種苗法改正、必要なのは拙速な成立ではなく、生産者側の不安や批判を無視せず真摯な説明と議論

種苗法改正、必要なのは拙速な成立ではなく、生産者側の不安や批判を無視せず真摯な説明と議論

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◆種苗法改定で大打撃を受ける農家の声

 秋田の農村から上京した「叩き上げ」「庶民派」「苦労人」のイメージを押し出す菅義偉首相が、現在開会中の臨時国会で、農家を窮地に立たせかねない種苗法改定を成立させようとしている。実家がイチゴ農家である菅首相だが、そのイチゴ農家を含む農家全体に壊滅的打撃を与え、農薬と肥料と種をセットで販売するグローバル企業の利益拡大につながりかねないいう見方もある法改正に邁進している。

 現在上映中のドキュメンタリー映画『タネは誰のもの』(原村政樹監督)は、北は北海道から南は種子島まで飛び歩きながら、危機感を強める農家の生の声を紹介していく映画だ。

 作品中には「種苗法改定でサトウキビ農家がつぶれてしまい、(中国の脅威が増す)南の島に人が住まなくなる」と、「安全保障上も問題だ」と警告する種子島のサトウキビ農家が登場する。

 続いて登場するのが、若手イチゴ農家の夫妻だ。

 イチゴ農園で「勢いがあって形がいいイチゴを“子供”として残し、来年の“親”にする。これを何年か繰り返すことでいいものでそろうようになる」と夫が説明。しかし、この自家採取(増殖)が種苗法改定で禁止されると、毎年苗を購入する必要があり莫大なコスト高になる。

 そのため、「これ(苗購入)でやっていけますか」との質問に対して、夫は「できません」と即答。妻も「(苗購入費は)売り上げに近い。働いている意味がなくなってしまいます」と相槌を打ち、「自家増殖で作らせていただきたいと思う」と訴えた。

 女優の柴咲コウさんが「このままでは日本の農家さんが窮地に立たされてしまいます」(4月30日のTwitter。現在は削除)と警告を発したのは、こうした現場の生の声を代弁したものであったのだ。通常国会では慎重論が広まって継続審議になった種苗法改定だが、臨時国会でスピード成立させる日程が想定されている。

◆EUのような例外規定はなく、日本の改定案は一律禁止!?

 菅首相が初めて所信表明演説を行った臨時国会初日(10月26日)、永田町で審議入り前の緊急集会が開かれた。野党国会議員が次々と反対を表明した後、11月上旬から農林水産委員会で審議が始まり、月末までに通ってしまう恐れがあると報告された。安倍政権が廃止した種子法の審議時間はわずか6時間だったが、同じように菅政権もスピード改定を目論んでいるようなのだ。

 今回の種苗法改定は、先進国では考えられない内容になっていることも浮彫りになった。EUでは、登録品種の自家増殖は一律禁止ではなくて例外があり、主要農産物のコメ・麦・大豆は自家増殖が可能というのだ。アメリカでも、主食である小麦は農家が自家採種している。それなのに、日本の種苗法改定では登録品種の自家増殖は一律禁止だ。

 そして農業生産法人には3億円の罰金が科され、共謀罪の対象にもなる。主要農産物はEUやアメリカのように例外とし、各地域の特産品、岡山のブドウや長野県のリンゴなどは地方自治体が条例で定めて例外することが不可欠なのだ。

 紙智子参院議員(共産党)は集会の挨拶でこう批判した。

「(法改正の必要性は)『海外への流出防止』ということだが、『流出防止のためには海外で登録するのが唯一の対策』と農水省自身が言っていた。それを怠ったために海外流出が起きた」

 農水省の職務怠慢を棚に上げて、自家増殖禁止の法改定をするのは支離滅裂だと紙議員は指摘する。

◆地域の在来種は守られるのか?

 農学博士で前滋賀県知事の嘉田由紀子参院議員も、「地方から反対の狼煙を上げる」と宣言した。

「農というのは、地域の水と土に何百年、何千年と合わせてきたもの。これだけ『地方が大事だ』と言っている時代に、まさに地域の農の足元を壊すようなことを政府がやるのは想像できない。

 知事時代に進めたことは、種子法に基づいて地域地域の温暖化適応のタネを開発すると共に、地域に寝ていたタネ、特にナスとか大根とかぶらがすごく多い。これを一つずつ、それこそ、おばあさんがマッチ箱に入れて保存していたようなタネをまいて広げて、そこでマーケットができたらより高く売れる。

『おいしが(滋賀)』『うれしが(滋賀)』がキャッチフレーズ。食べた人がおいしい。作った人がおいしい。食を介したコミュニュケーション。在来の種子と野菜をやってきた。知事をやって良かったと思うのが、そういうことがどんどん地域でできること。  

 その一方で、在来の種子も下手すると、自家採取(増殖)ができなくなるといったことが一方で進んでいる。(滋賀県知事を経て)国会に来てビックリしている。地域で当たり前と思って来たことが、何でこんなにひどいことが起こっているのか。

 地域から反対の狼煙をあげていくことを目指していますので、今日もこうして国会の力と地域の力を合わせて、あまりに理不尽な、未来の日本の農業、農地を潰すような法案を阻止できるようにしたい」(嘉田氏)

◆拙速に決めるのではなく、農家の声をよく聞くことが不可欠

 農水省や種苗法改定に賛成の論者は「種苗法改定で規制される登録品種は一部にすぎず、広く一般に流通している品種は自家増殖可能」と主張している。しかし、農家の生の声を紹介した先の映画『種は誰のもの』には、自家増殖できなくなる登録品種とは知らずにコメなどを作ってきた農家も登場する。それを生産者側の不勉強と切って捨てるのはあまりに一方的だろう。こうした一方的な視点は、現状を十分に把握せずに悪影響を過少評価する一方、育種権者の知的財産権を過大に拡大させる恐れがある。

 製造業でも、知的財産権を金科玉条のように振りかざす弊害が出ている。ほとんど公知の技術であっても関連特許を大量出願し、特許権侵害を訴える”特許ビジネス”が横行、本来のものづくりに悪影響を及ぼしているのだ。

 同じように農業分野でも、モンサントなどのグローバル企業が育種権者の知的財産権を主張、伝統的な農業を続けてきた農家が自家増殖を禁止され、購入費を支払わされる事態となる可能性は十分にある。

 継続審議となった先の通常国会で亀井亜希子衆院議員(立憲民主党)が「スピード審議ではなく、農水委員会で現地視察をするなど農家の声をよく聞くことが不可欠」と、徹底した審議を求めたのはこのためだ。12月5日までと会期が短く、コロナ第三波で現地視察も困難になりつつある臨時国会で拙速に採決に持ち込むほど、軽い法改定ではないともいえる。

 臨時国会での審議はすでに始まっている。日本学術会議の任命拒否問題で「異論排除で国策ゴリ押し」の独裁的姿勢が露わになった菅首相が、農業者たちの批判や不安を無視して種子法改定をゴリ押しするのか否か。菅政権がどんな対応をしていくのかが注目される。

<文・写真/横田一>

【横田一】

ジャーナリスト。8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数

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