菅首相が会見などで口にする「〜じゃないでしょうか」は何を意味しているのか

菅首相が会見などで口にする「〜じゃないでしょうか」は何を意味しているのか

首相官邸HPより

◆活発なやりとりとなった「ぶら下がり」取材

 6府県を対象として緊急事態宣言の先行解除が決められた2月26日の夕方に、菅義偉首相は官邸で記者団の「ぶら下がり」取材に応じた。この日は正式な記者会見をおこなうことが予定されていたが前日に急遽、見送りとなったことから、記者会見で司会進行を担当してきた山田真貴子内閣広報官が菅首相の長男らによる高額の接待を受けていた問題との関連が取りざたされた。

 従来は数分で終わってきた菅首相に対する「ぶら下がり」だが、今回は記者側から矢継ぎ早に質問が投げかけられた。正式な記者会見の場合には、指名する記者を山田広報官が選び、質問も一人一問に制限していたため、かみ合わない答弁しかない場合でも更問い(重ね聞き)が困難であったが、今回の「ぶら下がり」では更問いも活発におこなわれ、菅首相も答弁書の棒読みではなく自分の言葉で答えており、正式な記者会見以上にリアルなやりとりが実現することとなった。全体で18分ほどの中で、冒頭の記者団による問いかけ以外の問いかけは、毎日新聞の一問一答詳報によれば、延べ27回に及んだ。

●菅首相いら立ち「同じような質問ばっかり」 一問一答詳報(毎日新聞、2021年2月26日)

 首相官邸ホームページでは、以下の通り、その時の映像が確認できる。

●緊急事態宣言の一部解除等についての会見(首相官邸ホームページ、2021年2月26日)

 ただし、この映像では、冒頭の記者団からの問いかけがカットされている。また、同ページにも書き起こしがあるが、記者の質問が「〇〇について」とまとめられており、「やりとり」として確認することができない。さらに、菅首相が質問を打ち切ろうとした場面なども書き起こしでは省略されているため、上記の毎日新聞の一問一答詳報の方が、再現性が高い。

 質問が重ねられる中で、菅首相がいら立っていく様子は、下記のChoose Life Projectによる2分16秒の編集映像からもうかがうことができる。

◆菅首相が多用する「〜じゃないでしょうか」の意味

 さて、今回取り上げたいのは、「〜じゃないでしょうか」という、菅首相が多用する言い回しである。いったいこれは、何を意味するのだろうか。上記の毎日新聞の詳報から今回の「ぶら下がり」における「〜じゃないでしょうか」という言い回しを確認したところ、13回もあった。一度耳に残ると、そのあとずっと気になる言い回しだ。他に、「〜じゃないですか」が2回ある。

 「〜じゃないでしょうか」というぼかしたような表現を首相が記者会見で多用するというのは、不自然に思える。なぜ自分が責任をもって、はっきりと言い切らないのだろうか、と。なぜ首相なのに、相手にお伺いを立てるような言い方をするのだろう、と。

 以下では今回の「ぶら下がり」における「〜じゃないでしょうか」という言い回しが用いられた文脈をたどりながら、私なりの見立てを提示してみたい。

 結論を先に言えば、これは、いら立ちを抑えながら反論する場合に用いられる言い回しではないだろうか。「〜じゃないですか!」と言いたい気持ちは抑えなければいけない、しかし反論はしたい、そういう場合に口をついて出てくるのが「〜じゃないでしょうか」という言い回しではないか、と思うのだ。

◆18分の「ぶら下がり」に13回も出てきた「〜じゃないでしょうか」

 具体的に見てみよう。「〜じゃないでしょうか」は13回、「〜じゃないですか」は2回、この26日の記者会見の答弁に登場する。まず少ないほうの「〜じゃないですか」の1つ目から見ておこう。具体的な発言はこうだ(以下、発言は毎日新聞の一問一答詳報による。なお、記者の問いは、発言そのままではなく、ある程度要約されている)。

「いやですから、基準決めてるわけですから、基準はクリアしてるわけでありますから、その上に立って、やはり予断することなく、それぞれの首長さんも徹底して行うように、時間短縮を8時まですぐやめるんじゃなくて、いろんなことを考えてるんじゃないですか」

 これは、感染の再拡大について、専門家からも相当強い懸念が当日の諮問委員会でも示されていることを記者が問うた際の菅首相の答弁だ。この「考えてる」の主語は「それぞれの首長さん」だ。それぞれの首長が、感染を再拡大させないための対策は考えているだろう、という趣旨の発言だ。この「考えてるんじゃないですか」は、「推量」と考えることができそうだ。「明日は雨じゃないですか」などと同様だ。

 これに対し、13回も登場する「〜じゃないでしょうか」と2つ目の「〜じゃないですか」は、どうやら「推量」ではない。具体的には、次の通りだ。

(1)

●記者 緊急事態宣言の6府県解除という重大な決定したにもかかわらず、なぜきょう記者会見を行わなかったのですか。高額の接待を受けた山田(真貴子)内閣広報官の問題が影響したのですか。

●首相 まず、山田広報官のことは全く関係ありません。現に昨日、国会で答弁されてきたことも事実じゃないでしょうか。

(2)

●記者 記者会見について。対策本部でも国民に時短や感染防止のお願いをしている。まず国民の疑問に答えるべきだと思うが、それでも今日、会見やらずとも国民の協力えられるとお思いか。

●首相 あのー、今日こうして、「ぶら下がり」会見やってるんじゃないでしょうか。

(3)

●記者 「ぶら下がり」会見では通常5分程度で立ち去っているが、本日はある程度時間をもって記者の質問に答えるのか。

●首相 必要なことには答えてるんじゃないでしょうか。

(4)

●記者 そもそも、「ぶら下がり」は記者から要請している。本日もし記者から要請なければ、総理は言葉を述べることはなかったということか。

●首相 あのー、その前に会見の要請があったんじゃないでしょうか。

(5)(経済支援について)

●記者 今後どのようなタイミングでどういったものを考えているのか

●首相 あのー、そうしたものを含めて検討するということじゃないでしょうか。検討する時間必要だと思います。

(6)

●記者 先行解除によって、感染再拡大の懸念や、他の地域への影響についてどのように見ているか。

●首相 そこはやはり地元の知事の意向ちゅうのも大事にすべきじゃないでしょうか。

(7)

●記者 ワクチンの確保について。ずっと6月末までに全国民分の確保とおっしゃっていたが、その目標は今でも達成可能とお考えか。

●首相 あの河野(太郎・行政改革担当)大臣が会見でも6月中にはということを言ってるんじゃないでしょうか。明解だったと思います。

(8)

●記者 総務省と農水省、それぞれで利害関係者との会食や接待が問題になっている。他の省庁も含めて総理主導で調査委員会等、第三者をつくるお考えはないか。

●首相 いずれにしろ、(国家公務員)倫理法で決まってますから、そこの順守というのは、いろんな会議の中でしっかりと徹底をする、そうしたことを言うことは当然のことじゃないでしょうか。

(9)

●記者 現状で問題出ているが、改める必要ないということか。

●首相 いや徹底して行うという、この倫理法に基づいて順守するということは、やっぱり徹底をすることが大事なんじゃないでしょうか。

(10)

●記者 総務省の接待問題について、接待があれば、便宜を目的とすると考えるのも当然。総理はこの件どう考える?

●首相 あの、ですからそこのためにルールを決めてるんじゃないでしょうか。

(11)

●記者 正式な記者会見とこういった「ぶら下がり」取材の違いは何が違うと考える?

●首相 それは皆さんが考えることじゃないですか。

(12)

●首相 これ、3月7日までまだ日にちがあるわけでありますから、そこに解除できるようにすることに全力を挙げることが大事なことじゃないでしょうか。

(13)(14)

●記者 今度の会見では最後まで質問打ち切りなくお答えいただけるのか。

●首相 いやあの、私も時間がありますから。でも大体皆さん出尽くしているんじゃないでしょうか。先ほどから同じような質問ばっかりじゃないでしょうか。

◆なぜ言い切らないのか

 これらは、「それぞれの首長」が「いろんなことを考えてるんじゃないですか」と菅首相が語ったときの「〜じゃないですか」とは意味合いが違う。「たぶんそうだろう」という「推量」ではない。

 (1)の「現に昨日、国会で答弁されてきたことも事実じゃないでしょうか」は、事実を述べている。一般的には、「現に昨日、国会で答弁しています」と言えばいいところだ。菅首相らしい言い回しなら、「現に昨日、国会で答弁されてきたことも、これ、事実であります」と答えることも考えられるが、そう答えることもしていない。なぜか。

 (7)を見ると、ワクチンについて、「大臣が会見でも6月中にはということを言ってるんじゃないでしょうか。明解だったと思います」と語っている。「明解」なのに、なぜ「〜じゃないでしょうか」という曖昧な言い方をするのだろう。河野大臣がそう言ったかどうか、確信がもてず、たぶんそう言ったのだろう、と推量で語っているわけではない。「大臣が会見でも6月中にはと申し上げています」と端的に答えればいい場面だ。

 はっきりと主張することを避けるときに「〜じゃないでしょうか」という言い方をすることはある。たとえば、「会議に準備する飲み物は、お茶とコーヒー、どちらがいいでしょう」と助言を求められて、「お茶がいいんじゃないでしょうか」と答えるような場合だ。「お茶がいいです」と強く主張したいわけではなく、やわらげた言い方をするわけだ。自分が決める責任を負わずに、相手に決定権を投げ返したい意味合いもあるだろう。

 しかし上記の(7)では、「明解だったと思います」と、はっきり主張している。なのに、「申し上げています」と端的に答えずに「言ってるんじゃないでしょうか」という言い方をするのは、なぜか。

◆抑制されたいら立ちの表れか

 これは私の推測だが、菅首相の場合、端的に答えるだけでは収まらない気持ちが、「〜じゃないでしょうか」という言葉になって表れているのではないかと思う。収まらない気持ちとは、いら立ちや怒りを伴って反論したい気持ちだ。端的に事実を述べること、主張を述べることだけでも、それは反論になる。しかし、それだけでは気持ちが収まらない。相手に向かって強い言葉を投げかけたい。しかし、怒りをぶつけるわけにはいかない。

 菅首相は官房長官時代に国会で、小川淳也議員に「私は、官僚に激怒することはありません」と語っていた。毎月勤労統計調査の不正が問題になっていた2019年2月12日の衆議院予算委員会でのことだ。

●小川淳也議員

 官房長官、一昨日の報道で、厚生労働省の研究会において、ある委員の方が、サンプルを入れかえて数字が悪くなるやり方に官邸か菅官房長官がかんかんに怒っている、激怒しているということで、厚生労働省の職員は当初から相当気にしている。恐らく震え上がったでしょうね。

 官房長官、この4月から6月の間に、厚労省からこの説明を受け、そして、あなたは激怒したという事実があるかないか、お答えください。

●菅義偉官房長官

 私、この新聞記事を見て激怒したいぐらいでした。

 実は私は、官僚に激怒することはありません。これが政治家としての、横浜市会議員当時から今日に至るまで、私の姿勢です。私は官僚と議論します。官僚と闘うときは理論で勝たなければできないということは市会議員のときからよく知っていましたので、そのことを一貫して貫いていますので、感情的に激怒することはまずあり得ない、このことを申し上げたいと思います。(第198回国会 衆議院 予算委員会 第5号 平成31年2月12日より)

 しかし、私たちは、菅首相がいら立ちを抑えられなかった場面を目にしている。昨年10月26日のNHK『ニュースウオッチ9』に菅首相が生出演し、有馬嘉男キャスターが日本学術会議の任命拒否問題について問うたとき、菅首相は

「ただ、説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか。105人の人を学術会議が推薦してきたのを政府がいま追認しろと言われているわけですから。そうですよね?」

と険しい表情で答えていた。机を強く叩くような手の動かし方もしていた。テレビに生出演していてもそうやって気持ちを高ぶらせるのだから、カメラのない場ではもっと激怒するんだろうな、と思わせる場面だった。なお、ここでも「〜じゃないでしょうか」という言い回しが使われている。

 内閣総理大臣という立場にある者が、みずからの感情をコントロールできずに人前で激怒することは避けるべきだ。そのことは、菅首相も十分承知だろう。

 それでも2月26日の「ぶら下がり」では、菅首相は険しい表情を何度も見せ、最後には、「先ほどから同じような質問ばっかりじゃないでしょうか」と言い捨ててその場を立ち去った。感情的には波立つものがあったのだろう。

 その波立つ思いが、抑えきれず、けれどもあからさまな形で表出することは抑制しなければという力が働いている中で言葉となって出てきたものが、「〜じゃないでしょうか」という言い回しではないかと思われるのだ。

 「現に昨日、国会で答弁されてきたことも事実じゃないでしょうか」は、「現に昨日、国会で答弁したじゃないですか!」と言い換えれば、不自然な言い方にはならず、すんなり了解できる。「今日こうして、『ぶら下がり』会見やってるんじゃないでしょうか」は、「今日こうして、『ぶら下がり』会見をやってるじゃないですか!」だろう。

 他も同様に言い換えられる。「それは皆さんが考えることじゃないですか」は、「それは皆さんが勝手に考えてくださいよ!」あたりか。「でも大体皆さん出尽くしているんじゃないでしょうか。先ほどから同じような質問ばっかりじゃないでしょうか」は、「でも大体皆さん出尽くしてますよ。先ほどから同じような質問ばっかりじゃないですか!」だろう。

 また、上記で「(それぞれの首長さんは)考えてるんじゃないですか」という答弁を「推量」と考えることができそうだ、としたが、これも「(それぞれの首長さんは)当然、考えているでしょうよ!」といったニュアンスでとらえた方がより適切であるように思える。

◆国会答弁に見る「〜じゃないでしょうか」

 これはあくまで、私の見立てだ。しかしそう見立ててみると、国会答弁において、以下のように、「事実」だとの指摘に「〜じゃないでしょうか」が付されている場合や、「私」を主語にしながら「〜じゃないでしょうか」が付されている場合なども、同様に「抑制されたいら立ち」の表れであると解釈できるのでは、と思うのだ。

<参議院予算委員会、2020年11月25日>

●枝野幸男議員

 明確に、この間政府がやったことは、GoToトラベル、GoToイート、そのことによって直接感染が広がったかどうか、エビデンスはない。でも、なぜ広がっているのかわからないんですから、それが理由ではないというエビデンスもないんじゃないですか。

 人の移動が活発になれば感染が広がる。GoToトラベルは人の移動を政府が推奨した、勧めていた、これは間違いないですね。今も勧めているんですよね、全面中止じゃないですから。総理。

●菅義偉首相

 政府の仕事は、国民の命と暮らしを守ることであります。

そうした中で、GoToトラベル、今日まで約4千万人の人に御利用いただいております。そして、現実的にコロナの陽性になった方は180名であります。

 もともと、このGoToトラベルを進めるに当たって、当然、政府の分科会の皆さんの意見を聞きながら進めさせていただいております。

まさにこのGoToトラベルによって地域経済を下支えているということは、これは事実じゃないでしょうか。(第203回国会 衆議院 予算委員会 第4号 令和2年11月25日より)

<参議院 決算委員会、2017年4月3日>

●辰巳孝太郎議員

 ということは、官房長官、国有地の問題を籠池氏は様々、財務局や航空局や大阪府とやり取りをしていた、そして留守電に残したと、昭恵さんの留守電に、ここまでは確かですね。その後、昭恵さんは谷さんにこういう留守電が入っていたということ、それを伝えたという、そういう認識だったと思いますが、どうですか。

●菅義偉官房長官

 私は全く承知していないということをずっと言い続けているんじゃないでしょうか。

 そういう中で、夫人付きも一緒に講演現場に行っていますから、そこにそういう、まあ要請のですか、そういう文書が来たので、ファクスで回答したように、全くゼロ回答を丁寧に出したということじゃないでしょうか。(第193回国会 参議院 決算委員会 第3号 平成29年4月3日より)

 いかがだろう。菅首相が「〜じゃないでしょうか」という言い回しを、「なぜここでそういう言い方をするのか?」と思われる文脈で用いたときには、それは、「〜じゃないですか!」と言いたい気持ちを抑えているのではないか、と考えてみると、読み解けるかもしれない。

<文/上西充子>

【上西充子】

Twitter ID:@mu0283

うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。また、『日本を壊した安倍政権』に共著者として参加、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆している(ともに扶桑社)。単著『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)ともに好評発売中。本サイト連載をまとめた新書『政治と報道 報道不信の根源』(扶桑社新書)も好評発売中

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