今や「夜行バス」は“動くネットカフェ”? 空気清浄機も完備、座席で差別化の最新事情

 その運賃の安さゆえ、学生などを中心に人気の高い高速バス。なかでも、深夜から夜通しで走行し、翌朝目的地に到着する「夜行バス」はさらに安く利用できる場合が多い。一昔前の夜行バスといえば、固いシートで乗り心地が最悪といった「安かろう悪かろう」な印象が強かったが、今や快適な乗り物へと“進化”しているという。高速バスに千回以上もの乗車経験を持つ、乗り物関連の記事を執筆するライターの須田浩司氏に、最新事情を聞いた。

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“トイレ休憩の時間が短く、心配でなかなか寝付けない”
“固いシートに長時間座りっぱなしで体が痛くなる”
“隣の乗客が気になって落ち着かない”

 夜行バスがそんなネガティブなイメージだったのも、今は昔。最近は、座席間を仕切るカーテンやフカフカで疲れにくいシートがあるのはもちろんのこと、各座席にはスマホ充電用のコンセント(またはUSBポート)が設置され、車内にはWi-Fiが飛んでいる。なかには、マッサージチェアが座席となった車両もあるほどだ。

 須田氏は、「近年の夜行バスの中には、“動くネットカフェ”と呼ぶにふさわしいバスもある」というが、これほどに快適さが顕著になりだしたのは、いつ頃からなのだろうか。

「2005年頃から徐々に増え始めた印象です。当時の高速バスは、大きく分けて2種類に分けられました。ひとつは、昔からある、JRや京王バスなどが運行している高速乗合バス。もうひとつは、今はありませんが、旅行代理店がバスを借り上げて運行する『高速ツアーバス』です。このころの高速ツアーバスの台頭でサービス競争が激化し、運賃の安さだけでなく、快適性を競うようになったのが、キッカケだと思います」(須田氏、以下同)


■座席の配列で異なるトイレ事情


 夜行バスで提供されるサービスは、座席の配列や料金などによって異なるという。

「夜行バスの運賃を左右する大きな要因は、座席の配列です。多くの人に馴染みのある4列シートが最も安く、3列シート、2列シート、個室タイプ、という順に値段が上がっていきます。時期にもよりますが、東京〜大阪間で、トイレ無し4列シートなら3千円〜4千円。トイレ付き4列シート、トイレ無し3列シートは、5千〜6千円が相場です」

 車内トイレの仕様は、基本的には座席シートの配列によって異なるようだ。

「3列や2列シートなどの定員が少ないバスと比べて、最近の4列シートの車両はトイレやパウダールームなどを搭載する傾向がありますね。パウダールームはフィッティングボード(着替え時に用いる、靴を脱いで上がれる台座)も付いているので、道中はゆったりした服装で過ごし、到着前に着替える、ということも可能です」

 運賃が安いバスに、あまりトイレが設置されていない理由はなぜなのか。基本的に、高速バスの運行は2〜3時間に1回はSAなどで休憩をとることになっており、車内にトイレを設置する必要性がそこまでないためだという。その上で、バス会社にしてみれば、トイレを設置すると設置費やタンクの貯水代などの経費がかかり、トイレのスペース分、乗客数も減る。コスパが悪いという事情もあるようだ。

 このように、同じ配列でも、設備が整った車両ほど料金は上がるが、一方で、どんな車両にでも付いている定番のサービスもある。

「車内の無料Wi-Fiやスマホの充電用コンセント、USBの充電ポートなどは、今やどんな配列や運賃のバスでも、ほとんど付いています。通路カーテンは、4列シートの場合は構造的に付けることが難しいですが、座席が独立している3列シート、2列シートの車両では付いているバスが増えています」

 また、新型の夜行バスには、プラズマクラスターなどの空気清浄機が設置されている車両も多いという。

「夜行バスは車内が狭いため空気がこもりやすく、ニオイのトラブルも多い。そこに目を付けたシャープとデンソーが車載用のプラズマクラスターを共同開発し、新型のバスにはほとんど空気清浄機が普及しています。最近の夜行バスは、空気、ニオイ、さらには花粉への配慮もバッチリなんです」


■水平近くまで倒れるシートからマッサージチェアまで


 こうした車載サービスに加え、各社がしのぎを削っているのが、座席部分だ。体への負担が少ないシートは、価格設定が高めな夜行便、通称「豪華夜行バス」に搭載されていることが多いという。

「法令上、完全に横になる形状のシートは作ることができないため、各バス会社は『イス』という制約の中で、他社と差をつけるため工夫を凝らしています。いかに、水平に近い状態までリクライニングできるか、シートの素材を疲れにくいものにできるか、足元の奥行きを深くして足を伸ばせるようにできるか、と試行錯誤しているのです」

 数多くの高速バスのシートに座ってきた須田さんに、とくに快適性の高いシートを聞いてみた。

「JR高速バスの『プレミアムドリーム号』『ドリームルリエ号』という車両のプレミアムシートは、かなり後ろまで倒すことができ、ほぼ水平近くまでリクライニングが可能です。通路はカーテンで仕切れるので個室状態。シートの幅も広く、バス会社の公式サイトでは『寝返りが打てるシート』というキャッチフレーズを掲げているほどです」

 プレミアムドリーム号のプレミアムシートの運賃は、東京〜大阪間で、1万3千円前後。新幹線より少し安い程度だが、体を休めながら移動できるという利点がある。

 他にも、かなりハイテクな機能が備わっている夜行バスもあって、

「西日本鉄道の『はかた号』は、東京・新宿〜北九州・福岡間を結ぶ運行距離が日本最長クラスの夜行バスです。とくに2列シートのプレミアムシートはパーテーション付きの個室タイプで、シートそのものも高級車に使われているような本革素材。リクライニングは全自動で、背もたれ部分にはヒーターとマッサージ機能が内蔵されています」

 新幹線で同区間を移動すると2万円ほどかかるが、はかた号のプレミアムシートは最安値で1万7千円。さらに、はかた号のプレミアムシートをはじめ、こうした豪華夜行バスの各座席にはタブレットが設置されている場合もあり、インターネットや映画、ドラマを楽しみながら移動することもできる。

 安い=サービスの質が低い、という考え方はもはや時代遅れ。繁忙期にはすぐに予約が埋まってしまうほど人気の豪華夜行バス、その快適さをぜひ体感してみてほしい。

取材・文/ますだポム子(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年7月26日 掲載

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