台本を読むだけの“茶番劇”。「緊急事態」でも菅首相の言葉が響かない理由

【新型コロナウイルス】緊急事態宣言で記者会見も、菅義偉首相の言葉が響かない理由

記事まとめ

  • 菅義偉首相が関西3府県、東海2県、栃木福岡両県に対する緊急事態宣言を決定し会見した
  • 質問は厳しい内容もあったが、首相は質問時から台本を見ており、回答も問答集を読んだ
  • 菅首相は国民や若い人にコロナについて訴えたが、滑舌も悪く、その言葉は心に響かず

台本を読むだけの“茶番劇”。「緊急事態」でも菅首相の言葉が響かない理由

台本を読むだけの“茶番劇”。「緊急事態」でも菅首相の言葉が響かない理由

1月13日の会見で、下を向いて用意された「台本」を読み上げる菅義偉首相

◆最後まで「台本を読み上げながら」行われた菅首相会見

 菅義偉首相は1月13日、新型コロナウイルスの感染が拡大している大阪・京都・兵庫の関西3府県と、愛知・岐阜の東海2県、栃木・福岡の両県の計7府県に対して、特別措置法に基づく緊急事態宣言を決定し、午後7時から記者会見を行った。

 

 菅首相は会見の冒頭、「みなさんも不安だと思うが、全国に拡大するのを防ぐため、宣言対象地域の拡大は欠かせない措置だ。あらゆる手段を尽くして取り組む。制約の多い生活でご苦労をおかけするが、国民のみなさんの協力をお願いしたい」と、下を向いて台本を読みながら訴えた。

 菅首相は1月7日の会見で述べた「午後8時以降の外食の自粛」など4つの対策を示し、緊急事態宣言発出中の外国からの入国の一時停止を表明した。菅首相の冒頭発言の後は、いつものように山田真貴子内閣広報官(元総務官僚、安倍政権で秘書官)の司会のもと、記者の質疑応答が始まった。政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長が菅首相の横に立った。

 これまでの記者会見と同じように、内閣記者会(正式名・永田クラブ、官邸記者クラブとも呼ばれる)の幹事社2社が質問。その後、記者会の記者、外国メディア、ネットメディアの記者が質問し、40分で終了した。

◆記者が会見の続行を求めるも、「次の予定」を理由に強制終了

 菅政権の会見では珍しく、幹事社の質問には厳しい内容のものもあった。

「結果的に見通しが甘かったのではないか。すでに全国に拡大しているのではないか」(時事通信・大塚記者)

「五輪優先で対策が遅れたのではないか」(テレビ東京・篠原記者)

 内閣支持率の急降下で、記者たちもやや強気になってきたのだろう。しかし菅首相は質問の時から台本を見ており、回答も問答集を読んでいる。

 菅首相の回答は冒頭発言の繰り返しで、同じことを二度言う場面もあった。首相は政府の対策本部の会議で「福岡」を「静岡」と読み間違えて訂正もしないなど、“裸の王様”になっている。「そうした」「こうした」と言う時にトーンが上がって耳障りだ。NHKの長内記者の「国民の間に自粛疲れがあるのでは」という問いにも、「4つの対策を」としか答えなかった。

 ブルームバーグのノブヒロ記者が「感染率は外国に比べて低いのに、医療崩壊が起きているのは、根本的に医療体制に問題があるのか」と聞いたが、菅首相は「国によって医療体制が違うので、比べることは難しい」としか答えない。

 最後に質問したビデオニュース・ドットコムの神保哲生氏は「医療体制の質問に、外国と比較できないとしか答えなかった。体制を整えるのが政治だ。医療法の改正をするべきではないか」などと聞いた。

 これに対して、菅首相は「議論、検討する」としか答えなかった。このやりとりは台本にはなかったようだ。山田氏は「次の予定」を理由に会見を強制終了した際、神保氏らが「(質問に)きちんと答えていない」などと、珍しく数人が会見の続行を求めて声を上げた(これは首相官邸の動画からはカットされている)。しかし記者会のメンバーは沈黙し、会見は終わった。

◆会見をするたびに菅政権の支持率がどんどん下がっていく

 緊急事態宣言の再発出を決めた1月7日午後6時からの記者会見では、こういう声すら出ていなかった。7日の首相会見は首相官邸のウェブサイトで動画と文字記録を見ることができる。

 この日、テレビ各局で中継された52分間の会見の冒頭で菅首相は「1か月で必ず感染者を減少させる」として「国民に制約のある生活をお願いする」と述べ、「若い人は感染してもほとんど重症化しないが、両親・祖父母などの命を守るため、自分のこととして考えてほしい」と訴えた。

 しかし菅首相は滑舌が悪いうえ、下を見て台本を朗読するだけ。聞いている人には分かりにくく、言葉が心に響いてこない。

 共同通信の世論調査(1月9・10日)では、菅政権の支持率は前回から9ポイント下がり、41.3%(不支持は42.8%)になり、政府のコロナ対応に対しては「評価しない」が68.3%、「評価する」は24.9%で安倍・菅政権で最低になった。12日発表のJNN世論調査では、支持率が先月より14.3ポイント下落して41%となり、不支持(55.9%)が初めて上回った。

◆発言の内容や熱意がまったく伝わらない首相会見

 11日に放送されたTBS「グッとラック!」で、田村淳氏は「菅首相の日本語ではまったく伝わらない」などと的確に批判し、司会の立川志らく氏も「カリスマ性のない菅首相では、ついていこうという気持ちにならない」と言い切った。

 さらに、ニュースサイト「リテラ」によると、フジテレビの「バイキングMORE」では、坂上忍氏が「楽観視というよりは、理解してらっしゃるのかがちょっと不安」とコメント。和田アキ子氏も9日、自身のラジオ番組で「あの人の言ってること、ようわからんわ」と切り捨てたという。

 

 TBSテレビ「ひるおび!」が8日、ネットで300人に「首相会見で、新型コロナの感染拡大防止の熱意が伝わったか」を聞いたところ、「伝わった」は約38%、「伝わらない」が約62%との結果が出ている。

 田崎史郎氏はこの調査結果を見て「菅総理はもともと口下手。日本の歴代首相で話がうまかったのは田中角栄、小泉純一郎両氏ぐらい。菅総理は、安倍晋三前首相が使っていたプロンプターを使わないから、下を向いての棒読みになる」と菅首相をかばった。しかし、まったく自分の言葉で話せない菅首相は、歴代首相の中でも最悪だろう。

 田ア氏はまた、「ひるおび!」で、「若者への訴えの部分は、総理自身がよく考えた」「『必ず』を3回も使い、力がこもっていた」と菅首相をヨイショしたが、「では、若者への言葉以外の発言は誰が書いたのだろう」と突っ込みを入れたくなった。

 市民の「知る権利」を代行する記者たちとの質疑応答でも、記者が質問している時から手元の問答集に目を落としており、首相は無表情でその回答を読むだけ。パソコン画面をずっと見ている記者たちのほうにも迫力がなく、緊張感もない。日本の首相の「記者会見」は、国際標準の記者会見(press conference)にはなっていないのだ。

◆安倍首相の時よりもますます閉鎖的で中身がスカスカに

 この間、デジタルメディアでも学者やジャーナリストが菅首相の記者会見を問題にしている。いずれも的確な論評だと思うが、首相会見を主催している日本最大の「記者クラブ」(日本新聞協会のウェブサイト英語版では、海外にある“press club”との混同を避けるため、 “kisha club”と英訳されている)である内閣記者会の問題が忘れられている。

 安倍政権の時から日本の首相の記者会見がつまらない原因は、内閣記者会が官邸報道室の完全支配下にあることに尽きる。菅首相自身と内閣報道室、進行役の山田真貴子内閣広報官がダメなのだが、内閣記者会にも連帯責任がある。「記者クラブ」制度が会見を茶番劇にしてしまっているのだ。

 形式上、官邸での首相・官房長官の会見は、内閣記者会の主催になっている。しかし記者会には事務局もスタッフもなく、ウェブサイトもないため、実際は官邸報道室が会見の実施時期、参加者の選定、運営などすべてを仕切っている。

 菅首相の7日の記者会見は、@2019年9月16日の就任時(30分)A10月21日外遊先のジャカルタでの内外記者会見(20分)B12月4日の国会閉会前日会見(50分)C12月25日のコロナ禍での会見(55分)D今年1月4日年頭会見(30分)に次いで、6回目だった。

 コロナ禍に絞った会見では2回目。安倍前首相は昨年2月末から6月まで8回、コロナ関連で会見した。菅政権になって記者会見はますます閉鎖的となり、内容もさらにスカスカになっている。

◆用意されたカンペを読みながら、“台本通り”に会見が進んでいく

 1月7日の会見を振り返ってみよう。会見の司会・進行役は山田内閣広報官。冒頭、菅首相が首都圏の1都3県に対し緊急事態宣言を決定したことを報告した。筆者はこれをNHKテレビで見たが、会見開始の直後、テロップで「全国できょう7000人超の感染 3日連続で過去最高」との速報が出た。

 菅首相は「飲食は20時までの営業」「テレワーク推進」などを進めると述べた。菅首相は特措法改正案の早期提出などを述べた後、「私たちの想像を超えた厳しい状況だ。不要不急の外出をしないなどを徹底してほしい」と要請。最後に「政府はありとあらゆる方策を講じていく。国民のみなさんのご協力をお願して、私からの挨拶とさせていただきたい」と述べた。結局、記者会見は「挨拶」だったのだ。

 記者との質疑応答では、山田氏が「指名を受けられた方はスタンドマイクに進み、所属とお名前を明らかにしていただいたうえで、1問ずつ質問をお願いしたい。質問が終わったら、マスクをご着用のうえ、自席にお戻りください。なお、自席からの追加の質問はお控えください」と述べた。山田氏は記者に名前を明らかにするよう求めるものの、自身は会見で所属(肩書)・氏名を名乗ったことがない。

 質疑応答では、コロナ対策分科会の尾身会長が菅首相の横に立った。首相会見に専門家を呼ぶのは異例のことだ。山田氏は「慣例に従って、幹事社から。それでは、日経の重田さん」と指名。重田記者は「1か月で収まらなかった場合はどうするのか」と聞いた。

 菅首相は質問の時から台本を見ており、「前回も1か月だった」などと回答した。これもすべて台本通り。記者会の参加者は事前に質問事項を首相側に出しているので、問答集のカンペが用意されているのだ。

 次に山田氏は「それではもう一つの幹事社、テレ東の篠原さん」と指名。篠原氏は「医療従事者の給与を上げないのか」と聞いた。これに対する菅首相の回答は、冒頭の「挨拶」で言ったことの繰り返しだった。

◆どんな質問に対しても、用意された回答文を読み上げ続ける菅首相

 山田氏が「ここからは、幹事社以外の記者会の方に質問していただく。それでは共同の吉浦さん」と指名。吉浦氏は「PCR検査を充実させないのか」と聞いた。ここでも菅首相は、質問の時から台本に目を落として回答を読んでいる。次に「フジの鹿嶋さん」が指名された。こうして“台本通り”の会見が進んでいく。

 続いて、山田氏は「それでは、えっと……外国プレスなどから質問を受けたい。ロイターのタケナカさん」と指名。タケナカ氏は「五輪を人類がコロナに打ち勝った証として開くと言ってきたが、状況が変わった今、開催の可否はどうか。国民の3分の2は開催に懐疑的だ。総理の思いは」と聞いた。

 菅首相は「新型ウイルスに対応し、安全安心な大会を実現したい。バッハIOC会長との会談で、開催で一致している。(ワクチン)接種でしっかり対応すれば、国民の雰囲気も変わってくると思う」と回答を読み上げた。

「それでは次のご質問は記者会から。中国新聞のシモクボさん」。中国新聞の記者は「中国新聞のシタクボ(下久保)です」と名乗って、核兵器禁止条約について聞いた。菅首相は「核兵器保有国と非保有国の橋渡しをしたい。我が国は署名する気はない」と答えた。これも台本を読んでいる。

 

 次に「毎日の笈田(おいた)さん」が指名され「パチンコ店への規制などがない。中途半端な対応ではないか」と聞いた。菅首相は「感染の大部分が飲食からだ」などと回答。ここでも用意された回答文を読んでいた。

◆“台本通り”の茶番劇はまだまだ続く

「次は、記者会以外の方に。ドワンゴの七尾さん」と指名。七尾氏はまず「総理、連日お疲れ様です」と菅首相を慰労して、人流データなどのさまざまなデータの活用について聞いた。これは露骨なゴマスリ質問だった。

「次は、記者会の方。京都の国貞さん」と指名。山田氏は京都新聞がお気に入りで、毎回のように指名している。「大阪を宣言の対象にする時は、京都・兵庫も含むか」と質問。この答えも当然、菅首相は台本を読み上げた。

 そして山田氏は「内閣記者会以外の方。ラジオ日本の伊藤さん」と指名。憲法改定と特措法の緊急事態との関係を質問。これも、菅首相が会見で聞いてほしい質問だった。菅首相は回答を読んでいる。

 山田氏は「予定の時間になった。次の日程の関係もございますので、最後の質問としたい。それでは、テレ朝、吉野さん」と指名。持続化給付金の継続に関する質問だった。

 山田氏は「会見のほうはこれで終えたい。みなさんのご協力に感謝申し上げる。挙手されている方は、メールで質問を送ってくれれば、総理の回答を送る。回答は(官邸)ホームページでも公開する」と言って、会見を閉じた。52分の会見だった。

◆結局、首相に都合の悪い質問は誰一人としてしなかった

 山田氏は毎回、会見を閉じるときに「みなさんの協力に感謝」を表明するが、記者会の協力=隷従姿勢がなければとても持たない「会見」だ。首相会見は「次の予定」を理由に、30〜60分以内に強制終了される。山田氏は1月7日の会見も「次の予定」を理由に閉会した。

 1月8日の各紙に載った「首相動静」を見ると、会見後の午後6時55分に面談したのは、和泉洋人首相補佐官ら官邸のスタッフだった。これまでは、不要不急の外国首脳との電話会談を設定するなどしていたが、これでは会見を強制的に打ち切る理由にはまったくならない。

 山田氏は質疑応答で幹事2社の後、記者会の記者に質問させ、途中から「記者会」と「記者会以外」を交互に指名した。ここで言う「記者会」とは、内閣記者会の常勤幹事社(19社)のことだ。内閣記者会のメンバーでも、常勤幹事社以外の非常勤の報道機関は「記者会以外」扱いになっている。

 常勤社以外で指名されたロイター、ドワンゴ、ラジオ日本の各記者も事前に質問内容を官邸側に提出していたと思われる。山田氏は、質問事項を出した記者を指名しているのだろう。1月4日の年頭会見も同様だが、7日の会見も国際標準の記者会見ではなく、一方的な朗読会、茶番劇だった。

 学術会議任命拒否、安倍前首相の「桜を見る会」疑惑、河井案里議員の大規模買収事件、吉川元農水省の不正献金事件など、首相にとって都合の悪い質問はゼロ。首相は昨年12月16日まで高級飲食店で政財界、メディア関係者、芸能スポーツ有名人と会食を重ねていた。「Go To」事業の強行が社会全体の緩みを増長したことも間違いないが、こうしたことについてはどの記者も追及しない。

 記者会の記者たちはパソコンに向かって文字を打つだけで、首相を追及する気概がまったく感じられない。官邸側から「更問」(さらとい=回答に対してさらに質問すること)禁止を言われていて、首相に質問を畳みかけることもできない。そのため菅首相の台本どおり進んでしまい、真剣勝負にはならないのだ。

<文・写真/浅野健一 菅首相会見写真/首相官邸のウェブサイトより>

【浅野健一】

あさのけんいち●ジャーナリスト、元同志社大学大学院教授

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