?

大空 今回の新型コロナ騒動で、“非常時のコントロールは不可能”であることを痛感した各企業が、生産拠点を国外から国内へと回帰させる動きが見られます。各国の政策も内向きで、過去20年間の経済成長の道筋とは真逆になっていますね。これまで世界経済は4%台のGDP成長が可能だったのが、今後は3%とか2.5%といった水準が限界値となってきそうです。

石川 やはり、感染拡大の第2波、第3波が注視すべきポイントですね。中東で最も深刻な新型コロナ不況に陥っていたイランが性急に経済活動を再開したら、感染者数が再び激増してしまった例もあります。まずは中小企業の存続のためのサポートが必要不可欠になっていると思います。

大空 アナリストのなかでは先行きを楽観視する動きもありますが、これを信じてはいけません。例えば米国経済の成長率は第2四半期(4〜6月)にマイナス30%台まで落ち込むものの、第4四半期には20%まで回復するといった予想も出ていますが、これはあくまで前四半期と比較した数字にすぎません。’00年のITバブルの崩壊直後も対前四半期比では一時的に回復する局面が見られたものの、長続きはしなかった。前四半期との比較はまやかしの見方で、本来は前年同期比の推移で検証すべきです。

◆新型コロナで激変した環境で伸びる分野とは?

――株価のほうは経済活動の再開前から上昇してきましたが、期待が先行しすぎているのでしょうか?

大空 新型コロナで経済活動が止まる前から世の中はカネ余りになっていて、巨額の資金が金融市場に流入していました。すでに3年前の段階から、その巻き戻しが懸念されていたのです。今回の金融緩和は、そこにさらにモルヒネを打ったようなもの。だから、株価も上昇したわけです。ただし、投資家が金融市場全般に対して強気のスタンスで臨んでいるわけではありません。例えばハイイールド債(信用格付の低い企業が発行する社債)の推移を見ると、新型コロナ以前の水準までは戻り切れていない。信用力の低い投資対象には、やはり誰も全幅の信頼を寄せていないということです。

石川 経済への期待でいえば、新型コロナによって変化した環境のなかで逆に伸びる市場も出てくるはずです。したがって、その伸びる分野とは何かを想像する力がより一層投資家に求められていますね。ヒトやモノの物理的な流れは滞ってもデジタル情報のやりとりは増えていますし、ITや教育、医療、エンタメは自粛環境下で価値が再び見いだされました。個人的にこれらはまだ伸びる余地があると思っています。

大空 私が伸びると考えているのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)や5G(次世代通信規格)に関連した企業です。そのなかでも、勤怠管理システムやERP(統合基幹業務システム)といったリモートに対応できる分野は特に好調です。ただ残念ながら、日本でそれらを手掛けている企業はいずれも小粒。スモールキャップ(小型株)も株価のパフォーマンス的には妙味があるものの、潜在成長性は意外と高くないのが実情です。ゆくゆくはドイツのSAP社のように世界に向けてプラットフォームを提供している企業が強いでしょう。研究開発に費やせるコストもケタ違いです。

石川 特にDX関連においては、グローバルに展開しているかが勝負になりそうですよね。インフラを握らなければ勝機はありませんから。

大空 唯一、日本独自の展開で伸びる可能性を秘めているのはオンライン診療でしょう。まだ黎明期で規制緩和の動きにも左右されますが、成長性は極めて高い。こちらも個々の銘柄のスケールが小さいのが難点ですが……。

――懸念材料としては、どういったことが挙げられますか?

大空 経済活動の停止に対する救済策で国が投入した資金は、いずれ回収しなければなりません。日米とも所得税は引き上げられることになるでしょう。資金を回収できる国はまだマシで、イタリアやスペインのように財政が脆弱な国々は危機的状況に陥り、クラッシュ(財政破綻)さえしかねません。’10年に、ギリシャの莫大な財政赤字が明るみになったことをきっかけにしてユーロ危機が発生しましたが、ヘタすればその再来のような事態が起こります。しばらく欧州では、重苦しい状況が続きそうです。

石川 米中関係も懸念材料の一つですね。特に米国のトランプ大統領が先頭に立って叫んでいる“中国責任論≠ナ、再びギクシャクしていますから。

大空 昨年末に米中の貿易交渉が「第一段階の合意」に達しましたが、あれは中国側が妥協したからでした。しかし今は当時とは逆で、経済的には中国が強気に出られる情勢にあります。すでに中国は生産活動を再開しており、公的資金の注入も考えられます。一方の米国はニューヨークをはじめとしてなかなか停滞から脱することがかなわないのが現状。関係がさらに悪化すれば、米国側からの要求だった農産物の大量購入を取りやめるなど、中国が強気の策を打つ可能性が考えられます。中央銀行がジャブジャブと資金供給を行っているから株価は上昇してきましたが、米中関係がこじれると一気に崩れてしまう恐れがありますね。11月に大統領選挙を控え、夏場あたりが正念場ではないかと私は懸念しています。

◆ボラティリティの上昇を伴う投資効率の低下に要注意

――危ういといえば、来夏に東京オリンピック・パラリンピックも本当に開催できるのか疑問符がつきそうですね。

石川 北半球、特に先進諸国の経済が再生しているのを前提として、全世界的に感染が収束していることが求められますからね。ところが現実には、これから冬を迎える南半球の国々で、感染がさらに拡大する可能性も考えられます。特に衛生面や医療体制面に不安を抱えた新興国も多く、南アフリカ共和国やブラジルなど、すでに深刻化している国もあります。

大空 情勢抜きに個人的感情で言えば、ぜひ開催してほしいところですけどね。

石川 ホントにそうです! 僕も観戦チケットを買っていますから(笑)。それに、オリンピックに向けて設備投資を行ってきた企業にとっては、回収の目途を断たれるわけで、マイナスとなるでしょうね。特にビジネスホテルは、明らかに供給過剰ですし。

――マイナス要因が多い環境下で、個人投資家はどのようなスタンスで株式市場と向き合うべきでしょうか?

大空 金融緩和で市場にカネは溢れていますが、冷静でいなければなりません。というのも、新型コロナの感染拡大以降、ボラティリティ(変動率)が高くなっているからです。ボラティリティが高いというのは、株価が乱高下する可能性があるということ。つまり先が読みづらくなっているため、リスクに対するリターンが得づらく、投資効率(シャープ・レシオ)が下がっていると言えます。

石川 個別に見れば、先にも挙げたように新型コロナが社会に及ぼしたポジティブな側面もあると思います。企業は否応なくテレワークを導入することになりましたし、行政の手続きも迅速化されています。ただ経済全体が抱えるリスクの多さを考えると、そこが投資のチャンスとも言い切れませんね。

大空 相場のなかにいるとどうしても勝負をしたくなるものですが、「休むも相場」という相場の格言があるように、大統領選を通過するまで様子見のスタンスで臨むのも一考です。

石川 社会の動きがそれなりに読めたとしても、必ずしも株価がそれにすべてリンクするとは限りませんしね。何より自分の立場で考えると、大空さんをはじめとする第一線のプロでも読むのが難しい局面で、僕が正確な判断を下せる自信はないです(笑)。

大空 徹底的にリスクを減らす、避けることこそが、投資で勝ち続けるのにもっとも重要な要素ですから。

<アフターコロナの世界を生き抜く3か条>

・コロナ発生前の経済にはもう戻らないと悟り、社会の変化を注視!

・経済が元通りにならずとも、DXや5Gなどの伸びる分野に注目!

・再び米中関係悪化のリスクもあり、米大統領選まで慎重なスタンスで!

【大空翔 】●元ゴールドマン・サックス

元ゴールドマン・サックスの敏腕金融コラムニスト。政財界を含む幅広い分野に独自のパイプを持つ。ツイッター@ozorakakeruとnoteでも情報を発信中

【石川憧】●東大金融研究会

現役東大生。エリートが集う東大金融研究会のなかでも、大空氏が「最も優秀」と絶賛する逸材。そんな彼に記者が直近の目標を尋ねると、「かわいい彼女が欲しいです」とのこと

<取材・文/大西洋平 写真/PhotoAC 図版/大場君人>

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