ラベルを変えても中身は変わらない菅政権の閣僚。その狙いと有権者が取るべき道

ラベルを変えても中身は変わらない菅政権の閣僚。その狙いと有権者が取るべき道

臨時国会で首相に指名され、首相官邸に入る自民党の菅義偉総裁(時事通信社)

◆20年前から存在するデジタル大臣

 9月16日発足の菅義偉政権では、デジタル大臣と万博大臣が新設されました。デジタル大臣には、自民党デジタル社会推進特別委員長の平井卓也議員、万博大臣には、自民党副幹事長の井上信治議員がそれぞれ任命されました。

 デジタル大臣は、菅首相の持論であるデジタル庁の創設を主任務としています。菅首相は「行政の縦割り打破」を旗印とし、その象徴として、各府省のデジタル関連の部局を統合したデジタル庁の創設を掲げています。経済界などからは、早速にも歓迎の声があがっています。

 このように菅政権の目玉になっているデジタル大臣ですが、そのルーツは意外に古く、20年前から設置されているIT大臣(情報通信技術政策担当大臣)です。PCに触ったことのない桜田義孝議員やハンコ議員連盟会長の竹本直一議員で知られるようになったIT大臣。初めて設置されたのは、2001年の森喜朗内閣です。当初は、経済財政政策担当大臣がIT大臣を兼務していましたが、やがて科学技術政策担当大臣の兼務となることが多くなりました。ちなみに、安倍政権末期の竹本大臣の正式な役職は、国務大臣情報技術政策担当兼内閣府特命担当大臣(クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策)でした。

 IT大臣が置かれたのは、情報通信技術(デジタル)に関する組織が複数の府省に分かれていたからです。情報通信の規制や業界を所管するのは総務省(旧郵政省)、ソフトウェアなど情報通信の関連産業を所管するのは経済産業省(旧通商産業省)、政府のデジタル化を担当するのは内閣官房です。また、各府省もそれぞれの所管分野におけるデジタル化を進めています。それらを取りまとめ、一体的に推進する役割として、IT大臣が置かれていました。

 それでは、デジタル関連の組織を一つにまとめ、デジタル庁を創設すれば、様々な分野でのデジタル化が飛躍的に進むのでしょうか。具体的には、内閣官房の情報通信技術総合戦略室、総務省の情報流通行政局、総合通信基盤局、経済産業省の商務情報政策局(うち情報政策課など関係4課)などを統合すると考えられます。

 結論から述べれば、これまでと大きく変わることはないと考えられます。なぜならば、従来のIT大臣も同じ役割をもち、自民党政権で20年近く仕事を続けてきたからです。デジタル大臣となった平井議員も、かつてIT大臣を務めていました。IT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)も2000年に成立し、IT計画もつくられ続けています。

 むしろ、デジタル庁の新設によって、利益相反による弊害が起きるおそれもあります。デジタルという視点で見れば一括りにできる関連組織は、別の視点で見れば利益相反の括りにもなるからです。総務省の局はデジタル市場の公正な競争を監督する規制部局で、経産省の局はデジタル関連産業の振興を促進する政策部局です。規制部局と政策部局の一体化では、政官業の癒着の温床となり、公益が損なわれた事例が多くあります。典型例は、旧大蔵省銀行局が銀行の規制と振興を一体的に所管し、ノーパンしゃぶしゃぶなどの癒着の一方、不良債権を見逃して日本経済に大打撃を与えたことです。

◆政局向けの万博大臣

 デジタル大臣よりも、さらに意味不明なポストが万博大臣です。まだデジタル大臣は、IT大臣の名称変更ですから、理解はできます。デジタル庁についても、賛否は別にして、一つの考え方として理解できます。ところが、万博大臣については、意義も仕事も意味不明なのです。

 万博大臣の任命根拠は「平成三十七年に開催される国際博覧会の準備及び運営のために必要な特別措置に関する法律」です。この法律に基づき、首相を除く大臣数を19名から20名に増員し、専任の万博大臣を置くことになりました。「平成三十七年に開催される国際博覧会」とは、2025年のいわゆる大阪万博のことです。

 万博大臣の任務は、専任で大臣を一人充てるほどでなく、権限もほとんどありません。同法第6条によると「内閣総理大臣の命を受けて、博覧会の円滑な準備及び運営に関する施策の総合的かつ集中的な推進に関し内閣総理大臣を助けることをその職務」とし、万博に関する基本方針を策定するなどありますが、実質的な業務は博覧会協会で行います。その博覧会協会に関する権限は経産大臣にあり、同法の所管も含めた全般の事務は、実質的に経産省(商務情報政策局博覧会推進室)で行います。

 このように、万博大臣は典型的なお飾りポストなのです。名称だけ派手ですが、実質的な役割も権限も部下もなく、挨拶とテープカットが主な仕事になるでしょう。百歩譲って役割を認めるにしても、経産大臣に兼務させればいいだけです。万博に関する権限も部下も経産大臣にあるからです。

 それにもかかわらず、専任の万博大臣を置いたのは、日本維新の会との連携をにらんでのことと考えられます。維新の議員を万博大臣に任命すれば、維新を与党にできます。あるいは、維新と関係の深い民間人を万博大臣に任命すれば、維新の閣外協力を得られます。そこまでいかなくても、万博大臣を置けば、維新からの好意を高められます。

 維新としても、11月に予定されている都構想の住民投票後の旗として、大阪万博の成功は有効な大義名分になります。これまで「是々非々の野党」として、他の野党を攻撃することで一定の存在感を示してきた維新ですが、大阪万博のための与党入りならば支持者を納得させられます。与党にならないとしても、大阪万博について政府からの全面協力を勝ち取ったと「成果」を宣伝できます。

 つまり、万博大臣は「政局」のために新設されたポストなのです。実質的な役割も権限も部下もいらないのです。そこに主眼がないからです。

 加えて、大臣ポストを増員して、自民党内の入閣待機組を減らすこともできました。自民党では、一般的に衆院当選5回以上で「入閣適齢期」といわれます。そうした大臣待ちの議員を減らしていかなければ、党内で首相・執行部への不満が高まり、足元をすくわれるおそれもあります。どんなポストでもいいから大臣になりたい、そんな議員の欲望を満たす効果も、万博大臣にはあります。

◆組閣の最大の狙いは政権維持

 菅政権の特徴は、菅首相・総裁と二階俊博幹事長の連立という点にあります。官僚を抑える菅首相と自民党を抑える二階幹事長がタッグを組み、政権運営していく構造です。この政権構造については、拙稿「「菅・二階」体制が成立したらどうなるか?国民に求められることとは?」で解説しましたので、ご覧ください。

 菅・二階連立政権の最大目標は、政権の維持にあります。安倍前首相の改憲のように、独自の目標はありません。国会の多数派を自民党で占め続け、半永久的に自民党政権を続けることが目標です。

 その観点からすれば、デジタル大臣も万博大臣も有効な大臣ポストになります。IT大臣をデジタル大臣とするだけで、政権の新味を示すことに成功しつつありますし、万博大臣を名目に大臣ポストを増員することで、党内の不満を減らすことにも成功しつつあります。

 組閣においても、政権の維持という目標が徹底されています。再任や横滑りの大臣が多く、安倍政権の居抜きのようにも見えますが、政権の維持という視点からすれば、よく考えられた組閣なのです。

 第一に、再任や横滑りの大臣が多く、それだけ不祥事の発覚リスクを抑える意図が見えます。安倍政権では、2019年の参院選後の内閣改造で、菅原一秀経産大臣や河井克行法務大臣、秋元司内閣府副大臣などの不祥事が発覚し、政権を揺るがしました。再任や横滑りの大臣は、不祥事を隠していた場合、既に報じられている可能性が高く、それが報じられていないことから、不祥事リスクの低い大臣となります。

 第二に、派閥均衡の大臣配分から、派閥の不満を抑える意図が見えます。菅首相以外の20人の大臣を派閥別に見ると、細田派5人、麻生派3人、竹下派2人、二階派2人、岸田派2人、石破派1人、石原派1人、無派閥3人、公明党1人です。こうした大臣の配分は、派閥の所属人数に比例しています。なお、無派閥のうち2人(梶山経産大臣と小此木八郎国家公安委員長)は菅首相との個人的な結びつきが強く、実質的には菅派と称してもいいでしょう。

 第三に、河野太郎議員が当初の総務大臣への内定報道にもかかわらず、行政改革大臣になったことから、官僚の不満を抑える意図が見えます。名称と裏腹に、行革大臣は行政改革の実質的な権限を持たない一方、総務大臣が実質的な権限を持っています。とりわけ、総務大臣は行政の質を改善するための強力な権限を有しています。そのため、行政の質的な改革をライフワークとする河野議員が総務大臣になれば、行政の透明化などを独自に進めてしまう可能性があります。一方、行革大臣であれば、首相のコントロール下に置けるため、菅首相の認めた範囲内での改革しかできません。

 特命大臣の役割は、首相のやる気と能力に大きく左右されます。ここでいう特命大臣とは、国務大臣として特別な担当をする大臣と、内閣府での特別な担当をもつ大臣のことを指します。こうした特命大臣は、他の大臣を動かして任務を遂行するため、首相の強いバックアップがあれば、各省の大臣よりも強い権限を発揮でき、それを得られなければお飾りになります。

◆菅政権の弱点は有権者

 菅政権が政権維持を最大目標とすることは、その力が有権者によって左右されることを意味します。有権者の支持が得られなければ、政策を安易に変更するでしょうし、閣僚を交代させるでしょう。何より、選挙での敗北や支持率の低下が、菅首相と二階幹事長の信頼関係を壊すでしょう。政権維持のためならば、お互いを引きずり下ろすような骨肉の内紛すら起こすでしょう。

 要するに、有権者が菅政権を厳しく監視し、言論や選挙で意思をハッキリ示すことが、とても大切です。安倍政権以上に、有権者の意思が効果を持つはずです。菅政権の発足をきっかけに、さらに一人でも多くの人が、投票はもちろんのこと、SNSなどでも大いに発信していくことを期待します。

<文/田中信一郎>

【田中信一郎】

たなかしんいちろう●千葉商科大学准教授、博士(政治学)。著書に著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない―私たちが人口減少、経済成熟、気候変動に対応するために』(現代書館)、『国会質問制度の研究〜質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu

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