バイデン政権になったら株価は、市場は、国際経済はどうなる?

バイデン政権になったら株価は、市場は、国際経済はどうなる?

写真はバイデン氏の公式ツイッターより

 史上稀に見る大接戦を制したのは、トランプではなくバイデンだった。本稿執筆時点(8日未明)でトランプ大統領は敗北宣言を出しておらず、郵便投票について司法に訴え出る構えを見せてはいるものの、悪あがきの域を出ない。第46代アメリカ大統領にバイデンが就くのは確定的な情勢である。

 バイデンの“当確”にわかりやすく反応したのが、日本の株式市場だった。トランプ優勢から一転、バイデンに流れが傾いた11月6日には29年ぶりにバブル後の高値を更新。地合いの良さを見せている。

◆バイデン新政権で日経平均が大躍進するシナリオ

 端的に言って、バイデンが掲げる政策は日本にどのような影響をもたらすのか。エコノミストで複眼経済塾の塾頭でもあるエミン・ユルマズ氏の分析はこうだ。

「バイデン大統領が誕生することによって、日米の政策の方向性はかなり似てくると思います。たとえば菅首相は環境対策について『2050年までのゼロエミッション(脱炭素化)』との方針を打ち出しましたが、バイデンもまさに同じことを言っている。トランプがヤケクソで離脱したパリ協定への復帰やWHO(世界保健機関)の脱退宣言も撤回するでしょう。

 それに、バイデンの民主党はニューエコノミーを代表する政党で、デジタル庁の創設に動くなどDx(デジタルトランスフォーメーション)を志向する菅政権とベクトルが同じ。バイデンも菅首相も、お互い関係を築きやすい土壌があると見ています」

◆バイデンの公約やマニフェストが日本経済の追い風となる?

 バイデンが選挙を通じて訴えてきた公約やマニフェストは内政面でいえば環境や教育、福祉に力を入れ、外交では対中包囲網の継続や同盟諸国との関係強化が特徴的。これらのいずれの要素も、日本経済には追い風になる可能性を秘めている。エミン氏が語る。

「バイデンはさまざまな面で社会福祉に力を入れていくので、アメリカは財政赤字が膨らむことが想定されます。なので、短期・長期的にドル安を起こしやすい政権なんです。つまり円高になる。そこにきて、今は原油などのコモディティ安が起きているので、この『円高・コモディティ安』という状況は日本の製造業からすると輸出競争力を高めるいい環境と言えます。

 また、米中が新冷戦状態に突入しており、その枠組みの中ではアメリカにとって日本は最重要国になる。バイデンはオバマ政権下で副大統領を務めましたが、2期目のことを思い出してみてください。オバマは広島を訪れ、尖閣諸島について『日米安保の範囲内』と初めて明言したでしょう。バイデンの対中・対日政策は基本、この延長にあると考えていい。

 この米中新冷戦は日本経済にとって強い追い風となり、アメリカが中国と喧嘩をすることで中国のポリティカルリスクが高まり、対中投資は減るでしょう。中国アリババ傘下のアントがIPO中止を余儀なくされたのがよい例で、政府のさじ加減ひとつで株式公開が延期になるような国にお金をいれたくないのが道理。では、中国に向かっていた資金がどこに向かうかと言えば、米国株はすでに割高だし、ヨーロッパもいろんな問題を抱えている。つまり、日本しか行き場がないんです」

 こうした考察の帰結として、日本株の上昇が期待されるというのがエミン氏の予測だ。

「僕はそもそも日本株に対して強気な見方をする立場ですが、大阪万博が開かれる’25年までに日経平均が5万円に達すると思っています。それぐらい、日本株の魅力が増している。先進国の中でコロナ対策が一番うまくいってる面も大きい。これは体感ですが、相場で“コロナアルゴ”のようなものが動いていると感じるんです。世界的な相場において、コロナ被害の小さい国にお金が行きやすくなっている。これからの日本株は面白くなると思います」

◆インド太平洋構想の推進は必須。アメリカ依存から脱却すべし!

 対立を深める米中新冷戦。その狭間に立たされる日本に課題がないわけではない。

「これはトランプ時代にも言われていたことですが、バイデンはアメリカの世論を意識して、日本に対して防衛費の負担増を求めてくるでしょう。貿易の面でも関税の引き下げなどアメリカに都合のいいルールを押しつけてくることも考えられます。バイデンはトランプのような脅し型ではないけれど、それなりに物は言ってくるはずです」

 そう語るのは、国際ジャーナリストの蟹瀬誠一氏。今後、日本がとるべき立場について、見解を聞いた。

「今の日本は安全保障面で、一から十までアメリカに依存している。もちろん、日米同盟は基軸ではあるけれども、それに加えて“自由で開かれたインド太平洋構想”を進めることが大事です。インドやASEAN、ヨーロッパでも中くらいの国のことをミドルパワーと言いますが、こういうところと上手に付き合っていくことで、最大の脅威である中国と対峙し、同時にアメリカの圧力にも対処していけるはず。そもそも、アメリカは国内問題への対応で手いっぱいなうえに中国、ロシア、イランという3つの脅威に晒されているのが現状ですから、日本がアジアで上手にプレゼンスを高められれば、より良い日米関係が築けると思います」

◆菅首相には北朝鮮問題への積極的な姿勢が求められる

 アメリカ一辺倒から脱却するためにも、インドやオーストラリアをはじめとした国々との関係強化は必須。加えて、菅首相が間違いなく求められるのは、北朝鮮問題への積極的な姿勢だとも言う。

「バイデンは朝鮮半島の非核化を求めており、副大統領になると見られるハリスは『北朝鮮問題の解決は日本と韓国という同盟国の関与が必要だ』と発言しているように、日本の主体的な解決姿勢が求められます。菅首相がリーダーシップを発揮して問題解決にあたることが求められますが、今の彼を見ているといくばくかの不安も。外交とは安倍首相がトランプとゴルフで関係を深めたように、トップのパーソナリティが大きく影響しますが、菅首相は喋り方に覇気がないし、国会答弁を見る限り臨機応変さもない。この調子でバイデンやハリスと深い関係を築けるかというと、少々疑問ですね」

 菅首相といえば無類のパンケーキ好きで知られているが、かたやバイデンはアイスクリームに夢中という情報もある。果たして“スイーツ外交”で攻略できるのか――見ものだ。

◆バイデン氏が掲げる政策骨子

▼脱カーボン

再生可能エネルギーのインフラ整備に向けて4年間で2兆ドル(約206兆円)を投資。2050年までに米国全体で温室効果ガスの実質排出ゼロ(ネットゼロエミッション)を目指す。

▼Buy American(アメリカ製品を買え)

米国製品の購入促進を狙い、国内拠点の商品・サービスの連邦政府調達に4年間で4000億ドルを拠出するほか、公共事業で自国製品の使用を促す運用を厳格化する。

▼人種間格差の是正

黒人やヒスパニック、先住民らの中小事業経営や住宅取得の支援に公的資金を注入する。一方で、「私かトランプか投票に迷っているようなら、黒人じゃない」といった不穏発言も。

▼経済よりもコロナ対策

「誰もが検査、予防、治療を無料で受けられる態勢の整備」をうたい、国民のマスク着用の義務化まで提唱する。経済再開には8段階の計画を設けて慎重姿勢。

▼オバマケアの拡充

オバマ政権の継承者を自任しており、肝いり政策だったオバマケアの保険加入期間の延長など拡充策を訴える。ただ、10年間で計2兆2500万ドルもの支出増が指摘される。

▼寛容な移民政策

トランプ政権の象徴である、メキシコとの国境の壁建設工事打ち切りを明言。また、不法入国した移民の子どもへの学資援助やイスラム教国からの渡航禁止の撤廃にも前向き。

▼富裕層・企業への増税で4兆ドル

所得再分配による低所得者救済のため、連邦税の最高税率を2.6%、法人税を7%引き上げる方針。10年間で最大4兆ドルの歳入増につながると試算される。

▼インド太平洋構想継続で対中包囲網

中国をけん制する狙いから日本・オーストラリア・インドとの軍事連携を堅持するスタンス。ハリス副大統領がインド系ということもあり、米印関係が強化される公算が大きい。

◆トランプは静かにホワイトハウスを去る?

 トランプ大統領は選挙の不正を訴え、法廷闘争を辞さない強気の構えだ。

 しかし、蟹瀬氏は「これまでの悪行を見逃してもらい逮捕を免れるのなら、トランプは右翼勢力を抑え平和的な政権移譲の見返りに捜査当局と裏取引をするかもしれません」と話す。

 ただ事業は不振で4億ドルの借金も。去ってもイバラの道だろう。

<取材・文/週刊SPA!編集部>

※週刊SPA!11月10日発売号より

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