東京都江東区で配布された3500万円分の冷感タオル。隠された3つの重大疑惑

東京都江東区で配布された3500万円分の冷感タオル。隠された3つの重大疑惑

冷感タオル(実物)

◆ほとんどの区民が知らない、危険で疑惑だらけの事業

 今年の8月は本当に暑かったですね。しかも、新型コロナウイルス感染防止のために多くの方がマスクを着用されていて、例年以上に熱中症の危険性が高まっていました。

 そんな8月、東京都江東区に住む75歳以上の高齢者全員のもとに1枚の「冷感タオル」が届けられました。

 この冷感タオル配布は「高齢者のフレイル予防のために」と、江東区が3500万円の補正予算を組み実施した事業。フレイルとは「虚弱」という意味で、高齢者の身体的機能や認知機能の低下です。

 ただ、この冷感タオル配布事業、調べれば調べる程に疑惑は深まっていくばかりです。

 対象者が75歳以上の高齢者の方だけですので、江東区民でも存在すら知らない人がたくさんいます。そして知っている人でも「税金の無駄っぽいけどたいした額じゃないし、危ないものを配った訳でもないんだから、そんなに噛みつくような話なの?」という反応が多いです。

 だからこそ知ってほしいのです。この事業がいかに危険な熱中症対策であったかを。そして、その背後に見え隠れする重大な3つの疑惑を。

◆冷感タオルは熱中症予防には役立たない

 江東区の冷感タオル配布事業は6月30日に区議会で審議・可決された「令和2年度一般会計補正予算(第4号)」で唐突に登場しました。

「区民生活を支える取り組み」という項目で、「75歳以上の高齢者に冷感タオルを配布(3543万円8千円)」「フレイル予防につながる外出のきっかけづくりとして、75歳以上の高齢者全員に冷感タオルを配布」と記載されていました。

 筆者は即座に「ありえない」と思いました。フレイル予防の基本は「栄養」「運動」「人とのつながり」の3つです。確かに運動のために散歩を促す事はわかりますが、そこでなぜ冷感タオルが出てくるのかまったく理解できませんでした。

 これに対して、事業を担当した長寿応援課は「熱中症予防も兼ねて」と説明しています。

 これをまとめると「75歳以上の高齢者は身体・認知機能の低下が心配なので、真夏の東京を冷感タオルをつけて散歩して、熱中症に耐えられる体力をつけなさい」ということになります。

 これはまったくの見当違いです。熱中症対策の基本は「こまめな水分補給」「気温が高い時は外出を控える」「室内ではエアコンをつける」ということです。フレイル予防と熱中症予防は別物どころか、矛盾さえします。

 そして冷感タオルとはまさしく「冷たさを感じる」だけのタオルです。さまざまな種類がありますが、基本的にはポリエステルやナイロンなど速乾性が高い素材で、表面に細かい穴や窪みをつけるなどの工夫を施して揮発性を高めたタオルです。このタオルを水に浸すとどんどん水分が蒸発していき、気化熱が奪われていくので涼しく感じるのです。

 冷感タオルを常温の水に浸して絞ると、温度が15〜16℃程度まで下がります。確かに冷たくて気持ち良いんです。でもそれだけです。「冷たさを感じる」タオルであって「体を冷やす」タオルではありません。

◆山崎区長は熱中症についてまったく理解していないのでは?

 また「熱中症」とは、炎天下やエアコンをつけていない暑い室内で体温が38〜40℃以上にまで上昇して、失神・けいれん・意識障害などの多くの症状を引き起こすことです。熱中症になった場合、すばやく涼しい場所に移動し、体を氷や冷水で冷やして熱を下げ、水分と塩分を補給しなければいけません。

 人間の体は50%以上が水分です。75歳以上の高齢者の方でも、30リットル程度の水分が体内に存在します。冷感タオルの重さは水分を含んでもたかだか100〜200gで、温度は15〜16℃です。40℃にまで上がった30リットルの大量の水温がそんなタオルで冷やしても下がる訳がなく、まさに「焼け石に水」です。

 筆者は「高齢者にとって冷感タオルは不必要」だと言いたいのではありません。冷感タオルは暑い夏に「ひんやり」を感じる素晴らしいものです。ただ熱中症対策にはまったくならず、それどころか重大な危険を招く可能性があるのです。それを議会で指摘しました。

 高齢者は暑さを感じる感覚が弱くなっています。そのため体温が上がっても自覚症状に乏しく、比較的涼しい日中や室内でも熱中症になる恐れがあります。

 そんな高齢者が「この涼しいタオルがあれば、暑い夏に外出しても熱中症にならなくて大丈夫だ」と勘違いして外出すれば、熱中症になる危険性は上がってしまいます。熱中症の予防どころか真逆の効果をもたらしてしまうのではないかと、強い危機感と疑惑を感じました。

「山崎区長は熱中症の事について全く理解していないのではないか?」

 これが1つ目の重大な疑惑です。

◆区議会議員44人の中でただ1人補正予算に反対、疑惑の調査へ

 このまま江東区の75歳以上の高齢者全員に冷感タオルが配布されてしまうと、フレイル予防どころか熱中症の危険性を高めてしまう恐れがある。そのため筆者はこの補正予算に江東区議会議員44人中ただ1人、反対しました。

 しかし山崎区長による「新型コロナウイルス感染症の第2波への備え」という言葉に押し切られる形で、他の43人の江東区議会議員は賛成し、6月30日に可決しました。しかし筆者は心配し続けていました。

「もしかしたら今年の夏は、新型コロナウイルス以上に熱中症で亡くなられる方が多いかもしれない」

 そこで筆者は一人でも多くの江東区民の命を守るため、本事業に関する疑惑の解明に務め、調査を続けました。まず行ったのは、情報開示請求で得た入札情報とその資料に関しての精査です。

 そこで判明した事実は驚くべきものでした。まず入札の起案(業者との契約日)は6月29日。これは補正予算の審議を行った6月30日の前日です。江東区議会議員が冷感タオル配布事業について審議した時には、もうすべては終わった後だったのです。これを担当である長寿応援課に問いただすと、

「暑くなる季節の前に事業を実施する必要があり、急ぎだった。予算が決まるまで他の事業から予算を流用していた。補正で予算が取れたので押し出す形で予算を戻した」

 との回答が返ってきました。これは「仮に議会で予算が否決されても、他の予算を流用してでも強行する」ということです。筆者は強い違和感を覚えました。

 長寿応援課はその名の通り、高齢者が元気に長生きできるように応援していく部署です。フレイル予防も熱中症対策もよく知っているはずです。こんな矛盾した事業をここまでして強行するとは思えません。

◆入札参加の10社のうち9社が辞退・不参加、事実上の随意契約

 なお、実際に配布された冷感タオル同封の説明書を読むと、フレイル予防と熱中症対策の基本が書かれているだけです。「冷感タオルをつけて外出して、熱中症に耐えられる体を作りましょう」というメッセージはまったく存在しません。

 筆者はここに長寿応援課の隠れた抵抗と、長寿応援課に圧力を掛けてこの「偽善タオル」になりかねない事業を強行した存在を感じました。

 そこでさらに入札情報を精査していくと「入札に参加した業者は全部で10社。10社中、7社が辞退、2社が入札不参加、そして1社のみが落札」という驚きの入札結果が判明しました。これでは事実上の随意契約です。普通の入札ではありえません。

 この原因は江東区が冷感タオルの入札につけた品質・納期の条件のいずれかが、最初から落札した1社以外には受注不可能になっていたということです。

「入札による競争、区議会によるチェック、担当部署の抵抗を排除する大きな圧力があったのではないか?」

 これが2つ目の重大な疑惑です。

◆冷感タオルの性能と関係のない「細かすぎる素材仕様」

 しかし、この新型コロナウイルス禍でどの業者も売り上げが落ちてたいへんだったはずです。冷感タオルはそれほどに複雑で高額な商品ではありません。ショッピングサイトで検索すれば何十、何百という冷感タオルが見つかります。なぜ1社しか受注できなかったのでしょうか。

 そう思いながら情報開示請求した資料をさらに精査していく中で、ある個所に目が留まりました。それが「冷感タオルの素材の仕様」です。江東区が入札で指定した冷感タオルの仕様は、

●サイズ 30cm×80cm

●組成 ポリエステル45%、ナイロン55%

●両面とも冷感素材

●同等品も認める

 となっています。サイズや両面、同等品の記載に関しては普通の記載でした。しかし「どれだけ冷えるか?」「どれくらい長持ちするか?」という冷感性能の記載がないことと、「組成」の指定が具体的過ぎることの2点があまりにも不自然でした。冷感タオルとは「速乾性が高い素材を用いて、揮発性を高めた工夫を施したタオル」です。ポリエステルとナイロンが速乾性の高い素材なのは確かですが、その配分と冷感性能は一致しません。

 ショッピングサイトで人気の冷感タオルを見ると、「ポリエステル100%」「ポリエステル50%、ナイロン50%」と江東区が指定した組成と全く異なる商品がたくさん見つかります。もちろん「ポリエステル45%、ナイロン55%」という商品も見つかりますが少数派です。

 この根拠について長寿応援課は「冷感素材の一般的な材質」を記載したと答えましたが、そんな一般論は存在しないと断言できます。

 むしろ「冷たい」「長持ちする」と人気の商品は「ポリエステル100%」が多い印象です。「ポリエステル100%」の人気商品の中にはサイズが30cm×90cmと江東区の物とほぼ同じで、258円(税込)で販売しているのもあります。

 ちなみに今回、江東区が発送した冷感タオルの総数は5万7103人分で単価は383円(税込)です。

 これだけの高単価で実質的な随意契約なのに、当然あるべき冷感性能の仕様がまったく盛り込まれていないのです。入札を実行した経理課は「同等品も認めると書いているので、素材を指定していない」と言いますが、それは「何%までの素材の誤差を認めるか」を書いて初めて意味がある言葉です。これは誰が見ても「ポリエステル45%、ナイロン55%」という1%単位の素材指定です。

 しかも「同等品」と言っても肝心の冷感性能は記載がないのです。もしも「組成は『ポリエステル45%、ナイロン55%』だけど、揮発性を高める工夫のない冷感性能ゼロのタオル」を納入されても文句を言えないお粗末な仕様です。

「冷感タオルの仕様をある特定の業者の既製品に合わせて指定することで、特定の業者しか入札できないように最初から決まっていたのではないか?」

 これが3つ目の重大な疑惑です。

◆8月の熱中症死者数は過去最悪。山崎区長は救えなかった命の重さを感じているのか?

 筆者がこの冷感タオルの疑惑についてブログで公開したところ、大変な反響がありました。「グッド!モーニング」(テレビ朝日)では、8月24日のニュースコーナーにて放映されました。

 しかし喜びを感じることはありませんでした。最も懸念していた「今年の夏は新型コロナウイルス以上に熱中症で亡くなられてしまう方が多いかもしれない」という悪夢が、現実となってしまったからです。

 東京都では今年の8月だけで、残念なことに170人以上が熱中症で亡くなりました。これは8月としては史上最悪の数字です。そして、今年の8月に東京都内で新型コロナウイルスで亡くなった方は31人です。「8月」においては、熱中症は新型コロナウイルスの5倍以上恐ろしく、警戒しなければいけないものでした。

 江東区でも今年の8月だけで8名が熱中症で亡くなっています。全員が自宅で亡くなられており、熱中症となった主な要因は「屋内でエアコンを使用しなかったこと」でした。さらにこの8名のうち7名が75歳以上で、まさにこの冷感タオルを受け取ったか、受け取るはずの方々でした。

 この冷感タオルを配布した封筒には大きな文字で「熱中症対策にお使いください」とはっきり書かれています。

 同封されていた説明書には正しいフレイル予防と熱中症対策の記載があったとしても、これを受け取った高齢者の中には「冷感タオルがあるからエアコンがなくても大丈夫だろう」と勘違いした方もいたかもしれません。

 もしその結果が新型コロナウイルスを超える数の熱中症死者なのでしたら、これはとても恐ろしい話です。

 山崎区長。今でもこの冷感タオル配布が熱中症対策として正しかったと言えますか?

<文/三戸あや(江東区議会議員)>

【三戸あや】

江東区議会議員(無所属)。2019年4月の区議会議員選挙にて当選。1歳児の母でもあり、こうとうワークマムを主催する。社会福祉士

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