総理が国会で平然と嘘をついた事実を放置してはまともな国ではなくなる<弁護士・郷原信郎氏>

総理が国会で平然と嘘をついた事実を放置してはまともな国ではなくなる<弁護士・郷原信郎氏>

時事通信社

◆安倍氏の大嘘が裏づけられた

―― 安倍晋三前首相の後援会が開いた「桜を見る会」前夜祭の費用を、安倍氏側が補填していたことが明らかになりました。安倍氏は首相当時、費用の補填を否定していましたが、郷原さんは安倍氏の説明は成り立たないと批判してきました。

郷原信郎氏(以下、郷原): もともと安倍氏の説明は完全に破綻していました。安倍氏が嘘をついていることは明らかで、将棋で言えば「詰み」の状態でした。

 前夜祭で問題になっていたのは、1人5000円という会費は安すぎるのではないかということです。ホテルニューオータニの立食パーティーは1人1万1000円からとされているので、差額分は安倍後援会が補?したのではないかと疑われていました。

 もし補填が事実であれば、前夜祭には安倍氏の地元の支援者が多数参加していたので、公選法の禁じる有権者への寄付行為に当たる可能性があります。また、政治団体である安倍後援会が深く関わったパーティーであれば、収支が発生した場合、政治資金収支報告書に記載する義務があります。しかし、安倍後援会の収支報告書には夕食会の収支が記載されていませんでした。これはもろに政治資金規正法違反です。

 これに対して、安倍氏は会見で、安倍事務所は参加者から1人5000円集金し、ホテル名義の領収書を手交し、受付終了後に集金したすべての現金をその場でホテル側に渡すという形で支払いを行ったので、安倍後援会としての収入・支出は一切ないと弁明しました。夕食会の参加費もホテル側が設定したものだとして、あたかもこのパーティーがホテル主催であるかのように説明したのです。

 しかし、この説明には無理があります。もしホテル側が会費の設定を行い、会費の徴収もホテル側が行っていたとすれば、パーティーに参加した安倍氏夫妻や後援会関係者からも会費を徴収しなければおかしいはずです。その場合、安倍後援会には支出が発生するので、政治資金収支報告書に記載する必要があります。しかし、政治資金収支報告書には支出の記載がなかったわけですから、政治資金規正法に違反します。他方、もし安倍氏たちが会費を払っていなかったとすると、無銭飲食したことになります。いずれにせよ問題です。

 その後、安倍氏は参院本会議の代表質問で、前夜祭が安倍後援会の主催であることを認めながらも、会費の徴収はホテル側が参加者から直接行ったため、後援会としての収入・支出はないという答弁を行っていました。語るに落ちるとはまさにこのことです。主催者が会費の徴収に一切関わらないパーティーなど、常識的には考えられません。

 実際、今回の東京地検特捜部の捜査によってそのことが裏づけられました。ホテルニューオータニが検察に提出した資料の中には、安倍氏側が会費800万円以上を補填していたことを示す領収書が存在し、しかもその領収書は安倍氏の資金管理団体宛てとなっていました。安倍氏がこれまで行ってきた説明は丸ごと大嘘だったということです。

◆検察が捜査に乗り出した背景

―― 「桜を見る会」前夜祭の問題は安倍氏の首相在任中から批判されていましたが、検察は動こうとしませんでした。なぜこのタイミングで検察は捜査に乗り出したのでしょうか。

郷原:それにはいくつかの要因が考えられます。

 一つは、今年5月に弁護士や学者など500人以上が安倍氏と後援会幹部を告発したことです。同様の告発は1月にもあったのですが、そのとき検察は「代理人による告発は刑事訴訟法に規定がなく、認められない」という不可解な理由で不受理としました。しかし、さすがに500人以上の告発があったとなると、全く捜査しないというわけにはいかなかったのだと思います。

 もう一つは、「官邸の守護神」と言われた東京高検検事長の黒川弘務氏が賭け麻雀問題で辞任したことです。黒川氏が検察に残っていれば、検察が捜査に乗り出すことはできなかったのではないかと思います。

 また、安倍氏自身が総理を辞任したことも大きかったはずです。検察としては、安倍氏が総理でなくなった以上、どのような形であれ捜査を行わなければ世の中の批判に耐えられないと考えた可能性があります。

―― 一部では、検察の捜査の背後に菅総理の意向が働いているという見方があります。安倍氏が再び総理の座を狙い始めたので、菅総理が安倍氏の力を削ぐため、検察の捜査を後押ししている、あるいは黙認しているということは考えられませんか。

郷原:その点はよくわかりません。ただ、菅総理は予算委員会で日本学術会議やGOTOキャンペーンの問題を追及されていました。そうした中で前夜祭の問題が出てきたので、批判の矛先が菅総理から逸れた面もあります。

 また、この問題によって菅政権がそれほどダメージを負わないことも、菅総理の関与を疑わせる一因になっていると思います。もちろん菅氏は官房長官として安倍氏を支えてきたので、無関係とは言えません。菅総理も「事実が違った場合は当然、私にも責任がある」と述べています。

 しかし、菅氏が官房長官の立場で安倍事務所に事実関係を確認できるかと言えば、なかなか難しいと思います。そのため、菅総理の責任はどうしても限定的になるのです。

 今回の問題をスクープした読売新聞にも不可解なところがあります。読売新聞の司法記者と話をすると、自分たちがこの問題を真っ先に報じたにもかかわらず、どうも安倍氏に同情的です。

 とすると、読売の記事は司法クラブ主導というより、政治部主導で出されたものと見た方がいいかもしれません。そうであれば、そこに政治的意図が働いていたとしてもおかしくありません。

◆強制捜査をしてもおかしくない事件

―― 検察はどのように捜査を進めていくと見ていますか。

郷原:公職選挙法と政治資金規正法の問題をわけて考える必要があります。

 まず公職選挙法に関しては、立件の可能性は大きくないと思います。公選法が禁じる寄付行為の対象になるには、夕食会の参加者たちが安倍氏側からごちそうになったという認識がなければなりません。

 しかし、参加者たちから「このパーティーは本来なら1万円相当だが、安倍氏側が5000円にしてくれたので、その差額分をごちそうになった」という認識をとることは難しいと思います。参加者の中には、人一倍パーティーの料理を食べ、安倍氏からごちそうになったと考えている人もいるかもしれませんが、そのような人物を特定することは困難です。

 検察が狙っているのは政治資金規正法違反だと思います。安倍氏側が意図的に夕食会の収支を隠していたことは明らかですから、こちらの立件は難しくありません。国会では昨年11月から前夜祭の問題が追及されていましたが、そのあとに提出された政治資金収支報告にも夕食会の収支は記載されていませんでした。きわめて悪質です。

 これに対して、安倍氏側は、秘書が安倍氏に虚偽の説明をしていたなどという子供じみた言い訳をしようとしていますが、とてもではないですが、秘書が単独で行ったこととは思えません。

 先ほど述べたように、安倍氏は夕食会について、ホテル側が参加者から個別に飲食代金を徴収したという常識では考えられない説明をしていました。このような説明を安倍氏が一方的に行うとは考えられません。自分が説明したあと、ホテル側が否定するような事態になれば大変だからです。それゆえ、この時点で安倍氏はホテルと連絡をとり、補填の事実を把握していた可能性があります。

 もっとも、安倍事務所や後援会の人たちは、安倍氏の関与を知っていたとしても、そのことを話すはずがありません。任意捜査には限界があります。それゆえ、安倍事務所をめぐるカネの流れを明らかにするには、強制捜査をやるしかありません。

―― 各紙の報道によると、検察は政治資金規正法違反で安倍氏の秘書を略式起訴する方向だとされています。その場合、罰金刑となり、正式裁判は開かれない見通しです。

郷原: 報道を見る限り、検察は安倍氏の秘書を略式起訴にし、事件の幕引きを図ろうとしているようです。検察が本気で事件を解明しようと考えているなら、国会が終わる直前に安倍氏に任意聴取の要請をするといった話が流れてくるはずがありません。もうすでに強制捜査に着手しているはずです。

 安倍政権時代、検察は政権の疑惑に対してきわめて甘い態度で臨んでいました。彼らは捜査すべき事件もまともに捜査してきませんでした。結局、検察の体質はその当時からほとんど変わっていないということなのでしょう。

◆安倍氏は議員辞職すべきだ

―― 「桜を見る会」前夜祭の問題が再燃するきっかけになった読売新聞のスクープは、検察からのリークだった可能性があります。リークによって世論操作を行うことは、決して許されることではありません。この点についてはどのように考えていますか。

郷原: 確かに読売の報道が検察のリークではなかったと言い切ることはできません。私はこれまで検察が捜査情報をリークし、世論誘導を行って強引に捜査を進めていくやり方を批判してきました。今回の件も検察のリークが行われたとすれば、問題がないとは言えません。

 とはいえ、会費補填の事実は、安倍氏が国会などで追及を受けた際に、自ら進んで明らかにすれば済んだ話です。安倍事務所が本気でホテルに資料提供を求めれば、ホテル側が営業の秘密を理由に拒否することなどありえません。安倍氏が首相として当然果たすべき説明を拒否したことが、そもそもの発端なのです。

 それゆえ、仮に検察のリークがあったとしても、検察がリークせざるを得ない状況を生み出したのは安倍氏自身です。この点がこれまでの検察リークとの大きな違いです。

 もちろん検察と司法メディアの癒着の問題は、私はこれからも追及していきます。

―― 検察の捜査が秘書の略式起訴で幕引きになったところで、安倍氏が国会などで嘘をついたという事実は消えません。安倍氏の責任を徹底的に追及する必要があります。

郷原: 現在のような事態を放置していれば、日本はまともな国とは言えません。このまま事件を幕引きにさせないためには、国民がもっと怒りの声をあげる必要があります。

 もともと「桜を見る会」は、各界で功労・功績のあった人たちを慰労することを目的としていました。しかし、安倍一強が続く中で、「桜を見る会」は安倍後援会関係者たちの歓待行事に変質してしまいました。

 「桜を見る会」の運営を担っていた内閣府や官邸の職員たちも、違和感を覚えていたはずです。しかし、安倍氏が強大な権力を握っていたため、異を唱えることができなかったのだと思います。そのため、大型バスで傍若無人に乗り込んでくる安倍後援会の行動を黙認するしかなかったのでしょう。

 こうした「桜を見る会」の私物化の延長上で、前夜祭での違法行為が行われたのです。

 しかし、安倍氏は国会で前夜祭の問題を追及されても、嘘に嘘を重ね、違法なことはやっていないと開き直ってきました。周囲にいる官僚や政治家たちも安倍氏に忖度し、安倍氏の言い訳を正当化してきました。安倍内閣は嘘に嘘を重ねただけの「虚構内閣」だったのです。安倍氏のような人間が8年近くも首相の座に居座り続けたことは、悪夢そのものです。

 検察の捜査は秘書の略式起訴で終わるかもしれませんが、安倍氏には重大な道義的責任があります。そもそも秘書が略式起訴されること自体、深刻な問題です。安倍氏は議員辞職すべきです。

(12月3日、聞き手・構成 中村友哉)

<記事提供/月刊日本2020年1月号>

【月刊日本】

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