菅=竹中ラインで強まるネオリベ構造改革。スーパーシティ構想の罠<ジャーナリスト・佐々木実氏>

菅=竹中ラインで強まるネオリベ構造改革。スーパーシティ構想の罠<ジャーナリスト・佐々木実氏>

Photo: Keith Bedford/Bloomberg via Getty Images

◆菅政権で強まる新自由主義的な構造改革路線

── 菅政権では、安倍政権以上に竹中平蔵氏の影響力が強まると見られています。

佐々木実氏(以下、佐々木): 菅政権発足直後の9月18日、菅義偉総理はさっそく竹中平蔵氏と1時間余り懇談しました。真偽はわかりませんが、菅総理が彼の大臣起用を検討していたとも報じられました。竹中氏の菅総理への影響力を考えると、小泉純一郎内閣型の構造改革路線が再現される懸念があります。実際、菅総理は「規制改革は徹底してやりたい」と述べ、「自助」を優先する社会像を描いています。

 竹中氏は小泉政権で総務相を務めましたが、その下で副大臣として仕えたのが菅氏でした。当時の総務省の最重要案件は郵政民営化。ふたりは「構造改革の成功体験」を共有しています。安倍政権では菅さんが官房長官として官僚に睨みをきかせ、未来投資会議、国家戦略特区諮問会議の中枢メンバーとして活躍する竹中さんを支えていました。

 菅政権は目玉政策として携帯電話料金引き下げやデジタル庁設置などを打ち出していますが、個別政策よりむしろ、どのような構造改革の手法を採用するのかに注目すべきでしょう。

 竹中氏は、菅政権の成功のカギは「アーリー・スモール・サクセス」だと語っています。携帯電話料金引き下げなどの大衆受けする政策を早期に実現して政権に求心力をもたせ、その勢いで構造改革を全面展開する戦略でしょう。「小泉構造改革」のポピュリズム的手法の再現を狙っているわけですね。

 官房長官時代の菅氏について、規制改革を「点」でとらえる傾向が強かったと竹中氏は述べています。たしかに菅さんは、インバウンド推進のためのビザの規制緩和など、自分がこだわる個別政策については官僚に発破をかけ実現させました。竹中氏は、菅氏の豪腕を個別政策にとどめず、「面」で展開する政策が必要だと説いています。小泉構造改革のような規制改革の政策体系を推進する手法が必要だと主張しているわけです。

◆規制緩和の実験場となる「スーパーシティ」

── 竹中氏は8月に『ポストコロナの「日本改造計画」』を刊行しました。

佐々木: コロナ禍を奇貨として、一気に「日本改造」を推し進めることが竹中氏の狙いでしょう。注目すべきは、竹中氏が旗を振っているスーパーシティ構想です。デジタル資本主義へのシフトはパンデミックで一気に加速すると竹中氏は述べていますが、格好の舞台として想定されているのが「スーパーシティ」なのです。

 スーパーシティ構想では、AIなど最新のICT(情報通信技術)を駆使した次世代型都市で「自動走行」「ドローンでの自動配送」「キャッシュレス決済」「行政サービスのIT化(電子政府化)」「オンライン(遠隔)診療」「遠隔教育」などが計画されています。

 経緯をふりかえれば、2018年10月に「スーパーシティ構想の実現に向けた有識者懇談会」が設置され、その座長に竹中氏が就任した。国家戦略特区法の改正案である「スーパーシティ法案」はコロナ禍のどさくさの中で今年5月に成立したのですが、スーパーシティ法の産みの親が竹中氏なのです。

 〈新しいことは、何でもやってみる。実験の場を作ることが重要で、そこから出てきたのが「スーパーシティ」の考え方です〉〈コロナ危機の混乱の中でこの法律が成立したことには、極めて大きな意義があります。これは国家戦略特区をさらに強化し、AI(人工知能)やビッグデータなどの最先端技術を活用したスーパーシティを作り、新しいことを全部やってみようという試みです〉と竹中氏は著書(『ポストコロナの「日本改造計画」 デジタル資本主義で強者となるビジョン』PHP研究所)で語っている。

 スーパーシティ法案成立の過程で興味深い出来事がありました。竹中氏を座長とする有識者懇談会が最終報告書をまとめた2019年2月から、政府は特区法改正案の作成にとりかかったのですが、内閣法制局から横やりが入った。

 スーパーシティに指定された自治体が、国が定めた複数の規制を一挙に緩和できる条例を制定できるという構想だったからです。竹中氏がスーパーシティを「ミニ独立国家」と呼んだのも、自治体が国を超えるような強い権限をもつからです。

 ところが、地方公共団体は国の法律の範囲内でしか条例を制定できません。これを規定した憲法94条に反すると、内閣法制局が待ったをかけたわけです。結局、この点は修正されることになったのですが、このエピソードは「スーパーシティ構想」が何を狙っているかを如実に物語っています。つまり、ミニ独立国家であるスーパーシティでは、政府の役割が究極的に縮小され、企業が自由奔放に活動できます。

 だから、野党などからは監視社会を警戒する声や、個人情報が特定の企業に流れることへの懸念の声が上がった。実際、本来必要な規制までもが住民の意向を無視して撤廃される懸念があります。

 ポイントは、「スーパーシティ法案」は国家戦略特区法改正案であり、特区での規制緩和をさらに過激に推進するための構想だということです。

 私は『月刊日本2014年2月号』で、「国家戦略特区は『1%が99%を支配するための政治装置』だ」と指摘しました。なぜかといえば、特区という仕組みは国民の声を反映させる場というより、むしろ少数派の主張を法律、制度で正当化し、グローバル企業の要望に沿って規制緩和を断行できる立て付けになっているからです。その意味では、特区を上回る「規制緩和の実験場」を実現させるスーパーシティ法こそ、「1%が99%を支配するための政治装置」にほかならないのではないでしょうか。

 じつは、スーパーシティ構想を可能とした国家戦略特区制度を提唱したのも竹中氏なのです。

 第二次安倍政権の発足当初、安倍総理は竹中氏を経済財政諮問会議のメンバーに起用しようとしましたが、麻生太郎副総理らの反対で実現しませんでした。新設の産業競争力会議(現未来投資会議)の民間議員に甘んじることになった竹中氏は、そこで国家戦略特区を提唱し、国家戦略特区諮問会議という新たな会議を産み落として自らが中枢メンバーとなったのです。

 驚くべきは、特区諮問会議が内閣府設置法の「重要政策会議」に位置づけられたことです。経済財政諮問会議、総合科学技術会議など4つしかない「重要政策会議」に、竹中氏提唱の新たな会議があっさり仲間入りしたのです。

 こうしてみてくると、国家戦略特区制度をつくり、そこを足場にして特区をより過激な「規制緩和の実験場」に変えるスーパーシティ法を編み出した竹中氏の「仕組みづくり」の巧みさが理解できるでしょう。彼の主張の内容だけに目を奪われるのではなく、政策を実現させる「仕組みづくり」を監視し、すでにある「仕組み」の正当性をあらためて問う必要があります。

 スーパーシティ構想は大阪維新の会などと連携する形で準備が進んでいるように見えます。特区法改正前の昨年秋、大阪府・市は2025年の大阪万博開催予定地である大阪湾の人工島・夢洲を含むエリアをスーパーシティとする提案を内閣府にしています。

◆中間団体の解体が竹中氏の目標か

── 竹中氏は、デジタル化は中国が最も先行していると述べ、中国浙江省杭州市の「シティ・ブレイン(城市大脳)」の事例を挙げています。

佐々木: 神戸大学の梶谷懐教授が『現代ビジネス』で連載した「日中で共鳴する新自由主義の行方」が参考になります。梶谷氏によれば、中国の改革派知識人、メディアには「小さな政府」を目指す竹中氏の新自由主義イデオロギーとその政治手腕に共鳴している人が少なくなく、竹中氏は「経済改革の皇帝」などと呼ばれているそうです。

 一方、竹中氏も、「中国の場合、共産党政府が強いので、その命令によって、時には法律も個人情報をも超越して(いろいろなアイディア)を試すことができます」などと著書(『ポストコロナの「日本改造計画」 デジタル資本主義で強者となるビジョン』PHP研究所)で語っています。

 習近平政権の経済改革では、政府が市場から退場するのではなく、民間資本と協力しながらグローバルな資本主義の下で成長を図る戦略がとられています。強権と市場原理による構造改革という手法において、竹中氏と習近平政権が共振しているように見えるという梶谷氏の指摘は示唆に富みます。

 梶谷論文は、日本のスーパーシティ構想の真の狙いは企業と政府の関係を根本から変えることにあるという重要な指摘もしているのですが、そんな大改革を推し進めようとする竹中氏の「本音」について、梶谷氏が次のように考察しています。

 〈「様々な古い慣行」の根っこにある、さまざまな中間団体の存在こそが、「心地よさ」をもたらしているのであり、それを徹底的に解体しなければ「改革」は実現しない、というのが竹中氏の本音だというのが自然な見方ではないだろうか。そして、そのような古い慣習や、中間団体を一掃しようとするためには、それを実現する「強い国家」の存在が要請されることになる〉(出典:現代ビジネス連載「日中で共鳴する新自由主義の行方(3)」竹中平蔵氏と中国・習近平政権、提唱する「経済政策」がこんなに似てきている )

 中国は共産党一党独裁などの理由から、そもそも中間団体を形成することが極めて難しい社会です。竹中氏から見れば、中間団体が政府の邪魔をすることがない中国は日本の先を走っているように映るのかもしれない。しかし、日本の社会において中間団体を一掃するということは何を意味するのか? 今一度立ち止まって考えるべきではないでしょうか。

◆新自由主義の貫徹としてのベーシックインカム論

── 竹中氏は最近、ベーシックインカムを提唱しはじめました。狙いはなんでしょうか。

佐々木: 『ポストコロナの「日本改造計画」』で竹中氏は、デジタル資本主義を加速させなければならないと繰り返し強調しています。一方で彼は、「デジタル資本主義のもとでは、今とは桁違いの格差が生じざるを得ない」とはっきり言っています。「今ある職業の半分ぐらいがなくなるリスクが生じます」とも述べています。

 つまり、来るべき超格差社会を認めたうえで、その処方箋として毎月7万円を支給するベーシックインカム案を出してきたわけです。彼は、ベーシックインカムは「年金や生活保護の廃止とバーターの話」と明確に述べています。主眼は格差是正より、福祉経済制度の解体あるいは新自由主義の貫徹にあるのでしょう。実際、竹中氏自身が自分のベーシックインカム論は新自由主義の教祖ミルトン・フリードマンの「負の所得税」の考えに基づくとも言っていますから。

── 竹中氏が進める新自由主義的な政策に対して、どのように抵抗していくべきですか。

佐々木: 竹中氏の主張はより明確になってきました。スーパーシティを核とする過激な規制改革によってデジタル資本主義を加速させ、国家と個人のあいだに存在しているさまざまな中間団体が一掃されていく過程で落ちこぼれてしまう人には、「月7万円」のベーシックインカムで対処する。そのかわり生活保護や年金などの福祉経済制度は廃止し、財政再建をはかっていく。

 菅政権においても竹中氏は活躍するでしょう。彼が描く日本社会の未来像を実現すべく、「仕組みづくり」に余念が無いことでしょう。しかし、「経済改革の皇帝」たる竹中平蔵に付き従うかどうかはわれわれひとりひとりが決めることです。

 竹中氏がコロナ後に目指すべき社会像を提示し、菅政権のブレインとして動き始めたわけだから、われわれも「イエス」「ノー」を明確にしなければなりません。

(聞き手・構成 坪内隆彦)

<提供元/月刊日本11月号>

【月刊日本】

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