危機管理のプロが伝授 企業が新入社員にまず教えるべき「SNS対策」と「謝罪の仕方」

 新型コロナウイルスの影響で日経平均株価は2万円を割り込み、円相場も急落。予断を許さない状況が続くなか、まもなく企業が新入社員を迎えるシーズンが到来する。例年以上の緊張感を強いられながら入社する若者たちに対し、企業はまず何を教えるべきか。危機管理コンサルタントで、株式会社リスク・ヘッジ代表の田中優介氏が、新入社員を正しく育てるための処方箋を指南する。

 今年の新入社員は、過去最悪のタイミングで企業に入社することなる――。そう断じても決して過言ではないでしょう。理由は新型コロナウイルスによってもたらされた企業への悪影響に他なりません。この未曽有の事態は新入社員にも暗い影を落とすことになるはずです。感染予防策として自宅勤務を奨励する企業も少なくないため、たとえば、入社式やガイダンス研修が中止になることも有り得ます。また、最悪の場合、リーマンショックの際に問題となった「内定取り消し」が再び現実のものとなるかもしれません。

 ただでさえ、学生にとって社会人になることは大きなプレッシャーを強いるものですが、今年の新入社員はより神経質にならざるを得ない状況に置かれています。新入社員を迎え入れる企業には、ぜひ彼らの置かれた状況や特性に理解を示してほしい。それこそが未来ある新入社員に「地雷」を踏ませないための第一歩となるからです。

 私が代表を務めるリスクヘッジ社では企業の新入社員研修も請け負っています。そこで、今回は危機管理のプロの視点から、企業が新入社員に何をどう教えるべきかについて解説していきたいと考えています。

 まずは、新入社員のほぼ100%が利用しているSNSを巡る問題です。いまの若者にとってSNSは「生活必需品」と呼んでも差し支えありません。しかし、社会人になっても公私の区別なく発信を続けると勤務先に大打撃を与えかねない。つい先日も、ある市の生協が謝罪に追い込まれました。原因は、職員がSNSに書き込んだ「トイレットペーパーが品薄になる」という投稿でした。これが平時であれば炎上騒ぎにはならなかったかもしれません。しかし、国民が新型コロナウイルスの脅威に晒されている折も折、このような虚偽情報を発信したことは非難を免れません。法律に違反する罪ではなくても、公益を考えれば許されない、いわば「変化する罪」を犯してしまったわけです。

 とはいえ、新入社員に「SNSをやめろ」と迫ることは得策ではありません。会社に隠れて匿名でSNSを続けることの方がリスクは大きい。そうではなく、むしろ基準を明確に定めるべきでしょう。弊社では、次の6項目に関係する発言や画像の発信を避けるよう企業に提唱しています。

(1)差別に関わる (2)業務を妨げる (3)誹謗中傷する (4)私生活の自由を侵害する (5)名誉を棄損する (6)機密を漏洩する

 この6つの禁止項目の頭文字を並べた「サギヒシメキ」を、ぜひ新入社員に覚えてもらいたい。悪意のない書き込みが、結果的に会社を巻き込む炎上騒動に発展することもある。そのことを丁寧に説いてあげてください。

 また、新入社員は様々な失敗や過ちを繰り返しながら徐々に成長していきます。その過程で「叱る」ことは避けて通れません。ただ、いまの若者は、学校はもちろん家庭でも叱られてこなかった。そうした相手に「クレッシェンド」な叱り方はNGです。具体的に言えば、「なんで遅刻したんだ! こないだも遅れたばかりじゃないか! 学生気分が抜けていない証拠だ!」などと、怒りのボルテージを上げ、だんだんと語気を強めていくお説教は避けるべきということ。委縮する新入社員を怒鳴り散らしても、わだかまりを残すだけです。

 叱られ慣れていない新入社員に有効なのは、むしろ「デクレッシェンド」。つまり、「なんで遅刻したんだ! 何度か続いたけれど、何か悩みでもあるのか? 私でよければ相談に乗るから話してくれないか」と怒りを徐々に収めていく。問題点を指摘しながら、相手に寄り添って解決策に導いていく。彼らに遅刻の理由を尋ねたら、「社会人生活に慣れなくて布団に入っても眠れないんです」「親が入院中で気持ちが落ち着きません」といった言葉が返ってくるかもしれません。そうした言葉を引き出せれば、一緒に解決策を考えることができますし、信頼関係も生まれてきます。

 叱り方と併わせて知って頂きたいのは「謝罪」の難しさです。叱られ慣れていない若者は何よりも謝ることを苦手にしています。しかし、ひとたび社会に出れば、取引先や顧客から容赦ない言葉がぶつけられる。本心では申し訳ないと思っても、適切な謝罪の言葉が浮かばない。これが多くの新入社員に共通する心境です。

 率直な謝罪を阻害する理由には、ふたつの「トウソウ本能」が挙げられます。「逃走本能」と「闘争本能」です。前者は「耳の痛い言葉を言われたくない」「体裁の悪い場面を避けたい」と思って逃げ出したくなる気持ち。後者は「面目を保ちたい」「弱い立場になりたくない」と思って、少しでも押し返す理屈を考えてしまうことを指します。

 そうした気持ちを抑えて逃げずに謝罪することが、後々、自分のためになると教えるべきです。拙著『地雷を踏むな 大人のための危機突破術』では、丸ごと一章を割いて「謝罪」に触れています。そこで取り上げた「ダメな謝罪」は以下の6つに分類されます。

(1)遅い謝罪 (2)時間足らずの謝罪 (3)あいまいにぼかした謝罪 (4)言い訳や反論まじりの謝罪 (5)ウソと隠蔽まじりの謝罪 (6)贖罪の伴わない謝罪

 新入社員には、これらを反面教師にするよう伝えてほしいと思います。相手が納得する謝罪ができれば「解毒」に繋がる。失敗や過ちを上手な謝罪によって乗り越えることは、社会人生活において大きな財産になる。そのことをぜひ教えてあげてください。

田中優介(たなか・ゆうすけ)
1987年、東京生まれ。明治大学法学部卒業後、セイコーウオッチ株式会社を経て、2014年、株式会社リスク・ヘッジ入社。企業の危機管理コンサルティングに従事、現在は同社代表取締役社長。岐阜女子大学特任准教授も務める。著書に『スキャンダル除染請負人』(プレジデント社)、『地雷を踏むな』(新潮新書)。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年3月13日 掲載

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