Facebookが「メディアに記事使用料を払う」と表明した思惑

Facebookが「メディアに記事使用料を払う」と表明した思惑

マーク・ザッカーバーグCEO

■メディアに記事使用料という「フェイスブック」の思惑(1/2)


 時価総額は4社で300兆円強。巨大IT企業GAFAは、巨利を貪りながら著作権への配慮がゼロ――だったところに、フェイスブックがメディアに記事使用料を支払うと表明した。

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 わけてもインターネットが普及してから育った若い世代には、情報は無料で入手するものだと思い込んでいる人が多い。無料のニュースをマメに確認していれば、いま世の中で起きていることを知るうえで十分だ、という発想らしいが、そう考える人が増えるのに反比例して、新聞や雑誌、テレビなど既存メディアの調査報道は弱体化してきた。

 理由は簡単である。インターネット上で無料で読める新聞や雑誌の記事も、元を辿れば、メディアが相応の費用と労力を投じて取材した賜物だ。しかし、タダで読まれるばかりでは、取材費を投じる体力が奪われて、メディアは良質な記事を提供できなくなる。こうなると、民主主義の根幹である「知る権利」さえ奪われかねない。

 こんな状況を加速しているのが「GAFA」と総称されるアメリカの巨大IT企業である。グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの頭文字をとったもので、彼らは「プラットフォーマー」と呼ばれる。ネット上で多くの人がモノやサービスのやりとりをするための基盤、すなわちプラットフォームを提供していることから、そう呼ばれているが、この4社はいまや途轍もなく巨大である。

 なにしろ2018年度の時価総額の世界ランキングは、1位がアップルの96兆円、2位がグーグルの82兆円、3位がアマゾンの78兆円、そして、6位がフェイスブックの56兆円。もはや世界そのものを支配せんばかりの勢いで、「ガーファファファッ!」という高笑いが聞こえてきそうだ。

 この4社、いずれもアメリカ企業だが、では、これら巨大プラットフォーマーが席巻するようになった後、たとえばアメリカの新聞業界はどうなったか。元朝日新聞記者で桜美林大学教授の平和博氏に尋ねると、

「報道機関の編集部門の労働人口は、08年の11万4千人が、17年には8万8千人にまで落ち込みました。テレビは横ばいでネットメディアはほぼ倍増ですが、それ以外は軒並み人員を削減しています。特に編集部門は、08年の7万1千人が、17年には3万9千人と、半分近くにまで削り込まれました」

 とのこと。業界再編の動きも活発で、

「今年8月には発行部数全米2位の新聞チェーン、ゲートハウスが全米最大のガネットを買収。1月にはAOL、ヤフー、ハフポストを擁するベライゾン・メディアもスタッフの7%、約750名のリストラを進め、バズフィードも200人規模のリストラを表明。マイアミ・ヘラルドなどを擁する大手新聞チェーン、マクラッチーも400人の勧奨退職を募集しました」

 もっとも、メディア側が手をこまねいているわけではない。国際ジャーナリストの山田敏弘氏が言う。

「ロイターなどの通信社の速報や記事のさわりは無料で公開していますが、より詳しい内容を知るには、利用者がお金を払わなければならないシステムになっています。アメリカの週刊誌や新聞は日本にくらべ、解説記事や深掘りした記事が多いのですが、それでもネットの速報性に負けてしまうので、ネットを主戦場にしつつ、じっくり読む記事に課金して収益を上げる方向に替わっています」

 たとえば、ヤフーニュースなどに流れてくる記事も、日本ではほとんどを無料で読めるが、

「アメリカのヤフーニュースでは、たとえば、テレビの地方局や地方紙が“ニューヨーク・タイムズがこう報じた”と概要を説明することはあっても、元の記事をしっかり読みたければ、料金が必要です」

 しかしながら、平氏が補って言うには、

「課金が上手くいっているのは、ウォール・ストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズぐらいで、ローカル紙で上手くいっているところは、ほとんどありません」

 むろん、こうした状況は日本を含め、世界の先進国にほぼ共通している。ニュース記事に限らず、画像や映像、音楽なども同様だが、巨大プラットフォーマーによって無断で掲載されてしまうと、多少課金したくらいでは、損失を取り戻せるものではない。

 そこに10月25日、極めつきの正論が、アメリカで表明された。いわく、

「インターネットがニュース業界のビジネスモデルに破壊的な影響を与えたのは、周知の通り。すべてのプラットフォーマーはニュースに資金を提供し、協力関係をつくる責任がある」

 発言者はフェイスブック(FB)の最高経営責任者(CEO)、マーク・ザッカーバーグ氏だったのである。


■大統領選で同じ轍は


 くだんの言葉は、FBがアメリカで試験的に始めた配信サービス「フェイスブックニュース」に向けられたものだった。

 アプリのなかにニュース専門欄を設け、提携する新聞やテレビ局、出版社など、約200社が提供する記事を無料で読めるようにするという。ただし、これまでのGAFAと違い、メディアに記事の使用料を支払うというのである。その額は全国紙などに年数百万ドル(数億円)、地方紙などに年数十万ドル(数千万円)。

 それにしても、強欲なGAFAの親玉の一人が、なにゆえ唐突に殊勝な発言をしたのか。

「16年の大統領選以降、ザッカーバーグ氏は逆風に苦しめられてきました。選挙期間中は、フェイクのニュースや広告を放置したとして激しい批判にさらされた。また、ユーザーの個人情報が第三者の手に渡り、選挙にからむニセ情報が発信されたケンブリッジ・アナリティカ事件も、大きなスキャンダルに発展しました」

 と説くのは、ITジャーナリストの井上トシユキ氏。平氏が継いで言う。

「最大8700万人分の利用者データがクイズアプリによって収集され、政治コンサルティング会社のケンブリッジ・アナリティカに渡った事件は、対立候補者の中傷運動につながり、アメリカ大統領選にも多大な影響を与えました。この件でザッカーバーグ氏も2日間公聴会に呼ばれ、10時間にわたって詰問されました。また、ロシアから発信されたプロパガンダの疑いのある広告3千件を掲載して、問題になりました。こうした不祥事が重なったことで、反トランプ陣営からのFBへの風当たりは非常に強くなっています」

 鳴り物入りで始めようとした仮想通貨リブラも躓いた矢先。来年の大統領選で同じ轍を踏むわけにはいかぬ、という思いは、当然あるだろう。平氏が続ける。

「メディアに使用料を支払うのは、内外の世論に対する融和策の面もあるでしょう。当分メディアにお金を払って、ジャーナリズムを支援するポーズを見せるほうが、長期的にはプラスになるとザッカーバーグは考えているのだと思います」

 思惑はどうであれ、FBがニュースの著作権を尊重する姿勢を見せたのは、歓迎すべきことだが、懸念材料もあるという。米オンライン・メディア「バズフィード」日本版の創刊編集長だった古田大輔氏は、

「FBがパブリッシャーに対価を支払うのは、よろこばしいことですが、課題が二つあると思う」

 と言って、続ける。

「一つは、取材等の経費に見合っていて、持続可能なものかという問題。FBはこれまでもパブリッシャー向けのサービスを仕かけてきましたが、いつも蓋を開けると、パブリッシャー側に期待されたほどの見返りがなかった。FBはどこまで前例に学んでいるのでしょうか。もう一つは、ニュースの質が担保されているのかという問題。使用料を支払う媒体を選ぶのはFBで、選ばれたなかには党派性が強く、信頼性や客観性に欠けるニュースが多いと批判されているブライトバートニュースが含まれている。そこには政治的な配慮が感じられます」


■ウソを見抜く力が要る


 だが、期待できる材料もある、と古田氏が続ける。

「10月25日の発表会、ザッカーバーグ氏がウォール・ストリート・ジャーナルなどの親会社、ニューズ・コーポレーションのトムソンCEOと一緒に登場したことです。トムソン氏は反プラットフォーマーの急先鋒で、私は一緒に登壇したことがありますが、“FBこそがパブリッシャーだ”と主張していて、FBも、伝統的なパブリッシャー同様の社会的責任を果たすべきだ、というのです。ニューズがFBと手を組んだということは、FBに責任を果たす覚悟があると期待しているのかもしれません」

 裏返せば、現在のメディアをめぐる惨状は、巨大プラットフォーマーの無責任が招いたものだと言えよう。状況の凄惨さを井上氏に描いてもらった。

「だれもが無料で自由に情報にアクセスできる環境が、IT企業が目ざすユートピアです。そして、かつてホリエモンが発言したように、ネット上の記事はユーザーのアクセス数が多い順に並べるべきで、メディア側が選んで提供するのは、おこがましいとされます。事実、今のプラットフォーム上は、あらゆる媒体の記事がごちゃ混ぜで、アクセス数の順に並んでいます」

 結果、なにが起きたか。

「以前は媒体ごとに、記事を読むべきか見極めていたユーザーが、タイトルとサムネイルの写真などを見て、アクセスするようになった。結果として、タイトルや有名人の名前で釣るような記事ばかりが出回り、ほとんどのネット記事は羊頭狗肉で、タイトルに釣り合う中身を伴わない。ユーザーは無料でいろんな情報にアクセスできる代わりに、情報の質はどんどん低下し、ウソとホントが入り混じったものばかりになった。2ちゃんねるの創始者、ひろゆき氏が言ったように“ウソを見抜く力”が求められるようになったのです」

 そして井上氏は、

「無料で自由に公開しながらも、その情報の質を確保する。その両にらみの態度こそ、いまプラットフォーマーに求められているのではないでしょうか」

 と締めるが、一つの回答が、記事使用料を支払うというFBの姿勢だろう。

(2)へつづく

「週刊新潮」2019年11月28日号 掲載

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