一般紙から科学専門誌まで、海外メディアが報じた「日本学術会議拒否問題」。菅政権の所業はファシズムの一丁目一番地

一般紙から科学専門誌まで、海外メディアが報じた「日本学術会議拒否問題」。菅政権の所業はファシズムの一丁目一番地

海外メディアも驚愕した「グループインタビュー」の菅義偉総理 (時事通信社)

 今、世界でもっとも注目されているニュースといえば、アメリカの大統領選挙、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争、そしてもちろん冬を前にしたコロナウイルスの動向だろう。しかし、そんななかに割って入っているのがご存知、発足したばかりの菅政権による日本学術会議問題だ。

◆メディアや政治家によって拡まるデマ

 これまで推薦に基づいて総理大臣が任命することが通例となっていたが、なぜか法律を勝手に捻じ曲げて慣例を無視し、安倍政権に対して批判的な姿勢を見せていた6人の任命が見送られたこの問題。

 法律無視であり学問の自由に対する介入だとの批判が沸き起こると、突然「日本学術会議の在り方」が議論され、「科研費4兆円を再配分している圧力団体」「死ぬまで年金250万円」といったデマがネット上で拡散され始めた。こういったデマの流布には大手メディアや政治家も加担しているのだから、あきれるほかない。

 いったいなぜ特定の6人が任命されず、どのような経緯でこのような事態に至ったのかは、いまだにハッキリしていない。しかし、時間をかけて言い換えや改ざんを繰り返せば、どんな政治的な問題も風化してしまうことは明らかだ。モリカケ問題や桜を見る会問題を見ればわかるとおり、残念ながらこうした隠蔽体質はもはや日本の新たな「伝統」となっている。

 今回の日本学術会議問題も、連日の論点そらしを見る限り、解決する日は遠いだろう。ただ、日本国内の有権者に対しては、それでも問題ないかもしれないが、世界からの視線は厳しい。

◆任命拒否は「明らかな報復」

 ワイドショーだけでなく、ニュース番組ですら、「誰が」「なぜ」という根本的な問題から学術会議の組織編成や予算へと矛先を逸らしているが、イギリスの大手「ファイナンシャル・タイムズ」はズバリ、「明らかな報復」と報じている。(参照:Financial Times)

「日本の新しい首相・菅義偉は、彼の最初のスキャンダルに巻き込まれている。政治的姿勢に対しての明らかな報復で、6人の教授を学術会議へ任命することを拒否したためだ」

 なぜ任命が拒否されたのか、その理由すら満足に答えられない時点で、こうした見方が出るのは当たり前だろう。

「通常、学術会議の候補者は科学者によって選ばれ、政府によって任命される。しかし驚くべきことに、内閣府は理由もなく105人の候補者のうち6人を拒否した。

 拒否された6人の学者のうち、3人は弁護士、2人は歴史学者、1人は神学者だ。そのうち何人かは、2015年に安倍政権が可決させた、有事の際に米軍を援護できる安全保障関連法に対して、公に異を唱えていた。

 6人のうちの一人、立命館大学の刑事法学教授である松宮孝明は、2017年に安倍政権が秘密保護法を可決させたとき、国会で反対する答弁を行った。彼は現地メディアに対して、任命拒否は学問の自由への脅威だと説明している」

 同様に、「ロイター」も任命拒否は安倍政権時の遺恨が原因であると指摘している。(参照:Reuters)

「安倍晋三の辞任によって先月政権を受け継いだ菅は、彼がコロナウイルスの鎮圧と経済の復興のため、規制緩和、携帯料金の値下げ、サービスのデジタル化をする、という約束を信じた有権者の高い支持を満喫していた。

 しかし、6人の候補者の任命拒否(そのうち何人かは安倍政権への政策に批判的だった)は、怒りを焚きつけ、彼と有権者とのハネムーンへの脅威となるかもしれない」

「アナリストによると、1983年以降、首相は日本学術会議の推薦によって会員を任命しており、任命拒否を行なった例はない」

◆科学と政治が一体であるワケ

 また、こうした大手メディアだけでなく、アカデミックな世界からも批判の声は噴出している。例えば、「サイエンス」は「日本の新首相が学術会議に争いを仕掛ける」と題した記事を発表した。(参照:Science)

「菅は拒否した理由を示さず、それは10月1日に会員のリストが公表されて明らかになった。内閣のスポークスマンは現地メディアに対して、首相には推薦されたメンバーを任命する義務はないと答えている。しかし、6人すべての学者が、菅が官房長官を務めていた前政権による法制を批判していた」

 「ネイチャー」は、「なぜネイチャーはこれまで以上に政治を扱わなければいけないのか」という記事を発表している。同記事には、学術会議問題に限らず、「なぜ科学が政治を扱わなければいけないのか」という問いへの回答が含まれているので、余裕があればぜひ全文を読んでみてほしい。(参照:nature)

「科学と政治は常にお互い頼りあってきました。政治家の判断と行動は研究予算や課題の優先順位に影響します。同じく、科学と研究は情報提供をし、環境保全からデータ倫理まで、政策の雛形を作ります。政治家の行動は高等教育の環境にも影響します。彼らは学問の自由が支持され、各機関が平等・多様性・社会的包括のためにより厳しく働き、これまで疎外されてきた声に場を与えることを保証できます。ただ、政治家はその反対のことを行うための法律を通す力も持っています」

 記事ではアメリカ、ブラジル、インドなどの例を挙げながら、菅総理のことも取り上げている。

「そして先週、日本では菅義偉首相が、過去に政府の科学政策に批判的だった6人の学者を日本学術会議に任命することを拒否した。この機関は日本の科学者たちの声を代表する独立した機関である。これは2004年に首相が推薦から任命をするようになってから初めての出来事だ」

◆真っ先に「インテリ」が排除されてきた歴史

 麻生太郎副総理がその手口に学ぶべきとしたナチス、ソ連や中国といった冷戦下の共産圏の国、ポル・ポト政権時のカンボジア、いずれも真っ先に行ったのはアカデミックな人材の処刑や収容だ。

 困窮する庶民の暮らしを理解できず、政治家の足を引っ張る存在として「インテリ」がスケープゴートにされるのは、何も新しいことではない。問題はそうすることによって得をするのはいったい誰なのかということだ。

 ただでさえ、優秀な人材が安い人件費で買い叩かれ、続々と中国や韓国、欧米諸国へと流出しているわが国。政権に対して批判的な発言をする学者は排除されるという悪評が轟けば、その流れはますます加速するだろう。

 また、前出の「ネイチャー」の記事にもあるとおり、科学と研究は正しい判断をするうえでの重要な材料となる。科学という絶対的なファクトや研究データではなく、政治家の個人的な判断によって政策が議論されるようであれば、それはもはや近代国家とは言えないだろう。

 政治にしろ、経済にしろ、そうなることで損をするのは利権や立場を守れる政治家ではない。損をするのは我々庶民だ。「税金で食べているインテリが騒いでいる」と片付けてしまうほど、我々は愚かではないと信じたい。

<取材・文・訳/林 泰人>

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

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