NYウォール街の投資銀行が予測 景気回復シナリオと投資対象から「避けられる銘柄」

NYウォール街の投資銀行が予測 景気回復シナリオと投資対象から「避けられる銘柄」

新たな投資環境の常識が世界に出現するのではないか(写真はイメージ)

■次善のケースか?


 今、世界で最もコロナ感染者数が多いアメリカでは、今後の方向性として「ロックダウン継続」か「経済再開」か、という2つの選択を迫られ、大きく揺れている。そうした中で、NYウォール街を拠点とする投資銀行が、今後の景気予測を行った。

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 それによれば、「最善」「次善」「最悪」まで、3つのシナリオが描かれている。ご参考までに、簡単にご紹介しよう。

(1)最善のケース――5月までに感染の封じ込め対策が成功し、米国政府の財政出動が2兆8000億ドル(約300兆円)規模で奏功した場合、株式も債権も急速に回復して、2021年の年初には、史上最大の値上げ幅を記録する。

 S&P500(米国最優良企業500社)の株価でいえば、2020年の年初3200ドルから約7%の下落で踏みとどまり、その後は急速に回復する。

(2)次善のケース――ロックダウンが不完全で、「封じ込め」対策が成功する時期が6月末にずれこみ、経済の再開が遅れた場合、またはワクチンの実用化に手間取り、「第二波」の到来を招いて、再度ロックダウンに踏み切った場合、S&P500は2550ドル〜2650ドルまで下落して、約15%のダウンとなる。

 世界大恐慌、オイル危機など、過去の市場価格の平均下落幅は34%だったが、リーマンショックでは46%の下落幅だった。

 リーマンショックは終息後、金融構造の再構築が必要になり、景気回復までに4年かかった。今回のコロナウイルスでは、いったん終息すれば、すぐに景気回復へと向かい、早ければ2021年夏以降には回復する。

(3)最悪のケース――感染の「第二波」「第三波」が襲来し、ワクチンの開発が遅れて、緩和剤も奏功しなかった場合、企業の倒産が激増し、政府の財政資金が枯渇して、株価動向は35%〜39%の大幅ダウンとなり、具体的な景気動向が数値化できなくなる。

 目下、この3つのシナリオのうち、NYの投資銀行の多くが予想するのは2番目のケースだ。

 いずれにしても、世界規模で広がったコロナ感染が終息するのに、長い時間がかかることは確実だろう。その後に出現する世界経済はどうなるか、大方の予想では、コロナ蔓延以前の状況には戻れず、「ニューノーマル」、つまり、新たな投資環境の常識が世界に出現するのではないかと予測されている。

 そのひとつが、「ESG」と呼ばれる指標である。発案したのはイギリスで、すでに20年の歴史があり、機関投資家の投資先として、ESG銘柄が注目され、次第に定着しつつある。

 ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の略で、企業評価を財務だけでなく、社会、環境への貢献度からも評価し、投資対象として選別しようという手法のことだ。

 ESGによる投資先の決定とは、簡単に言えば、「社会的によくない製品やサービスを提供する企業」には投資しないという考え方だ。たばこ、アルコール、ギャンブル、兵器製造、児童労働などに関連する企業を選別して、投資対象から避けるというもの。

 ESG銘柄の選択には4つのスクリーニングを用いる。(1)企業の持続可能性の情報開示、(2)製品カテゴリー、(3)財務状況、(4)制裁――である。


■クオモ知事が口にした「BBB」


 たとえば、(1)の企業の持続可能性の情報開示には広範な情報が含まれ、エネルギー生産性、水生産性、廃棄物生産性、CEOと従業員の平均報酬の比率、年金の保護、取締役の女性の比率、離職率などといったものがあり、(4)の制裁とは、法的に罰金や操業停止命令を受けたことがあるかどうかを目安にする。

 こうした要素を数値化するのは難しそうだが、それにも規定ができている。CO2とはなんの関係もないサービス業、例えば、スターバックスの指標でみると、コーヒーカップの使用数を数値化する。紙コップはパルプでできているが、パルプは木材を伐採して製造される。木材の伐採によって、どれだけのCO2吸収量が抑制されているかを数値化する。水の再生にも同様の数値を当てはめて計算する、というもの。

 ESGの民間格付け機関もすでに存在する。アメリカで有名なところでは、株価指数の算出やポートフォリオ分析など、幅広い金融サービスを提供するMSCI、ブルームバーグなどがある。ESGを分析するためのアナリストの資格試験も存在し、すでに多くのアナリストが育っている。

 今後の世界経済は、利益追求だけを目的とした企業では立ちゆかず、これまで理想主義的だとされて普及してこなかった社会貢献型の企業が改めて見直され、広まっていく時代なのではないかと予想されているのである。

 最近、ニューヨーク州のクオモ知事が記者会見で、「BBB」(Build back better、より良いものに再建する)という言葉を口にした。コロナ感染で危機的状況に追い込まれた企業の間で、再建するなら以前と同じ構造ではなく、より良いものに作り変えようという取り組みが始まっている、というのである。それが「BBB」だ。地球環境にやさしいもの、人々の生活にやさしいもの、貧者におもいやりのあるものなどだ。

「ESG」も「BBB」も、ともに未来の企業基準の「ニューノーマル」となり、新しい常識観念になるものだろう。

譚?美(たんろみ)
作家。東京生まれ、慶應義塾大学卒業。現在はアメリカ在住。元慶應義塾大学訪問教授。日米中三カ国の国際関係論、日中近代史をテーマに執筆中。著書に『ザッツ・ア・グッド・クエッション! 日米中・笑う経済最前線』(日本経済新聞社)、『帝都東京を中国革命で歩く』(白水社)、『日中百年の群像 革命いまだ成らず』、『戦争前夜 魯迅、蒋介石の愛した日本』(ともに新潮社)など多数。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年4月29日 掲載

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